許せない。でも……
2話目です。どうぞ♪
「ご主人様、ミルク粥ができましたよ。」
「ゴホッ、ゴホッ。ロンザ、いつも済まないね。」
「ご主人様ぁ、それは言わない約束でしょう。」
よいしょっとベッドの上で上半身を起こしお粥をうけとった。僕は今、ダインという少年と魂を交換したかたちで”異世界”にいる。
交換とは言ったが実際は騙されて取られてしまったのだ。そのショックのせいで僕は気絶してしまい、そのまま高熱を出して寝込んでしまった。
本当に散々な状態だ。
寝ている間、つまり高熱で意識が朦朧としていた状態のとき、僕の頭の中にダインの過去の出来事が次々と思い浮かんだ。結果としてダインの記憶が僕の頭の中でだいぶ定着してきた。この世界の言葉や文字、知識なども解った……まあ難しくて理解できなかった事も多いけど。
ダインの記憶から得たもの、つまりダインの知識によると、ここは間違いなく剣と魔法のファンタジーな世界だった。
状況が良ければハイになっているところだね。
熱が出てから3日くらいはたったと思う。今日になってようやく、熱が下がって食事を取れる状態になってきた。食欲も出てきた。ちなみにこの身体の胃袋は僕の身体のそれよりずいぶん大きいみたいで、かなりの量を食べたにもかかわらず腹7分目といったところ、太りそうだ。
「ふう、ご馳走様。美味しかったよ。」
「食欲と一緒に元気もが出てきたみたいでよかったですわ。」
人間そっくりの人形のロンザがニッコリと微笑んで手を額に当ててきた。”ピピ、36.5度。もう熱はなさそうですね”という彼女はどこから見ても人間に見える。唯一気になるのは洋風の顔立ちに黒髪のストレートヘアがなんとなく似合わないところか。
どこから見ても人間そっくりだが、ロンザはメイド・ドールという主人の魔力だけが動力源の人形のなのだ。メイド・ドールのロンザは、ダインが小さい頃に両親が買い与えた物だ。メイド・ドールは古代魔法文明時代の遺跡から発掘される魔法のアイテムであり、現在では製造することはできない。魔力を送り込むと起動し、その魔力を送り込んだ人を生涯唯一の主人とし尽くす。主人の魔力のみを糧とするので、主人が亡くなれば体内にストックした魔力を使い尽くしたところで動きを止める。
転落人生を送ってきたダインにとって……現在進行形だが……残された数少ない持ち物であり、唯一の味方でもある。
「ご主人様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん?なに?」
「体調的にも精神的にも落ち着いてきたみたいですので、そろそろこれを渡そうかと思いまして。」
そう言ってロンザは懐から封筒を取り出して僕に手渡してきた。
これは……
「以前のダイン様からお預かりしたお手紙です。新しいダイン様が落ち着いたら渡すようにと。」
渡された封筒は見覚えがある。ダインが書いたものだ。内容も覚えている。それでも僕は封を開けて手紙を読んだ。
『運河塁也くんへ
この手紙をキミが読む頃には、私はキミの世界で生活をしていると思う。キミから奪った身体と記憶を使ってキミとして生活しているよ、たぶんね。
もう私の記憶から読み取っていると思うが私は生家であるフレイム家を追い出された。引き取っってくれた死んだ母方の実家サイコ家からも追い出されてしまった身だ。だから、もう私は自分の人生に何の希望を持てなくなっているのさ。
そんなとき、私の前に正体不明の謎の黒ずくめの男が現れてこう言ったんだ。
<これは現存する数少ない古の大賢者パルムが創った万能水晶球。
これがあればなんでもできる。コレで何かやってみるがいい。対価は俺を楽しませることだ。>
ってね。
別名”賢者の石”とも言われるこれは間違いなく本物だった。この水晶球があれば、私にかかっている”精霊の呪い”を解いて、家に戻ることも、世界最強になることも可能だった。
でも私はこの世界に嫌気がさしていたんだ。何より自分自身に。ダインであったことさえ忘れてしまいたくて、別の人生を生きたくなってね。だから、さ。だから異世界のキミと入れ替わることにしたんだ。
私は悪い人間だよね。ゴメン、キミは私を憎む権利があるよ。
せめてものアドバイスだ。”精霊の呪い”は解いておいた。だから”精霊契約”ができるはずだ。キミは私と違って焦らず下位精霊から契約して育てた方がいい。
最後に、私の身体は好きに使ってくれたまえ。
本当にゴメンよ。
ダインより』
読み終わってふうっ、とため息が出た。ゴメンじゃ無いよホントに勘弁してくれ。涙がポロポロ流れてくるよ僕は精神的に落ち着いてきたんじゃないよ二度と帰れないことがわかってしまって……何も考えないようにしていただけなんだよ!!!!
ダイン、僕は君を許せない。
許せない。
許せない。
許せない。
許せない。
でも……
憎めない。
君を……
僕は知ったから。
僕は知ってしまったから。
小さい頃から跡取りとして責任を感じて生きてきた君。
精一杯生きてきた君。
だから、憎めない。
僕は……この気持ちを、どうすればいいんだろ。
「……様、ご主人様!警報です!」
「え?」
ぼうっとしていて気づかなかったったけど、サイレンが鳴っている。
「モンスターの襲撃です、ご主人様。丁度いい機会ですので見学に行きませんか?」
「え?え?あ、ああ。」
たしかに、この一角には防壁があったはず。
「近所の方によればここの防壁は破られたことはないため、城壁に登ってモンスターを倒すところを見て楽しむ方もおられるとか。」
そうなの?ダインの記憶からもこのようなモンスターの襲撃は結構よくあることらしいし……普通のことか。なんにしてもダインの記憶だけだと実感がわかないから一度見ておいた方がいいか。
ロンザの声がやけに嬉しそうに聞こえるが、そういう声をワザと出しているのだろう。ロンザは主人である僕の気分を変える必要があると感じたから、気分転換に外出を勧めたんだろうな。
「よし、じゃあ行ってみよう。」
「はい、ご案内します。」
・・・・・・・
「ええと、ロンザ、どうすればいい?」
「ご主人様ったら……1番早いのはあきらめることかと。」
「防壁は破られたことなかったんじゃなかったの?」
「どうやら初めてのレアケースに当たったみたいです。ご主人様、アンラッキー♪」
「アンラッキー♪、じゃねえええ!嘘つき〜ーーー!」
何ということか、城壁が破られて街中に侵入してきたモンスターに囲まれています、ハイ。
読んで頂いて感謝・感謝です。
次回、ヒロイン登場!
乞うご期待♪