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新魔王候補様

 魔王城に入った俺たちは、中で控えていた魔族の兵士につれられて、謁見の間にやってきた。


「よぉ……《ビルドエラー》ぁ。久しぶりじゃねぇかぁ」


 玉座にどっしりと座る魔族の男に声をかけられた。

 以前に見たときよりも体格が大きくなり、顔つきや風格のようなものにも変化はあったものの、俺はその男が何者なのか、一発でわかった。


「よお、ニーズ。まさか、こんな形で再会するなんてな」

「ハッ! まったくだぜぇ……」


 玉座に座る男――ニーズは、俺たちを見ながら大きく鼻を鳴らした。


 ニーズの傍らにはグリムもいる。

 それ以外の魔族には謁見の間から出ていってもらっているので、俺が不躾な態度を取っていても、まあ問題ないだろう。


「お前の親父さんは、今も俺たちの仲間に見張らせているぞ」

「あぁ……それは、すまねぇなぁ……それについては俺のポケットマネーで報酬を出させっから、あとでグリムから貰いなぁ」


 魔王の話を振ってみると、ニーズは若干申し訳なさそうにして目を伏せた。


 こいつが謝るだなんて思わなかったな。

 それだけ、魔王のことについては悩んでいたってことなんだろう。


「親父は、こっちの準備が整ったら必ず引き取るからよぉ、それまでは国の外で匿ってくれやぁ……」

「わかった」


 引き取るというのが具体的にいつなのかはわからない。

 が、必ずと言ったのだから、多分大丈夫だろう。

 自分の親を殺せなかったくらいには、情を持ち合わせている奴なんだからな。


「……シンにぃって、本当に次期魔王と知り合いだったんだな」

「凄まじい威圧感を放ってますのに、まったく動じていませんわね……さすがは私たちの教官ですわ」


 俺の背後に待機していたキィスたちから、ボソボソと話し声が聞こえてくる。


 確かに、ニーズの放つ威圧感は相当なものだ。

 でも、こいつに匹敵、あるいは凌駕するような威圧感を放ってくる奴に会ったこともあるから、そこまで怯えることもない。


 というか、キィスたちは俺がニースと知り合いだったことについて、今まで半信半疑だったのだろうか。

 改めてここで驚かれてもって感じだ。


「……《ビルドエラー》の後ろに控えているてめえらは……人族だなぁ? ったく、城の警備がなっちゃいねぇなぁ。えぇ? グリムよぉ?」

「そ、それは――」

「おい、あんまりグリムをいじめるなよ。そいつの案があったからこそ、俺たちはここまでこられたんだから」

「ヒャハハ! まぁ、いいぜぇ。今日だけは特別に見逃してやらぁ」


 どうやら、今のはグリムを叱責しようとか、そういうことではなかったみたいだな。

 グリムのほうは冷や汗をかいているが、ニーズは愉快そうに口元を緩めている。


「んで、いったいなんなんだぁ? てめえらのその奇抜な格好はよぉ」

「……グリムに旅芸人の恰好をしろって言われたからだよ。文句があるならグリムに言え」

「そぅかそぅか……グリムよぉ……悪くない見せモンだぜぇ」

「お褒めいただき恐悦至極でございます」


 …………。

 もしかして、ニーズに笑わせるために旅芸人の恰好をさせたんじゃないだろうな?

 だとしたら、俺も出るとこ出ちゃうぞ、グリムさんよぉ。


「……もうこの格好でいなくてもいいなら、着替えさせてもらうぞ」


 俺はグリムにジト目を向けつつも、アイテムボックス内からいつもの装備品を取り出した。


 魔族が経営している鍛冶屋に見せることを躊躇ったせいで、装備品は今もボロボロのままだけど、ないよりはマシだ。

 これから、もしかしたら戦闘になるかもしれないわけだし、ここで着替えおくべきだろう。


「おぅ、いいぜぇ。着替え終わったら、早速、例の結界があるところに案内してやるよぉ」

「へえ、次期魔王様が直々に城の案内をしてくれるのか」

「ちゃかすんじゃねぇ……俺様もあそこに用があるから、そのついでだぁ」

「用って、なんだ?」


 俺はその場で鎧に着替えながら、ニーズに訊く。


「多分、その結界があるとこにはルヴィって女がいる……俺の用ってのは、そいつをぶっ殺すことだぁ……」

「なに……? ルヴィって……もしかして、地球人のか?」

「あぁ? なんだよ、てめえ、あいつを知ってんのかぁ?」

「まあ、ちょっとな」


 ルヴィといえば、ついこの前に姿を見せた、異能機関の総統補佐とかいう奴のキャラネームだ。


 まさか、こんなところにいるだなんてな。

 もしかして、アース人避けの結界も、そいつがやったのか?


「てめえの知り合いだろうと、俺の決定は変わんねえからなぁ。止めんじゃねぇぞぉ?」

「いや、止めはしない。そいつは俺の敵だからな」

「……んだよ。妙なところで利害が一致してんじゃねぇか」


 俺にとってもニーズにとっても、ルヴィは敵であるようだ。

 敵の敵は味方とよく言ったもんだが、今回もそうであってほしいものだな。


「でも、なんでここにルヴィがいるんだ?」

「……あいつは俺の親父の側近だったんだよ……他の種族の連中に戦争をふっかける流れも、大体はあいつの進言が原因だぁ」

「そ、そうだったのか……」


 異能機関はなにを考えてんだ。

 魔族に無茶な戦争をさせることに、どんな意味があるのか。

 俺にはさっぱりわからない。

 少なくとも、異能機関の利益に繋がりそうなことは、まったく想像できないな。


「あいつさえいなけりゃぁ……俺様だって無理やり親父から魔王の座を奪う必要もなかったっつぅのによぉ……」

「……なんで、お前の親父さんはルヴィの言葉なんかを重要視してたんだ?」

「んなのは知らねぇよ。親父に直接訊いても、なんも言わねぇしよぉ……ふざけやがって」

「…………」


 どうやら、ニーズはニーズで相当頭にきてたみたいだな。

 ルヴィがどうやって魔王と仲良しになったのかわからないが、ニーズはそれを快く思ってなかったようだ。


「とにかく、俺はあの女をぶっ殺す。そのためにも、さっさと結界をなんとかしてくれやぁ。十中八九、あの女は結界の張られた部屋にいやがるからよぉ」

「ああ、わかった」


 結界をどうやって取り除くかまでは決めていないが、まあ、その辺はクロスと相談だ。

 なんともならなければ、結界を発生源を爆破する方向でいってもいいしな。

 その場合は城を一部壊すことになるけど、それくらいはニーズも許容してくれるさ……多分。


「うっし……それじゃあ、俺の後ろについてきなぁ」


 こうして俺たちは、アース人避けの結界が張られているという場所へ向けて移動を開始した。






「うへぇ……こんなのが城の中にあるとか……たまったもんじゃねえぜ……」

「きっついですわね……今にもここから逃げ出したいくらいですわ……」

「…………き、気持ち悪い」


 俺、ニーズ、グリム、キィス、エレナ、クーリの6人は、魔王城内部の通路を歩いていた。

 すると、キィスたちの表情が段々と暗くなり始め、体調不良を訴えだした。


「……さっきまでいた部屋で待っててもよかったんだぞ?」

「シンにぃたちだけ行かせるわけにはいかねえよ」

「そうですわそうですわ。私たちはお荷物じゃありませんのよ」

「……っ……」

「そうか……まあ……無理そうだったら早めに言ってくれよ?」


 ちょっと心配だが、俺たちについてこようとするキィスたちを無碍(むげ)にはできないな。

 こいつらもいい大人なんだから、俺がとやかく言わなくても大丈夫だろう。


「結界のある部屋は、次の十字路を右に曲がってしばらく歩いた先にある……く……」


 先導するグリムもつらそうな表情を顔に浮かべている。

 俺は平気だが、ここはアース人にとって厳しい空間なのだろう。


「だらしねぇ奴らだなぁ……まだ部屋のあるところまで、だいぶあるっつぅのによぉ」


 グリムやキィスたちと違って、ニーズだけは涼しい顔だ。

 やせ我慢かもしれないが、ここは『流石、次期魔王様だ』とでも思っておこう。


「さあ、そろそろ結界のある部屋に…………む?」


 グリムが通路の角を右に曲がると、途端に表情を険しくし始めた。


 なにかあったのだろうか。

 そう思いながら、俺はグリムの先にある通路へと視線を向ける。



「あ、やっと来た」



 ……そこには、1本の槍を持った男――トウマがいた。



「ふーん。俺をここに配置したのは、これを予想してのことだったわけね」


 トウマは俺たちを見るなり、ゆっくりと槍を構えた。


「えーっと、こういうときって……なんて言うんだっけ?」

「……ここを通りたくば、俺を倒してから行け……か?」

「おっ、そうそう、それそれ。ここを通りたくば、俺を倒してからにしろー!」

「……はぁ」


 こうして俺たちは、トウマに足止めをされることとなったのだった。

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