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温泉

「ふぃ~……」


 精霊王との会話を終えた俺達は精霊族によるもてなしを受けた。

 そして今、もてなしの一環として精霊王が言っていたアルフヘイム名物の温泉、『アルフ温泉』に俺は入浴していた。


 温泉は露天風呂となっているため周りから丸見えなのだが、一応森がブラインド代わりになっているのであんまり気にする必要はないだろう。

 もし誰かに見られるとしてもそれは精霊族くらいのものなので特に問題もない。

 それにここは混浴のようで、何人かの精霊族が男女問わず一緒に入っていたりする。


 一応精霊族も見た目は若い人の形をしているのだが、発光しているため近くに行かないと良く見えない。

 なので俺が遠目からそれを見ても人の輪郭しか把握できず「綺麗な光が浮かんでるな」くらいの感覚である。

 まあ向こうからは俺の裸を見ることができるだろうけど、たとえ発光していなくともここは湯気も多いし濁り湯だからとりあえずは平気だ。


 にしてもここは良い国だ。

 さっき夕食という事で食べた果物や木の実はそのままで食べても美味しかったし、きちんと調理された料理についても文句のつけどころはなかった。

 また、ここに住む精霊族は皆陽気で音楽が好きなのか、どこにいても心地良い音色が耳をくすぐる。

 それに夜は精霊族の体から発する光がとても美しくてずっと見ていたくなる。

 幻想的過ぎて天国のように思えてしまう。


 スルスの森の中だけに収まっているのだとしたらここは国と言うには少しスケールが小さいかもだが、精霊族の体の大きさを考えればそれでも十分だろうし。

 自分が精霊族だったらずっとここに住んでいたいと思える場所だ。


「あ~……極楽だなぁ……」


 俺は湯に肩まで浸かり、体の芯まで温めていく。

 温泉に入ってると疲れが流れていくような感じがする。

 にしてもまさかアースで温泉に入れるとは思っていなかった。

 食べ物も美味しいし、レべリングも兼ねてしばらくここに滞在しようかな。


 そんな事を緩みきった頭で考えていると、俺の背後でちゃぽんという水音が聞こえてきた。

 水音はどうも精霊族が入った際の音より大きく、何が入ってきたんだ?と思いつつ俺は後ろを振り返った。


「ふあっつ!?」


 そこには全裸のエレナがいた。

 周りを飛び交う精霊さんの光と湯気であまりよく見えないが、確かにそこにはエレナが温泉に入ってくる姿があった。


「ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


 エレナは俺に近づきながらそう言った。


 いや、なにがよろしいんでしょうかね?

 全然よろしくないですよね?


「ちょ……エレナさん……?」

「”さん”だなんて他人行儀な……前にも申しましたように私の事はエレナと呼んでくださいませ」


 俺が動揺しながらもエレナから視線を外して目を瞑った。

 しかしエレナはそんな俺にお構いなく近づいてきたようで、すぐそばから彼女の声が聞こえてくる。


「どうしてお目をお瞑りになられているのですか?」

「そ、それは……エレナが俺の目の前にいるからだ……」

「あら、私は別に構いませんよ? シンさまになら見られても」


 何を見られても構わないんですかね?

 絶対見ちゃいけないですよね?


「お……俺は親しくない女の人とそういうことはしないってフィルに誓ったんだ……」


 今の状況は俺にとってとてもおいしい。

 美女と温泉で裸のお付き合いというシチュエーションにトキメキを感じないわけがないのだ。


 できることならこのまま背中の流し合いっことかしてみたい。

 しかしそれはフィルとの会話によって立てた俺の誓いを破る要因となりかねない。


「……ではこれから私とシンさまが親しい仲になれば良いのではないでしょうか?」


 が、俺の誓いを聞いたエレナはそんな抜け道を提示した。


 まあそういう道もあると思うけど、でも今はまだ俺とエレナがそういう関係に到達していないのだから駄目だろう。

 それに俺が女の子とお風呂場でキャッキャウフフするのはハードルが高すぎる。

 もっとこう……そういうのをする前にやるべき事がいくつもあってだな……

 手を繋いだり一緒におでかけしたり……


「あひぃ!?」


 と、俺が女の子と付き合ってからお風呂場で洗いっこする仲になるまでの1年間をシミュレーションしていると、俺の肩に何者かの手が添えられた。


 この場にいるのは俺と精霊族とエレナのみ。

 また、手の大きさから考えてまず間違いなくエレナであろう。


「そんなに驚かないでくださいませ……」

「で、でもだな……やっぱりこういうことはいけないと俺は思うわけだよ、うん」

「何もいけないことなどありませんよ……」

「!!!!!」


 俺の腕に何か柔らかい物が当たった。

 その柔らかい感触は二つあり、二の腕を挟むような形となっている。


 どう考えてもおっぱいです。


「い、いやちょっと、ちょっと本当に待って……俺達そういう関係じゃないし……こ、心の準備もできてないし……」

「私のほうは既に心の準備も体の準備もできております……さあシンさま……遠慮なさらず……」

「あ……」


 ヤバイ。

 これはヤバイ。


 俺はこれ以上ここにいると本能に逆らえなくなりそうだったので、エレナから強引に体を離した後、前かがみになりつつ温泉から飛び出した。

 後ろから俺を呼び止めるエレナの声が聞こえてくるがスルーだ。


 あのままあそこにいたら俺はお猿さんになってしまう。

 そしてそれはフィルを悲しませる事になってしまいかねない。

 なので俺はここで戦略的撤退を行うことにし、脱衣所のある扉の方へと走っていった。



「し、シンさん! お、お背中でもお流ししま――」

「ほわっ!?」



 けれど走ってきた俺が脱衣所の扉に手をかける前に、そこからタオルを体に巻きつけたフィルが姿を現した。

 その結果、俺はフィルを勢いよく押し倒し、彼女はその場に尻餅をついてしまう。


「あ……ふぃ、フィル、大丈夫か?」

「う、うん……俺はへい………………き…………………………」

「…………」


 俺はすぐ真下にいるフィルに向けて声をかけたが……彼女はとあるモノを見ながら言葉を詰まらせていた。


 モノ、というか、イチモツである。

 現在のポジション的にフィルの顔は俺の股間のすぐ近くにあった。


 つまりフィルの目と鼻の先にはマイサムがその存在を主張しているわけで。

 それをフィルは凝視したまま固まっているわけで……


「ひぇ……」


 フィルの口からそんな間抜けな声が漏れ、温泉にはまだ浸かっていないというのに彼女は顔を茹蛸のように赤く染め上げていく。

 この様子を見る感じだと彼女は今何を見ているのかちゃんと理解しているのだろう。


「あー……ごめんなさい」


 とりあえず俺は謝ることしかできなかった。

 謝罪の言葉をかけ、尻餅をついたフィルから離れることしかできなかった。


「こ、これはふかこうりょくというもにょで……シンさんにょをみちゃったにょはふかこうりょくにゃわけで……」


 フィルは顔を赤くしながらも俺に何かを伝えようとしていた。

 だがどうも呂律が回っておらず、彼女が何を言いたいのかイマイチ良くわからない。


 しかしおそらくこれはわざとではないと言っているのだと思う。

 でもだったら俺の顔と下半身を交互に見る動作は何なのだろうか。


 俺はフィルの謎挙動を見つつ、女子中学生の前でいつまでも全裸でいるわけにもいかないので下半身を手ぬぐいで隠した。


「……とりあえずフィルはエレナと一緒に温泉に浸かっておけ。いつまでも裸じゃ体も冷えるだろう?」


 そして俺はフィルに温泉へ浸かるよう言った。

 ちょっと俺も湯冷めしつつあるが、これから温泉に入ろうとしているフィルと一緒に湯の中へ戻るわけにはいかないのでここは我慢する。


「エレナ……さん? あっ………………」

「…………」


 相変わらずフィルは察しが良いようだ、

 彼女はチラッと俺の下半身に視線を向けつつも、何かを納得したかのような呟き声を発していた。


 何を察したかについては聞かないでおこう。

 俺は彼女に背を向けて歩き出そうとした。


「……それじゃ俺はこの辺で」

「あ……ちょっと待って……ください……!」

「……? なんだ?」


 そろそろ体を拭かないと風邪を引いてしまう。

 けれど俺はフィルの呼び止めを聞いてその場に立ち止まる。


「し、シンさんだけ見られたんじゃ……ふ、不公平だと思うので……」

「! 風呂は肩まで浸かれよ! じゃあな!」


 体に巻いたタオルの前部分を震えながらハラリと開くフィルを見て俺はその場から逃げ出した。


 ちょっとエレナさんもフィルさんも大胆すぎると思いつつ、俺は自分のいくじのなさに呆れるしかなかったのだった。

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