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好意

 早川先生に会った後、自分達が泊まっている宿に戻ってきた。


「あー……つかれたー……」


 思ってみれば今日は深夜に墓地へ行ったりしていたせいで睡眠がとれていない。

 それに起きている間はほぼずっと体を動かしていた。

 普段より疲労が溜まっていると感じても仕方の無い事だろう。


「……『ヒール』」


 なので俺は自分にヒールをかけてリラックスする。

 これで疲労が全快するというわけではないが、気休め程度にはなるんだよな。


 また、ヒールをかけた俺は1人部屋に備わったベッドの上に寝転がるために鎧を外そうとした。


「我にもかけてくれ、シン殿」

「…………」


 が、そんな緩みきった俺のすぐ近くからとある少女の声が聞こえてきた。


「……鍵はかけておいたはずだが?」

「侮るなよ。我は自身を霧状へと変化させる術も持っている。鍵をかけていようがある程度の隙間さえあれば我の前では無意味なのだ」


 俺の隣でベッドに寝転がったとある少女、クレールはここにこれた理由をそんなトンデモ技で解決したと言い放った。


 ちょっとこの子怖いんですけど。

 プライバシーガン無視なんですけど。


「勝手に入ってくるなよ。俺が何かしてたらどうするつもりなんだ」

「何かって何をだ?」

「いや、それはだな」


 何かと言われれば……例えばナニだ。

 折角高い金払って1人部屋を獲得する事ができたんだからな。

 この世界でも普通にそういう事をしたくなる時があるというのは不便だ。


「貴様はこの部屋で何をしようとしていたのだ? ほら、我に言ってみるがいい」

「…………」


 もしかしてこいつわざと言ってないか?


 俺が1人で何をしようとしていたのかをなんとなくでも察しているのだとしたらちょっと恥ずかしい。

 ここは話を切り上げるに限る。


 俺は死霊の大盾を手に持った。


「……『ヒール』」

「ぁ…………ぅん……」


 ヒールをクレールに向けて唱えるだけで、俺はそれ以外何も言わない。

 とりあえずこいつはありったけのダメージヒールを与えれば満足するだろうからな。


「『ヒール』」

「はぁ……ぅ……」

「『ヒール』」

「んん……ふぅ……」

「……『ヒール』」

「ひゃぁ……ぁん……」

「…………」


 ……なんかいけないことをしてる気分になってきた。


 見た目年下の金髪巨乳美少女がベッドの上で喘ぐような声を出しながら体を悶えさせている。


 これ何プレイだよ。

 ヒールプレイかよ。


「……もういいだろ。早くミナ達のところに戻れよ」


 そんなわけのわからない時間も俺のMPが尽きたところで終わりを告げる。

 MP回復剤を飲めばまだいけなくもないが、そこまでしてこいつにヒールを与える気もない。


 それにあまりクレールを全快状態に近づけるのはどうなのかと思う自分がいる。

 もしもの可能性であるが、早川先生の話や外で見たクレールの実力等を考えると、全快になった彼女が町で暴れだしたらかなり危険だろう。

 なのであまり過剰な回復は自嘲しておいた方が無難なのかもしれない。


「はぁ……名残惜しいな……我は貴様のヒールならいつまでも浴びていたいというのに……」

「あまり俺を酷使するな」

「むぅ……いじわる」

「…………」


 しかし本当にこいつは死霊王などと呼ばれている存在なのだろうか。

 八大王者などというアースでも有数の実力者として数えられるような存在なのだろうか。


 こうしてベッドの上でふくれっ面をしている姿はただの可愛らしい少女にしか見えない。

 まあ俺はこいつが骨だった時を覚えているから、それはただの錯覚だとわかっているのだが。


「いじわるじゃない。俺はもう自分の役目を果たしたんだからな」

「ふむ……それじゃあ我の方からも貴様に何かをしてやろうか?」

「何?」


 どういうことだ?

 こいつは俺に何かをするつもりなのか?


「契約分とは別にして、貴様は我に何かしてほしいことは無いか? 条件次第では我にできる事なら何でもするぞ?」

「……特には無いな」


 何でもする。

 そう言われた瞬間、俺の目が少しだけ泳いだ。


「嘘だな」

「なんでそう断言できる?」

「貴様は今、我の胸を見た」


 ……ばれた。

 今俺はクレールの胸を一瞬だけ見てしまった。

 また、彼女はそれを見逃してくれなかった。


 実際のところだ、こんな美少女から何でもするなどと言われて邪な感情が芽生えないはずもない。

 たとえ相手が元々骨だったとしても、今は美少女である以上、どうしても意識してしまう。

 ましてやその少女の姿が俺の好みで胸も大きいとなれば尚更だ。


「貴様は我に何かをしてほしい……いや、何かをしたいんじゃないのか?」

「何かって……何をだよ」

「我の胸を揉みしだきたいとかだな」


 クレールはそう言うと、黒い修道着を押し上げている豊満な胸を俺の目の前で軽く揉み上げた。

 その動作で大きく形を歪ませるそれは、とても柔らかいものだと見ているだけでわかる。


 俺はそれを見て息を呑んだ。


「追加のデスヒール1回につき1時間、我の胸を自由に揉ませてやってもいいぞ?」


 そしてそんな動作を行った後、クレールは俺にそう言い放った。


 ヒール1回で1時間揉み放題。

 1回につき1揉みではなく1時間である。


 ヒール1回分のMPなら1時間もすれば余裕で回復する。

 だからやろうと思えば1日中揉みしだく事もできてしまう。

 この取引はとんでもなく俺優位の取引であると言えた。


 しかし俺は僅かに残る理性を総動員してその誘惑に耐える。


「そ、そんな条件呑むわけないだろ」

「やせ我慢をするな。本当はその手で我の感触を確かめたいと思っているくせに」

「ぐっ……!」


 どうやら俺が心の中で葛藤しているのはバレバレのようだ。

 クレールは俺のすぐ前まで自分の胸を持っていき、そこで胸を下から軽く叩いてプルンプルンと揺らし始める。


「ならばお試しという事で、5分だけタダで触らしてやってもいい」

「お……お試しだと……」

「5分経った先は貴様の判断に委ねよう。それまでにするか、1時間我を好きにするか、貴様に選ばせてやる」


 俺のすぐ目の前にはたわわに実った果実。

 それを5分の間だけ自由に収穫していいのだと彼女は言う。

 甘い果実の収穫祭だ。


 俺はそれを聞き、喉をゴクリと鳴らした。


「貴様のパーティーメンバーには黙っておいてやる。この取引は我らだけの秘密。だから遠慮などするな」

「…………」


 そして最後にトドメの一言を貰った。




 俺の煩悩、もといスケベ心が抑えている最大の要因は、俺と同じ地球人プレイヤーがすぐ傍にいる事にある。

 サクヤの誘惑に俺が今まで耐えられていたのも、彼女がクラスメイトであり、更にその近くでは常にミナの視線があったからこそだ。


 しかし今回はそのどちらも無い。

 クレールはアース人であり、ミナ達には黙っておくとまで言っている。

 ならこの誘いに乗るのも一興なのではないだろうか。


 相手は元骨ではあるものの、今は非の打ち所がない美少女だ。

 また、恋愛感情こそあまり持つ気になれなくとも、性的な魅力はかなりある。

 そんな彼女からこれだけのことをされたら首を縦に振るしかない。


 俺はそんな事を思いつつ、そろりそろりとクレールの胸へ向かって手を――



「何シン様を誑かしてんのかなこの子は? ん?」

「「…………」」



 と、そこで俺達を見下ろす1人の少女、サクヤの姿が目に映った。


 鍵のかかった密室内で、ベッドの上にいる俺とクレールをサクヤが見下ろしていた。

 今のサクヤは首を傾げており、尚且つ冷めた目つきをしていて非常に怖い。


「さ……サクヤ……お前……どうやってここに……」

「ベッドの下にずっと隠れてたの。シン様が寝静まるまでそこで待ってようと思ったのに……」


 べ、ベッドの下って……

 お前いつからそこに隠れてたんだよ。

 全然気づかなかったぞ。


 というかお前そこで一体何してたんだよ。

 いつぞやの時みたいにまた俺が寝ているところへ潜り込もうとしてたのか?


「それよりクレールさん。何私のシン様を誑かしてんのかな?」

「だ、だから俺はお前のものじゃ――」

「あとシン様は何普通にクレールさんのおっぱい触ろうとしてんのかな? 私のは全然触ろうともしないくせに」

「……ごめんなさい」


 痛いところを突かれてしまい、俺は何故かサクヤに謝ってしまっていた。

 おっぱい触らなくてごめんなさいとかどんな状況だよ。


「いやだが俺はサクヤの胸が小さいから触らないわけじゃないんだ。それだけは信じてくれ」

「でも触りたくないんでしょ? 私の貧相な胸じゃシン様は興奮しないんでしょ?」

「いやいやいやいや、そんなことはない、そんなことはないぞ。俺は大きい胸は好きだが小さい胸が嫌いなわけじゃない。小さい胸を恥らいながら男に触らせるというシチュエーションなら俺も凄く興奮する。だからそんな目で見ないでくれ」


 俺はサクヤの冷たい視線を受けて必死に答えた。

 小さい胸の女の子相手に何言ってんだって事を口走った気がするが、今はそんなことよりサクヤの目が怖い。


 しかしサクヤがこんな目をするのもわからないでもない。

 俺は今までサクヤの攻勢には耐えていたのに、今日出会ったばかりであるクレールの誘いにはあっさり陥落しかけた。

 その事実が彼女をこんなにも怒らせているのだろう。


「恥じらいか……そうか……それが足りないのか……」

「ど、どうした、サクヤ……?」

「ううん、なんでもないよ。それよりその子から離れてくれないかな、シン様?」

「あ、はい」


 俺はクレールが乗っているベッドから離れ、近くにあった椅子に座りなおす。

 するとサクヤはクレールの方を向いて言葉を続けた。


「さあ、クレールさん、答えてくれないかな? あなたはどういう思惑でシン様を誘惑したのかな?」

「そ、それはだな……我はシン殿にもっとデスヒールをかけてもらいたくて――」

「嘘はダメだよ? シン様を見るクレールさんの目、恋する乙女の瞳だよ?」

「ぐぅ…………」


 サクヤが問い詰めるような発言をするとクレールが苦しそうな声を上げ始めた。


 つまりあれか。

 もしかしてそういうことなのか。


「……ぶっちゃけ高威力のデスヒールを使える初の男の子が我の好みでちょっといいなって思った事は否定しない」

「ぅおい……」


 クレールは顔を赤らめ、俯きながらも俺に好意があることを吐露した。


 お前そういうこと俺の目の前でぶっちゃけるなよ。

 なんか顔が熱くなるわ。


 つまりこいつはさっきまで俺を誘ってたのか。

 取引だなんだと言ってその行為の正当性をチラつかせて、俺をその気にさせようとしてたのか。


 何て奴だ。

 サクヤは押せ押せでストレートなやり口だがクレールは手練手管で俺を罠にはめようとする策士だ。


「しょうがないだろおおおぉぉ! 我だって女の子なんだぞおおおぉぉぉ!! 死霊の王だって一目惚れくらいするんだぞおおぉぉぉぉ!!!」


 そしてクレールはベッドに備え付けられた枕に顔を埋め、足をバタバタさせながらそう叫んだ。


 これが王のやることか。


「なのにシン殿の周りには既に女の子がいっぱいいるではないかぁぁぁ! これで焦るなという方が無理だろぉぉぉぉ!!! 馬鹿ああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

「う……」


 ……まあ確かにアースに来てからというもの、俺の周りには美少女が一杯いるなって自覚はあるよ。


 でもサクヤ以外の奴らは別に俺が好きだから集まってきているわけじゃないぞ。

 友達……としてなら俺を見てくれていると思うが、それ以上の感情を持っていることはないはずだ。


「クレールさん……あなたの気持ちはよくわかるよ」

「サクヤ殿…………!」

「…………」


 だがサクヤとクレールには何か通じ合うものでもあるかのようにお互いを見つめ合い始めた。


 なんだこれ。


「シン様はなかなか振り向いてくれないけど……周りには可愛い女の子がいっぱいだもんね……年上でも早川先生とかは絶対シン様狙ってるもんね……」

「おお、貴様もそう思うか。あの女教師、涼しい顔をしているが内心ではシン殿が気になってしょうがないというような様子だったのは我にもわかるぞ」


 って何でそこで早川先生まで話に出てくるんだよ。

 確かにあの人も美人だとは思うが、だからといって今この場で出す名前じゃないだろ。

 なんでもかんでも恋愛と結びつければ良いってもんじゃないぞ。


「でも私は諦めないよ。シン様にそっぽを向かれてても、嫌われてても、たとえ好きな子が他にいても、私はシン様から絶対離れたりしないよ」


 そして更にサクヤは俺の目の前でそんな宣言をしてきた。


 ある意味これは俺に対する熱烈な告白と受け取ってもいいのだろうが、嫌われててもとか他に好きな子がいても離れる気は無いと言ってしまえるのがサクヤの異常なところと言える。

 普通嫌われたり他に好きな子がいたりしたら身を引くなりするものだろうに。


 しかし俺はそんなサクヤの言葉が少し嬉しかった。

 それは愛として重いし歪んでいるとさえ感じるが、裏を返せば俺がどんな奴であっても彼女は受け入れてくれるかもしれないと思えたから。


「サクヤ、俺はお前の事を嫌ってなんていないからな」

「シン様……」


 だから俺は頭を右手で掻きつつ、嫌っていないとだけ伝えた。

 好きかと言われるとまだそんな覚悟はないから答えられないが、サクヤの事を嫌っているだなんて誤解をもしもされているのであれば、それは悲しいと思ったからこそ俺はそれを口にした。


「シン様がちょっとデレた?」

「デレてねえよ。というかさっさと2人とも自分の部屋に戻れよ。そして俺の許可なくこの部屋に入ってくるな。俺にだって1人になりたい時くらいあるんだよ」

「うん、シン様がそう言うなら」

「むぅ……仕方がない。今回のところは一旦引くとする」


 どうやら俺の気持ちが伝わったらしく、サクヤは素直に部屋から出る事を承諾してくれた。

 また、クレールも渋々といった様子だがベッドから降り、廊下へと続く扉の方へと歩き始める。


「ああ、それと、我も一言貴様に言い残しておくぞ」

「? なんだ?」


 しかしクレールはその途中で足をピタリと止めて俺の方へ向き直った。


 その後彼女は一拍間を置き、俺に向けて不敵な笑みを浮かべる。


「我は貴様に惚れた。なにがなんでも貴様を我の伴侶にするゆえ、覚悟するのだな」


 若干顔を赤くしたクレールは俺に向かってそう言い放った。

 そして俺はそんな大胆な宣戦布告を受けてたじろぐ。


 こうまでストレートに言われてしまうとたとえ相手が元骨だったとしても胸の奥が熱くなってしまう。

 俺は彼女達が部屋から出るのを見送った後、へなへなとその場に崩れ落ちた。


 どうしよう、これから。


「……ハーレムって言われても言い返せねえな」


 パーティーメンバーの内2人から好意を持たれてしまっているという現状はもはやハーレム野郎というそしりを受けるしかないのだろうと思い、俺は若干憂鬱な気持ちを抱きながら立ち上がってベッドに寝転がる。

 枕に顔を埋めると甘い香水のような匂いがした。


 こうして俺は最後まで彼女達に振り回されてその日を終えたのだった。


 翌日、パーティー全員で町を歩いていたところでまたも出くわした氷室達から「ハーレム野郎……」とか言われたが俺は何も言い返さない。

 体は綺麗なままだからハーレムじゃないもんだ。ぷんぷん。

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