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シンとカルア

 カルアがミナの腕を取り、身動きを取れなくしていた。

 おまけに、首元に短剣を近づけていて、いつでも彼女に危害を加えられるとアピールしている。


 ……アースとグレイルの一件で、カルアのことを失念していた。

 こいつがまだいたっていうのに、なにをやってるんだ、俺は。


「ちくしょう……ちくしょう……ふざけやがって……」


 カルアはブツブツと呟きながら、俺に視線を合わせてきた。


「おい! お前! あの赤くて丸いアイテムを出せ!」

「赤くて丸い…………ああ……」


 それって、『龍王の宝玉』のことか?

 多分、こいつは宝玉を使って、ここから逃げるつもりでいるんだろう。


 しかし……。


「俺は持ってない」


 キィスたちに投げて渡したままだからな。

 渡そうにも渡せない。


「だったら、持ってそうな奴からもらってこい! こいつは、そのアイテムと交換だ!」

「う……」


 カルアの持つ短剣の刀身が、ミナの首に触れる。

 あと少しでも力を入れれば、そのまま首を斬り裂けてしまえそうだ。


 一応、首を斬られても、回復魔法で治すことはできる。

 とはいえ、ミナを傷つけられること前提で動くようなことはしたくない。

 それに、ミナをこいつに傷つけられるのも、シャクな話だ。


 さて……どうするか。


「おい! 早くしろ――――ぐぅっ!?」


 突如、どこからともなく火の玉が飛んできて、カルアの顔面に命中した。


「シッ!」


 それと同時に、俺のすぐ傍にいたフィルがカルアのほうへと走り、クナイで短剣を弾き落とした。


「いつまで触ってんのよ!」

「うあっ!?」


 さらに、ミナがカルアの拘束から逃れながら、一本背負いをした。


 ミナに投げられたカルアは、地面に強く打ちつけられて痛がっている。


「植物さん、やっちゃってください!」


 そんなカルアを、エレナが植物のツタを操って、身動きを取れなくした。


 あれよあれよという間に、カルアはあっさりと捕まっていた。

 起点になった『ファイアーボール』を撃ったのは……サクヤみたいだな。

 サクヤ、フィル、ミナ、エレナの流れるような4連コンボの前に、カルアも成す術はなかったか。


 ……というか、俺も今みたいなことをされたら、あっという間に捕まりそうだ。

 ちょっと怖いくらいの連携だったぞ。


「くそっ! 放しやがれ!」


 カルアが地面の上でもがいている。


 こいつの味方となるような奴は、この場にはもういない。

 しかも、明確な敵と言える俺たち地球人(プレイヤー)が取り囲んでいる。


 それでもなお逃げようとするだなんてな。

 あまり良い感情を抱かない奴ではあるが、諦めの悪さだけは認めてやる。


 でもだ。


「もう諦めろ。お前の負けだ」


 お前は詰んでいる。

 このことは、ちゃんと理解してもらおう。


「負けってなんだよ! なに勝手に勝ち誇ってんだ! ふざけんじゃねえ!」


 カルアは俺を睨みつけながら怒声を上げる。


「お……俺は、この世界が大嫌いだ! ゲームだと思ってたのに、異世界だかなんだかわかんねえところに飛ばされて、神を救えとか命令されてよお! それで、神を救出したかと思ったら、今度は魔女に味方するとか言ってよお! 魔女からログインを強制されるし、やることなすこと全然上手くいかねえし! もうなんなんだよ! おい! 答えてみろよ!」

「…………」


 俺はカルアが吐き続ける文句を黙って聞き続けた。


 思えば、こいつは見た目的に、俺と同じくらいの年代の奴だ。

 なにかが違えば、もしかしたらこいつも俺と同じ学校に通って、この異世界でパーティーを組んだりなんかもしていたかもしれない。


 けれど、そうはならなかった。

 俺は異能開発局が運営する学校に入り、こいつは異能機関の構成員になった。


 きっと、こいつもいろいろなものに振り回されてきたクチなんだろう。

 振り回されて、振り回されて、その結果、こんな状況になった。


 異能機関の構成員が、あとどれだけいるのか、俺にはわからない。

 けれど、この世界にやってきた主要な構成員は、もうほとんど残っていないと思われる。

 いるのであれば、アースがカルアと一緒に連れてきたはずだからな。

 そして、異能機関を裏で操っていたアースも、俺たちとの戦いによって、いなくなった。


 カルアに残ったものは、敗残兵という烙印だけだ。

 そりゃあ、文句を言いたくもなるか。


 とはいえだ。

 そんなこいつの心情を考慮してやる義理など、俺にはない。


「君は、見たところまだ高校生だな? であれば、ここで素直に投降するなら、我々としても無碍には――」

「黙れ! そんな同情するような目で俺を見下すな!」

「う……」


 早川先生が俺たちの間に立とうとしたものの、カルアはそれを拒否した。

 これによって早川先生は怯んでいるが、俺は驚かない。


 この男が望んでいるものは、情けとか同情とか、そんなものじゃない。

 望むものがあるとしたら……それは、自分は周りに振り回されたんじゃなく、自分こそが周りを振り回してやったんだという、そんな結果だろう。


「エレナ。こいつを放してやってくれないか?」


 だから、俺はエレナにそんなお願いをした。


「え……? ええっと……シンさまがそう言うのでしたら……」


 すると、エレナが植物による拘束を緩め、カルアを解放した。


 これに対し、カルアは怒りと疑念が混ざったような視線を俺に投げかけてくる。


「おい、お前……もしかして、俺を憐れんでやがるのか……?」

「そんなわけないだろ。お前を解放したのは……俺と決闘をしてもらうためだ」

「決闘…………?」


 そうだ、決闘だ。

 俺とお前の因縁は、今ここで終わらせる。


「この決闘は、誰にも文句なんか言わせない……ルール無用のなんでもありで、どちらかのHPが尽きるまでのデスマッチだ」

「…………へえ、そういうことかよ」


 カルアは俺の提案を聞き、口元に笑みを浮かべた。

 どうやら、一考の余地はあるって感じだな。


「面白そうな提案だが、そんな決闘を受けるメリットが俺にはないように見えるぞ?」

「お前が俺を倒せたなら、好きに逃げればいいさ」


 そこで俺は、地べたに座り込んでいた火焔のほうに目を向ける。


「……であれば、その男が勝った場合の逃走は、余が保障しよう」

「ありがとな、火焔」

「フン、余が見届け人となってやるのだ。手は抜くでないぞ?」

「わかってるさ」


 火焔の言葉は絶対だ。

 今は負傷しているものの、それでも地球人(プレイヤー)が異論を唱えることは難しい。


 それがカルアにも理解できているのだろう。

 口元に浮かべていた笑みが、よりいっそう深くなった。


「そんなに俺とやり合いたいっていうなら……やってやるよ」


 カルアが死霊の首輪を装備し直し、2本の短剣を構えた。


「俺がお前より強いってこと……今度こそ証明してやる……そして、俺はこっから見事に逃げ切ってやるぞ!」


 どうやら、やる気は十分みたいだな。

 そうでなくっちゃ、俺も戦い甲斐がない。


「おい、HPが半分切ったまんまだぞ。待ってやるから、回復しろよ」


 カルアのHPバーは半分もなかった。

 さっき法王の聖魔法をくらってから、回復をしていなかったんだろう。


「やだね。お前からの施しなんか、もう沢山だ。というか、そっちこそHPが削れたまんまだぞ」

「ああ……俺もこのままで構わない」


 俺のHPも、ここまでの戦闘で半分くらいに減っている。

 でも、カルアが回復しない以上、俺も回復しない。

 これは、俺なりの意地だ。


 疲労度的なものも合わせれば、俺とカルアの条件はイーブンといったところだろう。

 だから……俺は心置きなく戦える。


「行くぞ、カルア……俺がお前を終わらせてやる」


 こうして、俺はカルアに向かって駆け出した。

 それを見ていたカルアもまた、俺のほうへと走り出す。


「フッ!」

「オリャァッ!」


 そして、俺たちは互いに武器で攻撃を開始した。


「お前の異能(アビリティ)! 俺にもだいぶ使いこなせてきたぞ!」


 カルアの速度は、やっぱり妙に速い。

 まるで、時間でも操作しているかのような動きだ。


 前にカルアと戦ったときから、もしかしたらと考えていたことだが、今の言葉で確信が持てた。

 こいつは……俺の異能『時間暴走』を使っている。


「……へえ」


 どういう理屈かは知らないが、こいつは俺の持つ異能をある程度使えるようになっている。

 しかも、あれから使い方の練習をしたのか、以前のようなギクシャクとした動きがない。

 俺よりも使いこなせている、とまではいかないだろうが、実戦レベルの使いこなしと言っていいだろう。


 何気に、カルアはいろいろなことを器用にこなす。

 スキルによる恩恵だけでは会得しきれないはずの、幅広いプレイヤースキルを持っている。

 それに、数々の手練手管で、散々俺を苦しめてくれたりもした。


 知恵が回るし、才能にも恵まれているんだろう。

 いや、もしかしたら、人一倍の努力家なのかもしれない。

 はたして、こいつはどちらの人間なのだろうか。


 そう思いながらも――俺はカルアの持つ短剣を1本弾き飛ばした。


「なっ!?」


 カルアが表情を歪ませる。

 武器を弾かれたことが、よほどショックだったのだろう。

 けれど、これは至極当然の成り行きだ。


 確かに、この男は器用で手ごわい。

 短剣の扱いだけでなく、弓の扱いも完璧で、プレイヤースキルは相当高いと言える。

 ワイバーンにも乗れたりするみたいだし、おまけに、俺の異能をも短期間で使いこなしている。


 でも……俺には決闘で勝てない。


 俺には、戦う才能しかないし、それしか器用にできない。

 だからこそ、俺は負けない。

 戦闘においてのみ才能を持ち、これまでの多大な時間を戦うことに費やしてきたのだから。


 俺は、カルアの持つ2本目の短剣を宙に舞い上がらせた。


「う……」


 カルアの目に、怯えが見えた。

 決闘開始から僅か数秒で丸腰状態にされたのだから、そんな目をするのも当然か。


 ……待ってろ。

 すぐに終わらせてやる。



 俺は怯んだ様子のカルアの懐に潜り込みながら、アイテムボックスを開いて1本の小瓶を取り出した。



「……!」


 カルアはそれを見て、驚きの目をした。


 こいつも、この小瓶の正体がなんなのか、理解したのだろう。

 まあ……それも当然だよな。



 だって、これはお前の物だったんだから。



 俺は、その小瓶をカルアの頭めがけて振り下ろした。

 すると、容器は簡単に割れ、中に入っていた液体がカルアにぶちまけられることとなった。



「――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 カルアから悲鳴が上がった。

 それと同時に地面へと倒れ――HPをゼロにした。



 最上級回復アイテム『エリクサー』。

 そんな液体が、この小瓶は入っていた。

 これは、かつて俺が出場した決闘大会で、カルアが俺にぶつけようとしてきた物だ。


 俺は、早川先生からそれを譲ってもらってから、これを今までずっと残していた。

 いつの日か、こうしてカルアに返せるときが来ると信じて。


「これが……お前が今まで行ってきたことへの報いだ」


 因果応報。

 自分がやろうとしていたことを俺にやられた気分はどうだよ、カルア。


「……って、もう聞こえちゃいないか」


 カルアはもう動かない。

 そして、HPがゼロになってからきっかり300秒後には、その体も光の粒子となって消え去った。


 俺はその間、今までのことを思い返しながら、カルアがいなくなるまで静かに見守っていた。


 これは、俺からお前に与えられる慈悲だ。

 お前は記憶をなくし、地球のどこかで普通の人間としての生活を送ることとなるだろう。

 あらゆる憎しみや恨みを忘れ、更生しろ。

 ……それと、できることなら、俺たちがもう巡り合うことのないような人生を送ってくれよな。


 そんなことを思いながら、俺はカルアの遺品から『アルテミス』を回収し、今まで待ってくれていたみんなのところへと戻っていった。



 



 こうして、俺たちの長い1日は終わった。

 魔王同士の決闘や、ケンゴとの望まぬ争い、それに、アースやグレイル……そして、カルアとの戦い。

 その日に起きたすべての出来事を、俺は一生忘れないだろう。


 ……いや、この日だけじゃないな。

 今まで異世界で過ごしてきた日々を、俺は一生忘れない。

 みんなと戦い、みんなと笑い、みんなと過ごしてきた思い出の数々を、俺は一生忘れないだろう。



 そして、これからのことも――。

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