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迷子

 俺は今、火山の頂上付近から、周囲を見回している。


 木々や草花の類がないため、見晴らしは良い

 でも、ここがいったいどこなのか、俺にはさっぱりわからなかった。


「なあ、クロス。お前はここがどこだと思う?」


 ひとまず、俺はクロスに訊ねてみた。


(少なくとも、ウルズ大陸ではないようじゃのう)


 すると、俺の内側からクロスの声が聞こえてきた。


 良かった。

 今回はちゃんと起きてたみたいだな。

 単身でこんなところに取り残されちゃったから、もう頼れるのはこいつしかいなかったんだが、これで少し一安心だ。

 まあ、一安心したところで、さっきまでとなにか状況が変わったわけでもないんだが。


「それじゃあ、ミーミル大陸のどこかか……あるいは、フヴェル大陸って可能性もあるな……」


 クロス曰く、ここはウルズ大陸ではないようだ。

 となると、ミーミル大陸かフヴェル大陸のどちらか、ということになる。


 普通なら、俺はミーミル大陸のどこかにいると言えるのだが、あの覆面ヤロウの転移能力は驚異的だ。

 最悪、フヴェル大陸であるという可能性も視野に入れて行動しなければなるまい。


「うーん……まずは、どうにかして現在地の特定をしないと、どうにもならないな……」


 俺は『龍王の宝玉』を所持している。

 大量のMPを消費する代わりに、自分の頭に浮かべた場所へと空間を繋げるという便利なアイテムだ。


 これを使えば、みんなのところへも一瞬で戻ることができる……と言いたいところなのだが、現在地が不明な状態では使えない。

 MPの消費量は繋げる空間の距離に比例するし、どっち方面に向かって使えばいいのかわからないからだ。 

 また、このアイテムは非常に壊れやすいため、あまり多用できない。


 今は情報収集が望まれる。

 ひとまず、人里のありそうなところに移動したいところだ。


(……む? シンよ。あそこに城と街があるぞい)

「ああ、そうみたいだな」


 山頂からあたりを見回していると、俺とクロスは人が集まっていそうなところを発見した。


 遠目から見た感じでは、かなりデカい。

 もしかしたら、俺がアースで見てきた街のなかでも一番大きいんじゃないか?


 ここからだと歩いて3日くらいはかかりそうだけど、行ってみる価値はあるな。

 あそこまでなら、アイテムボックスの中にある食料も持つだろう。


「よし、行こう。いつまでもここにいたって仕方がないからな」

(うむ、そうじゃな)


 本当は、みんなのことが気になっていた。

 ケンゴたちなら無事に敵を退けたと思うんだが、やっぱりちょっと心配だった。

 けれど、今の俺があいつらにしてやれることもない。


 悩むのはやめよう。

 今はただ、自分の身の安全を確保することと、みんなのところにどうやって戻るかだけ考えるべきだ。


 そう思った俺は、街に向かってひたすら足を動かし始めた。






 俺は、山の(ふもと)に下りて、荒野を歩き続けた。

 そして、3日と半日ほどの時間をかけ、街の外壁近くまでたどり着いた。


 道中で何度もモンスターに襲撃されたりもしたが、それはダメージヒールで簡単に対処できた。

 ただ、睡眠はほとんど取れなかったため、かなり眠い。

 それに、歩きつかれてヘトヘトだ。

 早く宿に泊まって体を休めたい。


 けれど……どうやら俺は、まだ休める環境に身を置けないようだった。


「……あれって、もしかすると魔族だよな?」

(もしかするもなにも、そうとしか見えぬじゃろうて)


 外壁の門前に立つ街の衛兵らしき男たちは……魔族だった。

 俺たちとは明らかに異なるカラフルな皮膚の色といい、角や尻尾とかが生えていることといい、牙が口から突き出ていることといい……間違いなく魔族の類の連中だった。


 そんな連中を、俺は近くにあった岩影からコソコソと観察していた。


「魔族って……フヴェル大陸にしかいないんじゃなかったっけか?」

(うむ、基本的にはそうじゃのう)

「じゃあ、ここはフヴェル大陸でほぼ間違いない……か」

(そうなってしまうのう……)


 あー……。

 マジかー……。


 あの覆面ヤロウ。

 よりにもよってフヴェル大陸まで俺を飛ばしやがったのか。

 一応、その可能性も視野に入れていたとはいえ、これはキツイな……。


「……どうする? 俺、このままじゃ街に入れてもらえないだろ」


 魔族は人族と敵対している。

 その関係上、カテゴリ的には人族に該当する俺も、魔族にとっては敵として認知されてしまうだろう。


(じゃが、食料と地図だけは、なんとかしてこの街で仕入れなければならぬのじゃろう?)

「ああ、そうだ……困ったな……」


 食料は、単純に言って、ないと困る物だ。

 手持ちの食料も底を尽きかけているから、この街で手に入れられなければ、サバイバルをするしかなくなる。

 モンスターの肉は、あんまり美味いものじゃない。

 できれば、街でちゃんとした食べ物を調達したいな。


 地図は、現在地を確認するために必要なものだ。

 それを見れば、ウルズ大陸なりミーミル大陸なりに帰還するまでの予定を立てられるだろう。


 とはいったものの……街の衛兵は魔族なわけで……。

 多分、街の住民も魔族なわけで……。

 どうしたものか……。


(ここ以外の街を探すにしても、そこも魔族の領地じゃろうしなぁ……)


 そうだ。

 ここがフヴェル大陸であるのなら、どこの街へ行っても魔族が住んでいるはずだ。

 俺が堂々と入れるような場所じゃない。


「……一か八か、姿と身分を偽って、街の中に入ろう」


 敵の懐に飛び込むことになるが、背に腹は代えられない。

 どうにかして、俺のことを魔族に誤認させる方向でいこう。


「ええっと……今持ってる物で使えそうなものは……」


 そうして俺は、自分のアイテムボックスの内部を物色し始め、今回使えそうな物をピックアップしていった。






 変装をした俺は、フヴェル大陸の街へと侵入した。

 そして、てっとり早く情報収集を行うため、冒険者ギルドへと足を運んだ。


 若干怪しまれたけど、無事に門を通ることができてよかった。

 それに、冒険者ギルドが街に入ってすぐのところにあるというのも、僥倖(ぎょうこう)だった。


 ここなら、俺の知りたい情報が全部集められる。

 しかも、様々な事情で顔を隠す輩が多く出入りする冒険者ギルド内部なら、多少身なりがおかしくても、そこまで浮くこともない。

 今の俺にとって、非常にありがたい空間だ。


「ああ? なんだあのガキは? 新入りか?」

「…………」


 でも、俺のことを胡乱な目つきで見てくる輩がいないわけじゃあないようだ。


 まあ……この冒険者ギルドの連中にとっては、俺は見慣れない顔だからな。

 見慣れない顔というか、見慣れない仮面といったほうが正しいか。


 街に入るために、俺は今、以前白崎から貰った仮面を被っている。

 これを被れば、パッと見で俺が人族であると判断するのは難しくなるくらいの、ちょうどいい変装アイテムだったからだ。

 意外なところで役に立ったな。


「ギャハハ! おい! あれ見ろよ! 変な仮面付けてる奴がいるぜ!」


 けれど……この仮面はちょっとばかり魔族の目を引いてしまうようだ。


 俺も、これはどうなんだと思っている。

 正直言って、とても恥ずかしい。

 知り合いには見せたくない姿だ。


「……地図を買いたい。この街付近の詳細なやつはないか?」


 俺は、顔から火が出そうになるのを必死で抑えながら、冒険者ギルドの職員に訊ねた。

 声色もちょっと変えて、大人な雰囲気を醸し出している。


 ちなみに、冒険者ギルドの職員も魔族だ。

 青々とした皮膚と、鬼のような角が生えているのが特徴だな。


「地図……ですか? 申し訳ありませんが、冒険者カードのほうはお持ちでしょうか?」

「ああ……冒険者カードは……」


 職員に訊かれ、俺はとっさに冒険者カードを出そうとした。

 だが、それはマズイのではないかと思い直して、動作を止めた。


 ここでカードを出してしまったら、そこに記載された情報から、俺が人族なのではないかという疑惑を抱かせてしまうかもしれない。

 であれば、俺はカードを持っていない新参者として振る舞ったほうが無難だろう。


「……カードは持っていない。地図の購入には必要なものなのか?」

「はい……そうですね。冒険者でない方に地図をお譲りすることはできません」

「ふむ……」


 そりゃそうか。

 ここは冒険者ギルドなんだから、地図のような情報の塊を冒険者以外の奴にホイホイと売ったりしないわな。


「カードをお作りしていただければ、地図のご購入も可能となりますが、いかがいたしましょう?」

「ほう……」


 当店のサービスを受けたければ会員になりなさいってことか。

 二重でカードを持つことになるが、まあ、仕方がないな。


「ああ……では、それで頼む」

「かしこまりました」


 職員は俺に深くお辞儀をして、冒険者カード作成のための水晶を目の前に置いた。


 確か、あの水晶の上に冒険者カードを置いて、情報を入力していくんだっけか。

 昔、冒険者カードを発行するときに一度だけ見たことがある。


「では、初めにお名前のほうをお聞かせ願えますでしょうか?」

「な、名前は……ええっと……」


 あ、ヤバい。

 偽名は考えてなかった。

 普通に『シン』でもいいんだけど、万が一のこともあるから、できれば別の名義がいい。

 ど、どうするか……。


「お客様?」

「あ、は、はい。だ、『ダークネスカイザー』で、お願いします」

「え?」


 ぎゃああああああああああ!

 なに言ってんだ俺はああああああ!

 いくらテンパってたといっても、ここでそれは駄目だろおおおおおおおおお!


 こ、この仮面がいけないんだ!

 こんな仮面を付けてるから、咄嗟にそんな名前が出ちゃうんだ!

 くそっ!

 もしや、これは呪いのアイテムだったのか!?


「だ、ダークネスカイザーですか?」

「あ、いや、ま、待ってください。違うんです。俺、そんな名前じゃないんです……」

「は、はあ……」


 うわー……。

 やべー……。

 職員さんの目、完全に不審者を見る目だよ……。

 いきなり変な名前を口走ったからか、自分の名前を言い渋っているからか、どっちなのかはわからないけど、めっちゃ不信感を与えちゃったよ……。


 落ち着け、俺。

 今のままではさらなる惨事を引き起こしかねない。

 ここは深呼吸だ。


 それ、ひっひっふー。

 ひっひっふー……――



「あの……シンにぃ。こんなとこでなにやってんの?」

「!?」



 背後から何者かが声をかけてきた。


「お、お客様!?」


 それを耳にしたその瞬間、俺は脱兎のごとく冒険者ギルドから逃げ出した。

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