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ペナルティ

「……これが君の本気か、一之瀬君」

「ぶっちゃけチートだわなー……」


 ザイール達を倒した後、背後に控えていたミナ達のところまで戻ってくると、早川先生とマーニャンがそんな感想を漏らしていた。


「そんなに驚かないでくださいよ。学校側である先生達は俺の異能がどんなものか知っているでしょう?」

「確かに知っていたが……まさかこれほどとはな。驚くなという方が無理な話だろう」

「こりゃ財津達じゃ勝てねえわ。つーか大抵の奴は勝てねえよこんなもん。どう勝ちゃいいんだっつーの」


 大抵の奴は勝てない、か。

 まあ俺もそう思うけど、しかしだからこそあまり使う気になれない。


 ゲームは他のプレイヤーと同じ土俵で遊ばないと楽しくないからな。

 チートは一人用ゲームの中だけで楽しめって話だ。


 それにこの理屈は人生においても当てはまる。

 人の枠からはみ出しすぎた力を得た奴がまともな人生なんて送れるわけがない。

 実際、俺や師匠はそれでリアルの世界に絶望してゲームの世界に引きこもってしまった。


「今の戦い……何がどうなってそうなったのか全然わからなかったわ……」

「私もわからなかったけど6人相手に圧勝できるなんて流石シン様!」


 そんなことを思っていると、近くにいたミナがポカンとした表情で呟き、サクヤは興奮した様子で顔を上気させつつ俺に称賛する声を上げてきた。


 別にこれは褒められる事ではない。

 むしろ彼女達には見せたくなかった力だ。


「でも今のはアビリティだよね? シン様って確か【瞬間認識】っていうアビリティじゃなかったっけ?」

「……今回使った俺の異能アビリティについては詮索しないでくれると助かる」

「? うん、わかった。シン様がそう言うなら」

「…………」


 やはり地上で待っていてもらうべきだったかもしれない。


 こんな力を隠し持っていたという事を知った彼女達はこれから俺をどのように見るだろうか。

 あの力ありきで俺と言う存在を見るようになってしまうんじゃないだろうか。


 ……もしかしたら俺はまた1人になってしまうんじゃないだろうか。


「シンさん……大丈夫?」

「あ、ああ、俺は平気だ。なんともない」


 顔に出てしまっていたか。


 今一瞬脳裏をよぎった想像はあまりにつらく、苦しかった。

 俺はもう孤独になりたくない。


「……本当に平気?」

「平気だって。フィルは相変わらず優しくて心配性だな」

「お、オレは別に優しくなんて……」


 しかしフィルは本当に鋭い。


 俺は尚も気遣う彼女の頭に手を乗せ、ワシャワシャと撫でて誤魔化した。


「まあとりあえずこれで我らの敵は排除されたわけだな?」

「そういうことになる」


 と、そこでクレールが俺へ戦いは終わったのかと確認するように問いかけてきた。


「しかし解せんな。確かにあやつらはこれでアースに二度と来れぬのだろうが、貴様達のいう地球とやらではまだ生きているのだろう? そやつらとは向こうでどう折り合いをつけるつもりだ?」

「ああ……それな」


 どうやらクレールは俺達が地球でザイール……財津達から恨みを買うんじゃないかと心配しているようだな。

 だがそれは心配ない。


「俺達がアースで完全な死を向かえると、アースへは二度と来れなくなる」

「うむ、そうだな」

「それと同時に自分の所有する異能も完全に失うんだ」

「前に貴様はそう言っていたな」


 俺がアース世界でクロクロプレイヤーが死んだ時のペナルティを1つ1つ述べていくと、クレールはウムウムと頷いて相槌を打ってくる。


 ここまではクレールにも以前説明した事がある内容だ。

 しかし最後のペナルティについては抵抗があるので彼女に話してはいなかった。


 なので俺はプレイヤー達が抱える最大のペナルティを彼女に説明する。


「俺達がアースで死ぬ事を恐れている最大の理由。それは、異能消滅と同時にこれまでその異能を使っていた記憶、自分が異能者だったという記憶を全て失うということだ」

「記憶……だと……?」

「そうだ。自分の持つ異能に関する事柄全てだ」


 この事は学校に入学した時には既に知っていた情報だ。

 しかし俺達はそれをどこか甘く考えていたと言わざるを得ない。

 数日前、アースで死んだ仙道達を見て俺達はそのペナルティの重さを再認識するに至った。


 仙道達は異能を得てからの3年間、その間の記憶の殆どを失っていた。

 あいつらは俺達の事を憶えていないし、自分達が異能者だったことも、異能を研究する学校に入学した事も忘れてしまっていた。


 一種の記憶喪失だ。

 ただその記憶喪失というのも表層的な部分のところのみであり、あいつらは精神治療や無くなった異能の検査のために時折保健室へ行くものの、1年0組というクラスで今も高等科の授業についてこれているらしいし、寮生活もちゃんとできている。


 また、異能に関係することだからか、あいつらはアースにいた記憶も全て失っている。

 おそらく財津達も同様に、ここで起きた事全てを忘れてしまっているだろう。


 だから俺はあいつらから記憶を奪った事になる。

 たとえ命を奪ったわけではないにしても、日常生活に影響はないにしても、この行為は果たして認められていいものなのかどうか疑問だ。


 あいつらは俺が記憶を奪ったと知ったら怒るだろう。

 なのでもしこの事実を知られてもその恨みの矛先が俺にくるようにあえて1人で戦った。

 この場にいる人間全員が黙っていれば知られることもないだろうが、念には念を入れてミナ達に危害が及ばないよう配慮したつもりだ。


 それにあいつらにとってもこの結果は救いとなるだろう。

 異能なんていう人の身に余る力を手に入れて増長し、他人を罠にはめて殺そうとした記憶を全て失えるんだから。


 記憶を失ったあいつらは地球に戻れば普通の高校生に戻れる。

 まあちょっと学校で色々検査される日々を送ることになるだろうが。

 一応未遂という事で今回の一件も不問扱いできるし、悪くない幕引きだ。

 財津達がどう思うかはわからないけど。


「今倒した奴らは異能を使っていた記憶とアース世界での記憶を全て忘れる。俺達とのいざこざも綺麗さっぱり忘れているだろう。だからお前は何も気にしなくていい」

「ふむ……そうか」


 もしかしたらこいつは俺にやらせるくらいならアース人である自分が、とか考えていたのかもしれないな。


 けれどそんな気遣いは無用だ。

 そもそも今回の件はクレール全く関係のない事だったのだから、彼女に尻拭いをさせるわけにはいかない。


「しかし先程の戦いは見事だった。我は益々貴様の事が欲しくなったぞ。もしも地球に煩わしさを感じる事があるならばいつまでも我の傍にいるが良い」


 そう思っていたら彼女からも俺の事を気遣うような言葉を告げられてしまった。


「気持ちだけ受けとっておく」


 俺はアースというこの世界を嫌ってはいないが、だからといって永住する気はない。


 地球には地球の良さがあるからな。

 ネトゲも向こうに戻らないとできないし。


「……もう300秒か」


 と、そんな事を考えていたら、部屋の中心で倒れているザイール達の体が光の粒子となって消えていくのが見えた。


 プレイヤーが完全に死ぬとああいう消え方をするのか。

 死体が残らないのは便利だが、なんだかこれもゲームっぽいな。


 しかし墓地があるくらいなんだからアース人の死体はそのまま残るんだろう。

 そう考えると俺達とアース人はやっぱり違う生き物と思っていた方がいいのか。


 というかそもそもアースにいる時の俺達の体はよくわからない工程で生まれた産物だ。

 クロクロの設定上では創造神とやらがプレイヤーの体を作ったらしいけど。


 まあいい。

 そんな事を考えても俺には価値が無い。

 プレイヤーが死んだら光となって消える。

 それでいいじゃないか。



 ああ、それともう1つあったな。



 俺達が死ぬとアイテムボックスに入っていた道具がその場に全てばら撒かれ――





「…………!!!!!」




 

 ザイール達のいた場所に1人の人間が立っていた。





 そいつは白い覆面を被っていて、身動きのしやすそうな軽装姿の人物――以前俺とミナにMPKを仕掛けた奴だった。



「あいつ……!」


 俺はかつてMPKをされた時のことを思い出して覆面に声をかけようとする。

 けれどあいつはそれよりも早く動き出し、地上へと続く魔法陣の方へと走った。


「…………!!!」


 覆面の進行方向にはフィルが立っている。

 それを理解した俺はすかさずフィルのすぐ傍まで移動して彼女の手を引き、逆の手で覆面の右腕を掴んだ。


 とりあえず逃げようとしていたので今度こそは捕まえてみたが、さてどうするか。

 おそらくコイツはザイール達のアイテムボックスに潜んでいたんだろうが、なんでそんな事をしていたのか訊ねてみるか。


 いや、それより先にMPKの方から聞いてみよう。


「おい、待てよ。お前だろ? 前に――」

「シン! そいつから手を離せ!!!」


 そう思って問いかけを行おうとすると、マーニャンが珍しく焦ったような様子で叫んだ。


 手を離せとはどういうことだろうか。

 ここで手を離したらこいつは逃げてしまうのでは――



































「――――!?」




 突然、周りの景色が変化した。


 今、俺の目に映るのは地下迷宮10階層のボス部屋ではなく、どこかの荒野――戦場だった。


「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」

「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」


 人の雄たけび声、剣同士が交わる金属音、爆発音に断末魔。


 荒野に土ぼこりが、赤い血しぶきが舞う。

 足が、腕が、首が跳ね飛ぶ。


 青い空の下、人によく似た生き物達が武器を手に持って殺しあっていた。


「……え?」


 わけがわからない。


 気づけば俺が腕を掴んでいたはずの覆面も姿を消してしまっている。

 俺が呆けている一瞬をついて逃げたのか。


「し……シンさん……」


 そしてすぐ傍にはフィルがいる。

 彼女は見るからに怯えており、俺の右手を掴んで震えていた。


「どういうことだよ……」



 俺とフィルはたった2人っきりで、どこだかわからない戦場の真っ只中に放り出されていた。

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