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お迎え

 時は数分さかのぼり、シンがカルアと戦う最中。

 ケンゴもまた、目の前にいる敵と全力で戦っていた。


「セイッ! ハッ! うらぁ!」

「まだまだぁ!」


 剣と槍が交わるたび、周囲に衝撃が響き渡る。

 ケンゴとトウマの戦いは、苛烈を極めていた。


「どりゃぁ!」

「ぐっ!?」


 トウマが槍で大きく薙ぐと、ケンゴはそれを剣で防ぎつつ、後方へと大きく引く。

 そこで若干の間が空いたので、2人は互いを見据えながら息を整えだした。


「……はぁ……はぁ……ふぅ…………強いとは思ってたけど、まさかここまでやるとはな。地球人(プレイヤー)で俺とここまでやり合えた奴はシン以来だぜ」


 自分と互角かそれ以上の強さを秘めていると確信したケンゴは、トウマに向けて賛辞を送る。

 すると、トウマはなんでもないと言わんばかりに肩をすくめた。


「そりゃー強くなるさ。俺はアースで、今までずっと、強くなるための修行をこなしてたんだから」

「……俺もそれなりに鍛練は積んできたはずなんだけどな」

「でも、それって調査員としていろいろやりながらの片手間でだろ? だったら、俺には敵わないよ。俺の場合、アースで過ごしてきた年月イコール修行に費やした年月なんだから」

「うそ、マジで?」

「うん、マジマジ」


 ケンゴはトウマの返答を聞き、驚いた。

 が、それと同時に、この男の強さの秘密の1つにはそういう理由もあるのだろう、と納得もできた。


「てめえ、自分が強くなることが生きがいだったりするのか?」

「んー、そういうわけじゃあないわな。俺の修行は、ただ単純に、そうしなきゃいけない理由があったからってだけだ」

「理由って、なんだよ?」

「お前に話すことじゃないから教えない」

「……そうかよ」


 ケンゴはそこでしかめっ面になりつつ、もう1つ気になっていたことをトウマに訊ねることにした。


「それじゃあ、てめえの異能(アビリティ)についても、教えてはくれたりしねえか?」

「なんだお前、俺の異能がなんなのか知りたいの?」

「まあな」


 トウマは、異能開発局にとって不可解な存在だった。

 ありとあらゆる点で、他の異能者との差異が目立つ。

 ケンゴはそのなかでも特に謎となっていた、トウマの異能について確認をしてみることにした。


「てめえは……どうやら他人の異能を打ち消す力があるみてえだけど、それがてめえの異能ってことで間違いねえな?」

「うん、合ってるよ」

「……そんな異能を持ってて、よく開発局の情報網から逃れることができたな」


 異能を打ち消す異能は、開発局でも一切情報がない、未知の力であった。

 ケンゴも、その異能の存在は半信半疑程度に考えていた。

 こうしてトウマと戦い、己の異能である『未来予知』がまったく効かないことを確認するまでは。


「まあ、俺が異能者(アビリティスト)になったっぽいのは、ちょうど1年前くらいの話だからねえ。その後は、ほぼずっとアースのフヴェル大陸で過ごしてたし――」

「ちょっと待て、1年前だと? それ、遅すぎやしねえか?」


 地球における異能者の発生は、およそ3年前に集中している。

 そして、ここ2年間に異能者となったという人間の数は、開発局の調べではゼロであった。

 なので、トウマの話は、ケンゴにとってはどうにも信じることのできないものだった。


(いや……待てよ?)


 もしかしたら、日常生活のなかでは気づきにくい異能だったから、発見も遅れたのかもしれない。

 そうケンゴが思うのと同じタイミングで、トウマが説明を加えた。


「俺の場合は例外なんだよ」

「例外?」


 ケンゴは首を傾げる。

 これを見て、トウマは軽く一呼吸ついてから、ゆっくりと補足した。


「俺は、お前たち異能者と戦うためにこの力を持たされた地球人(プレイヤー)なんだ」

「持たされたって……誰にだよ?」

「誰って、そんなの決まってるじゃん――――――――魔女だよ」

「!」


 魔女という単語を耳にして、ケンゴは大きく目を見開いた。


「魔女は、神の駒であるお前たちを排除したがっている。だから、俺みたいな奴や、異能機関みたいな奴らを自分の駒にして、お前たちと戦わせているんだ。それくらいは、お前たちもなんとなく察してたっしょ?」

「ああ……それはわかってたことだが……でも、俺らと戦うために異能を与えたってのは、わからねえな……」


 トウマの説明によって、さらに疑問が増えたケンゴは、もう1つ質問をすることにした。


「そんなことができるのは、技能神とか呼ばれている、この世界の神だけなんじゃねえのか?」

「多分ね。俺もそこまで詳しいわけじゃないから、これ以上訊かれても困る」

「……だよな」


 この質問については、あまり実のあるものではなかった。

 当事者が詳しくないというのでは、訊き出したくとも訊き出せない。

 あくまでも、トウマが嘘をついていないことが前提ではあるが。


「トウマ。さっきからなにを話し込んでいるのです? あなたをここに連れてきたのは、世間話をさせるためではありませんよ?」

「……と、そうだった」


 ルヴィがトウマを叱責した。

 すると、ケンゴとトウマの間に、再び戦闘の気配が漂い始めた。


「それと、いい加減お遊びはやめて、ここからは本気で戦いなさい」

「へいへい。わかってますよー…………っと」


 トウマが今までにない鋭い視線をケンゴに向ける。

 それを見て、ケンゴもまた表情を引き締めた。


「お前とはもうちょっと遊んでたかったけど、そろそろ終わりにさせてもらう。ボスの命令なんでね」


 そして、トウマの持つ槍『グングニル』がまばゆい光を放ち始めた。


「…………!」


 ケンゴはそれを見て、危機感を募らせつつ攻撃を仕掛けた。

 だが、トウマの攻撃は――ケンゴの攻撃速度を遥かに上回った。



「もう遅いよ――貫け、『グングニル』」



 トウマがケンゴに向けて槍を突き出す。

 その瞬間、槍は光の粒子と化した。


「がッ!?」


 光子となった槍は、ケンゴの腹部を一瞬で貫く。

 ケンゴは、その攻撃を避けることも受け流すこともできなかった。


 神速の一突き。

 光速にて繰り出される、他の神器とはまた異なった究極の一撃。

 これこそが、神器『グングニル』に宿る特殊スキルであった。


「…………ゴフッ」


 腹を貫かれ、ケンゴは吐血する。

 血を流すだけでなく、HPは残り1割を切り、ほぼ瀕死状態にまで追い込まれていた。


「……あんまり神器の力に頼りたくはなかったんだけど、お前を確実に倒すにはこれしかなかったよ。やっぱお前って強いな」

「ぐ……ッ!」


 トウマが槍を振り回す。

 貫かれたままの状態でいたケンゴは、遠心力によって吹き飛び、近くの民家の壁に叩きつけられた。


「やればできるではありませんか。初めからそうしていればよかったのです」


 それを見ていたルヴィが、上機嫌でトウマを褒めた。

 が、トウマの表情には陰りがあり、どことなく不満があるといった様子であった。


「……できれば、ガチの勝負で決めたかったんだけどなぁ」


 トウマがそっと呟く。

 しかし、ルヴィはその呟きを無視して、周囲を見回し始めていた。






「……はぁ……はぁ……あんまり、こういう本気の争い事はやりたくないのに……もう!」


 ルヴィ率いる異能機関の兵士と戦いながら、ミナは怒っていた。


 決闘大会のような、ルールに則って互いの技量を競い合う戦いであれば、ミナも積極的に参加した。

 けれど、今行っているような殺し合いに等しい戦いは、快く思っていなかった。


 それが災いし、ミナは異能機関の兵士に、思うように自分の力を発揮できずにいた。

 また、こうした心理はサクヤやフィルといった異能開発局側の地球人(プレイヤー)勢全員に当てはまることでもあった。


 だが、それでもアースで凌ぎを削ってきたミナたちは強かった。

 パワーレべリングと必要最低限の戦闘訓練が施された集団を相手にして、たとえ全力ではなくとも善戦していた。


「な……なんだこいつら……! 本当に高校生かよ……!」

「オレは中学生……だ!」

「ぐあっ!?」


 いつも使う敬語とは違った口調のフィルは、『スリープスラッシュ』、『スタンスラッシュ』といった状態異常を発生させるスキルを駆使し、目の前の敵を着実に戦闘不能に陥らせていく。


「このガキ……! ぶっつぶして――」

「はい、油断大敵。『ファイアーボール』」

「ぎゃっ!?」


 フィルに背後から攻撃を仕掛けようとした男は、サクヤが放った『ファイアーボール』を顔面に直撃させられ、その場の倒れてのた打ち回りだした。


「フォロー……どもです」

「これくらいお安い御用だよ。あともうちょっとだから、頑張ろ」

「ん、そう……ですね」


 サクヤとフィルは、戦えそうな異能機関の兵士が残り10人を切っているのを見て、僅かばかり気を緩める。


「むむむ……本当に我らの助力ナシで済みそうであるな! 目立つ機会がなくてちょっと残念だが、悪くない! フッハッハッハッハッ!」


 すると、そんなサクヤたちを見て、クレールが笑い声をあげた。


 クレールは火焔やガルディア、エレナといったアース人の仲間とともに戦いを眺めていた。

 サクヤたちが危険だと判断すれば助勢しようと考えていたものの、危険でなければ、地球人(プレイヤー)同士の争いに首を突っ込むことは控えるつもりであったためである。


 加えて、異能機関側の人間も、戦うターゲットに選んだ相手は地球人(プレイヤー)だけであったため、クレールたちは無傷のまま戦場にいることができた。


「…………チッ、ケンゴの奴め…………もしかしたら、余らの出番もあるやもしれんぞ、クレール」

「む? …………ふむ、どうやらそのようだな」


 クレールはサクヤたちの様子を見ていたが、火焔はケンゴの様子を見ていた。

 そして火焔は、は今まさにケンゴがトウマに槍で貫かれる瞬間を目撃した。


「あのトウマという男、少々厄介な敵やもしれん」

「うん、そうですね……あの男の人だけ別格の匂いがします」

「ほう、貴様たちがそこまで高く評価するとはな」


 神妙な顔つきの火焔とガルディアを見て、クレールもまた真剣な表情となった。


「む、傍にいた女がこちらを見ているな」


 また、クレールは自分たちのほうへと歩いてくるルヴィと目が合った。


「どうしましょうか……私たちも戦いに参加しますか?」


 エレナが反撃する準備を整えだした。


「いえ。露払いは我らにお任せを」


 そのタイミングで、3人の龍人族の戦士が現れた。


「エレナ嬢は下がっていてくだされ」

「我らがいる限り、皆様には指一本触れさせません」


 そして3人は、火焔たちを守るため、前に出ようとした。


「いや、そなたたちは控えておれ。あやつは、どうやら余らと話がしたいようだ」

「は……ハハッ! 龍王様の仰せのままに!」


 だが、火焔の命令を受け、再び後ろへと下がっていった。

 龍人族の戦士として、敵の前に王を立たせるのはいかがなものかと一瞬悩んだものの、結局は火焔の言葉に従う形となった。


「……さて、そなたは余らに何用だ? 戦いにきたという様子ではないようだが」


 そうしているうちに、ルヴィが火焔たちと話せるだけの距離まで近づいてきていた。


「もっとも、戦う気がないと思ったのが余の勘違いであるなら、ここで剣を交えるのもやぶさかではない」


 火焔が薄ら笑みを浮かべて威圧する。

 しかし、ルヴィは微笑みを絶やさない。


「私はあなた方と戦いにきたわけではございません。ですから、どうか殺気を放つのはおやめくださいませ」

「フン。ではさっさっと用件を言うがいい。余は気が短いゆえ、くだらぬ無駄話をしようものなら斬り伏せてしまうやもしれんぞ?」


 背後に控えさせていた龍人族の男衆から剣を受け取り、火焔は険呑な目線でルヴィを見つめた。


「はい、それでは用件を申し上げましょう」

「…………」


 火焔に急かされでも、ルヴィの表情は濁らない。

 それを見て、火焔は言いようのない違和感と不快感を抱いた。


 このまま斬り伏せてしまおうか。

 と思いつつも、火焔は自分たちのもとへとやってきたルヴィの目的を知るため、抜刀を踏みとどまった。


「本日、私たちがこの土地を訪れましたのは……ある方をお迎えに上がるためです」

「ある方だと?」

「はい」


 そして、ルヴィはそう言いながらクレールの目の前に行き――。



「お迎えに上がりました、クレール様。魔女様がお呼びです」



 ――彼女の前で膝をついた。


「……魔女様?」


 頭を垂れるルヴィ。

 それを見ながら、クレールは戸惑い混じりの声をあげる。

 すると、ルヴィは口元に笑みを浮かべ、さらに言葉を付け足した。



「ええ、そうです、魔女様――あなたの母に当たるお方ですよ」

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