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死霊王

 早川先生との会話を終えた数時間後、俺は始まりの町の西側にあるミレイユ大墓地に来た。


「……全身死霊装備、か」


 そして俺は今、クロスに言われたとおり全身を死霊装備で固めている。

 死霊の首輪、死霊の鎧、死霊の腕輪、死霊のブーツ、その四種だ。


 ミナ達に装備を借りる際、「なんでそんなことを?」という目で見られてしまったが、その場は適当に誤魔化した。

 神のお告げだなんて正直に言うわけにもいかないからな。


 別に言ってもいいんだが、それはそれで「じゃあなんで俺にだけ聞こえる?」とか問われそうで少し面倒だ。

 俺は神託を受けるシャーマンでも巫女でもないし。


 また、神と話せるだなんてアホみたいな事は言わない方が身の為だということは過去の経験で知っている。


 そんなことを考えながら俺は墓地までやって来た。

 一応この辺についての情報も前に軽く集めてはいたものの、その時はアンデッド系のMOBが出るということくらいしかわからなかったんだが……


「……なるほどな」


 けれど死霊装備に身を包んだ俺を同類だと勘違いしているらしき骸骨MOBが手を振っているところを見るに、どうやらクロスの言っていた事は信実であるように思える。


 ならこの墓地のどこかに地下神殿というものがあるはず――


『何者だ』

「!」


 墓地の中をウロウロしていると、どこかから人の声らしき音が響いてきた。


 だが周囲には誰もいない。

 いるのは俺に危害を与える様子の無いアンデッドMOBだけだ。


『……ほう、貴様、僧侶か。にもかかわらず負の精神に取り憑かれているとは、見所のある奴よ』

「…………」


 負の精神って要するにMNDがマイナス数値になっているって意味だよな。

 俺自身は別にネガティブだったり自暴自棄な精神を持っているわけじゃないんだから。


『貴様、名を名乗れ』

「……シンと申します」


 そこで更に俺の名を訊ねる声が聞こえてきたので正直に答える。


 一応初対面ということで敬語だ。

 まだ顔を合わせたわけじゃないけど。


『シン、か。つまり貴様は異世界人だな?』

「? はあ、まあそうですが」


 つまりってどういうことだ。

 なんだかよくわからないな。

 どんな論理飛躍だよ。


『よし、良いだろう。我は貴様を歓迎する』


 それに何故か歓迎されてるし。

 意味不明だ。


「……!」


 近くの墓石が突然横へスライドし、地下へと続く階段が現れた。

 おそらくここを降りてこいということなのだろう。


「……まあクロスを信じてみるか」


 俺は周囲を警戒しながらもその階段を降りていく。

 するとその先には蝋燭の火で薄く照らされた石造りの廊下が続いており、そこを更に数分ほど進むと大きな部屋に到着する。


 そこは薄暗いながらも壁に豪奢な飾り付けが施されており、窓の無い大教会というような雰囲気の部屋だった。


「フッハッハッハッハ! ようこそ、才無き神官よ。我はこのミレイユ大墓地に住む『死霊王』、クレール・ディス・カバリアだ!」

「…………」


 そしてその教会の奥にはやけにテンションが高い1人の……骸骨が立っていた。


 発声器官も無いのに男だか女だかよくわからない声を発している骸骨の話す内容によれば、こいつはクレールというらしい。

 クレールはおどろおどろしい杖を骨となった手で持ち、骨の胴体をボロボロの黒いマントで僅かに隠している。


「ほう……生者であるにもかかわらずそれだけの精神を持てるとはな。実際にこの目で見ると驚きを禁じえない」


 いや、あんた目ないだろ。


「こんな逸材に出会えるとは……流石の我も心臓が高鳴るというものだ」


 いや、あんた心臓ないだろ。

 さっきから何を言ってるんだこいつは。


「今のはただのアンデッドジョークだ。この場を和ますためのな」

「……さいですか」


 随分とおちゃめなアンデッドさんのようだ。

 俺はそんな死霊の王様に呆れ混じりの目線を向ける。


「さて……そんな心配りで場の空気も温まったところで本題に入ろうか」


 温まってねえよ。

 むしろ骨からあんなジョークを突然されても底冷えするだけだわ。


「貴様、デスヒールを使えるな?」

「……デスヒール?」


 と、俺が内心で突っ込んでいたらクレールは謎の単語を言い出していた。


「生者の生命力を減退させる回復魔法の事だ」

「ああ……ダメージヒールか」


 アースではダメージヒールの事をデスヒールって呼んでるのか。

 ダメージヒールはただの俗称であって正式な名称でもなんでもないから、少しくらい名前が違っていても別に驚くことではない。


「……というか、やっぱり普通にこの概念はこの世界にあったんだな」

「うむ、だがデスヒールは異端の術とされているため知る者も少ない。実用する者を見るのは我も数十年ぶりだぞ」

「数十年ぶり……か」


 まあ確かにアース人じゃダメージヒールはうまく使えないだろう。

 アース人はステータスをいじれない以上、自分が強くなればなるほどダメージヒールでの攻撃力が落ちていくことになる。

 加えてジョブ……天職に沿って能力が増大するため、僧侶のMNDが低いままを保ち続けられるのは極々稀な事なのかもしれない。

 ならダメージヒールの使い手も極少数で、その力があまり広く知られる事も無い、か。


「ビーンから話だけは聞いていたが、本当に貴様は僧侶として恵まれていないようだな。我の目にはわかるぞ」

「……ビーン?」


 死霊の王様から寒いアンデッドジョークをかまされるのを俺はスルーしながら疑問の声を上げた。


「貴様が死霊の鎧を買った店主の名だ。あやつはミレイユの町で才無き僧侶を見出すべく送りこんだ我の刺客よ」

「何? あの店主が?」

「フッフッフッ、そうだ。まああやつの役職はただの墓守なのだがな」


 マジか。

 あのダメージヒールを知ってそうな店主とそんな繋がりがあったのかよ。


 確かに死霊の鎧を使いこなすにはダメージヒールの使い手くらいしかいないであろうというほどの地雷装備だ。

 それに始まりの町ならステータスの低い僧侶も探しやすいだろう。


 だからこいつの言う才無き僧侶を見出すという目論見を達成するなら始まりの町の防具屋で待ち伏せるのが一番手っ取り早いと俺も理解できる。

 おそらく連絡先などを聞いてきたのも俺がダメージヒールの使い手となりうるからだったのだろう。


「しかしまさかこうも早く他の死霊装備も集めて我の下にやってくるとはな。しばらくの間は様子見に徹するつもりだったのだが」

「へえ……」


 元々俺もクロスに言われるまでここにくる予定なんて無かったんだけどな。

 もしかしたらこれはクロクロ的に考えるとゲーム後半になってからたどり着くようなイベントだったのかもしれない。

 これも生まれたのはゲームが先かリアルが先かって話になる事だが、ゲーム後半のイベントと考えた方が俺は理解しやすいからそう思っておこう。


「……でもなんでそんなことをしていたんですか?」


 けれどそれゆえに俺はこいつらの裏事情を何も知らない。

 いくつかのフラグを無視し、ショートカットしてイベントラストにやってきたというような印象だ。

 これもこの世界がリアルだからこそ起こる事なのだと言われればそれまでだが。


「フッフッフッ……我の目的がそんなに知りたいか。仕方が無いな。貴様には特別に教えてやろう」

「いや、別にそこまで知りたいというわけではないですが」

「まあそう言うな。我も久しぶりの来客で気分が高ぶっているのだ」


 ……なんか本当にこいつはアンデッドなのかと疑ってしまうな。

 骨がもったいぶってみたり気分を高ぶらせたりするなよ。

 もっとこう、精神的にも死んでるのがアンデッドだと思うんだが。


「……そうですか。では、理由をお聞かせ願えますでしょうか」


 だが俺はこの骨へツッコミをする気になれず、そのまま話を進めるべくそう言った。


「うむ、それはな……我に貴様のヒールをかけてもらうためだ」

「……ヒールを?」


 すると骨は俺を招き入れたその理由を語り始めた。

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