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再会

 スルスの森を抜けてから3週間ほどが経過した。

 それにより俺とフィルはアースに存在する3つの大陸が繋がる土地、『ヴァルハラ』へとたどり着いた。


 しかし俺達はそこでも面倒なトラブルに見舞われている。


「逃げるな《ビルドエラー》! いざ尋常に勝負!」

「勝負なんてするか! そっち軍隊じゃねえか!」


 俺達はヴァルハラでグリム中将と機動に特化した魔族軍数十人に追い掛け回されていた。






 ヴァルハラに到着した時、俺はその土地を見てポツリと呟き声を発した。


「不毛の大地って感じだなこりゃ……」


 ここへたどり着くまでの道のりも大体が荒野と呼べる風景であったが、ここは荒野などと言うのも生易しい表現だと俺は思った。

 辺りを見回しても木は一本も生えておらず、それどころか雑草すらも生えていない。

 地面は水気が足りないようで細かなヒビが続いており、砂漠一歩手前といった感じだ。

 どこへ目を向けてもそこには岩か砂という、生命の息吹をまったく感じない死んだ土地だった。


 ここはウルズ大陸、ミーミル大陸、フヴェル大陸の3大陸が繋がる唯一の土地であり、陸路を通って大陸を行き来するならまず間違いなく通ることになる。

 それゆえにヴァルハラは1000年前からウルズの龍王、ミーミルの獣王、フヴェルの魔王が武を競い合う戦場とされることが多かったらしく、それによってこの地は死んでいったのだとか。


 また、そのせいで食物の類が無いためか、このヴァルハラでは生きたモンスターが殆ど存在しない。

 いるとしたらそれは魔力で動くゴーレムの類や、ヴァルハラを横断する最中に力尽きた生き物を狙うハゲタカのような怪鳥やハイエナが少しいるくらいだ。

 しかしそいつらはむっちゃ強い。特にゴーレムは相手にするのもメンドクサイ敵だった。


 だがここまでの道のりと比べるとモンスターと出くわす頻度が激減したため、俺達は結構スムーズな移動が行えている。

 十分な水と食料を持ち込んでいれば特に問題なく踏破は可能だと、俺はヴァルハラに入って三日が経過した辺りで思った。


 けれどここは大陸と大陸を繋ぐ土地であるという事の意味をよく理解していなかった。

 大陸と大陸が唯一繋がっているということは、それなりにここを通る人も多いということなのだ。

 そしてヴァルハラにはあまり身を隠せるような場所が無い。


 つまりここでは大陸を行き来しようとする人と出くわしやすく、さらにそれが俺とかに恨みがあって追い掛け回して来るような場合はとてもメンドウな事になるのである。


 俺達はガルディアに乗ってヴァルハラを進んでいると、一つの集団を遠くに発見した。


「……あれって魔族じゃないか?」

「うん……多分……」


 よく目を凝らすと、その集団の体は緑色だったり青色だったりで、とても人族とは思えないカラーリングをしていた。

 しかもその集団は全員武装している。

 どう見てもカタギではない。

 まあ武装をするのはここら辺を歩くなら当然なんだが、ただの通行人というより軍隊というような感じの統一感がある。


「……魔軍、か」


 俺はあの集団を魔軍であると推測した。


 一応このヴァルハラにたどり着くだけの戦闘能力を持つ人はそれなりにいるようで、5人~20人くらいで動くアース人の冒険者パーティーや隊商キャラバンをちらほらと見かけたりする。

 だが俺達が見ている武装した魔族の集団はどう見ても100人以上いる。

 あれはもはや軍以外の何者でも無いだろう。


「……できるだけ近づかないように迂回して進むか」

「そう……ですね」


 あの集団が前に獣族と戦争していた軍であるかはここからだとよくわからない。

 けれどもし俺の嫌な想像が当たっていたら、そしてその軍の誰かが俺達の顔を覚えていたら、非常に困った事態となる。

 なので俺はガルディアに指示して、魔族の集団にはなるべく近づかないように進ませる事にした。


 でもあいつらがミーミルで見た魔軍であるなら、どうしてここにいるのだろう。

 目的を終えてフヴェル大陸に引き返している最中ということなのか。


 だとしたら獣王達は結局のところどうなって――



「……! シンさん!」

「!?」



 と、俺がミーミル大陸で出会った獣族に思いを馳せていると、魔族の集団から魔法であるらしき火の玉がこちらに向けて突然飛んできた。

 しかしそれを見たガルディアは俺が命令する前に回避運動を取り、その攻撃を危なげなく避ける事に成功する。


「……今のは誤射ってわけじゃないんだよな」

「……うん」


 俺とフィルは互いに顔を見合わせて、今起きた出来事の意味するところを確認しあった。


「久しいな《ビルドエラー》! 会いたかったぞ!」


 魔軍の中から一際大きい男が前に出てきてそう叫んだ。


「うげぇ……」


 その男を見た俺は眉間にしわを寄せ、嫌な物を見たと言わんばかりの声を上げた。


「私の名はグリム・ハザード! ここで会ったが百年目! 貴様の首、貰い受ける!」

「…………」


 魔軍の前に立つ緑色の大男、グリムは俺達に向けて闘志を燃やしていた。


 グリムといえば俺達がミーミル大陸に飛ばされた際に戦った事のある滅茶苦茶強い魔族の名だ。

 あの時は俺の《時間停止》が勝手に発動したためにグリムが止まり、魔族が引き上げるきっかけになったんだったよな。

 もう2ヶ月以上経ってるからあいつが普通に動けていることには特に驚いたりしないが、まさかこんなところで出くわすなんて。

 いくらここが人とすれ違いやすいからといっても運が悪すぎる。


 ……というかあいつ、さっき俺の事を《ビルドエラー》と呼ばなかったか?

 なんであいつが俺のあだ名を知ってるんだよ。


「とにかく逃げるぞ! ガルディア!」

「がるがるっ!」


 しかしそんな疑問を今考えている場合じゃない。

 軍隊相手に戦う気なんてさらさら無いのだ。


 だから俺はガルディアに逃げるよう指示した。


「な!? 逃げるつもりか! ええい逃がさんぞ《ビルドエラー》!」

「くっ!」


 だがグリムの方は俺を逃がさないつもりのようだ。

 ガルディアが俺達を乗せた状態でウルズ大陸に向けて走り始めると、グリムも数十人の部下を引き連れて追いかけてきた。


「お前軍のトップだろ! 大将が率先して雑兵一匹を追い掛け回すなよ!」

「ふざけたことを抜かすな! これは私でなければ貴様に太刀打ちできまいという敬意の証である! さあ逃げるのは止めて私と戦うのだ!」


 後ろに向けて俺が大きな声で突っ込みを入れると、でかいトカゲに乗って追いかけてきているグリムはこの行動を正当なものであると言い放った。


 だったら後ろから付いてきてる連中を何とかしてくれよ。

 ここで止まったら俺達魔族に囲まれちゃうじゃねえか。

 そんなアウェー間漂う中で戦うなんて絶対嫌だぞ俺は。

 たとえ俺がグリムを倒しても周りの連中が見逃してくれる保証もない。

 あんな奴らに付き合ってられるか。


「ガルディア! もっと早く!」

「がるっ!」


 なので俺はガルディアに全力疾走を命じる。

 すると少しずつ魔軍との距離が開いてきた。

 どうやらガルディアの足の方があいつらの乗るトカゲより早いみたいだな。


「く……魔法一番隊! 前へ!」

「ちょ!?」


 グリムに追従する機動力に優れているらしき魔軍数十人の中から杖を手に持った集団が前に出てきた。

 そいつらは火の玉、水の玉、土の玉、それに疾風や雷といったものを魔法で生み、俺達の方へとガンガン飛ばしてきた。


 あいつら容赦なしかよ。

 俺は口の中で舌打ちしながらもフィルを腕に抱きいれ、彼女とガルディアを守るようにして大盾を背後に構える。


「!」


 けれどそんな動作は無用だった。

 俺達の方へと飛来してくる魔法の数々は、俺の大盾に当たる前に霧消した。


 この現象を見て俺は少し驚いたが、これは魔法の殆どをシャットアウトするという障壁を張る『精霊王の祝福』の効果だと理解した。

 アルフヘイム周辺でも何度か魔法を使ってくるモンスターと出くわしてそのパッシブスキルの効果を確かめてはいたが、まさか今みたいな怒涛の魔法ラッシュも問題なく弾くとは。

 とりあえず今は精霊王に感謝しなければならないだろう。


 そうして俺達はグリム達と徐々に距離を離していき、およそ5時間が経過した頃になってようやく魔軍を振り切った。


 だがその振り切りは一時的なものだった。

 その後もグリム達は俺達を見失ってもしつこく追いかけてきた。

 どうも速力ではこちらが上だが、体力は向こうの方があるらしい。

 結果、それから一週間ほど俺達はあいつらに追い掛け回されることになった。






「お前いい加減諦めてフヴェル大陸に戻れよ! 撤退中だったんだろ! 軍の大将がこんな事してていいのかよ!」

「帰路についた軍から私が抜けたところで何の支障も無い! それより貴様をこの場で見逃すほうが余程問題だ!」

「そうかよクソッタレ!」


 俺達をずっと追いかけまわしているグリムに怒鳴ると向こうもそれに怒鳴り声で言い返してきた。


 お前達の軍の規律は本当にそれでいいのかよと思わざるを得ない。

 まあ実際のところ、軍を撤退させる事になった原因を作った俺をこの場で始末しておきたいという気持ちはわからんでもないが。


 この一週間ほど追い掛け回されている間の怒鳴りあいで、グリム達がどういう経緯でヴァルハラにいたのかがなんとなくわかった。

 どうやら魔軍は俺がちょっかいをかけたせいでしばらく混乱状態に陥ったらしい。

 軍を率いる立場にいたグリム中将は俺の《時間停止》を食らって一月ほど止まったままだったそうだ。

 それによって魔軍はスルスの森から南に位置する地域まで引き返し、態勢を整えようとしていたのだとか。

 しかしグリムの時間が動き出した頃になって、魔族側の真の大将である魔王から撤退命令が出てしまったらしく、魔軍はしぶしぶフヴェル大陸へと引き返していた途中であったようだ。


 軍のトップ兼戦闘における切り札が機能しなくなった状態で獣族と事を構えるのはリスクが大きいと判断してグリムの復帰を待った結果、軍は長い間の待機を強いられてしまった。

 すると軍を維持するだけの食料、金銭等も相当なものになり、これではマズイと軍を引き返らせた。

 そしてグリムが気づいた時には既に軍は撤退中だった……らしい。


 なんだかそれを聞くと俺のせいだなという感想が浮かぶが、俺は別に魔族側の人間でもないので深く考えるのはよそう。

 むしろ俺は魔族と獣族の戦争を中断させて犠牲が出なかったとでも思っておこう。

 そのほうが精神衛生上よろしい。


 しかし、それでもこいつらには悪い事をしてしまったな。

 特に魔軍の中でも武闘派としてブイブイ言わせていたグリムは今回の件で地位も揺らぐかもしれないというような事を漏らしていた。

 だからといって俺が戦争に紛れ込んだのは故意じゃないから、謝ったり責任を取る気もないからこうして逃げ続けているわけだが。


 でもそろそろ鬱陶しい。

 あともう少しでウルズ大陸に着くと思うし、その前にここで一度こいつらを叩いておくべきか。


「!?」


 俺がそんなことを思いながら背後を気にしていると、前方から巨大な火の玉がグリム達の方へと飛んでいく様が見えた。

 それを見た俺は驚きつつも前を振り返ると、荒れ果てた荒野の先、数キロメートルは離れているとおぼしき所に人と馬の姿がポツリとあった。


 あんな遠くから魔法を撃ってきたのかよ。

 何を考えてそんな事をしたんだ。


「く! 何だ今の攻撃は!」

「…………」


 ……だが今の攻撃はグリム達の目の前に落ちた。


 これはわざとか?

 あんな遠距離からグリム達にけん制を行ったとかじゃないよな?


 俺は今の状況を上手く理解できず、その魔法を撃った人の方へ行くようガルディアに指示を飛ばす。


「! あれは……!」

「え……」


 俺とフィルは驚愕の表情を顔に貼り付けた。

 魔法を撃ったらしき女性と隣にいる剣士職らしき男には見覚えがあったがゆえに。


「あいつらこんなとこで何やってんだ……!」


 俺はそんな事を言いつつも口元を緩めていく。


 こんなところで偶然会ったと思うよりも、向こうから俺達に会いに来たと考えた方がよほど自然だ。

 あいつらは俺達を助けに来たのだろう。


 剣士職の男が俺達に――グリム達に向かって走った。

 その走りは別段早いものではないが、動作そのものには隙というものが全く感じられない。



「久しぶりに会ってみりゃあ……こりゃ随分な大物を釣ってきたな!」



 男はそんな事を口にして俺達を横切り、手に持ったかなり長い日本刀の切っ先をグリム達の方へと向けた。


「相手にとって不足はねえな! 『みずち』!!!」


 そして男は大太刀を天に掲げ――振り下ろした。


 すると大太刀が触れた大地が割れ、その裂け目は一直線にグリム達へと向かっていく。


「グゥウ!? 全軍止まれ!」


 男の放った斬撃は地面を割りながら進んでいき、グリム達の目の前で左右に分かれ、あちらとこちらで大きな隔たりとなる崖を作り出した。

 また、グリムはそれまで率いてきた数十人の魔族に急ブレーキをかけさせた。


 咄嗟にそんな判断が下せるとは、流石は魔族でも5指に入るほどの実力者というところか。

 それにより魔族は突然できた崖から落ちずに済んだのだから、グリムの判断は正解だ。


「よう、元気にしてたか、シン、フィル」


 無事にグリム達の進行を止めた男は俺達の方へと振り返る。


「迎えに来てやったぜ」


 俺達を迎えにきたというその男、俺の師匠である《ウェポンデストラクション》と呼ばれた最強アタッカーのケンゴは、無精ひげの生えた顎に手を添えてニヤリと笑みを浮かべた。

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