ケンゴの弟子
カタールという男のドヤ顔を見て俺の苛立ちはマックス状態に達した。
一番弟子は俺のはずなんだが。
しかもそんな一番弟子がこんなところで山賊共とつるんでいるとか、胡散臭いにも程がある。
99パーセントの確率で嘘ついてるな。
それにござるとかなんだよ。
ふざけてんのかこいつ。
「フッフッフ。どうやら拙者の殺気に当てられて言葉も出ないようでござるな」
いや、俺が黙っているのはただ単に現状を分析しているからってだけなんだが。
まあいい。
偽者なら偽者で倒してもかまわないって事だし、ケンゴの一番弟子を騙った事を後悔させて――
……て。
「お前、俺たちと同じ地球人じゃねえか」
「な!? な、な、な、何の事でござろうな! 地球人? 拙者はそんな珍妙な集団の一員ではござらんよ!」
「ふーん?」
もしかしてあれか。
こいつはアース人である山賊達に自分が地球人だって事を教えていないのか。
口調もアレだし、多分こいつは凄腕の用心棒的なRPでもしているんだろう。
ただ俺達の視点だと地球人は地球人ということが一発でわかってしまうためちょっと気まずい。
しかしここで山賊の片棒を担いでいる以上は容赦なんてできないな。
「とりあえず俺はお前に決闘を申し込む。嫌とは言わさないぞ」
「な、何……? 拙者と決闘……? ほ、本気なのか……?」
「本気も本気だ。お前が本当に剣王の一番弟子か見極めさせてもらう」
「…………」
俺が決闘を申し込むとカタールという男は難しい顔をして黙りこくってしまった。
「へっ、剣王の一番弟子に喧嘩を売るなんて、命知らずのガキもいたもんだな!」
「カタールさん! こんな生意気そうなガキに力の差ってモンを見せてやりましょうよ!」
けれどカタールの背後にいる山賊共は乗り気のようだ。
こいつらもさっき戦った連中のように俺を舐めているのか。
俺ってそんな弱そうに見えるのかね。
「む、むむむ……あいわかった。しかし拙者は女や子どもを殺める気などござらん。逃げたくなったらいつでも逃げてもよいでござるよ?」
「ああ、そうさせてもらう」
「よし……では、いざ尋常に勝負!」
山賊連中の後押しを受けたカタールは俺の申し込んだ決闘を受けた。
今回は特にルールを設けていないので何でもアリとなっている上に、相手を降参させるかHPを0にするかのどちらかで勝敗は決まる。
普通決闘をするなら一発勝負か半減勝負とするところなのだが、山賊達が見ているのであまり変な取り決めはできないのだろう。
まあ俺としてはどんな勝負形式でも受けるつもりだったんだからどうでもいいけど、
「ハァ!」
カタールは刀を横に振りぬいてきた。
これはスキルによるアシストが乗ったものではなく、ただ普通に振ったというだけのものだ。
つまりこいつは対人戦において不用意なスキル発動が命取りになる事を十分理解しているということなのだろう。
だったらこちらも最大限の警戒をしながら対処を行うべきか。
俺は《思考加速》を使用してカタールの動きを見切り、いつでも《身体加速》のほうも発動できるよう心の準備をしておく。
この状態で2枚の盾を持った俺の防御をかいくぐれるのならケンゴの弟子であるということを認めてもいい。
そう思って俺はカタールの攻撃を冷静に捌いていった。
「セイッ! ハッ! トリャァッ!」
「…………」
だが《身体加速》は使う必要も無さそうだった。
《思考加速》がなければこの戦いもなかなか白熱しただろうけど、カタールの剣技はケンゴに遠く及ばなかった。
別にカタールが弱いわけではない。
むしろスキル無しでこれだけ戦えるならかなり強い部類のはずだ。
でもケンゴと比べると実力でどうしても劣っている。
また、カタールの動きはケンゴとは似ても似つかない。
ケンゴは直情的でリスクを考えていないんじゃないかというほどに荒々しい攻めを得意とするのだが、カタールの場合は攻撃をするにも常に余裕を持たせてこちらの動きを観察している気配がある。
性格の違いもあるのだろうけど、ケンゴの弟子と名乗るアタッカーとしては動きが違いすぎる。
やっぱりこいつは偽者か。
「ぬぅ……なかなかやるな、お主」
「……まあな」
なんといっても剣王の一番弟子だからな。
俺は内心でそう呟きながら、カタールから少し距離を取って2つの魔法を発動させるべく腕を上げた。
「む!? これは!?」
1つ目の魔法はオートリザレクション。
MNDがマイナス数値となっている俺ではスキルレベルがいくら上がろうとも復活時のHPは1になってしまうが、こういう敵にかける時には重宝する。
「ぐっ!? ぐおあ!?」
オートリザレクションをカタールに当てた俺は更にエクスヒールを放った。
もはや俺のエクスヒールに耐えられる地球人はそうそういない。
だから今回も、不意打ちの回復魔法を食らったカタールのHPは一瞬にして0になるはず。
俺はそう思って勝利を確信していた。
……しかし、ダメージヒールが当たるとカタールは一瞬で消え、代わりに木の丸太がその場に落ちた。
「な、なんでござるか今のは!」
「…………」
カタールは俺から30メートルほど離れたところに立ち、大声を上げていた。
これはもしかして『空蝉の術』か?
『空蝉の術』は自分に致死量のダメージを受けた際に自動でアイテムボックスに入れているアイテムを身代わりにする事ができるという便利なもので、忍者職であるフィルが持っているスキルだ。
でもこれは忍者職特有のスキルであるはず。
なんで剣士であるこいつが……
…………。
「お前……もしかして剣士職じゃなくて盗賊職の忍者か?」
「ご明察! バレてしまっては仕方が無い! 何を隠そう拙者は剣士ではなく忍者……『上忍』のカタールなのでござる! ニンニン!」
『上忍』か。
確かそれは『忍者』の上位ジョブだったか。
つまりこいつは少なくともレベル70以上あるわけだな。
この辺りで活動してるんだからそれくらいあるのは当然だけど。
「それで? まだ決闘続けるか?」
「いや! 得体の知れない相手とは戦わないのが拙者の流儀! 今日の所はこれで失礼仕る! 御免!」
「…………」
カタールは俺達に背を向けて逃げ出した。
その逃げ足はさっきまでの戦いで見せた動きより早い。
おそらく移動速度を上昇させるスキル『早足の術』を使ったんだろう。
というかもしかして、決闘でスキルを振らなかった理由は剣士職で無いということがバレるかもしれないと危惧してのことだったか。
剣王の弟子というからにはまず間違いなく剣士職だから、あいつは盗賊職から派生した忍者である事を隠していたんだろう。
メンドウなことしてるな。
「お、おい……逃げちまったぞ……」
「あいつ……! 俺らから高い前金巻き上げといて逃げるとは何事だ!」
しかも雇われ用心棒として山賊からそれなりに金も取っていたようだ。
逃げるにしても抜け目無い奴だな。
「シン殿。そろそろ我らも手を出して良いか?」
「ああ、もういいぞ」
とりあえず俺の目的は達成された。
やっぱりケンゴの弟子は俺1人だけのようだ。
それを再認識した俺は上機嫌でクレール達が山賊連中を蹂躙する様を見守る。
「シンさん……もしかしてヤキモチ焼いてた?」
「べ、別にそんなんじゃねえよ」
しかしフィルの問いかけを受けた俺は若干恥ずかしいものを感じ、プイっとそっぽを向きながらそれを否定した。
べ、別にケンゴが俺以外の弟子を取ったって何とも思わないんだからねっ。
……どんなキャラだよ俺。
俺は今の心理状況をツンデレ風に見直して微妙な気分になっていった。
「で……さっきの奴はどうします?」
山賊連中を撃退して縄でぐるぐる巻きにした後、俺は精霊王にさっき逃げた男の処遇を訊ねた。
「うーん……逃げた子は今すごい早さで森の外に向かっているみたいだから捕まえるのは難しそうね。でもアルフヘイムがあることはバレていないでしょうから、このまま逃がしても問題は無いと思うわ」
「そうですか」
カタールという男の逃げ足は一流と言っていいようだな。
剣の腕もそれなりにあったが、だからといって俺たち全員(というか後ろにいた王連中)を敵に回して勝てるというほどではないし、その辺も察知して逃げたのかもしれない。
あいつ本当に何者だったんだ。
一応覚えてたら今度ケンゴに聞いてみるか。
もしかしたらあいつのことを知っているかもしれないからな。
まあでも、ここであいつを逃がしてはいけないというわけでもない。
この森に精霊族が多く住むという事はここに来る前に捕まえた山賊連中だけにしか知られていないようだからな。
それに逃げた際の様子からして、あの男が山賊連中を助けに来る事もまず無いだろう。
追いかけるのもメンドウだし、今は放っておこう。
「ならあとはこいつらをどうするか、か……」
俺は山賊連中に目を向けた。
山賊の数はさっき捕まえたのも含めて21人。
これが『アクラム』から逃げてきた山賊団の全てであるらしい。
「ここに妖精族が多く住んでいるってことを外部の人に知られた場合、精霊王はどう対処してきたんですか?」
「そうねえ、まあ穏便なやり方だと……」
精霊王は1人の山賊の頭に手を乗せた。
すると山賊は突然痙攣し始めて気を失った。
「ここ2、3日分の記憶を吹き飛ばして森の外にポイってところかしら」
記憶を吹き飛ばすとか。
クレールや火焔もそうだけど、王クラスはトンデモなスキルをポンポン使ってくるな。
「それ、俺たちには絶対に使わないでくださいよ」
「言われなくてもしないわよ。だからそんなに怯えないで、ね?」
「いや別に怯えているわけじゃないですが……」
精霊王との会話はどうも調子が狂う。
親みたいな接し方をこの人はしてくるからそう思うんだろう。
「……ふぅ、とりあえずここにいる子たちの処置は済んだわ。三日後には目を覚ますと思うけど、それまでに『アクラム』へ輸送すれば万事解決ね」
人数が多かったせいで10分ほどかかったが、精霊王はこの場の山賊全てに記憶消去のスキルを使い終えたようだ。
その後、ここから引き返したところにも最初に倒した山賊がいるので、そちらにも精霊王は同様の処置を行う。
これによって山賊団は完全に無効化され、スルスの森に平和が訪れた。
「さて! それじゃあ一仕事終えたことだし、みんなで温泉にでも入りましょうか!」
そして最後に精霊王が元気よくそう言い、俺たちは温泉に入ってここまでの疲れを癒すことにしたのだった。




