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パーティー編成

 俺の目の前に謎の美少女が現れた。

 それに加えてなぜかパーティーが解散され、代わりにクレールが加入していた。


 わけがわからない。


「わけがわからない……」


 俺は心の内から言葉を漏らしつつ少女に目をやった。

 破れかけのマントの隙間から色々見えてはいけないものが見えている。


「そんなにマジマジと見られると照れてしまうな……」

「……と、すまない」


 いきなりのことで思考が飛んでいたが、何普通に女の子の裸を見てんだよ俺は。


「というかお前はどこから沸いた。クレールはどこいった」


 俺は心の中で焦りつつ周囲に目を向けた。

 もしかしたら今俺が考えていることはただの勘違いなんじゃないかと思っての行動だ。


 しかしこの場には俺と少女しかいない。

 あの死霊の王と名乗っていた骨の姿はどこにもなかった。


「何を言っている。我はここにいるではないか」


 そして目の前にいる少女はそう言いながら俺の頭を両手で掴み、目と目を合わせてきた。


 つまり俺の嫌な想像は当たりのようだ。


「我こそは死霊の王。クレール・ディス・カバリアだ」


 この少女こそがさっきまで俺と話していた骨だった。


 俺はその真実を理解してその場に崩れ落ちる。

 orzだ。


「ど、どうしたいきなり!? 何者かに精神攻撃でも貰ったか!?」

「ああ……特大級のを貰っちまったぜ……」


 今俺は少女の姿をした骨に少しときめいてしまった。

 その事実は俺の心に深い傷を負わせた。


「くっそ……無駄に良い乳しやがって……」

「? 何か言ったか?」

「何も言ってねえよ畜生。それでなんでお前はいきなり美少女になってんだよ」

「び、美少女だなんてそんな……だが我もそう言われて嬉しくないわけではないぞ、ふふん」

「…………」


 ぶん殴りてえ……


 こいつが普通の美少女であるならここで恋の1つでも芽生えたかもしれない。

 が、さっきまで骨だったという事実を知っている俺にとって、美少女と言われて照れ照れしているクレールはただただイラッとするだけだった。


「……いいからさっさと説明しろ。なんでお前突然人の姿になってんだよ」

「人の姿になった、というよりもこれが我本来の姿だ。長い年月の末に骨だけとなってしまっていたがな」

「あっそ……」


 ということは別に化けているわけじゃないのか。


 それなら……アリか?

 いや、ないな。


 たとえ元が美少女だったのだとしても、さっきまで骨だったという事実は変わらない。


「先程までの姿では町を歩けんと貴様が言うから大量の魔力を消費して元に戻ってやったのだ。感謝しろ」

「俺のせいかよ……」


 確かに骨と一緒は町を歩けないという理由で同行を拒否したが、こんな方法を用いてくるとは思わなかった。


「なら俺のパーティーが解散してお前がパーティーメンバーに加わってきたのはどういう事だ」

「? なんのことだ? まあ我は貴様から離れる気などないからパーティーメンバーと言っても良いだろうが」


 ……ああ、そういえばアース人にはメニュー画面というものが無いんだったな。

 アース人にとってのパーティーとはただ単に仲間や同行者という意味で、システム的なものは一切持ち合わせていないというような事を手引書で読んだ記憶がある。


 しかしそれでもアース人をパーティーメンバーに入れられるなんてことは知らなかった。

 単に手引書に書く事でもないから省いたか、それとも俺が読み落としていたか、あるいはあえて情報を伏していたのかはわからないが。


「……くそ、外せないのかよ」


 ただ今の状況がとても面倒だということはわかる。

 メニュー画面からパーティー解散を選んでもクレールがパーティーから外れてくれない。


 めっちゃ邪魔だ。

 スキルの事といいこいつは呪いのアイテムか何かなのかよ。


「おい、俺にはもう4人のパーティーメンバーがいる。だからお前を連れて行く気なんて全く無い」

「? なぜ4人いると我が連れていけないのだ?」

「…………」


 くそめんどくせえ……

 俺達にとって仕様と言っていいパーティーシステムはこいつ、というかアース人には無いせいで今の状況がどういうことなのかを理解してくれない。


「地球人には6人以上のパーティーを組めない呪いがかけられてるんだ。だからお前とは組めない」


 本当は呪いじゃないし別のパーティーと組んで戦ったりする事もできるが、俺はあえてそう言ってクレールをつき放そうとした。


 一応レイドを組めば5人という縛りを突破できる。

 けれどレイドは最低10人以上から組むことが可能になるのだ。

 だからクレールがパーティーにいる状態は歓迎できない。

 1人パーティから外すか新たに4人のメンバーを入れなきゃいけなくなるんだからな。


「そ、そんなこと言わないで我も貴様の旅に連れていってくれええええええ!!!」

「うおっ!? やめろ! そんな薄着で抱きつくな!!!」


 しかしクレールは俺の言葉を聞くと、目に涙を溜めて俺に抱きついてきた。

 鎧装備じゃなければ色々危なかったが、俺はなんとかクレールを引き剥がす事に成功する。


「きゃっ」


 そして彼女は俺が無理矢理つき飛ばしたせいでその場に倒れこんだ。


 何気に悲鳴がちょっと可愛くて益々腹が立つ。

 だが少し強く力を入れすぎたか。


「……悪い、怪我はないか?」

「大丈夫だ。少し膝をすりむいただけだからな」


 よく見るとクレールの白い膝から赤い血が出ている。

 元骨なのに血も流れるのか。


「……先程も思ったのだが、貴様は我の裸体をジロジロ見すぎではないか?」

「え? あ」


 思ってみれば今のクレールは裸マントという姿だ。

 しかもマントはボロボロで体を殆ど隠せていない上、倒れこんだ衝撃ではだけている。

 だから俺が目を向ければ彼女の裸体が映りこむのも当然と言えた。


「……一応謝っておく。ごめんなさい」


 俺は顔を赤らめながら手で体を隠すクレールから目を離し、本日二度目の謝罪を口にした。

 というか骨だった時は気にしてなかっただろうに、なんで少女姿になった途端にそんな恥ずかしがってんだよ。


 しかも視線を外す直前、胸を隠す仕草で谷間が強調されたクレールの姿を見た俺は若干の色気を感じてしまった。

 元骨相手に変な意識を向けるなよ俺。


「ふん、まあいい。どうせ長い付き合いとなるのだ。これくらいの事は水に流してやろう」

「お前……本気でついて来るつもりかよ」

「当たり前だ。もう何も言わぬ同族に跪かれる毎日にもうんざりしているし……たまに来る生者を驚かすのにも飽きたのだ……」


 跪かれるのはいいとして、王様が人を驚かしてんじゃねえよ。

 王様ってやっぱり自称なんじゃないのか?


「我は外の世界を見て回りたいのだ……我と同じ人の言葉を話す者達といっぱいお喋りしたいのだ……もっとそやつらと遊びたいのだ……もっと友達を作りたいのだ……」

「…………」


 しかし今クレールが言った言葉は俺にも理解できた。


 みんなと遊びたい。

 俺はそう思ってこれまでを生きてきた。

 だから、他者との繋がりに飢えている様子の彼女に同情しないわけにはいかなかった。


「……わかったよ。それならしばらく俺と一緒にいてもいい」

「え……ほ、本当か!」

「ああ……だからそんなしょぼくれた顔をするな」


 骨の状態では人の友達なんてできるかどうか疑わしいところだったが、今のクレールなら友達の1人や2人できないこともないだろうからな。

 まあ多少ジェネレーションギャップ的なものはあるかもしれないが。


「う……うぅ……シン殿おぉぉ!」

「ぐあっ!? だから抱きつくな! 何か服を着ろ服を!」


 そして再び抱きついてきた涙目のクレールに向けて俺は怒鳴り声を上げた。



 こうして何百年という歳月を墓地で過ごしていたというクレールが俺のパーティーに加わったのだった。






「ってどういうことよそれ!?」

「……さあ、どういうことなんだろうな?」


 時間帯的には早朝の6時。

 墓地から帰ってきた俺は宿にいたミナ達と合流してそれまでの事情を説明した。


 すると俺達の借りている個室に備え付けられたテーブルをバンッと叩きながらミナがツッコミを入れてきた。

 けれど俺はそれをやんわりと受け流し、椅子に腰掛けながらカップに注がれたコーヒーを啜る。


 正直俺も今の事態がよくわかってないからな。

 ミナと同様にまだ頭の中で情報の整理がついていない。


「とりあえず俺とパーティーを組む場合はこの子……クレールが一緒についてくる事になったということだけわかればいいだろう」


 ジト目で見てくるミナから目を離し、俺は隣にいるクレールの方へと視線を向けた。


 現在のクレールは裸マントではなく、修道着(ただし全身真っ黒、厨二くさい)に骨の状態で羽織っていたボロボロのマントをつけた格好をしている。

 だが彼女の豊満な胸は服の奥にあってさえも隠しきれていない。


「それでシン様はその子をパーティーメンバーとして受け入れると?」


 俺の視線が胸の方にいった直後、サクヤがすかさず声をかけてきた。


「まあ、そういうことになる」

「私はその子のパーティー入りを反対します!」

「とは言ってもだな……」


 どうやってもクレールがパーティーメンバーとしてカウントされてしまうのだからしょうがない。

 俺はサクヤをなだめるようにそう説明した。


「それでも私は反対!」


 しかしサクヤは反対し続ける。

 その様子は鬼気迫っており、絶対にパーティーへ入れないという意思が感じ取れた。


「なあシン殿、もしかして我は嫌われているのだろうか」

「クレール……」


 するとクレールは若干涙目になっている顔を俺の方に向けてきた。


 強引なパーティー加入であるとはいえ、ここまで拒絶されるのは彼女としてもキツイのかもしれないな。


「! シン様その子から離れて!」

「!?」


 そんなことを思っていたら突然サクヤが叫び出し、俺とクレールの間に体を割り込ませてきた。


「ど、どうしたんだ?」


 あまりにサクヤが必死な様子を見せているので俺は彼女に問いかけた。


 もしかして俺はクレールに何かされ――


「その子からシン様を性的に誘惑する気配を感じた……それになんか処女臭い……」

「されてねえよ」


 誘惑されてねえよ。

 それに処女臭いってなんだよ。

 お前臭い嗅げば処女とかわかるのかよ。


「しょ、しょしょしょ処女!? わ、我は700年という時を生きてきた不死族だぞ! ばば馬鹿にするな!」


 そして何故にクレールはどもるんだ。

 しかもアンデッドなのに生きてきたって言い方は正しいのか。


 つかこいつ700歳かよ。

 精神年齢は中学生か小学生レベルなのに。


「シン様騙されちゃダメ! その子絶対処女よ! 理想像が高すぎて男が作れず年を重ねるにつれてハードルも高くなっていっちゃったっていうタイプの筋金入りの処女よ!」

「ふ、ふざけるな! わわ我はそんな事ないぞ! 700年も生きて処女なわけがないだろう! やりまくりだやりまくり!」

「お前達ちょっと黙れよ……」


 若い女性(片方は見た目だけ)が大声で処女だのやりまくりだの言ってんじゃねえよ。

 この部屋壁薄いんだぞ。

 お隣さんに聞こえちゃうぞ。


「クレールが処女かどうかなんてどうでもいいだろ。一体なんでそんな話になってんだよ」

「それはその子がシン様を誘惑してるからだよ。私の目は誤魔化されないんだからね!」

「んなわけないだろ……」

「そ、そそそうだぞ。な、なにゆえ我がこやつを誘惑しているなどというデマを……」


 だから何故どもる。

 わけわかんねえよ。


「でもさっきまでの話を聞くとそうとしか考えられない! どうせシン様の事をワクワクドキドキの冒険に出るカッコいい勇者様のように見て自分はそれについていくヒロイン的ポジションを妄想してるんだよこの子は!」

「!!!」


 明らかにうろたえているクレールにお構いなく、サクヤは追撃をかけるかのように声を張り上げた。


 するとクレールはこれまで以上に動揺した様子を見せて目を大きく見開く。


「……なぜ貴様は我の思考を悉く見抜くのだ……もしや読心術の使い手か……?」

「…………」


 ……どうやら当たっちゃってたらしい。


 こいつ完全にゲロッッちゃったよ。

 さっきまでサクヤが言った事全部真実だって認めちゃったよ。


「別にいいだろぉぉ! 700年も生きたんだからちょっとくらい冒険譚に出てくるヒロインみたいな事をしたいと思ってもいいだろぉ! 何が悪いんだよもぉぉぉ!!!!!」

「…………」


 クレールはサクヤに向かって涙目でそう叫びながら俺に抱きついてきた。


 もうどうすんだよこれ。


「だからそのヒーロー役をよりによって私のシン様にさせないで! そういう事するならユミ君の方にして!」

「あ、僕ロリババアは無しで」


 サクヤが必死な様子で俺からクレールを引き剥がしつつユミの方に話を振ると、ユミはそれをあっさり切り捨てた、


 普通に断りやがったよこの年増好き。

 今まで平然とした顔をしてたけど話だけは聞いてたのか。

 というかロリババアとか本人の前で言うなよ。


 そして私のシン様じゃねえよサクヤ。

 何お前の物にしてんだよ。


「まーまー、とりあえず2人とも落ち着こっ、ねっ?」


 チョークスリーパーをかけているサクヤとそれを受けて苦しがっているクレール(アンデッドがそんなんで苦しむなよ)の2人を見ながら呆れていると、ユミ同様に今まで黙っていたマイが仲裁をするようにして話に入ってきた。


「今はクレールちゃん?がシン君のことをどう思っているかじゃなくて私達パーティーの話をしない?」

「パーティーの?」

「そうだよっ。だってこのままだと私達は全員で組めないでしょ?」

「! 私はシン様から離れないから!」

「ドサクサ混じりにお前まで抱きつこうとするな!」


 マイの言葉を受けてサクヤは俺のパーティーから離れないという意思を物理的に示してきた。

 それを俺は両手で物理的に止めつつマイの方へ顔を向ける。


「確かにクレールがパーティーに入ると俺達は6人になって1人あぶれるんだよな……」

「私はシン様と一緒だよ! 末永く一緒だよ!」

「わかったから。いや後半は知らないけどお前がパーティー抜けたくない事はわかったからとりあえず落ち着け」


 俺はサクヤの頭を抑えながら他のパーティーメンバーへ目を向ける。


 クレールはパーティーから抜けない。

 サクヤもパーティーから抜けるつもりは無い。

 そうなると後はミナ、ユミ、マイの三人の内誰かが抜ける事になるのだが……



 と思っていたら突然ミナが手を上げて口を開いた。


「……それなら私が――」

「僕とマイが抜けるよ」

「うん、それが一番良いねっ」

「…………」


 が、ミナが言葉を言い切る前にユミはそう言ってコーヒーを飲み、マイもそれに同調するかのように頷いた。


 何か思い詰めたようなミナとは対照的に、ユミとマイの様子には一切の迷いも見えない。


「……いいのかよ。ユミ、マイ」

「勿論さ。ちょうど僕達が前に組んでいたクラスメイトがメンバーを募集していたからね。僕とマイはそっちを手伝ってくるよ」

「私達は2人で抜けるからさ、あんまり気に病まなくてもいいからねっ」

「! そうか、わかった」


 なるほど。


 つまりこの中からたった1人を除け者にするよりも2人同時に抜けた方が変なしこりを残さずにすむという事か。

 今さっきミナは俺達のパーティーから抜けようとするそぶりを見せたが、それで彼女が抜けたら俺達は全員気まずい思いをしていたはずだ。


 にしても咄嗟にこんな配慮をしてくれるとは。

 ユミとマイには感謝だな。


「でもごめんね。いきなり2人抜けちゃうとこっちも人手が1人足りなくなっちゃうよね」

「いや、それは俺の方で何とかするさ。ありがとうな」

「お礼を言われる事でもないよ」

「また機会があったらパーティー組もうねっ」

「ああ」


 そして俺達は握手をしあい、少しの雑談を交えた後にそれぞれでパーティーを組み直すべく動き始めた。 

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