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帰還

 俺とフィルはケンゴ達と別れ、聖堂都市『クロス』からウルズの泉を経由し、遂に始まりの町へと戻ってくることができた。


「長かったな」

「そう……ですね」


 長かったといっても始まりの町を離れた期間は精々3ヶ月程度だ。

 しかしその間、俺達は色々な奴と会って色々な物を目にしてきた。

 俺達にとってその3ヶ月はちょっとした冒険だったのだから、ここへと無事に戻ってこれたというのは感慨深いものがある。


「とりあえずガルディアを外に出そう」

「ん」


 そして俺はフィルに指示すると、彼女はアイテムボックスを開けてガルディアをその中から出した。


「がるがるっ!」


 数分ほどではあったがアイテムボックスの中に入っていたガルディアは特に問題もなかったらしく、元気よく鳴き声を上げている。


 今の彼女は獣形態だ。

 なんというか俺としてはこっちの方が頼りがいがあるから普段はこの状態にしてもらっている。


「ここがミレイユの町ですねご主人様! なんというか田舎ですねご主人様!」

「…………」


 しかしガルディアは獣状態のままで喋り始めた。


 田舎とか失礼な奴だな。

 まあ『クロス』とか『アクラム』より田舎である事は確かなんだけど。

 というかお前その状態でも普通に喋れたのかよ。


「……獣状態の時は喋るな。それと俺の事はシンと呼べ」

「わかりましたご主人様!」


 何がわかったんだよ。

 お前全然わかってないじゃねえかよ。


「はぁ……とりあえず皆のとこにいくか」

「ですね……」


 俺達はガルディアの言動に頭を悩ましつつも、地球人プレイヤーが貸切にしている宿の方へ歩いていった。






「無事帰ってきたな、一之瀬君」

「ええ、ただいま帰ってきましたよ」


 フィルと一緒に早川先生の私室として使っている部屋まで足を運ぶと、そこで久しぶりに早川先生と再会した。


八重やえ君の方も元気そうだな」

「は、はい……」


 早川先生は俺の次にフィルの方へと目を向けた。


 八重ってフィルの苗字か。

 今まで聞く機会もなかったから何気に初めて知ったな。

 まあ俺とフィルは他のゲームからの付き合いだし、そういったリアルネームを教えあうのはどうにも抵抗があったからなんだが。


「私としては君が一番心配だったんだ。ここまでの旅で一之瀬に何かされていないだろうな?」

「って心配するところはそこですか」


 俺は早川先生の言葉に思わずツッコミを入れた。


 心配だったのはフィルの命じゃなくて貞操かよ。

 多分俺の力を信用していたから命にかかわる事態にはならないだろうとか思ってたんだろうけど。


「大丈夫でした……残念ながら」

「そ、そうか。残念ながらか」


 フィルの返しを受けて早川先生はたじろいだ。

 こんな含みのある言い方はちょっと予想外だったのだろう。

 俺も予想外だったが。


「……一之瀬君。君は随分と後輩に慕われているようだな?」

「…………」


 俺は早川先生に何も言い返さない。

 フィルもこちらを見ているがスルーだ。


「……まあいいだろう。しかし不純な行為は慎むように。君達はまだ中高生なのだからな」

「それはわかってますよ」


 今更そんなことを言われるまでもない。

 色々謎な交流をしてしまった俺とフィルだが、一応はまだピュアな関係を保てているのだ。


「いいか、念を押してもう一度言うぞ。恋愛とかそういうのは君達にはまだ早い。だから――」

「そんな何度も言う必要ないでしょう。俺とフィルは友達という健全な関係です。それにもし俺達が恋愛をしたとしても大して珍しいことでもないのでは?」


 小学生でも彼氏彼女がいるという話は今時普通にある。

 恋愛をするのに早すぎると講釈をたれるのは旧時代的な思考だ。


「そ、そうは言ってもだな……やはり10代でそういうことをするというのはなんというか早すぎるというかなんというか……いや、そうだ、そもそも私は教職に就く身だ。性の乱れに苦言を呈するのは不思議でもあるまい?」

「性の乱れって……まあ先生という立場上、釘を刺しておきたくなる気持ちもわからなくはありませんが」


 しかしどうも早川先生はそういうことに厳格な人のようだな。

 過去に辛い思い出があったか、それとも家が厳しいのか、ただ単にそういう経験が少ないからひがんでるのかは知らないけど。


 こうして俺達は早川先生への報告を終わらせてその場を後にした。






「……ミナ達はまだ狩りの途中、か」


 早川先生の次にミナ達に会おうと思っていたのだが、何度か通信した結果、「今は忙しい」と袖にされてしまった。


 どういうことだろうか。

 ミナはまあ百歩譲って納得してもいいけど、サクヤは俺が帰ってきたら真っ先に来そうだと思ってた。

 なのに2人とも割りと冷たい態度だ。


 別に感動の再会とかそういうのを期待していたわけじゃないものの、ちょっとショックだ。


「まあいっか……先にクレールに挨拶しにいこうぜ」


 俺達はミナとサクヤの件を保留にしてクレールがいるであろう大墓地へと向かった。


 クレールの方はすぐ見つかった。


「うおおおおおぉぉぉぉ! 会いたかったぞシン殿ぉぉぉぉ!」


 少し熱烈すぎる気がするが、こっちは大体予想通りの反応だった。

 墓地に足を踏み入れた瞬間にクレールは怒涛の勢いで駆け寄ってきて、俺の胸にダイビングしてきた。

 それを俺は受け止め、首元でわんわんと号泣するクレールをあやすように揺らす。


「おーよしよし……元気にしてたか、クレール?」 

「全然元気などではなかったぞ! 心配をかけさせおって!」

「そうか」


 俺達を心配してくれていたというクレールを見て申し訳なかったという気もしたが、同時にこれだけ心配してくれていたことを嬉しいと思ってしまう。

 結果的には何事もなく戻ってこれたけど、やっぱり皆から気にしてはほしかったんだな、俺も。


「ぐす……フィルもよく無事に帰ってきたな。貴様は小さいから特に心配したぞ」

「心配かけてごめんなさい……」


 俺からやっと離れたクレールは次にフィルの方へと抱きついた。


 小さいとか言ってるけど、こうして見るとクレールも対して身長変わらないんだがとかいうツッコミはしないでおこう。

 見た目的に同い年っぽく見えるからかフィルとクレールはそれなりに仲が良い。

 クレール的にはフィルは友達という認識なんだろう。


「それで、ヒールの方はいるか?」

「うむ……盛大にかけてくれ」


 ようやくグズるのが止まったクレールに向けて俺は『ヒール』をかけた。


 今はまだ少女の姿を維持しているが、俺のダメージヒールが受けられなかった以上はそれもいつまで持つかわからない。

 俺達との再会が骨の状態でなかった事はこちらの精神衛生上ありがたかったな。


「……ぁ…………ふぅ…………シン殿。もしや貴様のデスヒール、更に磨きがかかっていないか?」

「わかるか」

「当たり前だ。久しぶりであるとはいえ、我が貴様のデスヒールの味を忘れる事などあるはずはないのだ!」

「ほ、ほぅ」


 な、なるほどな。

 いつの間にかクレールはデスヒールソムリエになっていたようだ。


「それで、後ろにいる生き物は何なのだ?」


 俺がヒールをかけ続けていると、クレールは気持ち良いのか体をくねくねさせながらもガルディアの方を見た。


「ああ、こいつはガルディアっていうんだが……とりあえず人化して挨拶してくれ」

「はーい!」

「!!!」


 ここで紹介するなら獣族である事も教えておいたほうが良いと思い、俺はガルディアに人の状態で自己紹介するよう言った。

 するとガルディアはその場で獣から人の姿へと変身し、クレールはそれを見て目を丸くした。


 ちなみに今のガルディアは全裸ではなく、白いマントで体を隠している。

 これは精霊族の国で見つけた、魔力を流すと布面積が大きくなるというスカーフを使った応急措置だ。

 マントの中身は相変わらず裸といういわゆる裸マントではあるが、獣状態の時にこのスカーフを首に巻いておけば今みたいにその辺で人化しても素肌を晒さないようにできる。


「ほぅ……『獣化』であったか」

「知っているのか、クレール」

「うむ」


 流石はクレール先生だ。

 俺は獣化なんて知らなかったからもしかしたら驚くかもしれないと思ってたけど、これも年の功というやつか。


「しかし『獣化』は初代獣王の直系がごく稀に使えるようになるという技能であったはずなのだが」

「あ、私のパパンは今獣王やってますよ。多分血統としては初代に一番近いです」

「むむ、そうであったか」


 正直、獣王の娘であるというガルディアを死霊王たるクレールに会わせていいものなのかどうかは少し悩んだ。


 一応ガルディアは「パパンも獣族も、精霊王と懇意にしている死霊王と事を構える気なんてないですよ」と言っていた。

 なんでも、獣王と精霊王は同じ大陸のよしみでそれなりに交友があるらしい。

 それに元々精霊族も魔族と小競り合いを起こす事が多かったらしいので、敵の敵は味方というような感じなのだとか。


 だからガルディアをクレールに会わせても問題ないはずなのだが……


「シン殿、もしやこやつもハーレムに加える気か?」

「そんなんじゃねえよ」


 別の事を心配されていた。

 俺はクレールの発言を否定しつつもホッと息をついた。


 どうやら問題ないようだ。

 いやハーレムとか認識されるのは問題なんだけど。

 少女姿のガルディアはフィルやクレールより小さいし、多分小学生くらいの年だろ。

 まあ胸は全然小学生じゃなかったわけだが。


「シンさん」

「……俺は何も見てないぞー」


 フィルの言葉に反応し、俺はガルディアの胸に向きそうな視線をあさっての方向に投げた。


 俺はロリコンではないからガルディアの胸が大きかろうが小さかろうが特に何も思ったりはしないのだ。

 だからジト目で見るのは止めてくれフィル。


「……ああ、そうそう。そういえばミナとサクヤは最近どうしてたんだ? さっきも連絡入れたんだけど忙しいからって言われて会えなかったんだが」


 とりあえず俺は場の空気を入れ替えるべくクレールにミナ達の事を訊ねた。


 何気にこの話題はとても重要なことだ。

 だからジト目で見るのはそろそろ止めてくれフィル。


「うむ……あやつらか……」

「俺達がいない間に何かあったのか?」

「いや、別に何か悪い事があったわけではないのだが……その辺りについては本人達に聞くと良い。我からは口止めされている故な」

「? わかった」


 どうも歯切れの悪い言い方であるが、クレールの言葉に従って俺は直接ミナ達に聞くことにした。

 そのために俺達は全員で墓地から町まで戻ってきた。


 また、夕日が沈みかけているその頃、ミナとサクヤもちょうど町まで戻ってきたらしい。

 彼女達が泉周辺から現れる姿を俺は目撃した。


 ミナとサクヤは全身泥まみれでボロボロで、とても疲れたという様子だった。

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