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精霊事情とエルフ事情

 俺とフィルは今精霊族の国であるアルフヘイム近辺で怒涛の狩りを行っていた。


 アクラムでは居心地が悪くなってしまったために出て行ったが、アルフヘイムでは俺達を知る人間(というか精霊)はいない。

 なので俺達はここでもう少しレベルを上げてから旅をしようという結論に達して狩りを行うことにしたのだ。


 するとそんな俺達の話をどこかからか耳にしたという精霊王にとある依頼をされた。

 その依頼は魔族が拠点を構えているという南からスルスの森に大量移住してきたモンスターの討伐。

 精霊王からは祝福や装備品その他もろもろで良くしてもらっているため、俺達はそれを快く引き受けた。

 依頼の内容は俺達の目的と合致しているしな。


「『エクスヒール』! 『ハイヒール』!」

「ギイイイイイイイイィィィ!!!!!」


 そんなわけで俺達は今も、森の中で異常に湧いていたホブゴブリンとゴブリンロードをオークの時と同様の戦法で倒した。

 ここでかつて地下迷宮10階層で遭遇したゴブリンロードを見かけるとは思わなかったが、それを今回はあっさりと撃破できてしまった。

 今の俺ではゴブリンロードも大した脅威ではない。


 しかしこんなところで俺の力が激しくインフレしていることを自覚させる敵が出てくるとは。

 いずれそれだけの力を得るだろうとは思っていたが、その時がもう来てしまうなんてねえ。

 本来ならまだまだ先の事だっただろうに。


「は~なるほど、クレールが認めるだけのことはあるわね。とっても強いわ」

「……どうも」


 そんな俺達の狩りを何故か精霊王が見学している。


 あんた仮にも王様なんだろ。

 こんなところで油売ってていいのかよ。


「でも強さで言ったら精霊王の方がお強いでしょう」


 俺は色々ツッコミを入れたかったが、とりあえず精霊王の力についての確認を行うことにした。


 この人もクレールと同等、あるいはそれ以上に強いはずなのだが、どうもポヤポヤしていて本当に強いのかよくわからない。

 まあ見た目で強さがわからないというのは美少女形態のクレールにも同じ事が言えるんだけど。


「というか、わざわざ俺達についてくるなら自分が戦ったほうが早いんじゃないですか?」

「うーん、まあ短いスパンで考えれば確かにそうね。でも私は森に張り巡らした結界の維持だけで手一杯だからあんまり効率的じゃないわよ?」

「そうなんですか」


 結界の維持か。

 しかしアルフヘイムも小国と言っていい規模ながらもかなり広いんだが、もしかしてそれだけの範囲全ての結界をこの人が支えきっているわけじゃないよな?

 まあこの辺は別にどうでもいいんだけど。


「なら何故私達とご一緒に? 私は精霊王が手助けしてくださるのかとばかり思っておりましたが」

「私は時々こうしてあなた達を愛でるのがお仕事です」

「きゃっ」


 エレナが疑問の声を投げかけると精霊王は彼女の背後に回る。

 そして精霊王は両手でエレナの胸を揉みし抱き始めた。


「うふふ、こっちもなかなか成長しているわね、エレナ?」

「ひゃっちょっあっ……あぁっ……」

「…………」


 俺は艶かしい声をあげて豊満な胸を揉まれているエレナを思わずじっくり観察していた。


「シンさん?」

「……と、すまん」


 フィルがジト目でこちらを見てきた。


 いかんいかん。

 ちょっといやらしい光景だったからつい見入ってしまっていた。


「さあ次は誰を愛でようかしら?」

「やるならフィルの方で」

「はいは~い」

「ぅひゃっ!?」


 精霊王はエレナの次にフィルの胸を揉み始めた。


 俺が愛でられていた場合も胸を揉まれるんだろうか。

 愛でるのは女性限定かもしれないけど。

 でもその場合は精霊王に百合疑惑が発生するな。


「……それで次にモンスターのたまり場となっている所はどこでしょう?」


 もう少し見ていたい気もするのだが、俺は揉みくちゃにされているフィルを救うべく精霊王に次の狩場を訊ねた。

 精霊王は大まかにだが森の気配を感じ取れるらしいので彼女がいると効率良く狩りが行える。


「ん~と、そうね……こっちかしら」

「了解」


 そうして俺達は次の獲物を求めて森の中を歩き始めた。






「うふふ、今日だけでも大分森の中が落ち着いてきたわ。ありがとうね、あなた達」

「どういたしまして」


 一日中狩りをした結果、俺とフィルのレベルは55にまで上がり、8体ものボス級モンスターを討伐する事に成功した。

 勿論雑魚モンスターもザクザク狩っていったので、アルフヘイム支店の冒険者ギルドでの依頼と換金によって懐もかなり潤った。


「あなた達の戦いを見させてもらったけれど、やっぱり強いわね。どう? あなた達さえよければこのままアルフヘイムの騎士として雇っても良いのだけれど?」

「お気持ちだけいただいておきます」


 なかなか住み心地のいい国ではあるが、ここに永住する気は無い。

 俺達は地球人だから時々ログアウトしないといけないし、ホームグラウンドはウルズ大陸だからな。


「そう……あなた達と一緒にクレールもここで暮らしてくれるなら私としてはとっても嬉しいのだけれど……」

「クレールは……一応今度会った時にここへ足を運ぶよう伝えておきます」

「絶対よ」

「はい」


 精霊王は結界を張る関係上、この森から出る事ができないのだとか。

 だからもし精霊王がクレールと再会しようとした場合、クレールの方からここへ来させる必要がある。

 クレールもあまり長旅はできない体みたいだが、俺がいればそのあたりも何とかなるだろう。


 また、精霊王がアルフヘイム全域に結界を張って周囲の目を欺いているのにも理由がある。

 アースでは地球とは違って未だ奴隷文化が根強く残っているのだが、なんでも、精霊族は奴隷として高値で取引されやすいそうなのだ。

 それは精霊族の見た目が美しいという点や強力な魔法を扱える点、肉体面はかなり脆弱であるゆえに魔法さえ封じさえすれば管理もしやすいという点、そしてなにより絶滅危惧種扱いされている点等によって奴隷市場では精霊族の価格が高騰しているのだとか。

 精霊王はそういった事情を鑑みて、精霊族を保護するためにこの秘密の国を作ったのだとか。


 こんな話を俺は狩りの合間合間に精霊王から教えてもらった。


「ああ、早く会いたいわクレール。あの子って見た目のわりにおっぱい大きいし初心な反応するから触りがいがあるのよね」

「…………」


 しかし精霊族を救った精霊王は一日中エレナかフィルの体をまさぐっていた。

 なんかクレールも餌食になってたみたいだし、やっぱりこの人ってそっち系なんじゃなかろうか。


「うふふ、私はただ可愛い子が好きなだけよ。だからそんな目でみないで」


 俺が訝しむような目つきで精霊王を見ていると、彼女は軽く微笑んでそう言いだした。

 どうやら俺が今何を考えているかなんとなく察しがついたようだな。


「あなたも童顔で可愛いから、髪を綺麗に整えたら十分私のストライクゾーンよ」

「いや、それはどうでもいいです」


 精霊王の趣味に俺が当てはまるかどうかなんてどうでもいいわ。

 しかも童顔とか失礼な。


「あ、ところであなたはエレナともうエッチした?」

「ごふっ」


 と、そこで精霊王は突然わけのわからないことを口にし始めた。

 俺はそれを聞き軽く噴出す。


「いえ、それが……まだなんです」

「あらそうなの? なら今夜辺りにでもどう?」

「いや、どう?じゃないでしょう……いきなり何言いだしてんですか」


 エレナの恥じらう姿を見た精霊王の下ネタ発言は止まらない。

 それを受けて俺はツッコミを入れる。


 すると精霊王は頬に人差し指を当てて可愛らしく首をかしげた。


「私はただエルフ族の今後のためにもあなた達は早く子作りに励んだほうが良いんじゃないかなって思っただけよ?」

「子作……いや、それはいいとして、エルフ族の今後のためとは?」


 他にもツッコミを入れたい箇所があるが、俺は精霊王にエルフ族についてを訊ねた。


「エルフ族は私達精霊族同様に少数の種族なのよ。だから私としては子供も生める16って年になったエレナはもっとそういうことに励んでもいいんじゃないかなあって思ったわけ」

「……へえ」


 確かに村でもエルフ族はエレナを含めても数えるほどしかいなかったな。

 エルフ族の生態については詳しくなかったが、この種族も絶滅の危機にさらされていたのか。

 それと何気にエレナは16才だったのか。

 俺達と大して年変わらなかったな。


「でもエルフの血に俺みたいなわけのわからない地球人の血を混ぜて良いもんなんですか?」

「あら、知らないの? 地球人がアース人と子を成すと、その子の特徴はアース人寄りになるのよ。これは人族が他の種族と交わった際にも同じ事が言えるものなのだけれど、地球人の場合はそれがより明確に出るらしいわ」


 そうなのか。

 初めて知ったな。


 というか何気にこの世界で子供作った地球人も普通にいるのか。

 いやまあ地球人がアースに来てからそれなりに長い年月が経過しているはずだから不思議ってわけじゃあないんだけど。


「だからあなたがエレナに子を生ませたらその子はエルフ族として問題なく見られるでしょうね」

「ふぅん……」

「というわけで今夜辺り2人の寝床を――」

「それは却下で」


 エルフの事情を少し知ることができたけれど、それでフィルとの一件で学んだ反省を有耶無耶にするわけにはいかない。

 なので俺は鉄の心をもってその要請を拒否し、隣で不安そうな表情をしているフィルの手を取って泉をあとにしようとする。


「むぅ、シンちゃんはフィルちゃんの方が好みなのね……あ、もしかしてロリコ――」

「べ、別にそういうわけじゃないですからね!」


 そして俺は背後からかかる声にそう言い返したのだった。


 俺がロリコンだなんて失礼な人だな。

 精霊王の言葉にプリプリ怒りながら俺はフィルと一緒に自分達の使っている宿のある方向へと歩き始めた。

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