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報酬

「大丈夫か?」


 オーク共の親玉だったらしきオークロードを倒した俺は、洞窟に奥にいる人達へ声をかけた。


 さっきもチラッと見て確認していたが、そこにいた女性達は全員無事のようだ。


「は……はい、助けていただきありがとうございます」


 俺の声に反応した一人の女性が感謝の言葉を述べてきた。

 なので俺は軽く頷き声を上げる。


 捕まった人達を近くで見てみると、耳が長かったり獣族のように獣の耳を生やしたりと色々な種族が混ざっているのが確認できた。

 まあ一番多いのは人族っぽいけど。


 村の男達も結構色々な種族が混じってたし、種族が違ってもあまり気にしない人達なのだろう。


「あ、み、見ちゃだめ」

「おっと……」


 そんな事を確認している俺の目を突然フィルが両手で塞いできた。


 けれど俺はここでいきなり何するんだとは言わない。

 多分フィルが俺の目を隠したのは村の人達を気遣っての事だろうからな。


「……とりあえず服を破かれた人はこれで体を隠せ」


 俺はアイテムボックスから数枚の毛布を取り出し、近くにいるであろう女性に渡した。


 ちなみに洞窟の中は松明の炎で照らされているがうす暗く、フィルに目隠しをされるまでもなく、よく見えなかった。

 何がよく見えなかったんだって話だが、ちょっと残念。


 そうして数分ほどが経過した後、村人が全員素肌を隠しきれたのか、フィルは俺の顔からそっと手を離していく。


「あ……ありがとうございます……ええっと、お名前のほうをお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 と、そこでやっと視界を取り戻した俺に向かって、耳の長い女性が訊ねてきた。

 今回の敵はただのモンスターだったし、ここで変な誤魔化しをする必要は無いだろう。


「俺の名前はシン。通りすがりの地球人さ」


 なので俺はできるだけキリッとした表情を意識して作り、自分の名前と出身を答えた。


 ここでわざわざ地球人であることを強調するのは、「俺達地球人はあなた達の敵じゃありませんよー」という地球人イメージアップ戦略の一環である。

 アースにおける地球人の印象はまだ固まりきっていないからな。

 こういう地道な活動を行っていくことによって、部外者である地球人を徐々に受け入れてもらうのだ。


「シン……さまですか……素敵なお名前ですね……」


 だがそこでは地球人というより俺のほうに関心を向けられてしまったようだ。

 まあオークに犯される危機一髪といったところで颯爽と救い人が登場したわけだからな。


 でも様付けとか。

 しばらく聞いていないがサクヤの事をつい思い出してしまう。

 あいつは今どうしているだろうか。


「……とりあえず歩けるようなら村へ戻ろう。外で村の男達も待ってるから」

「はい……」


 俺は頭を振って気持ちを切り替え、洞窟内にいた人達を引き連れて外に出た。


「あ、あれ? オーク共はどうしちまったんだ?」


 すると外で待機していた村の男の一人が女性達を見て目を丸くしていた。


「ああ、全部倒した」

「え、全部?」

「もしかしたら森の中にまだ潜んでいるかもだが、洞窟内にいたオークは全部倒してきたぞ」

「お……おお……そうか」


 どうやら流石に俺一人で全部倒しきるとは思っていなかったらしい。

 その場にいた村の男達は全員驚いたという表情をしていた。


「お疲れ様……です、シンさん」

「ああ、フィルもお疲れ様」


 そしてフィルは俺にペコリと頭を下げて労いの言葉をかけてきた。

 なので俺も軽く労いの言葉を返し、フィルの頭を撫でつける。


「オレはそんなに疲れてない……結局殆どシンさん頼りだったし……」

「そんなことはないさ。お前はちゃんと俺のフォローをしてくれただろ?」


 洞窟内に俺一人が入っていたら、オークに捕まって素肌をあらわにしていた女性達に不躾な視線を向けてしまっていたかもしれない。

 せっかく助けに駆けつけて好感度はうなぎのぼりだというのに、そんなスケベ心を丸出しにされては向こうも冷めてしまうだろう。

 そうなってしまうとこれから貰う予定の報酬にも響きかねない。


 けれどフィルはそれをフォローし、俺が村人からスケベ野郎と罵られてしまう可能性を排除してくれたのだ。

 地球人のイメージダウンを阻止した彼女には感謝である。



 こうして俺達はオークから村の女性を無事救い出すことに成功したのであった。





「ふぃ~……」


 村に戻った俺達は村長の家でもてなしを受け、戦闘で汚れた体をお湯と布で清めた後、村で採れたという新鮮な野菜と今日大量に獲れた豚肉(?)がメインの食事をいただいて泊まる部屋も借りた。

 その部屋は二人分、俺とフィルは久しぶりに別々の部屋で休める環境を手に入れた。


 ちなみにガルディアは納屋に泊まっている。

 あいつは基本的にどこでも寝られるみたいだし問題は無いだろう。


「……さて」


 そして俺は久しぶりに一人になった事で少しそわそわしていた。

 別にこれはフィルが傍にいなくて寂しいとかそういうのではなく、ただ単に今まで色々と発散できていなかったツケによるものである。


 俗に言う、溜まってるってヤツだ。

 外ではモンスターがいるからそういう事なんてできないし、街にいてもフィルの目があるためになかなかできなかったのだ。

 ここも村長の家であり、薄壁の向こうにはフィルがいるだろうが、静かに事を済ませて換気もきちんと行えばまずバレないだろう。


 そう思った俺はベッドの上で――



「…………?」


 と、そんな時、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえてきた。

 扉の向こうにいるのはおそらくフィルだろう。


 まだ何も始めてはいないのでタイミング的には悪くないから別にいいんだけど、もしかしたらいつぞやのようにマッサージでもしに来てくれたのだろうか。

 はたまた状態異常のスキルレベル上げか。


 あまり人様の家で変な事はできないのでスキルレベル上げをするつもりは無いんだけど。


「はいはい、今開けますよ……と?」


 そんなことを考えながら扉を開けると、今日助けた耳の長い――エルフ族の女性が立っている姿が目に映った。

 訪ねにきたのはフィルではなかったようだ。


「……何か用か?」


 俺はエルフの女性に問いかけた。


 この村には人族と獣族、それに少数の精霊族とエルフ族が力を合わせて住んでいるらしい。

 エルフ族なんて初めて見たけれど、どうやら彼ら彼女らも俺達と殆ど変わらない生き物のようだ。

 まあ寿命が長いとか耳が長いとか、ほぼ全員が美男美女であるというような違いはあるみたいだけど。


 ちなみに今俺の下を訪ねてきた女性もスタイル抜群でなかなかの美女だ。

 見た目は俺より若干高めの15~17歳くらいに思えるが、実際はいくつなのだろうか。

 もしかしたらクレールみたいに数百歳とかだったりして。


「……中に入れさせてはいただけませんでしょうか?」

「あ、ああ、どうぞ」


 そんなことを思っていたらエルフの女性が俺の部屋の中に入りたいと言い出してきた。

 なので俺は体を横にずらして彼女を部屋の中に招き入れる。


「それで、こんな時間に一体何の用なんだ?」


 俺は再び彼女に問いかけた。


 今は夜も更けている。

 良い子はお休みの時間なのだ。

 それなのにこうして部屋を訪ねてくるということは、それなりに理由があっての事であるはずだ。


「シンさまにオーク討伐の報酬をと……」

「それか」


 俺はエルフの女性が口にした「報酬」という言葉に反応して納得の声を上げた。


 オークを倒した事によって俺達は歓待を受けているわけだが、未だ報酬についてはちゃんと話せていない。

 こちらから話を出すのはどうかと思って今日のところは聞かなかったんだが、明日になったらその件についてをちゃんと訊ねてみようと考えていた。

 流石に踏み倒すとは思っていなかったけど、向こうからはちょっと話を出しにくいのかなとかは推測していた。


 けれどそんな話をこんな夜更けにしようだなんて、一体何を考えているんだろうか?


「その話は明日でもいいんじゃないか?」

「いえ、報酬は今が一番受け取りやすいかと思いますので」

「?」


 どういうことだ?

 今が一番受け取りやすいって、時間帯によって受け取りやすいとかあるものなのか?


「あ、私の名前はエレナと申します」

「はあ、どうも」


 俺が首をかしげているとエルフの女性――エレナは俺に自己紹介をしてペコリと頭を下げてきた。

 なので俺も軽く頭を下げる。


 するとエレナは頭を上げ、再び本題についてを話し始めた。


「シンさま。実のところ私達の村はそこまで裕福ではございません」

「そうなのか?」

「はい。そのうえ今回の魔物襲撃によって村の余裕はほぼ失われてしまったと言ってもいい状況です……」

「ふぅん……」


 まあ……そうなんだろうな。

 村の田畑や家畜、家、それに人への被害はかなりのものだ。

 余裕が無いというのも頷ける。


 でもそうなると俺達に報酬を支払う余裕も無いって事になるか。


「なので金銭的なもので報酬を支払うことは難しく……先ほどまで村長一同は頭を悩ませておりました」

「へえ……」

「中には村の事情を話して報酬を支払うという話を無かった事にしてもらうよう頼むというような案まで出る始末。村の窮地を救った勇者さまへの対応ではありません……」

「はあ……」


 村が貧窮しているなら報酬を渋るというのはある意味必然。

 だから俺とフィルは村を助ける前に報酬を確定させる必要があった。

 そんなことは村の状況に限らず、交渉における当然の作法であるのだが、俺はそれでもあえて人命救助を優先した。

 交渉なんかして時間を食い、その結果助けられたはずの命が助からなかったら目覚めが悪いからな。


 そういった俺の行動は裏目に出たわけだが、まあこちらも損はしていないしボーナスステージ的な怒涛の狩りも行えたので、報酬が村でのご馳走と宿泊だけというのでも俺は構わない。

 多分フィルも報酬目当てで助けたわけじゃないだろうし、それでもいいと言ってくれるだろう。


「ですが私はシンさまのお役に立ちたいと思っております……」

「うん? というと?」


 が、そういった俺の思いとは裏腹に、エレナは話を続けていく。


「なので……報酬は私が支払おうと思います……」

「……………………ッ!?」


 エレナは頬を赤らめながら報酬を支払うと言うと、身につけていた茶色の服をいそいそと脱ぎ始めた。

 それを見た俺は狼狽し、部屋の隅まで走る。


「い、い、い、いきなりなにを」

「これが私から差し上げられる報酬です……」


 部屋の隅にいる俺は全裸になったエレナから目をそらす。

 けれど彼女は俺の方へと近づいてくるような足音を立て、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。


「体は清めてまいりました……オークにも……村に住む男の人にも触らせなかった身で経験に乏しいところがあるのですが……精一杯ご奉仕させていただきますので……」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って」

「殿方であるならこの報酬でご満足していただけるかと……ハァハァ……さあシンさま、存分に私を召し上がってくださいませ……」

「ちょ、ちょちょ待って。マジ待って。マジホントマジ待って」


 エレナの若干荒い息遣いが首下から聞こえてくる。

 そして俺は煩悩を揺さぶられながらも必死の抵抗を行い始めたのだった。

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