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事件

「おい……どうなってんだよコラ……」


 俺達がその日もまた狩りをし終えて鍛冶屋に戻ってくると、店の中にあった武器と防具の殆どがどこかに消えていた。

 店内に飾られた剣が、槍が、斧が、盾が、杖が、鎧が、ローブが、消えて無くなっていた。


 後に残ったのは店内を荒らされた形跡と、持ち運びの関係上か何かで置いたままとなっているグレードの低い装備品がいくつかのみ。

 この状況を見るに、空き巣に入られたとしか思えない。


 俺達はその惨状を見て歯をギリッとかみ締めた。


「クソッ! いったい誰がこんなことしやがった!」

「バン……」


 店の様子を見てバンは怒声を上げる。

 正直俺もバンのように怒りたい気分だ。


 どうしてメリーの店がこんな目に遭う。

 彼女はただ俺達のレべリングに付き合ってくれていただけなのに。


「バン、ひとまず落ち着きな」

「! メリー! オメーはこんな事されて腹がたたねえのかよ!」

「勿論腹は立ってるさ……でも今は店の片付けをしないとだね」

「…………」


 メリーはバンを鎮めると、ショーケースが割られて散らばったガラスの破片を、部屋の隅に置いてあった箒とチリトリで集め始めた。

 それを見た俺達も手を動かし始め、店の中を綺麗にしていく。


 地球でなら現場検証としてそのままにしておいたほうが犯人逮捕のためには良いのだろうが、アースだと高度な科学調査等はあまり望めない。

 一応地球側の色々な知識がアースに輸入されていたりもするが、アース時間でさえ僅か数年という期間ではそれほど大きな進歩もできていないのが現状だ。

 この辺りは利権というか知的財産権とかが絡んでくる内容だから俺もそこまで詳しくは無いんだけどな。


 ……まあそんなことはどうでもいい。

 店主であるメリーが店を片付けると決めたのだから俺達はその方針に従うまでだ。


「ふぅ……少しは片付いたね」


 そして片付けを開始してからおよそ一時間後。

 店の中は大分物が少なくなったものの、元の状態へとそれなりにだが戻ったのだった。


「ここにあったのはこの辺じゃ最高ランクの装備だったってのによぉ……」


 悪い意味でスッキリしてしまった店内を見ながらバンがそう呟いた。


 確かにメリーの作った装備品はこの街では最も性能が高かった。

 ただメリーはプレイヤーに装備を売らないというスタイルを維持していたため、そこまで多く出回っていない。


 メリーの彼氏であるはずのバンですら彼女の装備を身に付けていないのだ。

 そのことからも、彼女が俺とフィル以外のプレイヤーに装備品を融通していないとわかる。


 加えて、この街にいるプレイヤーの鍛冶師は現在メリーだけなのだとか。

 なのでメリーを取り巻くプレイヤーによるいざこざが多く、それによって彼女はプレイヤーに装備は売らないという決断を下したのだそうだ。


 まあこれは仕方がないのだろう。

 需要と供給が合っておらず、プレイヤーの中には「俺用の装備を他の奴らのより優先して作れ」「あいつらには装備を売るな」「もっと安くしろ」と言ってくるような馬鹿も少なからずいたはずだ。

 そして生産側であるメリーがお人よしであればあるほどそういった奴らは増長し、彼女に無理難題を突きつける。


 MMOゲームでもこんな例がゴマンと存在し、こうしてゲーム内の人間関係に嫌気が差して引退する生産プレイヤーも珍しくない。

 この傾向は生産職が希少であるほど酷くなる。


 メリーが過去にどんな事があったのか俺は知らない。

 が、多分こんなことがあったのだろうというような想像はできるし、おそらくはこの想像も大体合っているだろう。


 俺はそんな事を考えて「はぁ」とため息をついた。

 今回の件ももしかしたらそれが関わっているのかもしれないと思い、憂鬱な気分になったからだ。


「……これからどうするつもりだ? メリー」


 バンが声のトーンを低くしてメリーに訊ねた。


「どうすっかねえ……」


 それに対するメリーに反応は鈍い。


 顔には出していないが、やはりこの出来事には彼女もショックを受けているようだ。


「元々客の少ない店だったからね。ここで手仕舞いにするっていうのもアリかもしれないねえ」

「……そうか」


 手仕舞い。

 つまり店を畳むということか。


 メリーが何を思ってこの店を開いたのかまでは知らないが、こんな事があって品物の殆どが盗まれてしまったとあっては、そういう判断をしてしまうのも頷ける。

 一応ここは本来武器屋でも防具屋でもなく鍛冶屋なのだから、鍛冶の腕さえあれば問題なく店を続けられるんだろうけど。

 しかし今回の一件による被害総額は相当なものになるだろう、店の維持費もバカにならないはずだ。


 店の経営も上手くいっていなかった。

 だからメリーもこれで店を畳む決心がついた、というところか


「……でもこのままというわけにはいかないな」

「シンさん……?」


 が、メリーが気落ちしているのをこのまま黙って見過ごすわけにはいかない。

 彼女は俺達の恩人であり、そもそも空き巣に入られた原因の一つは俺達のレべリングに付き合って店を空けてしまったからだ。


 なので俺は店の出口へと足を向け、静かに口を開く。


「犯人探しをしてくる。必ず見つけてくるから」


 メリーの店を荒らした犯人は絶対に許さない。

 そしてその犯人を見つけたら店に置かれていた装備品を全て奪い返してやる。


 俺は心の中でそう誓い、後ろについてくるフィルと一緒に店をあとにしたのだった。






「手がかりはナシ……か」


 犯人探しを始めて数時間後、もはや深夜といった時間帯になりつつある頃宿へと戻ってきた俺はフィルと顔を付き合わせてため息をついていた。

 宿に戻るまで俺達はメリーの店周辺にいた街の住民に聞き込みを行っていたのだが、その結果がどうにも芳しくないものであったためだ。


 収穫はゼロ。

 メリーの店に不審な人物がいたという情報も無ければ、それなりの大荷物となっていたであろう装備品の山を持ち運ぶ様子も目撃されていなかった。

 まだ数時間程度の調査ではあるが、早くも 暗礁に乗り上げたというような気がしてならない。


 あとメリーの店に人が来ない理由もはっきりわかった。

 街の住民から聞いた話だが、鍛冶屋『正宗』の鍛冶師は腕に難があるという噂が店を開いた直後から広く出回っていたようだ。


 腕に難があると言ってもメリーの店にいる鍛冶師はメリーだけなのだから、その噂はとんだデマ話である。

 俺達もメリーの店の話を聞いた時は若干メリーの腕を怪しんだが、今ではそんな風に思う事など全く無い。

 それになんで店を開いて間もない頃にそんな悪い噂が広範囲に流れたのか謎だ。


 ……まあこれについては今考えることじゃないか。


 ここで考えるべきなのは空き巣に入った犯人の手がかりが何もない、という手がかりについてだ。


「犯人は多分……地球人≪プレイヤー≫」

「やっぱりそれが一番可能性として高いな」


 手がかりの無さが逆に手がかりとなりうる。


 大量の荷物を運んだという人物をメリーの店近くにいた住民が見ていないという事は、それはすなわち装備品をどこか人の目がつかないところ――たとえばアイテムボックスの中とかに入れて持ち運んだ可能性が高い。

 そしてアイテムボックスは俺達地球人≪プレイヤー≫が使える便利魔法だ。

 一応アース人でも使える人はいるらしいが、それもごく少数らしい。


 なのでもし装備の持ち運びにアイテムボックスを使用したなら、犯人は地球人ということになる。


「だけどその地球人を特定するのがなぁ……」


 この街には俺達やメリー達の他にも数十人ほど地球人が滞在している。

 一人ずつ虱潰しに今日のアリバイを調べていくというのは俺達だけじゃちょっと難しい。


「……いや、待て」


 しかしそこで俺はある可能性を思いつく。

 といってもそれは少し考えればだれでもわかりそうなものであるのだが。


「犯人は複数人いそうだな」

「そうなの……ですか?」

「だってそうじゃないとメリーの店にあった大量の装備品を一度に持ち運ぶ事はできないだろう?」

「あ……」


 そうだ。

 俺達の持つアイテムボックスは中にいくらでも物を入れられるというわけではなく、容量の限界というものが存在する。


 加えてメリーの店から持ち出された装備品の数は膨大だ。

 地球人一人が使えるアイテムボックスではどうあがいても持ち運べない量と言える程である。


「なら犯人はある程度絞り込める……」


 犯人が複数人という事は、地球人を一人一人調べるのではなく、パーティー単位、レイド単位で調べた方が手間としては数段楽になるだろう。


「この辺りは明日メリーとバンを交えて話すか」

「うん」


 俺達に物的証拠はなく、推測に推測を重ねた形で犯人像を浮かび上がらせた。


 こんな調子で果たして犯人を特定できるのかと不安にもなったが、しかし後日になってこの推測は思いのほかイイ線いっていたと思わずにはいられなかった。






「店が何者かに荒らされたっていうのは本当かい?」

「……おう、まあな」


 翌日の夕方、俺とフィル、メリー、それにバンの4人が鍛冶屋の中で待ち構えていると、バンから事情を聞いてやってきたという【フェンリル】のオウギ達と顔を合わせた。


「確かに売り物が少なくなってるね……それでこれからメリーはどうするんだい?」

「…………」


 オウギはメリーに問いかける。

 しかしメリーは何も答えない。


「? どうしたんだいメリー。何か俺に――」

「なあオウギ。オメーらは昨日どこで何をしてたんだ?」


 オウギがメリーに再び声をかけようとすると、その途中でバンが割り込みをかけてきた。

 バンの語調は僅かに厳しく、オウギを問い詰めるかのような声音だ。


「どこでって、俺達はいつも通り狩りを――」

「とぼけるなよ。お前達が空き巣の犯人なんだろ?」

「…………」


 俺の問いかけを聞いたオウギの表情が固まった。


 そしてここから俺による【フェンリル】への糾弾が始まった。

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