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ケンゴVSトウマ

 ケンゴが空に飛び、カルアを切り捨てた。

 その様子を、俺は地上で矢の到達を抑えながら見ていた。


 どうやら、ちゃんと倒せたみたいだな。

 でも、矢の脅威は依然として変わらずか。

 弓矢の持ち主が倒されれば神器の効果も消えるかもと思ったんだが、その予想はハズレだったようだ。


「避難誘導はまだ終わらないか!」


 俺は上空の矢を睨み続けながら叫んだ。


 わずかにであっても意識がケンゴたちに向いてしまったせいで、矢の進みが若干早くなっていた。

 まだ持ちこたえられるが、できれば早く避難誘導を終わらせてほしい。


「観客の避難はもうちょいで終わる! 最低でもあと1分は持ちこたえるんやで!」

「そうか! わかった!」


 わりと早いな。


 多分、あと1分というのは、本当に必要最低限の非難が完了するまでの時間を指しているんだろう。

 ケンゴが指示を飛ばしたわけだから、被害の予測はだいたい見当がついているはずだ。

 その分を加味して考えれば、誘導が迅速に完了できるのも当然か。

 被害が出るところを優先して避難させればいいんだからな。


「キツイのなら、俺の負担分をもうちょっと増やしてくれてもいいっスよ?」


 俺の隣で、ミサキが労りの声をかけてきた。


「へばってはないが、ある程度の余力は残しておきたいんでな」

「ああ……それもそうっスね。敵はアレだけじゃないかもしれないんスから」


 矢を止めるだけで事態が収束するとも思えない。

 こうして異能機関の奴らが直接攻撃を仕掛けてきたんだから、まだなにかちょっかいを出してくる可能性のほうが高い。

 そして、そんなちょっかいを受けたとき、矢を止めるのに全力を出し過ぎてヘトヘトでしたというのでは、話にならない。


 俺はミサキとの戦いで、すでに力を使いすぎている。

 『時間暴走』によって制御する時間の流れは、極端にすればするほど疲労度も増す。

 さっきの戦いは、たとえ一瞬の出来事であったとしても、長距離走をダッシュで完走するような無茶を体に強いている。


 それに加えて、この矢止めの作業だ。

 ある程度余力を残したいとは思っているが、それもどこまで残せるのやら。


 そんなことを思いつつ、俺はミサキと一緒に矢の衝突を防ぎ続けた。






「……さすがは神器ってわけか」


 必要最低限の避難誘導が終了し、俺たちもある程度離れた場所まで避難をしたあと、矢の時間を元通りにした。

 すると、カルアの放った矢は凄まじい勢いで地面に突き刺さり……闘技場を半壊させた。


 なんだこれは。

 隕石が落下してきたと言われても信じるレベルの被害じゃないか。

 クレーターができてるぞ。


 カルアの奴。

 こんなとんでもないものをぶっ放してくるとか、正気かよ。

 俺たち地球人(プレイヤー)だけじゃなく、アース人もいるってのに。


「はへー……俺、弓矢でここまでの被害が出たとこ、初めて見たっス」 


 ミサキが目を丸くしている。

 よく見ると、他の奴らもみんな似たり寄ったりって表情だ。

 正直、俺もビックリしている。


「剣王の指示通りに避難させて、ホンマによかったわぁ……」

「俺たちだけじゃ、これほどの被害は予想できなかっただろうからな……マジ助かったぜ……」

「ホッとするのはまだ早いぞ。敵はまだ、この町に潜んでいるかもしれないんだから」


 そうだ。

 事態はまだ収束したわけじゃない。


「俺はケンゴを捜しに行く。お前たちは、できるだけ大勢で固まって行動することを心がけろよ」

「言われんでも、そうしますさかい。こっちのことは気にせんといてや」

「俺たちは、ひとまず今の攻撃で負傷者や行方不明者が出ていないかの確認をさせてもらうぜ」

「特に、アース人に被害者が出たら大事になるっスからね」


 人や物の被害状況を確認するというのも重要なことだ。

 これは【ミーミル連合】に任せてしまってもいいだろう。


「私たちはシンについていくわよ」

「シンさんだけ単独行動をするのは危険……です」

「なんかよくわかんねえけど――俺たちの勝利を台無しにした奴らは電磁砲(レールガン)で消し炭にしてやる」

「ケンゴさんは商業区域方向に降りたみたいだから、そのあたりから捜そ」


 どうやら、俺のほうにはミナ、フィル、白崎、サクヤがついてくるようだ。

 仲間が傍にいてくれるのであれば、俺としても心強い。


「我らが団結すれば、いかなる敵であろうと脅威ではない! フッハッハッハッハッ!」

「余はただ見ているだけだがな」

「町のなかで危ないことをする人たちには、私も容赦しません!」

「子どもたちは預けてきたから、私も戦いに参加するよ!」


 また、クレール、火焔、エレナ、ガルディアといったアース人の面々も同行してくれるようだ。

 これは俺たち地球人(プレイヤー)の揉め事だから、彼女たちにはあまり頼りたくないところだが、場合によっては頼らせてもらおう。


「あんま無茶なことはしちゃだめっスよ」

「善処する」


 そして俺たちは闘技場を出て、ケンゴのいる場所へと駆けだした。






 異能機関による俺たちへの攻撃がカルアの一撃だけで終わるはずがない。

 そんな俺の予想は正解だったようだ。


 フルールの商業区域にやってくると、そこはもう戦場となっていた。


 人々はすでに避難しているようだが、建物などはグチャグチャに破壊されている。

 こんなことになった原因は、主にそこで戦っている2人のせいであるのだろう。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「うりゃりゃりゃりゃー!」


 ケンゴとトウマが戦っていた。

 剣と槍によるぶつかり合いによる衝撃波が、遠く離れた位置にいる俺たちにまで伝わってくる。


 やっぱり、ここに来た敵はカルアだけじゃなかったのか。


「……くっ!」


 しかも、ケンゴとトウマの戦いは、若干ケンゴが押されているように見える。

 ケンゴは腕や足に軽いかすり傷を負っているのに対し、トウマのほうは無傷であるようだ。


 あのトウマって奴、本当に強かったのか。

 まさか、ケンゴと互角以上に渡り合うだなんて、思ってもみなかった。

 今までマトモに戦っている姿を見る機会がなかったから、ケンゴが高く評価していても半信半疑だったんだが。


「ケンゴ! 大丈夫か!」

「ああ、心配ねえよ! うらあ!」


 押されていたケンゴが反撃に出た。


「あめえよ! あらよっとい!」


 が、ケンゴの攻撃のことごとくは、トウマの持つ槍によって防がれている。

 それを見ていたミナたちの表情には、しだいに焦りが出始めた。


「ね、ねえ、シン……私たち、助太刀したほうがよくないかしら?」

「……いや、下手に手を出すと、むしろケンゴの邪魔になる。それに、多分あの様子なら大丈夫だ」

「え……?」


 最初は俺もちょっと不安だったが、今のケンゴの戦い方を見て、考えを改めた。


 トウマがいまだに無傷なのは、もちろん本人のプレイヤースキルが滅茶苦茶高いというのも理由の1つだろうが、ケンゴが得意とするバトルスタイルによるところもあるんだろう。

 きっと、今に状況は一変する。


「!?」


 そんなことを思っているうちに、トウマが驚きの表情を浮かべだした。

 あいつも、ケンゴがなにをしようとしているのか理解したみたいだな。


「気づくのがあと1秒遅かったな」

「ぐ!?」


 ケンゴの攻撃がトウマの槍によって阻まれる。

 その瞬間――槍が『ピシ』という嫌な音を立てた。


 武器破壊。

 ケンゴはトウマ本人を狙わず、トウマの武器に対してダメージを蓄積させていたんだ。

 そして、そうした作業によって、槍があともう少しで折れるところまで達した。


「次の攻撃は受けきれねえよな!」


 歯を噛みしめるトウマに向かって、ケンゴが剣を振り下ろした。


 あの距離では避けきれない。

 かつ、ヒビの入った槍では受けきれまい。

 これは、今度こそ、ケンゴの攻撃が入る。


「まだまだぁ!」

「!」


 ……と思っていたが、トウマはヒビの入っていない部分の槍を両手で短く持ち、ケンゴの振るう剣をギリギリで受け止めた。


 下手をすれば指が斬られるガードの仕方だ。

 ケンゴの攻撃を冷静に観察していなければ、到底できる技じゃない。


「……ふぅ……あっぶねー。もうちょっとで死ぬとこだった」


 剣を跳ね除けて、トウマはケンゴとの距離を稼いだ。


「でも……ここからは今のようにはいかない」


 さらにトウマは、ケンゴの追撃を受ける前に、アイテムボックスのなかから――槍の神器『グングニル』を素早く取り出した。


「へえ……つまり、こっからが本気ってわけか」

「お前相手には、なりふり構ってられないみたいなんでな…………くっ……」


 トウマが非常に悔しそうな顔をしている。


 そんなにミナのサインが書かれてるその槍を使いたくなかったのかよ。

 だったら、別の槍に書いてもらえばよかったのに。


 ……っと。

 いつまでもケンゴたちのほうに意識を向かせているわけにはいかないか。

 俺たちの敵は、トウマだけじゃない。


 そう思った俺は、ケンゴたちの奥にいた連中のほうへと目を向ける。


「初見の顔もいるが……お前も異能機関の人間か?」


 ケンゴたちの戦いを奥で見ていたのは、いつもの覆面男と、さっきケンゴにやられたはずのカルア、それに、初めて見る謎の女性といったメンツだった。


「ええ、あなたのおっしゃる通りですよ。私は異能機関総統補佐のルヴィと申します……以後、お見知りおきを」


 そして、今日初めて会ったその女性は、俺たちに向かって自己紹介し、深く頭を下げた。

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