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精霊の国

 翌日、爽やかな朝を迎えた俺はフィルと一緒に村を出た。

 昨日あんな出来事があったせいか、俺はフィルの事を気にしていた。


「どうかし……ましたか、シンさん?」


 俺達は今ガルディアに乗って森の中を移動しているわけだが、俺の前に座っているフィルとの距離感が縮まったように思える。

 それはもしかしたら気のせいではなく、実際に距離が縮まっているのかもしれない。

 鎧越しでよくわからないものの、なんとなくフィルが俺に体重を預けているような感じがするのだ。


「いや、なんでもない」

「そう……ですか」


 こちらを向いてくるフィルに俺はなんでもないと伝えると、彼女は軽く頷いて微笑んだ。


 その彼女の微笑みもまた俺と距離が近づいたからこそなような気がしてならない。

 昨日の一件以来どうもフィルを意識しすぎているのだろうか。


 まあ意識してしまうことはある意味仕方がない事と言える。

 こんな可愛い子から好意を寄せられているとはっきり告げられてしまったのだから、意識しないなんて事のほうが難しい。


 ……好意を寄せられているといえば他にも2名ほどいたりするけどな。


 でもあの2人と比べるとフィルはかなり大人しい。

 多分フィルの告白は相当なエネルギーを要したことだろう。

 それを考慮するとフィルのことが2割増しで愛おしく感じてしまったりする。


「やっぱり何か言いたい事があるんじゃ……ないでしょうか?」


 と、そんなことを思いながらフィルを見ていたら、背後であるというのにそれを察知してか彼女は俺に再び問いかけてきた。

 

「さっきからシンさんの視線を感じる……ます」

「いや本当に何でもないって。まあフィルを見てたのは事実だから気にしたなら謝るけど」


 ちょっと不躾だったかもしれないと思い、俺はフィルに謝罪した。


「いや、別に謝らなくても……シンさんにずっと見られるならオレも嬉しいから……」

「そ、そうか?」

「ん……」


 するとフィルは頬を赤らめ、俺に見られることは嬉しいなどと言い出した。

 それを聞いた俺も若干体が熱くなったきがして、そっぽを向いて頬を掻く。


 なんていうか、凄いデレている。

 元から素直でいい子だったが、こういう反応をする子ではなかった。

 彼女にツンな時期があってのデレであったなら俺はたちまち落とされていたかもしれないな。

 今もかなりヤバイが。


 相手は中学生だけど年の差なんて2つ程度しか違わないし、帰ったらミナ達に色々言われるかもしれないけど、やっぱりフィルの告白は受けても良かったんじゃないかなぁ……

 でも昨日の今日で発言をひっくり返すのも躊躇われる。

 こういうのはもう少し考えてから答えを出さないとだ。


「もうすぐですよ勇者さま方」

「……おお、そうか」


 そんな事を考えていると、近くからエレナの声が聞こえてきた。


 ガルディアに乗る俺達の横でエルフ族のエレナが馬に乗って並走している。

 彼女は今回、報酬を俺達に渡すために道案内をしてくれているのだ。


 昨日は彼女から報酬を受け取れなかったからな。

 それにフィルとの一件により、エロい事に関する報酬(案の定この報酬はエレナの独断で、昨日何があったのかを聞いた村長は驚いていた。何やってんだよエレナさん)も今では受け取る気がない。

 というかそもそも俺だけ報酬を貰うのではフィルに申し訳なかった。

 なのでエレナと村長は別の報酬を俺達に提示したのだ。


 その報酬とはある場所への招待。

 案内役がいなければ、周囲に張り巡らせている結界の関係上まずたどり着けないという秘境にエレナは俺達を連れていってくれるのだそうだ。


 こうした経緯から俺達は森の中をひたすら進み続けている。


「着きました」

「おお……」

「すごい……」


 村を出てから半日以上という時間が経過したころ、遂に俺達は目的地へ足を踏み入れる事に成功した。


「ようこそ、精霊族の国『アルフヘイム』へ」


 俺達はスルスの森深くに隠された秘境の地、アルフヘイムへとやってきた。






「あー! 人族だー!」

「人族だー!」

「人族だー!」


 森に囲まれた国、アルフヘイムに入った俺達を見て、全長20センチくらいの小さな生き物である精霊族が驚いたというような声を発していた。


 精霊族はアース内でも希少な種族であるらしい。

 また精霊族は魔法能力が高く、その影響を受けてかその種族が住みついた土地は魔力の流れが綺麗で豊かになると言われていたりする。


 そしてそんな精霊族が多く住みつき、アルフヘイムと呼ばれている秘密の国がミーミル大陸のどこかにあるのだとかいう話を俺は学校の授業で前に聞いた事があった。

 だからここにアルフヘイムがあることについてはそこまで驚いているわけじゃない。


 驚いているわけじゃないのだが……


「なんか俺達目立ちすぎてやしないか?」

「まあ人族がここに来る事は滅多にありませんからね。皆興味があるのでしょう」


 精霊族の特徴は、人の形をしているが身長はおよそ20~30センチほどしかなくて背中に羽が生えているうえに発光している事、魔法の扱いが得意であるという事、そして精霊族はほぼ全員が好奇心旺盛かつ陽気である事等が挙げられる。

 なので精霊族しかいない国に入った俺達へと注がれる好奇の視線の数は100じゃきかない。


 エレナの言うとおり、ここに住む精霊族からしたら俺達は物珍しく、こうして視線を集めてしまうのは仕方がないのだろう。


「でも綺麗……ですね」

「だな」


 しかしそんな好奇の目線も理由がわかってしまえばそこまで苦ではなく、俺達の周りを発光しながら飛び回る精霊族はどこか幻想的で美しいとさえ思える。


「なんかここにあるものは殆どがミニチュアサイズだな」


 心に余裕ができた俺はキョロキョロと辺りを見回しながらそう呟いた。


 森の中に作られたこの国には木の上に家らしき建物がいくつも建てられている。

 空を飛べる精霊族なら高低差など関係なく移動することができるからこその作りなのだろう。

 ただその建物は普通よりだいぶ小さく、ミニチュアハウスという風に見えた。


「私達より体が小さい種族ですからね。あまり大きな建物を建ててもしょうがないんですよ」

「ふぅん」


 まあ確かに精霊族が使う分にはちょうどいい大きさなのかもしれない。

 大きすぎても掃除とか大変だろうし。


「でもこんなところをよく知ってたな。俺達地球人はアルフヘイムがどこにあるのか全然知らなかったぞ」

「私達エルフ族は森に住む種族ですからね。精霊族とも懇意にしてもらっているんです」

「へえ」


 ふと俺が思った疑問にエレナは答えた。


「私達がいたあの村も元々はエルフ族だけの村だったらしいのですが、数百年という月日が経過してエルフ族の数も減り、今のように多種族が交ざった村へとなっていったそうです」

「なるほどな」


 エルフ族は精霊族と仲が良い。

 また、昨日までいたあの村の発祥はエルフ族にあるため、近くにある精霊の国との交友もそれなりにあったからこそエレナはアルフヘイムの場所を知っていたのか。


「だけどモンスターに襲われても精霊族が助けには来てくれないんだな」

「今回はちょっと数が多すぎました……魔物が村を襲撃する事はたまにあり、ある程度なら村に常駐している精霊族の兵士と住民だけで対処できていたのですが……」

「そうか」


 精霊族の兵士って俺が昨日少し話した男の精霊族の事か?

 あんまり強そうな感じじゃなかったが、精霊族は魔法を使って戦う種族だから見た目だけで強さを判断しないほうがいいのだろう。


「ですがしばらくの間は村周辺の魔物が大きく動き出すことが懸念されます。なので精霊王に助力を仰ぎたいと思い、私がここへやってきたのです」

「俺達の報酬はそのついでか」

「え、ええ……まあ、お恥ずかしながら……」

「ふぅん」


 ちょっと口が滑った感があるものの、エレナの説明でなんとなく村とアルフヘイムの関係はわかった。


 にしても精霊王、か。

 確か精霊族の長らしいから、ここにいるのも当然と言える。

 その人もクレールや獣王と同じ八大王者の一人に数えられているんだよな。


「まあいいや。とりあえず俺達を例の場所に案内してくれ」

「あ、はい、わかりました」


 俺はエレナの言った事を軽く流し、彼女に道案内役を続行させた。


 この国に来た目的は、ここでしか手に入らないような品物を得るためであるが、そのためにもまずは懐事情を改善する必要がある。

 なので俺はエレナに例の場所――冒険者ギルドのある場所に案内させたのだった。






「冒険者ギルドへようこそー!」

「……マジであったよ」


 俺達は精霊族が作ったにしては珍しく大きい建物(それでも若干小さいが)の中に足を踏み入れた。

 すると精霊族の従業員が挨拶をしてくれた。


 あまり深く考えないほうがいいのかもしれないが、なんでここにも冒険者ギルドがあるんだ。

 アルフヘイムってアースでは場所が秘匿されているはずなのに。


 そう思って俺はここへ来る少し前にエレナへ訊ねてみると、冒険者として活動している精霊族もそれなりにいるからという返答がなされた。

 冒険者のいるところに冒険者ギルドもあるってことか。

 大きい町ならどこでも一軒は立っている冒険者ギルドだが、わりと謎の多い組織だな。


 しかしあるなら利用しない手は無い。

 俺とフィルはアイテムボックスの中に限界まで詰め込まれたかなりの数のハイオークの骸とB級魔石、それに親玉であったオークロードの骸とA級魔石を取り出して引き取ってもらった。


 すると俺達の資産は一気に膨れ上がった。

 しばらくは金銭面で問題となる事もないだろう。


 そして俺達はホクホク顔で冒険者ギルドを後にした。


「さて、それでは私は一度精霊王へのお目通りをお願いしに行きますが、その際勇者さま方もご紹介したいと思っております。よろしいでしょうか?」


 と、そこでエレナは俺達に向けてそんな事を聞き始めた。


「精霊王に会えるのか?」

「はい、もしよろしければですが」

「俺達が会っても何か問題になったりしないか?」

「いえ、そのような事は決して」

「なら行ってみようか、いいよな、フィル?」

「う、うん」


 俺はその精霊王にちょっと興味を持った。

 それに一応村を救ったという事をエレナに説明してもらえば邪険にされる事もおそらくはないだろう。


 なので俺はフィルにも了解を取り、その精霊王と会ってみることに決めたのだった。


「ではこちらに」


 こうしてエレナは再び道案内として俺達を先導し始めたのだった。

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