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火山口

 俺と覆面の男が転移した先は、マグマの海の真上だった。

 どうやら、ここは火山口であるようだ。


 マジかよ。

 こいつ、俺を完全に殺す気できたな。

 本気度が今までの比じゃない。


 ……だが、覆面ヤロウを捕まえたこの手だけは離さない。

 なんとかして俺から離れようともがいているが、そうはいくか。

 マグマのなかに落ちるのなら、こいつも道ずれだ。


「ぐううぅっ!?」

「あぐっ…………く……!」


 俺たちは2人でマグマになかに落下した。

 体中に、今まで経験したことのないレベルの熱を持ったマグマがまとわりついていく。


 ……熱い。

 熱い熱い熱い熱い。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!


 か……体が……溶ける……!

 し、死ぬ……!

 このままだと死ぬ……!


「ぐ……!!!」


 だが……ここで死ぬわけにはいかない。

 生きて、みんなのところに戻るんだ……!


「……ぇ……『エクスハイヒール』!」


 体を溶かされる激痛に耐えながら、俺は自分自身に回復魔法をかける。

 これにより、俺の体は回復するも、またもマグマによって溶かされだしていく。

 マグマの粘度が高いおかげか、なんとか沈まずにはいられているものの、このままでは溶けるのも必至だ。


 そう思った俺は、アイテムボックスに『クロス』を収納して泳ぎだす。

 早く……足場のあるところまで移動しないと……。


「くぅ……いい加減……この手を……放してくれないかな……?」


 俺の近くにいた覆面ヤロウが、苦痛に満ちた声で訊ねてきた。


「誰が放すか! 放したらお前……1人で逃げるだろうが!」


 この男の異能は転移系だ。

 だから、やろうと思えばすぐに地上へと転移できるだろう。


「強情だね…………さすがに……僕も脱帽だよ……」

「喋ってる余裕があるなら……俺を連れて転移し直せ!」

「こんな状態で転移なんて……できるわけない…………助かりたければ……泳いで陸地に上がってくれ……」

「だったらお前も……手と足を動かせ! 地上に上がってから……仕切り直しだ!」

「く……」


 覆面ヤロウは苦しそうな声をあげつつも、俺と一緒に陸地へ向かって泳ぎだした。


 ……こんな状態じゃあ喜ぶにも喜べないが、やっとこの男に一矢報いてやれた。

 マグマに落とされるのは俺にとって想定外だったものの、俺がここまでしつこく手を離さなかったのは、こいつにとって想定外だったようだ。


 馬鹿め……。

 甘く見たな……?

 俺は……粘り強さだけなら……誰にも負けない自信が……ある……。


 だから…………ぐぅ…………。

 熱さで思考が回らない……。

 くそっ……とにかく今は……地上に上がることだけを考えよう……。


「おい! もっと早く泳げ! 鎧を着ている俺より遅いとか……どうなってんだよ!」

「そう思うんなら……この手を放してくれても……いいんだよ……」

「馬鹿言え! お前が転移できないなんて保障が……どこにある! 俺は……お前の言葉なんて……信じない!」

「ははは……僕も……ずいぶん君に……嫌われたもんだ……」


 俺たちは体を溶かされながらも、ふざけた会話をしながら陸地へと泳ぎ続けた。


 正直、なんで俺はこんな奴とこんな会話をしているんだって思った。

 でも、こうしてくだらない話でもしないと、気力が持たない。


 俺も、この男も、体力的に限界が近い。

 マグマの熱気にやられて、意識もぼうっとし始めている。

 早く陸に上がらないと、本格的にマズイ。


 心のなかで焦りつつも、俺は泳ぐ速度を早めて、地上を目指した。


「ぐ…………っ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


 そして、俺たちはやっと地上へと這い上がった。


 ……生きているのが奇跡のように感じる。

 今まで何度も命の危険に晒されてきたが、今日こそ死ぬかもしれないと思った日はない。


 地上に体を横たえ、息を荒げながら、俺は生きているという実感を味わっていた。


「…………?」


 ふと、俺の首元から、なにかがパキンと砕けるような音が聞こえてきた。

 今の……なんの音だ?



 …………。



「は、はは…………なんだよ……俺、お前に助けられちゃったのかよ……ははは……」


 首元に触れてみると、そこには氷室の奴から預かっていた『炎神のネックレス』があった。

 これには『炎無効』の効果が備わっていたから、鎧の下でひっそりと身に着けていた。


 が、今はもう壊れている。

 どうやら、マグマの熱には耐えきれなかったみたいだな。


 でも、このアクセサリーは、マグマから這い上がるまで俺を守ってくれていたんだろう。

 炎系のダメージに弱いはずの俺がマグマのなかにいて即死しなかったんだから、まず間違いない。

 思えば、溶けていたのは指先からで、より致命傷となりうる首と胴体まわりは比較的大丈夫だった。

 他の装備品はボロボロだが、これだけ先に壊れたのも、『炎無効』の効果が全力で俺を守ったからと見ることもできる


 変なところで氷室に助けられちゃったな。

 今度あいつに会ったら、礼にメシでも奢ってやるか。

 まあ……ネックレスは壊れちゃったけど……。

 ゆ、許してくれるよな……?


「……マグマのなかに落ちたというのに……ずいぶんと余裕そう……じゃないか」

「!」


 俺の隣でうつ伏せに倒れている覆面ヤロウから、か細い声が漏れてきた。

 覆面はマグマで燃えて、素顔が見えているが、俺にとってはいつまでも覆面ヤロウだ。

 キャラネームも隠しているみたいだから、それでいいだろう。


 一応、まだ腕は掴んだままだが、もう放してもいいような気もする。

 見るからに瀕死といった感じで、HPも残り1割を切っているからな。

 でも念のため、まだ手は放さないほうがいいか。

 逃げられてもシャクだし。


「どうやら、俺の仲間が助けてくれたみたいなんでな。というか……そっちこそ、よく生きていられたな」

「こうなる可能性も考えて……装備品を整えておいていたからね…………それも、どれだけ効果があったか……わからないが……」


 対策はしてたのか。

 それでもなお瀕死状態になったということは、実際にマグマのなかに入って検証したわけじゃなかったんだろうな。

 俺も、そんな検証はしたいとも思わないし。


「まあいい……とにかく、これでお前も終わりだ」

「……僕にトドメを刺す……つもりかな?」

「ああ、そのつもりだ」


 俺は覆面ヤロウの腕をつかむ手とは逆の手を前に出し、回復魔法を使う動作に入る。

 今使おうとしている回復魔法は、俺自身にかけるためのものだ。


 念のための用心によるものか、こいつもカルアと同様、死霊系の装備を身に着けていた。

 だから、俺のダメ―ジヒールは通用しない。


 メンドウだが、こいつはダメージヒール以外の方法でトドメを刺そう。


「……トドメを刺す前に、1つ……僕の話を聞いてくれないか?」

「…………?」


 俺が回復魔法でHPを回復していると、覆面ヤロウは弱々しい声で言葉を続けた。


「君……僕と組まないか……?」

「……は? なんだそれは。組むわけないだろ」


 突然なにを言うかと思えば……。

 俺が異能機関と組むなんてこと、天地がひっくり返ってもありえない。


「勘違いしているようだから……補足するけど……これは……異能機関の者としてではなく……僕と君で手を組まないかと……いうことだよ……」

「…………」


 異能機関の者としてではなく……?

 こいつは今、なにを考えているんだ?


「……どっちにしろ、俺はお前と組むつもりなんて一切ない」


 俺はこいつを信用できない。

 こいつのせいで、今までさんざん酷い目に遭わされ続けてきたんだからな。

 仲間としてみることなんて、できるわけがないだろう。


「……そうか……残念だ」


 覆面ヤロウはそこで大きくため息をついた。


 今の勧誘は、冗談だったのか本気だったのか、イマイチ判断しにくいな。

 こいつの思考が読めない。


「…………ぐおおおおおおおおおおッ!」

「!?」


 と、そこで覆面ヤロウは――俺に捕まれていた自分の腕を引きちぎって立ち上がった。

 そして、驚く俺から離れるように飛び退いた。


「な……腕を引きちぎっただと……?」

「マグマで千切れかかっていたんだよ……君は気づかなかったようだけどね……」

「…………」


 ……俺から離れるためだけに、そこまでするか。

 千切れかかっていたといっても、今のは激痛を伴う行為だったはずだ。

 HP的にはギリギリ耐えたようだが、並の精神力ではできない。


「君と組めないのは……とても残念だった…………ぐ……ひとまず今日は……これでイーブンということにしよう……」

「ま、待て――」


 俺が手を伸ばすも、先に覆面ヤロウは異能を発動させて、転移してしまった。


 こうして、この場には俺だけが残された。

 どこにあるのかもわからない火山口の傍に、1人だけ取り残されてしまった。


「なにがイーブンだよ……コノヤロウ」


 俺は覆面ヤロウがさっきまで立っていた場所を見ながら、そっと呟いた。

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