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龍の道

 龍人族の暮らす国『アースガルズ』へは始まりの町から2週間ほどでたどり着いた。

 本来ならこの道のりも1ヶ月はかかるものとされているようだったのだが、俊足のガルディアにかかればそれも半分以下の時間に抑えられた。

 相変わらずのガルディア様様具合である。


 まあ足が速いのは元々だが、彼女は親の命がかかっているかもしれないと俺の説明から知って結構急いだみたいだ。

 しかしそれで疲れた様子など一切見せないあたり、彼女の健気さが窺える。

 この健気さが普段からあればいいんだけど。


 ちなみに今回は1週間以上かかる旅という事で早川先生からLSS(生命維持装置)の使用を許可してもらった。

 早川先生は俺が『魔族と獣族の戦争を止めるためにちょっと龍王に会ってきます』と説明すると『そ、そうか……まあ……頑張りたまえ……』と言って快くLSSを使わせてくれた。

 地球時間で見ると入学式の日から既に2ヶ月ほど経っていて、LSS使用時のデータもそれなりに揃った事から許可も降りやすくはなっているらしい。


 そうして俺達はアースガルズにやってきたわけだが……


「なんだか国っていうより村とか里って感じだな」

「龍人族はあまり文明の発展等には興味がないようだからな。他の国々より遅れていると感じてもそれは普通のことであろう」

「ふーん」


 俺の呟き声に反応してクレールが説明してくれた。


 魔法があったりで一概に言えるものでもないのだが、一応この世界の科学レベルは地球でいう中世といったところだ。

 だから俺達地球人から見たらどこも発展が遅れてると思えてしまうのだけれど、ここはどこも石でできた建物がポツリポツリとあるだけで賑わいがない。


「それに龍人族は他種族との接触を極力避けている上に少数の種族だ」

「なるほど。それならミレイユの町と比べて活気がないのも頷けるか」


 そもそも国の総人口が少ないというのであれば賑わう事もない。

 当たり前の結論だな。


「一応必要最低限の交易はあるそうだから、我らが国に入っても特に問題はないであろう」

「ならいいけど」


 ここで精霊の国のように好奇の目に晒されないのはそのためか。

 魔族ほどではないが、龍人族と俺達では身体的特徴がそこそこ違う。

 けれど龍人族が俺達に好奇の視線を向けてくる事は無い。


 また、龍人族は寿命が長い種族だ。

 外界との接触が少ないとはいえ、人族や獣族を見る機会はそれなりにあったのだろう。


「まあいいや、とりあえず龍王の所へ急ごうぜ」


 今は龍人族の国をゆっくり観光している場合でもなければ龍人族の生態について理解を深めている時でもない。

 現在ヴァルハラ近くにいるというケンゴ達と通信したところ、どうやら魔族は再びヴァルハラを通ってミーミル大陸に進軍を開始しているとのことだ。


 時間的に余裕はない。

 もしかしたらタイムリミットを過ぎているかもしれないが、それでも俺達にできる事を精一杯行おう。


 俺はそんな意志を固め、クレール、フィル、ガルディアと共にアースガルズの中心へと歩を進めた。






 アースガルズに入ってから三日が経過した辺りでとある山脈地帯に到着した。


 元々アースガルズは土地の殆どが山脈であるのだが、ここは今までより段違いに険しい。

 しかもこの辺りで出てくるモンスターもワイバーンやグリフォンといった空を飛ぶ強敵ばかりで倒すのに手こずる。

 事前に聞いた情報によれば、この地は早川先生曰く適正レベル70以上らしいし、俺が今まで経験した中でも最難関のフィールドだと言えるだろう。


「何者だ」

「!」


 と、そこで俺達に声をかけてくる男がいた。

 男の目は鋭く、背中にはコウモリめいた翼、そしてトカゲのような尻尾を生やしている所から察するに、おそらくは龍人族だ。


 その男は空を飛びながら俺達を見下ろしている。

 俺はそれを見てフィルと獣状態のガルディアを背に隠す。

 ちなみにクレールは現在俺の影の中だ。


 でも俺達に話しかけてくる龍人族なんて今までいなかったのに、ここに来てどうして?


「何用でこの『龍の道』に訪れた。用件を言え」


 なるほど。

 どうも国としての形を成していなさそうな所ではあるが、一応要所要所に受け付けというか門番的な奴はいたということか。


 俺達が今いる場所は、龍王のいる玉座があるという谷へと続く一本道。

 ここに一人配置するだけで、地上を歩く俺達みたいな生き物へなら簡単に対応ができるというわけだ。


「……俺達は龍王に用があって来た。できれば面会をさせてもらいたいんだが」


 とりあえず俺は龍人族の男にここへ来た目的を話した。

 すると男は「ほう……」と呟き、周囲に視線を送った。


「いいだろう。龍王様はこの先にいらっしゃる。この道を通ればお会いになれるだろう。ただし、それには一つ条件がある」

「条件?」

「我々の追撃を玉座まで防ぎきることだ」

「な!?」

「シンさん!」


 そして男は右手を上げ――それと同時に十数人ほどの龍人族がこちらへと飛んできた。

 俺とフィルはそれを見て驚きの声を上げる。


「龍王様は弱者にはお会いにならない。よって、この場にて貴様達の力を計らせてもらう」

「……そういうことか。走れ! ガルディア!」

「…………っ!」

「がるがるっ!」


 龍人族の言葉を聞き終えた俺はフィルと一緒にガルディアへ飛び乗り、龍の道を進ませる。


 ここは強行突破だ。

 ガルディアの俊足で龍人族を撒ければそれで一件落着――


「我々を甘く見るな! 人族よ!」

「!!!」


 龍人族の男は俺達に向かって叫んだ瞬間に赤い竜へと姿を変貌させた。


 これはつまりガルディアの獣化と似たようなスキル(技能)である『龍化』か。

 一応これについては事前に詳しく調べてきたので驚いたりはしない。


 けれどこの場に現れた龍人族が全員龍と化した事には流石に驚く。

 今の一瞬でアースにおける最強生物である龍に取り囲まれてしまったのだから、驚くなという方が無理な話だ。


「うおっ!?」


 龍と化した龍人族は俺達に向けて次々に炎のブレスを吐いてくる。

 何の対策もなければこの攻撃で火達磨になっているところだ。


「ぐぅっ!」


 だが俺には炎攻撃を無効化する付与が施された死霊の大盾に加え、たとえ炎を塞ぎきれなくともその威力を大幅に減少させる死霊の鎧がある。

 俺は背後から迫るブレスを大盾で防ぎ、左右からくる僅かながらの火の粉を体で受け止めてガルディアとフィルを守り続けた。


「シンさん前!」

「!」


 しかし俺だけでは全方面を守りきれない。

 だというのに前方から一人の龍人族が立ち、龍化を行って俺達の進行を妨害してきた。


 脇を通ることができれば問題無いのだが、おそらくはそう易々と通してくれまい。


「チッ……ガルディア、一旦速度を緩めて――」

「その必要は無いぞ!」


 目の前にいる龍人族へ一発ダメージヒールを与えてひるませようとした俺がガルディアに命令を下そうとしたその時、影からクレールが突然現れた。


 彼女は俺達の前に飛び出して龍と対峙する。

 すると俺達の進む道を塞いでいた龍の足が突然ふらついてその場に倒れた。


「クレール!」

「ただの催眠だ! 命に別状は無いぞ!」

「そうか! ならいい!」


 何をしたのかよくわからなかったものの、クレールが龍人族を殺してしまったのではないかと思って一瞬驚いたが、どうやら違うらしい。

 一応こんなお遊びを始めだしたのは龍人族の方なのだから誰がどうなっても文句は言われないだろうと思うものの、できることなら穏便に龍王の下へ行きたいからな。


「それより急ぐぞシン殿! 背後から龍人族が追ってきている!」

「ああ!」


 そしてクレールは再び俺の影に潜り込み、ガルディアが龍の道を走り抜ける。

 いかに空を舞う龍といえどもガルディアの最高速度にはついてこれないらしい。

 待ち伏せしていた奴以外の連中との距離はどんどん離れていく。


 時折前から来る龍人族はクレールが無力化していっているし、遠距離からのブレス攻撃は俺が殆どシャットアウトできる。

 始めは少し肝を冷やしたが、俺とガルディア、それにクレールの三人がいればこの場は完璧に切り抜けられそうだ。

 唯一役に立っていないフィルがやや居心地悪そうにしているけど、近距離戦特化である以上、彼女が何もできないのはしょうがない。


 それにそんな居心地の悪そうな時間もそこまで長くは続かなかった。

 どうやっても俺達を倒せないと見たのか、龍人族は背後から追うのを止めて周囲に散らばっていった。


「……諦めた?」


 そんな龍人族の様子を見てフィルが呟いた。

 多分そうだと俺も思うんだが、随分引き際はあっさりしているな。


「……いや、諦めたというより追う必要がなくなったと言った方が正しいであろう」

「? どういうことだクレー――!?」


 影の中からクレールの声が聞こえてきたので俺は彼女に問いかけようとすると、その瞬間に全身から嫌な汗が噴き出し始めた。


 なにかとんでもないものが近くにいる。

 俺は無意識に体から発した危険信号を受けて周囲を見回す。


「がるがるっ!」

「!」


 俺達の進む一本道の先には、険しい山脈で囲まれた広くて丸い空間が存在していた。

 そんな空間の中央には、岩で作られたように見えるも装飾に黄金がちりばめられた豪奢な座具――玉座が置かれている。



「余に何の用だ。命知らずの小僧共」



 そしてその玉座の上で龍人族の美女が頬杖をつき、足を組んで鎮座していた。

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