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ハーレム問題

 ある日、俺とクレールは始まりの町にある防具屋へと足を運んだ。


「いらっしゃい――む? お主は確か僧侶の。久しぶりじゃな」

「お久しぶりです」


 防具屋に入ると例の店主が現れた。

 店主は俺の顔を覚えていたようで、しわしわの顔を朗らかに緩ませている。


「ふむ、久しいな。ビーンよ」

「む? お主は……誰じゃったか……」


 しかしクレールについては覚えがないらしく、彼女を見ながら首を傾げていた。


「そういえばこの姿で会うのは初めての事だったな」

「?」

「我は死霊王、クレール・ディス・カバリアだ」

「!!!!!」


 けれどクレールが自己紹介をすると店主は大きく目を見開き、彼女を凝視し始める。


「お、おお……その姿があなたの本当のお姿でしたか」

「うむ、その通りだ。この者がデスヒールを扱えるのでな」

「ほほう……」


 クレールは俺の方に目を向け、それにつられるようにして店主もこちらを見てきた。


「今は防具屋を営んでいるが、ワシの家系は代々墓守をしておっての。死霊王へはその縁で仕えておるよ」

「へえ」


 墓守。

 それはクレールと初めてあった日にも軽く説明された事だが、墓守であるなら墓に住みついていたクレールと接点があっても不思議じゃないな。


「死霊王が認めるほどのデスヒールを扱える者が現れるとは……長生きはしてみるもんじゃ」

「我が死霊装備を開発してからいままで長い道のりだったな」


 死霊装備ってお前が作ったのかよ。

 いやまあ死霊繋がりで何かしらの関連性はあるのかもとは思ってたけど。


「しかしこれでやっと長年の夢が叶いますな、死霊王」


 俺が死霊装備の出所に少し驚いていると、店主は朗らかに笑ってそう言い、クレールの方を向いた。


 長年の願いか。

 それはクレールが前に言っていた「自由に旅をしたい」というものだろう。

 俺がいないといけないという点を見ると完全に自由とは言えないが、クレールの活動範囲が大きく広がったのは確かだろう。


「うむ、そうだな。今はまだこの町の周辺に滞在しているが、いずれは世界を見て歩きたいものだ」


 クレールはビーンにそう言い返した後、俺の腕を掴んだ。

 そんな彼女は嬉しそうに微笑んでいる。


「楽しみにしているぞ、シン殿!」

「まあ、いずれな」


 俺はクレールの願い事を聞き、それも悪くは無いなと思いつつそう返事をしたのだった。






 最近ミナの目が厳しい。

 ミナは俺がサクヤやクレールと話しているとげんなりとした顔をしてそっぽを向く。


 まあそんな反応をされてしまうのも仕方がないと言えば仕方がない。

 俺達の事は巷(学校連中)からハーレムだという認識が広がっているみたいだからな。


「さあシン殿、あーん」

「……あーん」

「あ! なにしてるのクレールさん! シン様にあーんしていいのは私だけなんだからね!」

「…………」


 今日も今日とて俺は食事がてらに立ち寄った酒場兼飲食店で、サクヤとクレールの猛攻にその身を晒していた。


 両サイドから迫る美少女達とその中心にいる俺を見れば誰だってハーレムだと思うだろう。

 しかしそれで他のパーティーメンバーであるミナやフィルまでハーレム認定するのは如何なものか。


 たまに会うクラスメイト達からもハーレムヤロウと揶揄されているし、内情をある程度把握しているはずのユミやマイからも冗談めかして言われる始末。

 氷室なんかはゴミを見るような目で俺を見てくるし。


 あ、氷室は前までと大して変わらないか。

 でもなんか悔しい成分が目に含まれるようになった気がする。

 羨ましいとか内心では思っていたりするのだろうか。


 だがそんな俺達のパーティーはもうちょっとこう、イメージを改善させるべく動いたほうがいいんじゃないかと気が最近俺の中で沸々と湧き上がってきた。

 すごい今更ではあるけど。


「なあ、サクヤ、クレール。お前達は最近俺達がどんな呼ばれ方をされているか知っているか?」

「ハーレムパーティーでしょ?」

「そんな事は聞かれずとも知っておるわ」

「……なら離れろよ。このままだと周りの皆さんに益々勘違いされちゃうだろ」

「でも実際そんなもんだしね」

「気にする事でもなかろう」

「…………」


 どうやらサクヤとクレールはハーレムパーティーなどと言われても特に思うところは無いようだ。


 つまりあれか。

 お前達はそんな周りからのジョークを軽く流せる懐の深さを持っているということか。

 それともハーレム容認派というわけなのか。


 こいつらの様子からして後者の予感がビンビン伝わってくる。

 だがそれってどうなんだ。


 一応アースでは一夫多妻という家族もそれなりに見かけたりする。

 なのでアース人たるクレールがそれを容認するのは100歩譲って認めよう。


 しかしサクヤの方はどうなんだ。

 お前は俺達と同じ日本人だろうが。

 何普通にハーレム容認しちゃってんだよ。


「お前達は俺が他の女とイチャコラしても怒らないのか?」

「私は嫌だけど……シン様がそうしたいって言うなら我慢する」

「我も貴様には他の女に目を向けてほしくなどないが、しかしこの現状でそれを言うのは我の我侭であるからな」


 ……随分お二人とも健気なんですね。

 ただ単に俺が今誰とも付き合っていないからそういう風に言えるだけかもしれないけど。


 まあなんにせよ、こいつらには少し行動を自重してもらう必要がある。


「なら俺の事は置いといてだ。少しはミナとフィルに気を使え。こいつらまで風評被害にあわせちゃ可哀想だろ?」

「むむむ……」

「そう言われてしまうとな……」


 俺がサクヤとクレールの方を向きながら諭すように説明すると、彼女達は渋い顔をしながらも俺の傍から離れていった。


 正直、ミナに限らず俺へ向けられる周りからの視線は、アタックを仕掛けてくる人物が1人から2人になった事でかなり厳しくなっている。

 今回の事はそれに歯止めをかけるいい機会だったな。


「……オレは別に周りからどう言われても平気」


 が、それでこの場が丸く収まるかと思えた矢先、フィルがそんな事を言い出し始めた。


「いやいや、駄目だろ。今はどうか知らないが、フィルだって好きな男くらいできるだろ。それでそいつにお前がハーレムパーティーに所属してました~って見られて一歩引かれでもしてみろ。お前は滅茶苦茶後悔する事になるぞ」


 この引っ込み思案なフィルに彼氏ができる可能性は低いように思える。

 もし好きな男子がいたとしても告白とかしなさそうな性質だ。


 しかしこいつもミナ達に負けず劣らずのなかなか整った容姿をしているからな。

 同級生の男子から密かに狙われててもおかしくない。


 だがそんなフィルが、ハーレムだなどと揶揄されている高校生パーティーに所属していたらその男子諸君はどう思うだろうか。

 きっと良いようには見られないだろう。

 場合によっては苛められるかもしれない。


「好きな男……」

「…………」


 けれどフィルは何か呟くような声を発して俺を見つめてくるだけだった。

 こいつは俺の言った事をちゃんと聞いていたのだろうか。


 まあいい。

 他の奴らが容認しても、俺達のパーティーにはハーレム否定派筆頭様がいらっしゃるんだからな。


「それにミナだってハーレムだと思われたくないだろ?」

「当たり前よ。最近じゃクラスの子に『一之瀬君とはどこまでいったの?』とか聞かれちゃうのよ? どこまでもなにも無いって話なのに」


 ハーレム否定派筆頭様たるミナはプンプンと怒った様子で目の前にあるジョッキに入った果実ジュースをゴクゴク飲み干している。


 彼女は俺以外のパーティーメンバーが全員女になるという事へは特に反対意見を出すこともなかったが、周りから俺の女であるかのように扱われるようになってからは難色を示し始めていたからな。


 元アイドルだからそういう色恋沙汰に自分が巻き込まれるのはスキャンダル的な感じがして怖いのかもしれない。

 学校の連中も殆どがミナをアイドル的な目で見ているし、そんな彼女が男と付き合っているような噂が流れれば色々やっかみが増えるだろう。


「むぅ……それじゃあこれからは人前で無闇にシン様と接触するのはできるだけ控える」


 そう思っていると、サクヤの口からそんな妥協案が出てきた。


「わかってくれたか、サクヤ」

「うん。何も私はミナさんやフィルちゃんに迷惑をかけたいわけじゃないからね」


 なんだかんだいってサクヤは悪い人間ではない、

 ちゃんと諭せば理解してくれるし、こうして仲間を気遣うこともできる。

 だからこそ俺は今までサクヤをパーティーから追い出さなかったんだよな。


「でもそのかわり宿では私をシン様の部屋に入れてくれると嬉し――」

「却下だ」


 とはいったものの、こいつは何時俺の貞操を奪いにくるかわかったものではない。

 俺はサクヤの妄言を全て聞く前に断りの言葉を放った。


「シン様のいけず。私知ってるんだからね。シン様が夜な夜なフィルちゃんを部屋に呼び入れて何かしてるの私知ってるんだからね」

「お、俺とフィルは別にサクヤが思っているような事はしてねえよ……」


 こいつ知ってたのか。

 前に俺の部屋へ忍び込んだのを叱ったからか最近は部屋に来なかったというのに。


「……え? シン、あなたまさかフィルちゃんを……」

「いや待て、ホント誤解するなよ。俺はやましい事なんて一切してないからな」

「本当? フィルちゃん」

「う、うん……本当……です」


 ミナの疑うような視線と言葉を受け、俺とフィルは誤解を解こうとして弁明し始めた。


「フィルが俺の部屋に来るのはスキルレベルを上げるためなんだ」

「スキルレベル?」

「うん、オレが状態異常を起こすスキルを使って……シンさんの状態異常耐性スキルを上げてるん……です」

「……なるほど。そういえば前にフィルちゃんがパーティーに入っていた時もそんなことしてたわね」


 俺はタンク兼ヒーラーとして絶対に死んではいけない、常に機能し続けなければいけないポジションにいる。


 また、状態異常への耐性を上げるMNDの数値がマイナスなため、もしかしたら俺は普通のタンクより状態異常にかかりやすい体質になっているかもしれない。

 なので俺が食らったらマズイ状態異常への耐性スキルのレベルを上げる事は必須なのだ。


「でもなんでそんな事を私達に黙ってコソコソとやってんのよ?」

「色々深い事情があるんだよ。ここでは話さないが」


 ただそんなレベル上げの過程を誰かに見られるわけにはいかない。

 見られるとちょっと誤解を生みそうだからな。

 だから俺はミナ達が興味本位で見に来る事が無いよう黙っていたんだ。


「ふぅん……別に私はあなたが誰と何をしようが気にしないけど、でも年下の子をだまくらかしてたりしたらタダじゃおかないから気をつけなさいよ?」

「わ、わかってるっつの」


 ちゃんと説明しなかったせいか微妙に疑われてしまったみたいだ。


 まあ確かに俺は年下の女の子を毎夜自分の部屋に招き入れているわけで。

 怪しいと思われても仕方の無い事をしているわけで。

 実際やっていることは傍から見ると変態的なわけで。


 ミナから厳しい目を向けられてもそれを跳ね返せるだけのものを持っていないんだよな。


「フィルちゃんだけずるい。私も混ぜて」

「お前は攻撃魔法しか持ってないだろ」

「ぶー……」


 そしてサクヤがスキルレベル上げに参加できない事にぶーたれているのを見ながら俺は食事を再開したのだった。






 翌朝、目を覚ましてメニュー画面を開くと、早川先生からメッセージが届いている事に気づいた。

 そのメッセージには『1年2組緊急召集』という文字と、その集合位置が書かれていた。


 緊急招集。

 それは何か不測の事態が起きたという事に他ならない。

 俺は手早く部屋を出る用意を済ませ、俺同様にメッセージを受け取って準備の整ったミナ達と共に早川先生の下へと移動し始めた。

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