ゴロツキVS龍王精霊王死霊王混成チーム
俺、フィル、クレール、火焔は精霊王の進む道をひたすら走り続けていた。
「親方! こりゃあもしかして俺らに運が向いてきたって事ですかねえ!」
「精霊族が一度に5匹も捕まえられるなんて夢のようですわあ!」
「おうお前ら! 街に戻ったらこいつらを売っぱらった金で吐くまで飲むぞ!」
そしてアルフヘイムへの侵入者を探しに来た俺達が目にしたものは、およそ10人ほどの山賊めいた男共が大声で笑っている姿と、国の中で平和に暮らしていたらしき一般の精霊族が縄で縛られている姿だった。
「なんともまあわかりやすい奴らだ……」
あまりに「それっぽい奴らだ」と思った俺は走りながらも失笑してしまう。
話している内容を聞く限り、あいつらは捕まえた精霊族をどこかに売り払おうとしているのだろう。
だったらこちらも悩まずに済むというものだ。
招かれざる客人には痛い思いをしてもらおう。
「フィル! いくぞ!」
「了解!」
俺はフィルと共にその山賊集団に向けて走りこんだ。
すると山賊連中は俺達の姿を見て一瞬驚いたという表情を見せるが、すぐにまた下卑た笑みを浮かべ始める。
「なんだありゃ? ガキがこっちきてるぞ?」
「知るかよ。でもこっちに来るってんなら相手しねえとな」
「男は殺してもいいが女は殺すなよ」
「わかってますって」
……なんて典型的な悪党台詞なんだ。
ここまでいくとむしろ清清しさすら感じてしまう。
しかしここで俺達を完全に舐めているのであれば痛い目を見るぞ。
こちらに油断などない。
相手の実力が未知数である以上、異能も普通に使わせてもらおう。
でもダメージヒールはできるだけ使わない方針でいく。
油断も容赦もしないが殺す気も無いからな。
「おらぁ!」
俺に向けて山賊の1人が手に持った剣を振り下ろそうとしていた。
それを見た俺はタイミングを合わせ、男が剣を振り下ろす直前に右手の小盾を前に出して軽く受け流す。
いつも通りのお仕事だ。
MOB戦、対人戦、その両方における盾役としてのスキルを磨き続けた俺にとって山賊の攻撃を捌くことは容易かった。
これじゃあ異能を使って思考を加速させるまでもなかったな。
あまり強くないぞこいつら。
「シッ!」
俺が攻撃を綺麗に受け流したことで男の体勢が若干泳いだ
そこへフィルがすかさず追撃にかかる。
彼女は僅かに無防備となった男の腕を手に持ったクナイで軽く刺した。
「がっ!?」
フィルの攻撃はおそらく『スタンスラッシュ』だったのだろう。
目の前にいる男はその場で体を痙攣させながら膝をついた。
俺とフィルのコンビネーションはミーミル大陸に飛ばされる以前よりもさらに洗練されている。
事前に打ち合わせをする必要もなく、俺たちは阿吽の呼吸で防御と攻撃を合わせることができるのだ。
これくらいのことはもう朝飯前だな。
「な、なんだこいつら!」
「落ち着け! 数ではこっちが勝ってんだ! 囲め囲め!」
「お、おう!」
どうやら今の連携で俺たちが只者ではないと判断したらしい。
残りの山賊連中は俺達を警戒しながら周囲にぐるりと展開した。
だが警戒すべきなのは俺やフィルだけじゃない。
むしろ俺たち程度に警戒心を抱いているようでは話にならない。
なんてったってこっちにはアース内最強クラスの存在が3人もいるんだからな。
「まったく、こういう輩はいつの時代にもいるものだな」
「く……あ……」
4人の山賊がクレールの目を見て昏倒した。
おそらく催眠の魔眼を使ったのだろう。
龍の道を通る時にも使っていたが、思ってみれば随分なチート技だ。
「フン、わざわざマナを消費する相手ではない。そなたらのやり方は無駄が多いぞ」
「……ぁ…………ぅ……」
また、残った山賊5人は殺気立った火焔を見てヘナヘナと尻餅をついた。
もしかしてこっちはただの威圧だけで倒したのか。
やることなすこと全部規格外だな。
というかやっぱり俺たちが出る意味なんてなかったようだ。
クレールか火焔、それに精霊王のうち1人でもいればこの場を完全に制圧しきれてしまう。
力の差が圧倒的すぎる。
ゴロツキ程度じゃ全く相手にならなかったな。
「さーて、この悪い子たちはどう料理しましょうかねえ?」
そうして10人の山賊を無力化したところで精霊王が冷酷な笑みを浮かべながら近づいてきた。
いい年した男達を悪い子呼ばわりするのには違和感があるが、精霊王の年を考えると普通の事なのかもしれない。
おじいちゃん相手でもこの子呼ばわりしそうだ。
「な、なんなんだよおめえらは……俺らになんか恨みでもあんのかよ……」
「そうねえ、まあこの子達をどこかに売り飛ばそうとしていたことについては恨んでいるわねえ」
精霊王は縄で縛られていた精霊族を救出しながら山賊の問いに答えた。
一応捕まえられていた精霊族はみんな怪我とかしていなさそうだ。
もし誰かが重傷でも負っていたら精霊王が黙っちゃいなかっただろう。
「……? あなたたち以外にも誰かいるわね」
「!」
精霊王の呟きを聞いたらしき1人の山賊が肩をビクッとあげた。
また、それを見逃さなかった精霊王は山賊に向かって問いを投げかける。
「その反応からして、今この周辺にいる人族の子たちはあなたたちのお仲間かしら? だとしたらその子たちの事を聞かせてちょうだい?」
「な、なんでそんなことをお前らなんかに――」
「これはお願いじゃなくて命令よ。勘違いしないでくれるかしら?」
「ひっ!?」
山賊の返答が気に入らなかったのか、精霊王は近くに落ちていた剣を拾い上げて山賊の首元に刀身を当てた。
すると山賊は悲鳴を上げ、精霊王に怯えの含んだ視線を向ける。
「あなたが口を割らないなら他の子たちに聞いてもいいんだけど? 幸いここにはあと9人もいることだし?」
「わ、わかった! 話す! 話しますから!」
「ふふふ、それでいいのよ」
……なんだかいつものキャラじゃないな、今の精霊王は。
精霊族を拉致られようとしていた事が余程ご立腹だったみたいだ。
こうして俺達はアルフヘイムに現れた集団の情報を1人の山賊から聞き出したのだった。
「! なんだおめえら!」
「うひょ! よく見りゃ女ばっかじゃね!?」
「でもガキばっかじゃねえかよ。お前もしかしてそっちの趣味があったのか?」
俺たちは1人の山賊から聞き出した情報と精霊王の探知能力によってとある集団が潜んでいるという洞窟へとたどり着いた。
どうもこいつらは最近『アクラム』からここに流れ着いた暴漢の類らしく、奴隷売買、強盗、殺人なんでもござれな集団らしい。
だが少々羽目を外しすぎたらしく、『アクラム』では指名手配を受けてしまったのだとか。
つまり生粋の犯罪者ってわけだな。
そんなやつらがこの森に逃げ込んでいるとエレナたちがいる村まで脅かされかねない。
なのでここで全員捕まえておく必要がある。
しかし俺はそんな事情とは別に、とある内容の真偽を確かめるため一歩前へ出て山賊連中に声をかけた。
さっき捕まえた山賊の口から洩れたその情報は俺にとってとても大きな意味を持っていたのだ。
「お前たちの中に剣王の弟子だった奴がいるそうだな。出てこい」
そう。
この山賊の中には用心棒として剣王の弟子だった男が紛れ込んでいるらしいのだ。
俺はこの話を聞いた時、ケンゴが俺以外の弟子をとったのかと思って少し驚いた。
なんというか、ケンゴの弟子は俺1人であってほしいという我侭が心の中に芽生えたんだろう。
だからその辺りの真偽を確認するべく、俺は剣王の弟子であったという用心棒の男と一対一で戦う気でいる。
もしその情報が偽りなら叩き潰さないといけないし、本当なら山賊に加担してケンゴの顔に泥を塗ったということで粛清しなければならないからな。
「むむ? 拙者を呼ぶのはどこの馬の骨でござるかな?」
俺の声かけに応じて山賊共がねぐらにしているらしい洞窟の中から1人の男が姿を現した。
その男は腰に刀のような武器を差している事からおそらく剣士なのだろう。
まあ剣王の弟子であるというくらいなら剣士である方が普通か。
「お前が剣王の弟子か?」
「クックック、いかにも! 拙者はかつて『剣王、ケンゴ』の一番弟子と呼ばれ次代の剣王になるのではと巷で密かに噂された剣豪、カタールである!」
「…………」
剣王ケンゴの弟子と名乗る男は……盛大なドヤ顔を俺に向けてきた。
なんかイラッとした。