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「此度の戦を鎮めた事、我輩は貴殿らに感謝する」


 俺達を前にして獣王は礼を述べた。

 野営地ではあるが、ささやかながらの宴を催してその場にいる者全員を労ってくれた。

 特に獣王は俺、火焔、ケンゴ、法王、クレール、精霊王を宴の中心に座らせて手厚くもてなしていた。


 正直、俺だけ場違いな感が否めないが、獣王は俺も他の王と同等の扱いをしなければ気が治まらなかったらしい。

 「聞くところによると貴殿こそがこの戦を終結させた功労者であるというではないか。ならばこの場において最大の敬意を示すのは当然の事であろう?」とのことだ。

 まあこんなことを言われては俺も断れないな。


「クレールクレール、はい、あーんして」

「いや、我は普通に自分で食べれるから……」

「そんな事言わないで、あ、それとも口移しでのほうがいいかしら?」

「!? や、やめろ! 我はそんな事を望んではいないぞ! 顔を近づけるな馬鹿者!」


 でもこの席はすぐ右隣でクレールと精霊王がいちゃついててうるさいな。

 なんか精霊王が果物を口に含んでクレールに詰め寄ってるし。


 前にクレールは初めてキスをした的なことをいっていた気がするが、もしかしたら精霊王に何度かやられちゃってんじゃないかという疑念が拭えないいちゃつきぶりだ。

 同性同士だからノーカンなんだろうけど。

 俺も女の人にクレールがキスされてもそこまで気にはしないし。


「フン、相変わらず五月蝿い者共だ。ここが祝いの席でなかったら灼熱の炎をくれてやるところだったぞ……ングング」


 また、クレール達とは逆隣に座っている火焔は豪快に肉をほおばりながらそんなことを呟いている。


 今の火焔は龍形態ではなく最初に出会った時の美女形態だ。

 流石に龍の状態では席に座れないし、威厳を保つためにはロリ形態よりこちらのほうが良いと判断したんだろう。


 というか何気に火焔の食欲が凄まじい。

 この場において誰よりも多く目の前の飯を食らっている。

 食った物は一体どこにいってるんだ。


「おいミハイル! てめえ全然酒飲んでねえじゃねえかよ!」

「……私は聖職者だぞ。君のように羽目を外すような行為は慎む必要が――」

「てめえ俺の注いだ酒が飲めねえってか!? ついこないだまで泣きべそかいてたミハイルクンも偉くなったもんだなあ!」

「い、いや、そういうわけでは……頂こう」

「おう! その意気だ!」


 遠くの席からケンゴたちの声が響いてきた。


 法王に無理やり酒飲ますなよケンゴ。

 あいつ酒が入ると凄いうざいノリになるんだな。

 顔も随分と赤いし、あの様子だともうべろんべろんに酔ってるみたいだからケンゴに近づくのは止めておこう。

 近づいたら俺も酒を飲まされかねない。

 犠牲は法王様1人だけで十分だ。


「急場の宴ではあるが楽しんでいるか?」


 と、そんなところへ獣王が俺に声をかけてきた。


「おー! 楽しんでるぞー!」


 するとなぜかケンゴがそれに大声で答えた。

 お前はネコミミ生やした獣族の女性からお酌でもしてもらってろ。


「フッ、どうやら剣王のほうは楽しんでいるようだな」

「……そのようですね」


 俺は「剣王様なんて赤の他人です」というようなそぶりをしながら獣王と会話をし始めた。


「貴殿も要望があれば遠慮なく申すと良い」

「……はあ、まあ、お構いなく」


 剣王様は酒をじゃんじゃん持ってこさせて獣族の女性を侍らせたりしているし、火焔はとにかく飯をどんどん持ってこさせているが、俺は別にそういうこともない。

 とにかく周りの雰囲気を眺めながら飯を黙々と食うだけだ。


 クレールは精霊王に取られてるし、火焔は食うのに手一杯。

 フィルやガルディア、それにセレスとは席が離れすぎていて話しかけられない。

 そして剣王様はへべれけ状態となっていて、俺は周りにいる奴らと談笑する機会など無かった。

 だからこそ獣王が俺の所に来たんだろうけど。


「ゴホッゴホッ……失礼」


 そんな周りの分析をしていると、獣王が突然咳き込み始めた。


「……そういえば獣王は病の身でしたね」

「む、まあ、確かにそうだ」

「どんなご病気なんですか?」

「ああ、それは――」

「ガルガンド! てめえ飲めるくせしてなんでシラフのまんまなんだよ!」


 俺が獣王へ病について尋ねると、そこへいきなり剣王様がやってきた。

 病人に酒飲まして平気なのかよ。


「いや、我輩は今酒を止めている。飲み比べならまた次の機会にしようぞ」

「ちぇー、つまんねえのー。酒飲めねえくらい体壊してんならさっさと寝ちまえ。後の事はガイウスにでも任せたっていいだろ?」

「ふむ、確かにな。ではそうさせてもらおうか。我輩がいなくなったからといって貴殿らは遠慮などしてくれるなよ」

「おう、わかってらあ」


 と思っていたら獣王は普通に酒を飲むのを断り、体を休めるためにこの場をあとにした。


「おい、シン」

「……なんだ?」

「てめえも飲――」

「飲まねえよ。未成年に酒勧めてんじゃねえ馬鹿ヤロウ」


 そこでターゲットを俺に移した剣王様が酒の入ったコップを寄せてきた。

 だが俺はそれを丁重に断り、酒臭い剣王様から距離を置く。


「アースじゃ酒は15で飲んでいいってことになってんだよ。だからここでてめえが酒を飲んだところで誰も咎めたりなんてしねえさ」

「そ、そうなのか……いや、でもいらないな。果実ジュースで十分だ」


 お正月だったりめでたい時などには付き合いで一杯飲まされることもあるが(今回も宴が始まる時の乾杯時は酒だった)、あまり美味いとは思わない。

 だから年齢云々以前に俺は酒を飲みたくないのだ。


「そうかよ、このお子様舌め。ミハイルも2、3杯飲んだだけで酔い潰れちまうし、ここには俺と飲み比べをしてやろうって奴はいないもんかね」


 法王潰れてたのか。

 よく見たら奥で法王が獣族に介抱されている。

 人族の最高戦力その1であるはずなんだが、こうなると無残だな。


「ならば余と勝負してみるか、剣王? そなたと飲み比べで勝負するのは初めてだったな?」

「お、ノリがいいじゃねえか龍王さんよ。てめえにゃ黒星付けられっぱなしだけど今日こそは勝ってやるぜ!」


 そして人族の最高戦力その2はあろうことか火焔と飲み比べ勝負をおっぱじめた。

 2人は次々やってくる酒をものすごい勢いで飲み干していく。

 なんか見ているだけで酔いそうだ。


「し、シン殿……た、助けて……」

「あんだめよ逃げちゃあ。久しぶりの再会なんだもの。今までの会えなかった分ゆっくり語り合いましょ」


 そこで再び右に目を向けるとクレールが救援要請を行っていた。

 クレールは背後から精霊王に抱っこされ、乳を揉まれながら荒い息をついている。


 こっちは右と比べて目の保養になるな。


「ちょ……見てないで……た、助けてぇ……」

「と、スマンスマン」


 もはや泣きそうな顔をしているクレールを見て俺は助け舟を出すことにした。


「精霊王、クレールが嫌がってるんでそろそろ放してはもらえませんか?」

「えー、だってせっかく数百年ぶりに会えたのよー? もっとクレールといちゃいちゃしたいー」

「そんな駄々をこねられましても……」


 だがどうも精霊王はクレールを手放す気がないようだ。

 クレールよ。お前相当好かれてるな。


「でもそれ以上はクレールに嫌われますよ? ほら、今にも泣いちゃいそうです」

「むー……そう言われちゃうとねえ。私もクレールに嫌われたくないし」


 けれど精霊王はクレールの事をちゃんと思いやれるようで、彼女からゆっくりと手を放した。

 まあ思いやるのがちょっと遅すぎる感はあるけど、これでクレールは助かったわけだ。


「ふぅ……ふぅ……た、助かった……」

「お疲れさん、クレール。というかお前と精霊王は昔もこんな感じだったのか?」

「そうだな……激しさの度合いが増しているが……やっていることは昔とそう変わらんな」

「へえ……」


 つまり精霊王は昔からああだったと。

 ならちょっとここで聞いてみるべきか。


「精霊王……もしかしてあなたはソッチ系の人ですか?」

「ソッチ系というのがドッチ系を指しているのかわからないけど、多分あなたの考えているような趣味は持ってないわよ?」

「そうなんですか?」

「ええ。私はただ単に可愛い子を全身愛でるのが趣味なだけよ」

「そうなんですか……」


 もうソッチ系と言っていいんじゃないですかね。

 この人クレールの貞操奪う気でいませんかね。


 でも可愛い子か。

 確かにクレールは見た目だけで言うならかなりの美少女だからな。

 愛でたくなるという気持ちもわからないわけではない。


「でもそういうことならあっちにも美少女がいるんで、まだ愛で足りないようならソッチに行って下さい」


 とはいえ、これ以上クレールが愛でられるとまた死んだ魚の目になりかねない。

 なので俺は遠くの席で談笑しているフィル、ガルディア、セレスに目を向け、精霊王の贄とした。


「ああ、あの子達ね、ふふふ、りょうか~い。ラララ~♪」


 精霊王は俺の提案を聞き入れ、軽やかに音色を奏でながらフィル達に特攻した。

 そして精霊王はフィルとガルディアを抱き寄せて頬ずりし始めていた。


 一応セレスもお上品な美女ではあるが、大きすぎて精霊王の趣味には合わないんだろう。


「はふぅ……酷い目にあった……」

「でも本気で嫌がってたわけじゃないんだろ? お前だったら逃げるなり反撃するなりもできただろうしさ」

「まあ確かにそうなのだが……アリアスも悪気があってあのようなことをしているわけではないと我もわかっているから、な……」

「ふぅん」


 なんだかんだでクレールは精霊王を嫌っているわけじゃないようだ。

 精霊王にもみくちゃにされてもなおこう言えるんだから、2人の絆はそれなりに固いということなのだろう。


「オロロロロロロロロ」

「フン、この程度で吐いたか。歯ごたえのない奴だな」


 ……そんなことを思っていると、左隣の席から誰かが吐いたような音が聞こえてきた。


「ぢ……ぢぐしょう……っ! 酒樽丸々飲むとか化け物かよ……お、オロロロロロロロロ」


 もうホント何やってんだよケンゴ。

 いくらなんでもハメ外しすぎだろ。


 俺は身内の無茶苦茶な行動に赤面しつつ、火焔に敗退したケンゴを慰めつつ介抱するのだった。

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