反撃
ケンゴの攻撃がアースの脳天に向かった。
それ見たとき、俺はこの一連の行動がどういった意味を持っていたのか、やっと理解した。
おそらくケンゴは、俺ではなくアースに不意打ちの攻撃をするためにスキルを使ったんだ。
これなら、どうしていきなりこんな大技を使いだしたのかの説明がつく。
……でもだ。
ケンゴの渾身の不意打ちは……失敗に終わった。
「この一撃を止めるとか……マジかよ」
ケンゴがアースを見ながら呟く。
そうだ。
この一連の流れの中で最も驚くのは、アースがケンゴの攻撃を止めたことだ。
ケンゴにとって、今のは最強の一撃だったはずなのに、それを素手で止められた。
規格外にもほどがある。
クレールの肉体を得たアースには、もはや敵などいないのか。
俺は、ケンゴの必殺の一撃を素手でつかみ取ったアースを見て、顔を引きつらせる。
「……それで、俺のほうは初めからこうするつもりだった、と」
そうしつつも、自分の身に撒きついた植物のツタを見て、俺は妙に納得していた。
このツタは、俺がアースのほうに意識が向いた一瞬をつき、巻きついてきたものだ。
おそらくは、ケンゴ側にいる奴の誰かがやったのだろう。
俺の動きを止めるために。
そして、俺が知る、植物を使う奴といえば……。
「シンさま……ごめんなさい……」
「エレナか……」
ミナたちの前に立ったエレナが、申し訳なさそうな表情で俺を見ていた。
このツタはエレナによるものだったようだ。
予想が当たったな。
だからといって、なにか良いことがあるわけでもないが。
俺は拘束されたが、ケンゴの不意打ちは失敗に終わった。
結局のところ、事態はほとんど変わっていない。
そう思っていた――そのとき。
「『ホーリーサンクチュアリ』」
――今まで沈黙していた法王が、突然魔法を唱えた。
すると、白い輝きが大地からあふれ出すように湧き出し、俺たちを包み込んでいく。
「! く……」
アースは大きく目を見開き、法王のほうへと視線を向けた。
「抑える力が落ちてるぜ! 魔女さんよお!」
「!」
そしてケンゴは、光り輝く剣を押し込み――アースの右腕を斬り落とした。
頭を真っ二つ、とはいかなかったが、ここでやっとダメージらしいダメージがアースに与えられた。
……法王は、いったいなにをしたんだ?
なにかしらの聖魔法を使ったみたいだが、アースに効果があったところを見るに、とんでもない効果がありそうだ。
俺は『クロス』を持っているから、聖魔法によるダメージはない。
むしろ、ケンゴとの戦闘で削れたHPが回復している。
「ぐああああああああああああああ!? な、なんだこれは!!」
……また、アースの近くにいたカルアが痛がりながら、その場に倒れた。
あいつ、もしかして死霊装備を身に付けてたのか?
この場でダメージを受けているのはアースとカルアしかいないみたいだから、多分この聖魔法はアンデッド系にしか効かないものなんだろう。
「クソっ……!」
と思っていたら、カルアは死霊の首輪らしきものを素早く外して、HPの減少が止まった。
やっぱり、これは対アンデッド特化の聖魔法だったようだな。
でも、それなら死霊の腕輪を装備しているケンゴはどうなんだ?
見た感じ、あいつはダメージを受けているようには見えないが――。
「……あ」
――もしかして、ケンゴの身に付けている装備品に『アンデッド属性付与』はかかっていない?
ケンゴは俺にブラフを仕掛けるために、あえて死霊装備の偽物を身に着け、勝負してきたのか。
死霊装備をこれ見よがしにチラつかせ、俺にダメージヒールをさせなかったケンゴが一枚上手だったってわけだな。
そう考えるならば、納得もいく。
だとすると、法王はアースにのみ効果のある魔法を使っているわけか。
その魔法は、今現在も発動中だ。
「よし! 効いてるぞ! このまま魔法を維持してろよ! ミハイル!」
「わかっている! その間に魔女を頼んだぞ!」
「おう!」
ケンゴが法王と、そんな言葉を交わしている。
アースのほうは、右腕を切り落とされた状態で、僅かに表情を歪めている。
その表情が痛みによるものなのか、それともケンゴたちに後れを取ったからかなのかはわからない。
だが、アースを倒すうえで絶好の機会である状況なのは、間違いないのだろう。
「ぐっ……」
しかし……俺にとっては喜ばしくない。
ここでアースが倒されるということは、クレールが倒されることと同義なのだから。
「火焔! 結界の準備ができたわよ!」
「そうか……では、余も出陣する」
俺が自分の体に巻きついてくるツタをどうにかしようともがいていると、精霊王と火焔の声が聞こえてきた。
「アースよ。そなたを滅ぼすために、余はありとあらゆる強者を集結させたぞ……ここがそなたの死地と知れ!」
「!」
直後、火焔は人から龍の姿へと変化し、口元から大量の炎をまき散らした。
炎の先にはアースがいる。
でも、攻撃の範囲が広すぎて、ケンゴたちも巻き込んでしまう――。
「……え?」
火焔の炎がケンゴたちに降りかかる直前、宙に虹色の透明な膜が現れた。
虹色の膜は、炎を完全にシャットアウトしている。
そして……唯一その膜に守られていないアースは、灼熱の炎に身を晒されることとなった。
この膜は、精霊王が張った結界か。
それをアース以外の全員に張り、完璧に守りきるだなんて。
以前、火焔の炎は防ぎきれないとか言っていたと思うんだが、あのときよりもさらにパワーアップしたってことか。
……なんて、冷静に状況分析をしている場合じゃない。
「おい! あいつは魔女だが、体はクレールの物なんだぞ! このままだとクレールが死ぬぞ!」
「…………」
俺は火焔と精霊王に向かって怒鳴り声をあげた。
あいつらなら、アースを見た瞬間、クレールがどうなったのかも察したはずだ。
なのに、今はこうして全力の攻撃をしている。
……どうしてだよ。
「精霊王! お前、クレールのことが大事だったんじゃないのかよ! 答えろ!」
「…………ごめんなさいね、シンちゃん」
「な……!」
おい……なに謝ってんだよ……。
それはつまり……クレールを見捨てるってことか?
ふざけるなよ……。
「ふざけ――――」
俺が心からの声を口にしようとしたとき……精霊王の目元から涙があふれていることに気づいた。
それを見た瞬間、俺はなにも言えなくなった。
……精霊王がクレールを見殺しにする選択に苦しんでいないわけがなかった。
あの人がどれだけクレールのことを好きだったか、俺はよく知っている。
「う……」
精霊王は、この世界の平和とクレールを天秤にかけた。
そして、前者を取った。
この選択は、彼女の立場からして、とても責められたものではない。
だいたい……俺は彼女を責めるだけの資格など持っていない。
クレールを救うために、俺がいったいなにをしてきたというのか。
なにもしていない。
俺は、クレールのために、なにもしてやれない……。
「くそぅ……」
自分がどれだけ無力な存在かを痛感した俺は、ただその場でアースが攻撃を受けるのを見ているしかなかった。
「…………」
火焔の炎に晒されたアースが、黒い煙の中から姿を現した。
その姿は、今にも倒れてしまいそうなほどボロボロだった。
「ガルガル!」
そこへ、獣化したガルディアが追撃した。
ガルディアはアースの左腕に噛みつき、強引に引きちぎった。
……みんな、必死なんだ。
ケンゴも、火焔も、精霊王も、ガルディアも、みんな……魔女を倒すために全力で戦っている。
この戦いに私情を持ち込んでいるのは、俺だけだ。
だから……俺が泣いているのは……俺自身が悪いんだ。
「う……ぅ……」
両腕を失ったアースを見て、俺の目から涙があふれてきた。
泣くな。
これは、仕方のないことなのだから。
アースがやられて、クレールがいなくなるのは、もう……仕方のないことなのだから。
恨むのなら、今の今までクレールを救えなかった自分を恨め。
ケンゴや火焔や精霊王やガルディアを恨むんじゃない。
恨むんじゃ……ない……。
「ぅ……クレール……………………クレール!」
俺はアースに向けて、クレールの名を叫んだ。
それでなにかが変わるわけもないと知りながらも、そうせずにはいられなかった。
「っ!」
俺が叫び声を上げていると、今度はニドルクと海王がアースに駆け寄った。
――これは、ケンゴたちの作戦だ。
アースが隙を見せていたのを切っ掛けにして、最も強力なダメージを与えられる八大王者が速攻で総攻撃を仕掛けるという電撃戦。
ケンゴ、法王、精霊王、火焔、ガルディア……それにニドルクと海王。
八大王者たちが、息の合った攻撃で僅か十数秒のうちにアースを追い詰めた。
そんな様子を見て、俺はそう理解した。
「魔女よ! 貴様には死んでもらうぞ! カァッ!!!!!」
「…………死ぬがいい!」
2人は左右からアースを挟み込み、渾身の拳を放った。
「うっ……!」
やられる。
俺は、その拳がクレールの体をグチャグチャに潰してしまう様子を幻視した。
――しかし、結果はそうならなかった。
「うふふふふ…………あなたたちの力は、だいたいわかりました……」
アースが不気味に笑う。
そして次の瞬間、アースの肩から腕が生え、傷や服が一瞬で再生された。
「え……?」
傷一つ、ホコリ一つないそのアースの姿は、今まで攻撃を受けていたというのが幻であったかのように見え――同時に、恐怖心を煽らせた。
「な……に……?」
「…………バカな」
さらに、アースは両側から迫りくる拳を手の平で難なく止めた。
俺ですら止めることが難しいであろうそのダブルパンチを受け止められ、ニドルクと海王が驚愕の表情を浮かべてる。
……いや、あの2人だけじゃない。
この場に集まったほぼ全員が、驚きと恐怖に満ちた顔でアースを見ていた。
「様子見はもう十分でしょう……ここからは私の番です……」
「!?」
――その後、アースの蹂躙が始まった。




