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異能と技能

「よーく見てなさい、あなた達!」


 クレールがパーティーに加わってから一週間近くが経過した頃、今週は気分を変えて迷宮ではなく外でレべリングをしようという事になり、俺達はスーリアの町寄りのとある山岳地帯でロックゴーレムを狩っていた。

 するとその途中でミナが何かを閃いたらしく、俺達にそんな事を言いだした。


「? まあ敵は残り一体とはいえ油断だけはするなよ」

「わかってるわよ!」


 俺は目の前にいるロックゴーレムからの遅いパンチをかわしつつ忠告を入れると、ミナは元気良くそれに答えてくる。


「はっ!」


 そしてミナはその場で屈みこみ、ゴーレムの方角へ向けて勢いよくジャンプした。


 だがそのジャンプは普通のジャンプではない。

 ミナは上空数十メートルという地点にまで飛んでいた。

 おそらく異能アビリティを使ったんだろう。


「必殺! 流星斬!!!」

「!」


 ゴーレムの真上辺りにいたミナはそんな叫びを上げながら落下してきた。


 その落下に伴う加速の仕方が尋常じゃない。

 ミナは空から降る隕石のごとく、ゴーレムへと落下していく。


 クロクロプレイヤーは例外無くそれぞれ固有の異能を所持している。

 だから異能を戦闘で使っているプレイヤーは珍しくない。


 なのでミナが異能を使ってもそこまで驚くことではないのだが、彼女が重力を弱めるだけじゃなくて強める事もできたというのは初めて知った。

 流石は『重力制御』だな。


 俺はそう分析しながら、ゴーレムの頭が割れて煙と化すのを眺めていた。


「凄いなこれは」

「いてて…………ふふん、どんなもんよ!」


 称賛の声を上げながらミナに近づいていくと、彼女は落下の衝撃が体に効いたのか若干顔を歪ませつつ声を張り上げて笑った。


 自分がダメージを貰っているようじゃまだまだと言わざるを得ないが、実際のところ今の攻撃はかなりの高威力であると言っていいだろう。

 あの硬いゴーレムの頭を一撃で粉砕したとあってはミナの持つ最強攻撃スキル『パワースラッシュ』より強力だと考えるしかない。


「というか重力制御で重くできるならもっと早い段階でこの技を使ってみてもよかったんじゃないか?」

「う、うるさいわね。実際のところ軽くするのはよくやるけど重くするなんて事は普段しないのよ。勢いよく落ちるのって凄く怖いんだから」

「そうか」


 まあ確かにさっきのは地面に向かって勢いよく落ちているのと変わらないからな。

 アースではまだなんとかなるが、地球でそんな事をすれば下手すると死ぬ。

 恐怖心を克服できるかが攻撃への転用におけるネックか。


「それにあんなのは足の遅い敵相手にしか当てられないわ。だから今まで使ってみようとも思わなかったのよ」

「へえ」


 それもそうだ。

 さっきまで戦っていたロックゴーレムは高い防御力を持ったMOBだが、でかい図体のせいで移動能力がかなり低かった。

 また、ミナの落下する攻撃は真下で敵が止まっていないと不発に終わって地面に激突する。

 なので今回のように的がでかくて足の遅いMOBと戦えるような状況でないと試せないか。


「しかし今のは凄かった。ここで埋もれさせるのはもったいない」

「あ、ありがとう」

「これを機会にちょっと練習してみるといいんじゃないか?」

「ええ、そうね」


 ミナの放った自称『流星斬』は高いポテンシャルを秘めている。

 多少動きの早い相手にも当てる事ができるまでになればかなりの強技と言えるものになるだろう。

 なので俺はミナの技を褒め、それを磨き上げることを勧めた。


「シン様に褒めてもらえるなんていいなぁ……」


 と、そんな俺達の様子をサクヤが指をくわえて眺めていた。


 サクヤの持つ異能『不眠』は寝なくてもいいというある意味強力な性能だが、戦闘ではあまり意味が無い。

 強いて言うなら常時睡眠無効のパッシブスキルが付いているような利点があるけどそれだけだ。

 俺は欲しいと思うけどな。


「そういえば、フィルちゃんはどんなアビリティを持っているの?」

「オレ……?」


 そんな事を思っていると、ミナがフィルに向けてどんな異能を持っているのか訊ねだした。


 この辺りの話は俺達の間じゃあまりすることなく一緒に行動していたからな。

 ミナがフィルの異能を知らなくても別に驚きはしない。


「オレのアビリティは『精密動作』……手足が器用に動かせるだけで……地味」


 精密動作。

 確かにそれはミナのと比べるとインパクトが無い。


「でも……オレがゲーム上手くなったのは……これのおかげ」

「そうなの?」

「うん……3年前までは不器用だったから」


 「今も人との接し方が不器用だけどな」みたいにからかったらいけないところなのだろう。

 そういえば俺がフィルの異能を初めて知った時、本人の言うように「こいつのゲーム上達速度がやけに速かったのはこれのおかげだったりするのかな」とか思ったっけな。


 ……まあ俺はそんな風に思われたくないから、その考えは頭の片隅に追いやったんだけど。


「異能なんてただのオマケだ。それが派手だろうが地味だろうが関係ない。フィルはフィルなんだからな」

「ぁ…………」


 俺はフィルの頭を豪快に撫でつける。

 すると彼女は目を瞑りながらも、若干嬉しそうに頬を緩ませていた。


 誰がどのようなアビリティを持っていようと、その力を持っている人間の価値が変わるだなんて事はない。

 フィルの頭を撫でながら俺はそう思うことで心の平穏を取り戻していった。


「さっきから貴様達は一体なんの話をしているのだ? 我にもわかるように説明しろ」

「ああ、悪い」


 そうして地球人側のパーティーメンバー全員に話しかけたところで、唯一アース人であるクレールがふくれっ面になりながら文句を言ってきた。

 今の話はこいつにはよくわからなかっただろうからな。

 除け者にされたと思ったんだろう。


 なので俺はクレールに異能アビリティとそれに関係する事柄について軽く説明した。



 異能アビリティ

 それは今から約3年前に何の前触れも無く突然世界中の人々が発現した力である。

 異能を発現した人間は世界で5万人以上であるとされ、そんな異能者アビリティストは特に日本人が多くて日本政府の発表では3万人弱が異能を持つと断定付けられた。

 また、発現したその力の度合いにもよるが、異能者の大半は迫害を受けることになった。


 この前食堂で会った奴らのように、使い方次第では非常に危険な異能もあるからな。

 俺達は自分勝手に異能を使い始めた一部の連中のせいで恐れられてしまったんだ。


 こうして俺達への風当たりが厳しくなっていたところに、政府は異能を保護する機関を設けようと動き始めた。

 それが通称、異能開発局。

 俺達の通う学校の運営元もそこだ。


 異能開発局は異能者を保護し、その力を研究するためにいくつかの施設へ集め始めた。

 去年度までは普通の中学に通っていた俺が今年になって国立異能開発大学付属第二高等学校に入学したのもその一環と言える。


 だがそんな中、普通なら考えられないような事態が発生した。

 それはクロスクロニクルオンラインが異世界に繋がったという事と、そのゲームをプレイする予定だった1万人のプレイヤーが全員異能者だったという事だ。


 クロクロプレイヤーが全員異能者だなんてできすぎている。

 日本の総人口と異能者の数を比較すればそれはありえない確率だ。

 何かしらの作為がある。


 けれど異能開発局は異世界であるアースを調査するため、クロクロプレイヤーに対して援助を行う代わりにアースへのログインを依頼したのだ。

 アースに来れるのは個人IDと紐付けされて他者への譲渡が不可能なクロクロアカウントの所持者1万人のみであり、アカウントを偽造してログインすることも不可能らしいからな。

 異能者以外でもなんとかログインできないかと色々試行錯誤したらしいけれど、その試みの悉くは失敗に終わったのだとか。


 そんなアースに何者かが俺達を呼び寄せたと見るべきなんだろうが、それが一体誰で何の目的があるのかは未だ不明。

 でも俺にとっては理由なんてどうでもいい。


 俺達は単位や学費等を免除してもらう代わりにアースの事をアレコレ調べ、それが安定して行えるように日々レべリングをする。

 これだけわかっていればいいはずなのだから。


「……とまあこういうわけなんだが、わかったか?」

「うむ……なんとなく……な」

「そうか」


 俺がクレールに今の説明で理解できたか訊ねると、彼女は眉をひそめて難しい顔をしながら頷いてきた。


 多分完全には理解できていないっぽいが、まあ大まかなところが理解できていればいいだろう。


「それでそのあびりてぃ……異能というやつなんだが、我らでいうところの技能スキルと何か違いがあるのか?」

「スキルとの違い……か」


 それは……あんまりないな。

 あえて言うならアビリティは1人につき1つでMPを使わないが、スキルはジョブが同じ者限定であるものの誰でも使う事ができてMPを消費するといったところか。


 とはいっても、アビリティは好きなだけ使えるというわけでも無く、使えば使うだけ精神的な疲れを引き起こす。

 しかし違いと呼べるものはその程度で、人の身で超常現象を発生させるという点では違いなど無いように思える。


「我にはそれが同種の物であるようにしか見えん。重力を操るという技能スキルもレアではあるが無いわけでもないし、器用さを上げるというのも山ほどある。とりわけ特別視するようなものでもないと我は思うのだがな」


 そして更にクレールはそんな言葉を続けて言ってきた。


 彼女も俺と同様に異能とスキルは同種の物であるように思ったのか。


 というか重力を操るスキルもあるのな。

 器用さについてはDEX上げればいいだけだと思うからあまり驚かないが。


「まあそんな事をここで考えても答えなんて出ないでしょ。それよりモンスターが近づいてきてるわよ」

「おっと……それじゃあこの話はまた今度って事にしよう」

「うむ、わかった」


 俺はミナの言葉を受け、ズシンズシンと歩いてくるMOBの方を向きつつ盾を構えた。



 その後俺達はミナの流星斬練習を兼ねた狩りを行い続け、俺、ミナ、サクヤのレベルが18、フィルのレベルが16になったところで町へと引き返したのだった。

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