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力の証明

「おっ、アンタらやっと来たか。待ちくたびれたよ」


 早朝にフィルとなんやかんやした後、俺達は二人揃って鍛冶屋『正宗』に足を運んだ。

 すると昨日出会ったメリーが俺達を出迎えてくれた。


「ん? どうやらフィルちゃんは忍者になったようだね。ということは攻撃力よりも回避力重視の装備の方が良いかい?」

「できるならそうしてくれ。いいよな? フィル」

「ん……シンさんがそう言うなら……」

「あいよ。お安い御用だ」


 今のところフィルに攻撃……というより戦闘そのものを任せる気は無い。

 まずはレベルを上げて装備を充実させないと一撃死になりかねないからな。


「とりあえず今店にある装備の中ではコイツがお勧めだね」


 ここは一応鍛冶屋ということになっているが、メリー自身が作り上げたであろう装備品がいくつも展示されている。

 その一つ一つが俺達の装備を凌駕する性能を秘めており、ラベルを見る限りでは俺達の金銭的に手が出せる代物ではない。


 そんな装備品の中の一つであるらしきヒラヒラの黒い服をメリーはテーブルの上に置いた。



 メリークリエイト『ゴシックドレス』 重量5 耐久値20000


 VIT+10 AGI+20 LUK+10



 ゴシックドレス。

 フィルは着る事によりつまりはゴスロリ。


 ゴスロリか。


 うん。


 素晴らしい。


「言い値で買おう」

「シンさん!?」


 俺がゴスロリファッションに身を包んだフィルを幻視していると、隣にいたリアルフィルが驚くような声を上げていた。


「なんだ、フィルは嫌なのか?」

「え、えっと……いやなわけじゃないけど……オレはこんな可愛いの着ても似合わないし――」

「そんなことはないぞ!」

「!?」


 どうやらフィルはこの服を着ることに抵抗があるようだ。

 だがしかし、俺は是非ともゴスロリファッションのフィルを見てみたい。


「この装備は良い装備だ。フィルでも着る事ができる軽装備でここまで性能の高い物は今まで見た事が無い。多分ここら辺でも上位に入る装備だ。お前もそう思うだろう?」

「え、あ……ま、まあ確かに……」

「それに加えてVIT、AGI、LUKは今のフィルに必要なステータスだ。それらをバランス良く上げてくれるこの服はまさに神装備。お前もそう思うだろう?」

「う、うん……」


 どうも反応が鈍いが、どうやらこの装備がいかに優れているか彼女にもわかってもらえたようだ。

 

「気に入ってくれたようだけど、普通の値段で買おうとしたらアンタらの所持金じゃ絶対足りないよ」

「マジか」

「そうさ。これは素材費だけ貰うけど、出世払いってことでツケにしておく」

「……いいのか? そんなことをして」


 昨日出会った人間にツケでいいと言うのは相当な胆力だ。

 持ち逃げされる可能性だって十分あるというのに。


「その代わりアタシをしばらくの間パーティーに入れな」

「お前を?」

「ああ、アンタらだけじゃこの街の近くにいるモンスターに太刀打ちできるか不安だからね」


 メリーはそう言うと他の防具、武器をテーブルの上にドンドンドンと置いていった。

 それらの装備はどれも高性能で、これだけ揃えるのにどれだけの資金が必要になるのかもはや予想がつかない。


「とりあえずこれだけの装備で固めればレベルが低くてもギリギリなんとかなるだろうよ」

「……本当にいいのか? ツケとはいえこんな良装備を俺達なんかに与えて」


 なんだか親切すぎて逆に怖い。

 受け取ったら最後、何か罠にはまるんじゃないかと思えてしまうほどだ。


「別にいいさ。これらはどうせ今まで倉庫の中でホコリ被ってたんだ」

「ふぅん……」


 まあ在庫処分的な意味もあるのなら理解できなくもない。

 でもしばらくは狩りのほうも手伝ってくれるようなそぶりだし、見ず知らずの人に対してそこまでするかね?


「それでアンタは見たとこ戦士だろ? 鎧は店の奥にあるからちょっとついてきな」

「あ、いや、俺は――」


 僧侶職であることを伏せていたせいで戦士職と勘違いしてしまったらしきメリーに向かって俺は声をかけようとした。


 しかしその声は店の中に突然入ってきた男達によって遮られる。


「ようメリー。元気にしてっか?」

「はぁ……今日は来なくていいっつの。元気にしてるよ」


 俺達の目の前に現れた5人の地球人プレイヤーを見てメリーは大きくため息をついた。

 どうやら知り合いみたいだな。


「お? 今日は客が来てんだな。普段は閑古鳥が鳴いてるっていうのに」

「うるさいね。冷やかしならとっとと失せな」

「まあまあそう言うな……って、そいつらプレイヤーか?」


 5人の内一番前にいた柄の悪そうなオールバックの男は俺達に視線を浴びせて眉を吊り上げた。

 それにその男の後ろにいる連中の目も俺達を訝しんでいるように感じる。


「おい、どういうことだ。こいつらは見たとこ精々14、5くらいじゃねえか? なんでガキのプレイヤーがこの街まで来てんだよ?」

「メリーさん、もしかしてあなたが彼らを?」

「違うよ。勘違いするな。この子らはちょっと事情があってね。まあアンタらに話すことでもないけどさ」

「……そうですか」


 オールバックの男の後ろに控えているメガネをかけたガタイの大きい男が丁寧な口調で俺達に話しかけてきた。


「こんにちは。僕はギルド【フェンリル】のギルドマスターで大学生のオウギという者だ」

「……俺の名前はシン。こっちはフィルだ」

「……ども」


 とりあえず俺達は挨拶を交わして様子を窺う。


「んで、オメーらのレベルはいくつだ?」

「……33だ」

「はっ!?」


 そしてオールバックのキャラネームはバンかがレベルを訊ねてきた。

 なのでそれに答えると、男は驚いたというような声を出した。


「おいおい……やっぱこいつらここにいていい奴じゃねえよ。とっとと泉に行って引き返せコラ」


 泉。

 確かに俺達プレイヤーはそれなりに大きな町なら必ずあると言っていい泉の近くに行けばログアウト等をすることができる。


 だがこのミーミル大陸にある泉というのはウルズの泉ではなくミーミルの泉なのだ。

 ウルズ大陸からログインしている俺達はミーミルの泉を使用することができない。

 このことは手引書にも載っており、俺達自身も試して失敗している事柄である。


 故に俺達はこの街の泉を使用できない。

 しかしそれを言ってしまうと俺達が別大陸のプレイヤーであることがバレる。

 一応早川先生から口止めされているのでこれ以上は何も言えない。

 メリーにはもうバレているんだけどな。


「どうした。さっさと帰れよ。ここにいても外に出たらモンスターの餌食になるだけだぞ」

「……いや、そんな心配は無用だ」

「あ?」


 なので俺は一計を案じる。


「俺達の持つ異能アビリティはそんじょそこらのモンスターに遅れをとるものではない」

「……オメー、それマジで言ってんのか?」

「大マジさ。だから俺達はここにいるんだ」

「…………」


 実際は異能ではなく俺のダメージヒールが有効なんだが、あえてこう言う事で僅かばかりの説得力を持たせる。


 異能者アビリティストによって使える異能アビリティは違う。

 本当にそれだけの力があるからこの街にいるのではないかと少しでも思わせられれば十分だ。


「……信じられねーな。そんな強力なアビリティなら少しくらい噂になってもいいはずだ。なのにシンとかフィルって名前には全くピンとこねえ」

「そうか」


 しかしそんなハッタリは効かず、男は胡乱な目つきで俺を見ていた。


「どうだ、ここで俺といっちょ決闘でもしてみっか? 俺を倒せるようならその言葉も真実だったと認めてやるよ」

「……いいだろう」


 言葉で納得してくれないのであれば、あとは実力で証明するほか無い。


 俺は男の提案を受け入れた。


「ちょ……あんたら本気でやんの?」

「俺はマジだぜ。別に殺したりなんてしねえから黙って見てろ。表に出な、ガキ」


 メリーが焦ったような様子で俺達を交互に見てくる。

 けれど俺は何も言わず、男の声にしたがって店の外へと歩きだした。


「ルールは一対一の半減勝負。一発勝負じゃ圧倒的に俺有利だからな。オメーもそう思うだろ?」

「まあ確かに」


 目の前にいる男、バンの服装はダメージジーンズに黒のタンクトップという軽装備、それに拳を守るためのガントレットを装着している事から武道家職であると思われる。

 なら一発勝負を受けるのは少し躊躇われるのも事実だ。


 武道家職の放つスキルはどれも早いからな。

 前に騎士職である氷室との決闘で行ったような「相手が隙を作るのを待つ」というような戦法はかなり難しい。

 一応かつてパーティーを組んでいた武道家職のマイの動きは近くからよく観察させてもらったから、俺の知らない未知のスキルを使用してこなければそれなりの勝率を出せるとは思うのだが。


「でも今回の俺はオメーから一発攻撃受けた時点で負けって事にしといてやってもいいぜ? レベル差的にそれくらいのハンデは必要だろ?」

「む……」


 正直、自分ルールを崩した今の俺にとって、一発勝負を選ぼうが半減勝負を選ぼうが全損勝負を選ぼうがあまり意味は無い。

 また、こうも上から目線で侮られるのは俺の趣味じゃない。


「一発だろうが全損だろうがなんでもいいさ。それよりそこの僧侶、この男に『オートリザレクション』をかけてくれないか?」

「は? 『オートリザレクション』を?」

「そうだ」


 俺はバンという男の中まであるらしき白いローブを着た男に向けて『オートリザレクション』をかけるよう頼んだ。


 『オートリザレクション』はその名からもわかるとおり、その魔法がかかったプレイヤーが死んだ際、自動的に蘇生魔法『リザレクション』がかかるという代物だ。

 かなりの強スキルと言えるが、クールタイムがクソ長いため連発する事ができない。

 だからこの魔法を戦闘中に使用するなら誰に使うかという判断力が重要となったりする。


「別に構わないが……なんでそんなことを?」

「ただの保険だ。俺の攻撃にこの男が耐えられないかもしれないからな」

「……言ってくれんじゃねえか」


 俺の挑発返しを受けてバンはこめかみに血管を浮かび上がらせ、顔を引きつらせている。

 また、俺の方も口角を吊り上げ、不敵な笑みを作り出す。


「『オートリザレクション』」


 そんな一触即発の雰囲気の中、僧侶職であるらしき男がバンに『オートリザレクション』をかけた。


 これで準備は完了だな。


「じゃあとっとと始めようぜ」

「チッ、生意気なガキだな……あんまりこの俺を――『拳聖』のバン様を舐めんじゃねえぞゴラァ!!!」


 そして両者の決闘意思が一致し、決闘開始の文字が俺の網膜に表示された。


 するとバンは自身に『スピードアップ』をかけ、俺に向かって突進してくる。


「オラくらえぇ! 『バレッドパン――」

「……『ハイヒール』」

「ぐあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「…………」

「「「……………………」」」




 倒した。

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