彼氏と彼女
「よっ、おはようさん。早かったね」
「おはよう。まあ早いに越した事は無いだろ」
「おはよう……ございます」
鍛冶屋にやってくるとメリーが朝の挨拶をしてきたので、俺達はそれに軽く返事した。
「とりあえず俺の装備の方を見せてくれないか」
「早速だね。まあ別に良いけどさ。ほら、確認しな」
俺が装備について訊ねると、メリーは目の前にあるテーブルに3つの装備を置いた。
死霊の腕輪+ 呪 耐久値10000 重量5
STR+4 VIT+5 MND-7
死霊の首輪+ 呪 耐久値10000 重量5
VIT+5 INT+4 MND-7
死霊のブーツ+ 呪 耐久値10000 重量5
AGI+10 MND-7
どれも性能がかなりアップしている。
それにマイナス面であるMND数値も俺の期待通りに低くなった。
これらを装備すれば俺はより強力なダメージヒールを使えるようになるだろう。
まあその代わりに俺の抱えるデメリットも大きくなっているわけだが、今は目を瞑っておこう。
「そんじゃあいっちょ狩りにでも出かけるか。あんたらも用意はいいね?」
「ああ、勿論だ」
「は、はい」
俺が装備品を身につけている間、メリーは狩りをする準備を整えていた。
どうやら彼女の主要武器は右手に持った巨大ハンマーのようだ。
「でも本当についてくるのか? 一応鍛冶屋やってるんだろ?」
「別にいいさ。昨日バンも言ってたことだけど、どうせ閑古鳥が鳴いてんだからしばらく休業してたって問題はないよ」
「そ、そうか」
それはそれで店としてちゃんと成り立っているのかと訊ねたくなるな。
でもここで取り扱っている品物や装備強化の腕を見る限りでは、この鍛冶屋にはもっと客が来てもよさそうなもんなんだが。
この店の存在を知った時には少し悪い噂も聞いたが、それには何か理由でもあったりするのだろうか。
そんなことを思いつつも、俺とフィルはメリーオススメの狩場へと向かうのであった。
「……昨日も思ったことだけど、それってちょっと反則的な威力なんじゃないかい?」
「お前もそう思うか」
街の外へと出た俺達はハイオーク、ミノタウロス、ヒュージスライム等々といった強いモンスターを狩っていた。
ただ狩ると言っても、それらのモンスターは全て俺の『ハイヒール』もしくは『ヒール』で一撃死してしまう。
レベルが上がるまではモンスターに触れるような戦いはしない方が望ましいとはいえ、もはやプレイヤースキルもクソも無い戦法だ。
こうしている間にプレイヤースキルが錆付いていきやしないか不安になる。
「でもホント強いね。アンタみたいな異能者が今まで噂にさえ上がらなかったのが不思議なくらいだよ」
「…………」
メリーは今もなおダメージヒールを異能と勘違いしたままだ。
あまり俺のビルドを知られてしまうのはマズイんだけど、同じパーティーを組んでいる以上はやはり話しておいたほうがいいだろう。
彼女は困っていた俺達に救いの手を差し伸べてくれた恩人であるわけだし、背後からうっかり回復剤を投げつけられても危ないしな。
「メリー、これはここだけの話として聞いてほしいんだが――」
なので俺はメリーにダメージヒールの概要を軽く説明した。
『死霊王の加護』だとか死霊の大盾の性能だとかは伏せさせてもらったが、防御比例ダメージの魔法と聞くとメリーは目を大きく見開いて驚いたというような表情を作りだした。
「はー……そんな裏技があったなんてね。アタシもこの世界に来て長いけど初めて知ったよ」
まあ俺の知るダメージヒールを使えるゲーム内でもただの小ネタって扱いだからな。
アースでもダメージヒール、というかデスヒールは知らないって方がクレール曰く普通みたいだし。
「射程圏内に入れば問答無用でほぼ一撃必殺とか敵に回したくないね」
「だろうな」
普通の攻撃魔法は矢のように飛ばして当てる必要があるが、回復魔法の場合は場所の指定さえできれば即当たる。
難易度的にも回復魔法の方がずっと低い。
こういった面から僧侶職は初心者にお勧めのジョブと言える。
俺の戦い方は上級者向けだが。
「ああ……だからこその死霊装備か。シンの装備だと思っていたのになぜかフィルちゃんが腕輪を身に着けてて疑問だったんだけど」
「気づいたか」
メリーはフィルを見ながら「なるほど……」と呟いている。
俺達がなぜ死霊装備を身につけているのか理解したらしい。
本当は俺が腕輪を身につけたほうが良かったんだが、今現在俺達は死霊装備を全部で五つしか持っていない。
一つだけダブっていた首輪は今サクヤが持っている。
なので俺がフィルを回復しようと思ったら現実的に考えて腕輪か首輪かブーツのどれかを渡すしかない。
また、盗賊職であるフィルの場合はINTよりもSTRやAGIを上げたほうが良いので腕輪かブーツの二択になる。
だがその二択なら戦闘中でも取り外しが比較的簡単な腕輪の方を渡すべきだ。
ブーツの場合だと戦闘中に脱ぐというのはなかなか難しいからな。
以前はミナがブーツを使っていたが、彼女はダメージが入っても自分自身で道具を使って回復することが難しいポジションにいたからあまり気にしていなかった。
後衛のサクヤとかだったら首輪を外して回復剤で回復することも安全にできたりするんだが、ミナや俺みたいに前衛にいるとなかなかそういうことはできないからな。
ということで今現在フィルに腕輪以外の装備を渡すのはあまり得策ではないのだ。
「オレは……首輪でもいい……ですよ?」
けれどオレとメリーが話をしていた中でフィルがそんな事を言いだした。
「いや、あんまり意味無いだろそれ」
確かにしばらく戦闘に参加しないならSTRを上げようがINTを上げようが関係ないって感じだけど、だからといってわざわざ首輪をフィルに渡す意味は無い。
首輪をつけたゴスロリ服のフィルというのも、それはそれで見てみたいと思わないでもないが。
「そう……ですか……」
「…………」
……しかしなぜだろうか。
フィルは首輪を身につけられないということを若干残念そうに思っているような雰囲気がある。
なんだろう。
もしかしてフィルは密かにこういう首輪をつけてみたいと思っていたりしたのだろうか。
「……もしかしてアンタら付き合ってたりする?」
「ぶっ!?」
と、そこでメリーからトンデモな発言が飛び出てきた。
俺はそれを聞いて思わず噴き出す。
「え、あ、そ、そんなメリーさん、お、オレとシンが付き合ってるだなんて……」
そしてフィルは顔を赤くしてアワアワと視線を泳がせている。
彼女もメリーの発言には驚いているようだ。
「……そんなわけないだろ。いきなり何言い出してんだ」
「あ、あれ、そうなの? そういう仲なのかと思って聞いてみたんだけど」
「ないない。そんなの全然ない。俺とフィルはただの先輩後輩だ」
どこをどう見て付き合っているだなんて思ったんだよ。
フィルの事は可愛いと思うけど、俺達の間にはそんな恋愛感情など無いのだ。
「だよな、フィル?」
「う……うん……そ……そう……ですね……」
俺がフィルの方を向いて俺達の関係を再確認すると、彼女は下を俯いて呟くような声で答えてきた。
なんだこの反応。
なんか変な事言っただろうか。
あっ、もしかしてあれか。
フィルは自分に女性らしさが無いと言われた気がして落ち込んじゃったのか。
そう考えるとさっきの発言は女の子に対してちょっと失礼だったかもしれない。
「フィル、俺は別にお前が女の子らしくないとか思ってそんな事を言ったわけじゃないぞ」
「え……?」
「お前は女の子として十分可愛い。俺からすればお前は元アイドルだったというミナにだって負けていないと思っている」
「あ、や、やだシンさん……そ、そんな……オレはミナさんと比べられるような容姿なんて持ってない……です」
「謙遜するな。お前は可愛い。それは俺が保証する」
「あうぅ……」
俺が褒めるとフィルは再び顔を真っ赤にし始めた。
それを彼女は首に巻いたマフラーで隠し(ゴスロリ服の上からマフラーを巻くというのはファッション的に如何なものか)、俺に背を向けてガルディアの方へと走っていった。
相変わらず褒められたりするのは駄目か。
こうして逃げられてしまうとちょっと寂しいと思ってしまう。
「……アンタホントにフィルちゃんのことをそういう目で見てないんだよね?」
「見てないが?」
「そ、そうか……まあ別にいいんだけどさ」
「?」
メリーが俺を見ながら苦笑いを浮かべている。
こっちはこっちでいったいなんなんだよ。
「そんなこと言うお前はどうなんだ。お前もオウギとかいう奴らと同じ大学生なんだろ? なら彼氏の一人や二人もしかしたらいるんじゃねえの?」
俺はこの謎空気を入れ替えるべくメリーにそんな問いかけをした。
恋バナ的な話の繋がりで出た言葉だが、それに対してもメリーは若干の苦笑いを浮かべて明後日の方向を見だした。
「……アタシは一応いるね、カレシ」
「マジか」
メリーの答えを聞いて俺は驚いた。
「そうだよ。というか何意外そうな顔してんだ。張っ倒すぞ」
するとメリーは眉をピクッと吊り上げて拳でグーを作り始める。
ちょっと今の反応は失礼すぎたな。
なんというか、女っ気というものが欠けている感じだからそういう事に興味ないんじゃないかと思っていたんだけど。
それに俺はどうも気の強そうな女性というのが趣味じゃない。
ツンデレであるなら大好物なんだが、早川先生とかメリーのように一人でも生きていけそうなタイプの女性にはイマイチ惹かれないのだ。
だからメリーに彼氏がいても俺は何とも思わない。
でもそういった気の強そうな女性がどういう男と付き合っているのかにはちょっと興味があるな。
変な意味ではなく、あくまで恋バナの延長線上における話だけど。
「それって異能者か? アースにはいたりするのか?」
「あー、うん……いるね。結構わりと近くに」
「へー」
そうだったのか。
メリーと出会ってからまだ三日程度しかたってないが、その間に店で見かけたのはあの『フェンリル』ってギルドの連中だけだったんだけどな。
たまたま俺達とはタイミングが合わなかったのだろうか。
「多分街に戻ったらすぐに会えんじゃないかね」
メリーはそう言うと頬を掻いてそっぽを向き始めた。
男勝りな彼女と付き合っている男というのははたしてどんな人物なのか。
そんなことを俺は思いつつ、俺は近くに姿を現したモンスターに回復魔法を当てるべく動き始めたのだった。
「あ、おいメリー! オメー何店閉じてんだよ! 心配するだろうがコラ!」
夕方になって街の方に戻ってきた俺達は髪をオールバックにした男、バンに絡まれた。
「……昨日言いそびれちゃったんだけど、まあコイツがアタシのカレシ」
「なるほど」
俺は納得の声を上げた。




