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エピローグ

 魔女は滅び、過激派組織として知られた異能機関も、その活動に陰りを見せた。

 これによってか、地球と異世界の治安も、だんだんと良くなっていった。


 異能者(アビリティスト)への弾圧も弱まっていき、大きな事件も起こらなくなってきた。

 そして、そんな穏やかな時間のなかでも季節は巡り、春が来た。

 もちろん、これは異世界のではなく、地球でのことだ。


 4月上旬。

 俺は、高校2年生になった。






「おお……これが……異世界、アースですか……」

「本当に実在したとは……」

「なんて広大な大地だ……」


 研究服を身を纏った男たちが、揃って驚きの表情を浮かべている。

 そんな集団の先頭で、俺は苦笑しながら説明した。


「ここに初めて来た人は、全員そうおっしゃるんですよ」

「そ、そうでしたか……」

「いやはや……お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ない」

「では、さっそく町のほうへと案内してもらえますかな、一之瀬外交官殿」

「外交官呼びはやめてくださいって……それでは、行きましょう」


 俺は若干恥ずかしがりながら、研究員たちと一緒に、始まりの町のほうへと歩いていく。


 今日は新しい研究員を含めた、異世界交流会談だ。

 この催しも、地球と異世界(アース)が空間的な意味で繋がってから5度目になる。


 そう。

 地球と異世界(アース)は、わざわざVRマシンを使ってログインしなくとも、自由に行き来できるようになったのだ。

 今はまだ検問のほうがかなり厳しいが、それもいずれは緩和され、地球人がアースに来たり、アース人が地球に来たりということが観光気分でできるようになるだろう。


 地球とアースの空間的に繋がったのは、主にクロスと火焔が尽力してくれたからに他ならない。

 彼女らは、今なら異世界との交流も上手くいくだろうと考え、そんな空間魔法を作り出したのだ。

 空間が繋がった場所は、地球における俺たちの学園施設内と、異世界(アース)において俺たちが初ログインした草原だ。


 これのおかげで、互いの世界の人や物資が行き来するようになった。

 政治家や自衛隊、それに、この世界を本格的に調べたいという研究職の人間等々、本当に沢山の人間がこの異世界に興味を示している。

 そんななかで、俺たちのような存在の重要性も増していった。

 この結果が、さっきの『一之瀬外交官殿』だ。


 俺は今、高校生という立場だけでなく、地球側から派遣された異世界外交使節団所属特別外交官という肩書きも得ている。

 当たり前だが、外交官のほとんどは大人組の地球人(プレイヤー)の中から抜擢されていったのだが、例外的に2人だけ、高校生も混ざることとなった。


 それで、その例外の1人が俺というわけだ。

 多分、アースにおける有権者たちとのコネを認められてのものなのだろう。


 まあ、よく考えてみれば、そうなんだよな。

 火焔や精霊王といった八大王者のみならず、クロスといった神様と話すことも、俺にはできるわけなんだから。

 外交官として選ぶには適任だったのだろう。






「シン、今の見てたわよ。なかなか様になってきたじゃない」


 地球からの来客をエスコートし終えた俺は、自分たちが使っている寮へと戻ってきた。

 すると、そこで待ち構えていたミナに、ニヤついた笑みを浮かべながら話しかけられた。


「そりゃあ、何度もやってれば覚えるさ。そっちこそ、これから客人にアースの良いところをちゃんとアピールできるんだろうな?」

「できるに決まってるじゃない。私を誰だと思ってるのよ。親善大使よ、親善大使」


 すごい自信だ。

 伊達に昔アイドルをやってたわけじゃないって感じの肝っ玉だな。

 流石は、俺と同じく高校生外交官に選ばれた親善大使様ってとこか。


「すごいよね、ミナもシンくんも! 高校生なのに公務員だよ!」

「我には地球の価値観がわからぬのだが、それはすごいことなのか?」

「普通ならありえないからすごいに決まって……ますね」


 そんな俺たちのところに、サクヤ、クレール、フィルの3人もやってきた。

 というか、多分さっきまでミナと一緒にいたんだろう。


「これで、いつ結婚しても安泰だね! シンくん!」

「あ、ああ、そうだな」


 サクヤが俺の腕に抱きついてきた。


 魔女との戦いが終わった後、俺たちは3つの地下迷宮を完全攻略し、クロスたちを救いだした。

 これにより、俺には神からの報酬を1個だけ受け取っていいことになったので、予定通り、サクヤの記憶の復活をお願いした。

 その結果、サクヤは以前のような調子に元通りとなり、俺への熱烈なアタックを再開するようになった。


 サクヤが元に戻ってくれたことは素直に嬉しいが、こうもベッタリだと気恥ずかしくなる。

 記憶を失ってた頃は、もうちょっとこう、しおらしかったんだけどなぁ……。


 ちなみに、サクヤたちとは高校卒業後に籍を入れる予定になっている。

 サクヤはいつでもOKみたいなノリだったが、まだ高校生の身で結婚は早すぎる、という周囲の意見を聞いて、このようになった。


 ぶっちゃけ、生粋の日本人である俺やサクヤやフィルが重婚することについては、なかなか理解が得られにくい感じでもあった。

 昨今の法的には問題ないんだが、同性婚や重婚といった結婚制度の自由化が進められたのは、ここ数年のことだからな。


 でも、男がやると言ったんだ。

 俺はやるぞ。


「正直、我となら、もう結婚しても良いのではないかと思うのだが……アースでなら、シン殿も結婚できる年齢として認められているのだしな」

「ぬ、抜け駆けは駄目……です!」

「わ、わかっている! 結婚はフィルが16となってからであるな」

「そうそう。フィルちゃんが結婚できる年になるまで我慢我慢」


 クレールたちがそんな会話をしながら、俺に熱い視線を向けてくる。


 なんというか、幸せ者だな、俺って奴は。

 これからもいろいろ大変そうな気がするけど、お嫁さんになりたいと言ってくれる子が3人もいるんだから。

 傍から俺たちを見たら『リア充爆発しろ』って真正面から言われちゃいそうなくらいの充実っぷりだ。


「それはそうと、結局ミナはシン殿のことをどう思っているのだ?」

「…………へ!? な、なんで私にそんなことを聞くの?」


 クレールが唐突に、ミナへと話題を振り出した。

 ミナは、こんな質問をされるとは思ってなかったみたいで、すっとんきょんな声を出している。


 というか、俺も驚きだ。

 いったい、どういった意味で訊いたんだよ。


「まあ……ミナだったらギリギリ許せるかな、私は」

「気心も知れて……ますし」

「家族は増えれば増えるほど嬉しいものなのだ!」

「ちょ、なにが許せるのよ!? 気心が知れて、家族って、えぇ!?」


 ミナが狼狽したようにサクヤたちを見ている。

 それに対し、サクヤたちはミナに迫るようにして詰め寄った。


「で、ミナはどうなのかな? シンくんのこと、どう思ってるのかな?」

「正直にお願い……します」

「フッハッハッハッハッ! 嘘をつくとためにならぬぞ!」

「ど、どうって…………お、お友達に決まってるじゃないの!」

「お、おい、ミナ――」


 サクヤたちに詰め寄られたミナは、顔を赤くしながら寮の外へと走っていってしまった。


「……あーあ。おい、ミナが怒っちゃったじゃないか」

「今の感じ……脈アリだったよね?」

「オレにもそう見え……ました」

「これで4人か……うむ、まずます楽しくなりそうであるな!」

「おーい、人の話を聞けー……」


 俺の声を無視して、サクヤたちは3人で集まって、なにやら話し込んでいる。

 どんな話し合いがされているのか、聞きたいような、聞きたくないような……。


「それじゃあ、シンくんにも訊いてみましょう!」

「え、俺に?」

「シンさんは、ミナさんのこと、どう思って……ますか?」

「あ、え、ちょ」

「本当は好きなのだろう! そうなのだろう! シン殿!」

「い……」


 ミナに代わって、今度は俺が詰め寄られることとなった。


 俺がミナを好きかだって?

 そんな、いや、ミナとはこれまで長い時間をともに過ごしてきた奴で、大切な仲間で友達で、好きかって訊かれたら好きなほうだと思うし……。


「……あ、リア充だ。死ねばいいのに」


 俺たちのところを氷室たちが通りかかった。


 『死ねばいいのに』とかなんだよ!

 爆発しろより酷い言い草だな!?


 ……だけど、いいところに通りがかってくれた。


「おお! 氷室たちじゃないか! あ! これから狩りでもしにいくのか? だったら俺も行くぜ! 今日の仕事は終わったしな!」

「ちょ、シンくん!?」


 俺はサクヤたちからの追及を逃れながら、氷室たちと一緒に寮の外へと向かったのだった。


「シンくんって、氷室くんともすっごい仲良いよね……」

「! も、もしかして……男色の気が……」

「なに! シン殿が男を嫁にするだと!?」

「変なことを叫ばないでくれよ頼むからああああああああああああああああ!!!!!」


 背後から不穏な言葉を耳にして、俺は泣きそうになりながらも叫び声を上げた。






「……相変わらず、あの者らは楽しそうな毎日を送っておるようじゃのう」


 天からシンたちの様子を眺めていた転生神、クロス・ミレイユは、そう呟きながら微笑を口元に浮かべた。


 地下迷宮から解き放たれたクロスは、全盛期の力を取り戻し、他の神々とともに、再びアースの秩序を守ることにした。

 それは、人から見たら目の回るほどの激務であったが、たまにこうして、シンたちの様子を見守ってもいた。


「あんな様子を見てしまったら、わしもつい混ざりにいってしまいたくなるのう」

「人とみだりに接触することは、お姉ちゃんがゆるしませんよー!」

「むむ……わかっておるわい」


 クロスを(たしな)めるようにして、創造神、イデア・フルールはお姉ちゃん風を吹かす。


「でもさー、ボクたちはあの子らに助けられたわけじゃない? もっとフレンドリーに接しちゃってもいいんじゃないの?」


 すると、技能神、スキル・ルレイルが、イデアに異議を唱えた。


「駄目なものは駄目なんですー! 地球の神様を見習って、私たちももっと神様らしく振る舞うのですー!」

「あーはいはい……イデア姉様は相変わらず頭がお固いことで」

「もっと気楽にすればいいのにのう」

「こらー! クロスもスキルも、お姉ちゃんの言うことをちゃんと聞きなさいー!」


 怒るイデアに、クロスとスキルは揃ってため息をこぼした。


 1000年経っても、姉は相変わらず姉のままだ。

 クロスたちはそう思いつつ、こうした姉妹の会話ができるのも彼らのおかげなのだと思い直した。


「……まあ、わしらが直接あの者らに会う機会もめっきり減ったとしてもじゃ、こうして見守って、幸福な日々を送れるよう祈るくらいは、してもいいじゃろう?」

「うーん……そうですね。それくらいなら、お姉ちゃんも許しましょー!」

「なんだかんだ言って、あの子らはこの世界の救世主だしね」


 そんな会話をしつつも、アースの三女神は揃って微笑み合い、再び地上のほうへと目を向ける。


「アースを救いしあの者らの前途に、多くの幸福があらんことを……」


 そして、クロスは祝福の祈りを捧げた。

 地上にいるシンたちに届くよう、感謝の気持ちを込めて――。










ここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございました。

ビルドエラーの盾僧侶、これにて完結となります!


連載期間はジャスト2年、文字数にして140万字におよぶ本作が本日こうして完結を迎えられましたのは、読者である皆様からのご感想や評価ポイント、ブックマーク等による応援があってこそだったと思います。

時にはファンアートもいただけたりして、凄く嬉しかったです。

本当にありがとうございました。


この物語を読んで面白かったと思っていただけましたら、ご感想をいただけますと作者として喜ばしく思います。


本作の完結については活動報告のほうでも触れます。

裏話とかも載せますので、ご興味のあります方はそちらもご一読くださいませ。


そして、おかげさまで書籍版の本作も、本日無事に5巻目が発売されました。

ページ数はこれまでで一番多い巻で、内容もいろいろと変わっていたりします。

こちらのほうも是非どうぞ!


もしかしたら後日談等も書くかもしれませんが、その際はまた読みにきてくださいますと幸いです。

また、新連載も始めますので、そちらのほうも是非読んでみてください。

下記は新作のURLになります。

http://ncode.syosetu.com/n9750ds/


それでは、最後にもう一度、皆様に感謝の言葉を!

この2年間、本当にありがとうございました!

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