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評判の悪い鍛冶師

 翌日、俺とフィルは堅牢な外壁で囲まれた街『アクラム』にたどり着いた。

 そこでまずは今日泊まる宿を探すため、いくつかの建物に足を踏み入れていると、ちょっと看過しきれない事態が判明した。


「お一人様一部屋ご一泊5000ゴールドになります」

「…………」


 俺達がいくつかの宿に入って宿代を訊ねると、少し信じがたい額を提示されてしまった。


 一泊5000ゴールド。

 ミレイユの宿なら一泊平均50ゴールドだというのに、ここではその100倍の値がつけられている。

 これはこの宿が特別高いというのではなく、アクラムにあるどこの宿もこれぐらいはするのだから始末に負えない。


 俺達の所持金は2人合わせると8万ゴールド。

 この辺りで狩る事に成功したハイオーク等を冒険者ギルドがそれなりの額で引き取ってくれて尚、それが有り金の全てだ。


 一応8万ゴールドあるのだから、宿代5000ゴールドは決して払えない金額ではない。

 けれど一泊料金としてその額を払うのには抵抗がある。


 また、これは宿代だけが高いのではなく、この街全体の物価自体がべらぼうに高いのだということも判明し、俺達は顔を引きつらせるしかなかった。


「……それじゃあひとまず一泊を二部屋分――」

「ひ、一部屋でお願いします!」

「……フィル、いいのか?」

「ここで無駄遣いはできないし今更だ……です」

「まあ、確かにそうなんだが」


 獣族の野営地にしろ野宿にしろ、安全面を考慮して俺とフィルは常に互いが傍にいるところで休憩を取っていた。

 だからここで同じ部屋に泊まったから何だという話になる。


「……それじゃあ一部屋だけ」

「かしこまりました」

「あと、ペットの持ち込みは大丈夫でしょうか?」


 俺は傍で彫刻のようにピシッと背筋を伸ばして待機しているガルディアの方へと目をやった。


 街中へのモンスター持込みは物によって許可が下りたり下りなかったりする。

 今回は街に入る際、ガルディアが俺の命令に忠実であったため、衛兵の審査に引っかかる事はなかった。


「はい。問題ございません。ただし保証金として追加料金2000ゴールドいただきます」

「わ、わかりました」


 ただ街中でモンスターが暴れたら、その責任は全て飼い主が取ることになる。

 まあ当たり前といえば当たり前なんだがな。


 こうして俺は宿主に7000ゴールドを支払って部屋を一室借りた。






「金が必要だな……」

「ん……」


 宿の中でも比較的外の見晴らしが良い3階の部屋を選び、窓から街の営みを傍観しつつ俺達はこれからについてを話し合っていた。


「物価が高いのは周囲のモンスターがクソ強いせいだろうな」


 外敵が強ければ強いほど命の危険性が増し、その土地には住みにくくなるはずだ。

 それに加え、街の防衛費なども馬鹿にならない額となるだろう。


 だが逆に考えると、ここに住めばより強力なモンスターを狩る事ができるというメリットがある。

 強くなる、大金を得るという面においては悪くない土地だ。


 しかしそんな事は俺達にとってどうでもいい。

 この街の物価はとんでもなく高いせいで、今の俺達の所持金でこれからの旅支度をするのは厳しいであろうという点のみが重要なのだから。


 つまり俺達は金を稼ぐ必要がある。

 それもかなりの額を。

 となるとやはり……


「……俺達が大金を稼ぐ方法と言ったらモンスターを狩る事しかないよな」

「多分……」


 俺が確認するように訊ねると、フィルはコクコクと頷いてそれを肯定してきた。


 もしかしたら他に手はあるのかもしれないが、戦闘特化である俺達が金を稼ごうとしたら狩り以上に効率の良い物はないだろう。


 けれどそれは諸刃の剣。

 ここで狩りを行えば俺達のレベルはガンガン上がっていく。

 そうなると俺とフィルは中、高生のクロクロプレイヤー集団から孤立する。

 レベルが20、30も離れたプレイヤーがパーティーを組んでも良い事はないからな。


 なので狩りをしようと思うのなら、俺達はミナやサクヤ、それに年が近い他のプレイヤー達とパーティーが組みづらくなる事を覚悟しなければならない。


「……大丈夫。シンさんにはオレがついてる」


 と、そこで顔の表情に悩んでいたことが現れてしまっていたのか、フィルは俺の手を握って励ましの言葉をかけてきた。


「オレが一緒に強くなれば……シンさんは1人にはならない。それじゃあダメ……ですか?」

「……いや、ダメじゃないさ。気を使わせちまって悪い、フィル」

「ううん……全然」


 フィルは相変わらず俺が何に対して怖がっているのか正確に把握できるようだな。


 俺は結局のところ、仲間と本気で遊びたいんだ。

 だからみんなから孤立しないようパーティーで動くし、戦闘で手を抜く事もない。


 しかし異能を使用すると、パワーレベリングをすると、その願いは途端に叶わなくなる。

 それらを使用したり行ったりする事によって得る力は俺を孤立させてしまうし、戦う楽しみを損ねてしまう。


 当たり前の話だ。

 みんなが自分の足で競争しているのに俺だけバイクでぶち抜いて、楽しいと思えるわけがない。

 みんなが素手で戦っているのに、時々剣を持っている奴はいるものの、その程度で銃を持っている俺に敵うわけがないんだから、そんな戦いに楽しみなんてあるわけがない。

 もしそれを楽しいと感じる時がくるのであれば、俺が人を対等と見なさなくなった時だろう。


 俺の持つ異能は強力すぎる上に、それを見た奴の殆どは揃って卑怯だと罵りにかかる。

 また、パワーレベリングもPS上達の阻害という面以上に、楽しみが減るという点で俺は嫌悪しているのだ。


 どちらも俺が楽しくなくなるからこそ封印していた手段と言える。

 けれど今はそんなことを言っている場合でもない。


「今はフィルがいるんだもんな」


 今現在の状況的に楽しいか楽しくないかの判断で動くのはマズイ。

 30レベル台にしては規格外と言える威力を持つ俺のダメージヒールは外のモンスター相手に有効であるが、それ以外のレベルや装備などに関しては大分厳しいと言える。

 それでも俺1人であればまだなんとかなっただろうし、なんとかならなかったとしてもそれは自業自得で済む。


 だが、この場にはフィルもいる。

 俺のワガママで彼女を危険に晒すわけにはいかない。

 本来なら一定のペースで狩場の難易度を上げていく事が最も良いレベリングの仕方であるのだが、どこへ行っても周りが高難度ではそうも言っていられない。


 一体一体を確実に狩っていく形でのレベリングを行い、資金を貯めて装備を更新する必要がある。

 より強力なモンスターが蔓延しているこの先の道のりを安全に進むにはそうする他ない。


「しばらくはこの街で狩りをしよう。狩場に合った装備が整うくらいまで」

「うん」


 安定を求めるのであれば妥協をしなければならない。

 それが人生というものなのだろう。


 こうして俺は渋々ながらもこの土地に見合った力を得るため、フィルと共に狩りをするという方針に変更した。


「……でも俺の場合は装備を変えるというわけにもいかないな」


 しかしそんな中、俺はとある懸念を抱いていた。


 俺が現在身につけている装備の殆どは死霊装備だ。

 防御性能は微妙なものの、結局ダメージヒールの威力を高めることを優先したため、死霊装備を身につけている。


 とはいっても、ずっとこの装備のままというわけにはいかない。

 何か新しい装備に変えるなり、装備品自体を強化しないと厳しいだろう。

 ダメージヒールの威力をモンスターを一撃で倒せるギリギリのところまで下げて防御力を上げる、という方針でいくべきか?


「鍛冶屋に行ってみ……ますか?」

「そうだな。とりあえず行ってみよう」


 鍛冶屋。

 それはまあそのままの意味で、金属製品を加工したり修理したり販売したりするところだ。

 俺達にとってそこは装備品の修理――耐久値を増やすという事でちょくちょく通っていたりするところであるが、そこでは修理以外に装備の強化を行ってくれたりもする。


 ミレイユやその周辺では鍛冶師の腕があまり良くないようで強化は殆ど行えなかった。

 だがこの街にならちゃんとした強化が行える鍛冶師がいるかもしれない。


 なので俺達は街中にいる腕の良い鍛冶師の情報を仕入れるべく聞き込みを開始した。






「ちょっとラッキーだったかもしれないな」


 30分程かけた聞きこみの結果、俺達は街の南西側に位置する商業区域に足を運んできた。

 なんでも、そこで鍛冶師――もとい地球人プレイヤーが最近店を構え始めたというからだ。


 当たり前のことだが、アース世界にいる地球人は俺やフィルだけではない。

 アース時間軸で考えると、俺達より数年長くこの世界にいる地球人もそれなりに存在する。

 なのでどの街でも地球人に出くわす可能性があったりするのだが、こんなところで鍛冶屋を営んでいるというのは僥倖としか言いようがないな。


 しかしその地球人はどうも腕利きという訳では無いらしい。

 噂によると、その店で売っている装備は粗悪品だし、強化もあまり上手くないのだとか。

 けれど俺としてはアース人より地球人のほうが頼みやすく、もし腕が悪いならその分少し出費を抑えられるかもしれないとか考えていたりする。


 それに腕が悪いと言っても、高レベルの鍛冶スキル持ちプレイヤーであるなら最低でもある程度簡単な強化くらいはできるはず。

 そう思って俺はフィルを連れ立って街の一角にある建物へと入っていった。


「らっしゃい。本日は何を……って、アンタらプレイヤーかい?」

「あ、ああ、そうだが」


 すると店の奥から1人の女性が姿を現した。

 ジョブとキャラクター名は伏せてあるのか表示されないが、黒髪黒目なところを見る限りではおそらく地球人プレイヤーだな。

 かなりの高身長でちょっと迫力がある。


「悪いんだけどアタシはプレイヤー相手に商売をする気は無いんだ」

「え?」

「プレイヤー相手に鍛冶スキルを使う気は無いって言ってんの。わかったらほら、早く店から出て行ってくれ」


 が、どういうわけか目の前にいる女性に店から出ていけと言われてしまった。

 突然の事に俺とフィルは戸惑うばかりだ。


「……? というかアンタらもしかして中学生か高校生?」

「へ? あ、はい、まあ。俺は高1でこいつは中2だが」

「……どうやってここにきたんだ? しかも女の子の方は未だにジョブが盗賊だし、アンタらレベルいくつよ?」


 けれど俺達については興味があるようだな。


 俺の方は変なジョブになっているし周りからヒーラーだと思われても困るからキャラネームと一緒に非表示設定へ変えているんだが、フィルの方はそういった設定をしていない。

 また、この街まで来られる地球人プレイヤーなら既に盗賊から別の職に派生していてもおかしくは無いという事なのだろう。

 まあフィルは既に2次職へのジョブチェンジが可能なレベルにまで上がっているわけだが。俺の方は無いけど。


「レベルは……33です」

「俺も33だ」

「33!? ここらへんにいるプレイヤーの平均レベルは65だぞ! 半分しかないじゃん!」


 フィルと俺が正直に自分のレベルを告げると、目の前にいる女性は驚いたというように目を見開いて大声を上げた。


「……誰だよアンタらを連れてきた馬鹿は。もしかしてパワーレベリングでもしにきたん? 学校でそういうのは禁止って言われてなかった?」

「いや、違う」


 変な勘違いをされても困る。


 俺はここにきた経緯についてを掻い摘んで説明した。

 すると彼女は若干俺を訝しむような目で見つつ、「はぁ」と一つため息をつく。


「空間移動系の異能か……しかもウルズ大陸からここまでを一瞬で移動するとなるとかなりの異能者だな……まあそれはいいや。ということはつまりアンタら2人は自力でウルズ大陸まで戻らないといけないってわけだね?」

「多分そういうことになるな」

「何考えてんだ学校の連中は……いくら手が回らないからってこんな子供を……」


 目の前にいる女性は頭を掻きながら苦い顔をし始めていた。


 無理も無い。

 高レベル帯のモンスターが出てくるフィールドに低レベルのプレイヤーが取り残されたらまず死ぬ。

 加えて救援は寄越せないなんて言うのは見捨てられたも同然だ。


 今回の場合はレイドボスを1人で倒す俺みたいなのがいるから、見捨てたというよりただ単に信頼されての事なのかもしれないが、それでも酷い対応と言える。


「ていうかアンタらホント今までよく無事だったな……アタシだったら発狂して教師に怨嗟の言葉を吐き出しまくって死んでるところだよ」


 ここまで辿りつくまでの経緯は話したものの、ダメージヒール等については説明していない。

 だからこの人は俺達が幸運にもモンスターに襲われずにここまできたのだと勘違いをしていそうな予感がする。


 とはいっても積極的にダメージヒールの説明をする気はないけどな。

 早川先生にも口止めされている内容だし、俺の弱点も丸わかりとなってしまいかねない。

 それにダメージヒールの性能を知ったプレイヤーから嫉妬の目を向けられたくも無い。


 『死霊王の加護』と死霊の大盾がとんでもなく強力なせいで、もはや俺の回復魔法はユニークスキルと化している。

 無闇に吹聴するべきではないだろう。


「……っち。そこの小さい子はフィルっていうみたいだけど、アンタの名前は?」

「シンだ」

「シン、か。アタシの名前はメリー。ジョブは『鍛冶師』でレベルは63。まあ多分知ってんだろうけど、アタシはここで鍛冶をしたり装備品を売ったりしてるよ」

「はあ」


 なんかよくわからないタイミングだが、ここで俺達はやっと自己紹介を行った。


 というかメリーって、いつの間にか後ろに立たれそうな気がする名前だな。


「んでアンタらの用件は装備品の強化、もしくは新調ってとこかい?」

「その通りだ」

「わかった。素材費は貰うけど、技術料は無しでその仕事を請け負ってやるよ」

「は?」


 さっきまでと言っている事が全然違う。

 メリーは最初俺達を追い出すつもりだったっぽいのに今では格安で仕事を請け負うと言っている。

 どういう心境の変化だ。


「何考えてんだって顔してんな、アンタ」

「そりゃそうだ。こちらとしては大助かりだが、お前にとっては何のメリットもないだろう」

「まあねえ。でもアタシは気に入らないことはやらないし、やると決めた事は徹底的にやるって決めてんのさ」

「?」


 俺が疑問を抱いていると、彼女はそんな答えを出してきた。

 けれど彼女が何を言いたいのかいまひとつ理解できない俺は首を傾げる。


「つまりアタシはアンタらをここで死なせたりなんてしないって言ってんだよ。素直に喜べ、ニュービー(新参者)」

「……俺達はニュービーじゃ……いや、なんでもない」


 レベルが63である彼女にとって俺達はまだひよっこ同然と言える。

 俺達を助けてくれるというのであれば素直に感謝しよう。


「ありがとう、メリー。いつかきっとこの恩は返す」

「……ありがとうございます」


 俺達は礼を言いながらメリーに向かって頭を下げた。


「困ってるときはお互い様さ」


 そしてメリーはそう言ってサムズアップをしてきたのだった。

 NAME シン

  JOB レイスプリースト

  Lv 33


  HP 637/637

  MP 993/993


 STR  0(9)

 VIT 117(176)

 AGI  0(-3)

 INT  0(-11)

 MND  0(-27)→-216

 DEX  0

 LUK  0(5)


 ステータスポイント残り0


 装備[愚者の盾、死霊の大盾、死霊の首輪、死霊の鎧、死霊の腕輪、死霊のブーツ]


スキル[『死霊王の加護』、ヒールLv6、ハイヒールLv2、ヒーリングLv4、プロテクションLv4、エリアプロテクションLv1、キュアLv5、ブレッシングLv3、エリアブレッシングLv1、リザレクションLv3、オートリザレクションLv1、リジェネレートLv2、MP量増加Lv3、戦闘時HP自動回復Lv4、戦闘時MP自動回復Lv4、毒耐性Lv9、麻痺耐性Lv8、睡眠耐性Lv8、沈黙耐性Lv7、暗闇耐性Lv7、混乱耐性Lv7、魅了耐性Lv3、石化耐性Lv3]

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