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団体戦、決着

 俺は大将戦が始まると同時に、『時間暴走』を全力で行使した。

 極限まで時間の流れを止め、極限まで自分の時間の流れを加速した。

 《範囲停滞エリア・スタグネーション》、《身体加速フィジカル・アクセル》、《精神加速メンタル・アクセル》を高水準で発動させたから、ミサキから見たら、俺が一瞬で移動したように見えたことだろう。


 そんな俺の全力をもってミサキに近づき、全力のダメージヒールである『エクスハイヒール』をぶちかました。

 オーバーキルのような気もしたんだが、もしも耐えられでもしたら困るので、安全策を取らせてもらった。


 そうした俺の全力によって、ミサキのHPはゼロになった。

 この様子なら、『ハイヒール』でも十分だったかもしれないな。


 俺はそんなことを思いながら、ミサキに『リザレクション』をかけた。


「……うっ……ぁ……は…………」


 HPが1だけの状態で、ミサキは息を吹き返した。


 見るからに苦しそうだ。

 早くHPを回復させてやらないと。


「審判、救護班を呼んでくれ」

「…………え?」

「聞こえなかったか? 救護班を呼んでくれって言ったんだが」

「…………あっ、わ、わかった!」


 口をあんぐりと開けていた審判は、慌てた様子で救護班に声をかけだした。


 しっかりしてくれよ。

 早く回復させてやらないと、ミサキが可哀想だろ。

 こんなことをした張本人たる俺が思うことでもないが。


「う……ふぅ…………あー……酷い目に遭ったっス……」


 ミーミル側の職員が回復魔法をかけ、ミサキのHPは満タンになった。

 だが、まだ体に違和感があるようで、ぎこちない動きをしている。


 しばらく幻痛に悩まされるかもしれないが、そこは我慢してもらおう。


「それで、この試合は俺の勝ちだよな?」


 ミサキが大丈夫そうなのを確認したのち、俺は審判に試合の勝敗を訊ねた。


 まだ試合終了の合図がなされていなかった。

 これでは、まだ俺が勝ったことにはならない。


「あ、ああ…………ええっと……ミサキ選手HP……全損! よって大将戦勝者、シン選手!」


 審判が戸惑った様子を見せながらも、試合の結果を告げた。

 すると、ザワついていた観客たちが、大きな歓声を上げ始めた。


 よかった。

 ここでなにかイチャモンをつけられて、『今の試合は無効だ!』とか言われたらどうしようと思ったけど、そんなことはなくてホッとした。

 観客も、純粋に俺の勝利を祝福してくれているようだ。


「あー……まさか、こんな負け方をしちゃうなんて思わなかったっス……」


 うなだれながら、ミサキが俺に近づいてきた。


「でも、1つだけ不可解なことがあったんで、訊かせてほしいんスけど……あなたは俺の異能(アビリティ)をどうやって打ち破ったんスか?」

「へ? 異能(アビリティ)?」


 なんだそれ?

 さっきの試合で、ミサキはなにかをしてた風には見えなかったが……。


「ええっと……なにをされたかも気づいてなかったんスか?」

「お前、俺になにかしてたのか?」


 俺はミサキがなにを言いたいのかわからず、首を傾げた。


「…………もしかして、同じ時間操作系の異能を持った者が対象だと、効き目が悪かったりするんスかね」

「?」


 ミサキがブツブツと独り言を始めだした。


 なんだよ。

 俺にもちゃんと聞こえるように話してほしいな。

 1人でわかったような顔をされても、こっちはチンプンカンプンだ。


「とにかく、今回は俺の完敗だったっス。正直、この戦いは自分自身がいかに傲慢な考えをしていたのかがわかる、良い機会だったっスよ」

「そ、そうか?」


 異能とダメージヒールによるごり押しだったから、ミサキにとって良い機会になるようなことなんてなかったと思うんだが……。

 まあ、本人が納得してるんだから、俺がとやかく言うことでもないか。


「い、一之瀬っちいいいいいいぃぃぃ!!!!!」

「!?」


 と、そこで、俺の名前を呼びながら突撃をかましてくる奴が現れた。


 白崎だ。

 白崎は涙で顔をグシャグシャにしながら、俺にかけよって抱きついてきた。


「いきなりなんだお前は! く、この……さっさと離れろ!」


 男に抱きつかれて喜ぶ性癖なんて持ち合わせてないぞ!

 いつも突拍子もないことをする奴ではあるんだけどさあ!

 なんなんだよ、こいつは!


「よ、よがった……! 一之瀬っちが勝ってくれて……本当によがった……!」

「わ、わかったから! お前の喜びは十分伝わったから! だからホント離れろコノヤロウ!」


 白崎は自分が負けたことを重くとらえていた。

 だから、こうしてチームとしての勝利ができたことに対して、喜びの気持ちと安堵感を抱いているのだろう。


 白崎的には、今の俺はサッカーでゴールを決めた選手みたいな感じなのかもしれない。

 そういうノリだと考えると、こういったスキンシップもアリか。


「よくやった、シン。やはり、お前に大将を任せて正解だった」

「フッ、君ならば必ず勝ってくれると僕は確信していたよ!」


 白崎に続いて、アギトとクロードが声をかけてきた。


 こっちは白崎よりも冷静なようで、俺に抱きついてくるようなことはなかった。

 が、かわりに俺の肩と背中をバシッと一発叩いてきた。

 鎧を素手で叩いたせいか、2人とも、ちょっと手が痛そうだ。


「シン、やったわね。これで、私たちは自由に地下迷宮を探索できるわ」


 さらに、ミナが俺に向けて微笑みかけてきた。


「ああ、そうだな……多少脇道に逸れたが、やっと地下迷宮の攻略に臨める」


 地下迷宮の捜索。

 魚人族との戦い。

 【ミーミル連合】との団体戦。


 短い間に、俺たちはいろいろなことをしてきた。

 これらはすべて、地下迷宮の攻略のために必要なことだった。


 そして、そうした出来事を乗り越え、俺たちはついに地下迷宮へと乗り込むことができるようになった。

 もはや、俺たちを阻む障害など、なにもない。


「……いやぁ、まさか、ミサキまで負けるだなんて、思いもよりまへんでしたわぁ」

「!」


 と、そこで【ミーミル連合】の大将であるカザネがやってきた。


「カザネか……どうだ? 俺たちに負けた感想は?」


 アギトがここぞとばかりにカザネを煽りだした。


 お前、カザネのこと、相当嫌ってるんだな……。

 今まで散々煽られてたから、気持ちはわからなくもないんだが。


「感想? そりゃあ……めっちゃ悔しいですわ。途中までは、ほぼ完璧にウチらの策通りの展開やったっちゅうのに……」


 カザネがシュンとしながら、アギトから目を逸らした。


「こんなことになった以上、観客を呼んだのも裏目ですわ。地下迷宮攻略の権利がどちらにあるか、これでハッキリさせてしまったんやから」


 今回の団体戦では、勝者の権利として、地下迷宮攻略優先権が与えられることになっている。

 【ミーミル連合】はそれを公の場で得るために、観客をかき集めたんだろう。


 が、結果は俺たちウルズ勢の勝利に終わった。

 さすがに、カザネたちも観客の目があるなかで地下迷宮についての約束を反故にすることはなかったようだ。


「今後、ウチら【ミーミル連合】は地下迷宮に近づかんことにしますわ……それがルールやからな」


 つまり、俺たちウルズ勢は、ミーミルの地下迷宮を独占的に攻略することができるようになったってわけだ。

 めでたしめでたし。

 俺たちの完全勝利だ。


 ……なんてことはない。


「勘違いしてもらっちゃ困るな。俺たちだけじゃなくて、お前たちにもちゃんと地下迷宮を攻略してもらうぞ、【ミーミル連合】」

「……は?」


 俺の言っていることがよく呑みこめないのか、カザネたちがポカンとしている。


 こいつらは、俺たちが自分たちだけで地下迷宮を攻略するつもりだとでも思っていたんだろう。

 なら、もうちょっと詳しく説明してやるか。


「俺たちの目的は、あくまで地下迷宮の完全攻略にあって、地下迷宮で得られるアイテムや経験値といったものを独占するつもりなんてない。だから、これからは俺たちと一緒に地下迷宮を潜ろう」

「……それ、本気で言ってるんスか?」

「本気だよ。そもそも、ウルズの人間だけで地下迷宮を攻略してたら、最深部までたどり着くのがいつになるのかわかったもんじゃない」


 ミーミルに遠征してきたウルズ勢の人員だけでできることなんて、たかが知れている。


「地下迷宮を攻略するのには、ミーミルの奴らの協力があったほうが効率的なんだ。手を貸してくれないか?」


 俺はそう言いながら、カザネたちに手を差し伸べた。


 アギトやクロードも、なにも言わないところを見るに、俺と同じ意見なんだろう。

 それに、他のウルズメンバーもだ。


 だから、あとは、こいつらが俺の手を取るかどうかだが……。


「なんで私たちがあんたたちと手を組まなくちゃならないのよぉ!」


 突然、さっきまでベンチでぐったりしていたクルルが走ってきて、俺に詰め寄りだした。


「俺たちと一緒じゃイヤか?」

「イヤに決まってんでしょぉ! 私たちはウルズの人間を信用してないからなんだからぁ!」


 ふむ。

 そういえば、こんな団体戦をすることになった理由の1つに、互いの不信感があったな。

 地下迷宮の内部で別勢力の人間同士が背中を預け合えるのかどうかとか、そんな話をしていた。


「お前たちは俺たちをだまし討ちするような連中なのか?」

「そんなのするわけないでしょぉ! 私たちだって、善悪の区別くらいちゃんとできるわよぁ!」

「なら、俺はお前たちを信じる。あとはお前たちが俺たちを信じるかどうかだ」

「!?」


 クルルたちが面食らった表情で俺を見ている。


 まあ、こいつらはウルズの人間かミーミルの人間のどちらか一方だけで地下迷宮を攻略する気でいたみたいだからな。

 自分たちが敗北してなお地下迷宮に潜れるとは思っていなかったんだろう。


 それに、俺がミーミルの連中を信じるということも、こいつらにとっては予想外のことのはずだ。

 でも、俺の言葉に偽りはない。


 カザネたちは、俺たちに勝つため、あらゆる策を弄した。

 が、俺たちの食事に一服盛ったりだとか、審判を買収したりだとか、そういった卑怯な手段は取らなかった。

 煽りや情報収集は行っても、試合は正々堂々と行ってきたんだ。


 だから、俺はこいつらを信じられる。

 こいつらは、自分たちさえよければなんでもするような奴らじゃない。

 交渉次第では仲間として歩み寄れるってな。


「い、いきなり信じろとか言われても、信じるわけないでしょぉ!」

「俺たちがお前たちを除け者にしたいんだったら、今回の勝ちで地下迷宮を独占すれば済む話だろ。それでもなお、こんなお願いをしてるんだ。それは、俺たちを信じるに値しないか?」

「う……」


 地下迷宮の攻略を独占しない。

 それによって、ウルズ勢がミーミル勢の敵でないことを示す。


 こうした俺の思惑は、クルルたちにも伝わったと思う。

 見るからに迷ってるって顔をしているからな。


「まあ、お前たちが地下迷宮に潜りたくないっていうなら、しょうがないから俺たちだけで潜るさ。そのときは、アイテムも経験値も神様からの報酬も、全部いただかせてもらうけどな」

「ちょ、まだ私たちは潜らないなんて言ってないでしょぉ!」


 俺が若干引いてみると、クルルが面白いように引っかかってきた。


 そうだ。

 その調子だ。

 その調子で、あともう一歩前に踏み出せ。


「……はぁ、わかったわかった。自分らがそこまで言うんやったら、ウチらも手を貸してやるわ」


 と、そこでカザネが降参と言わんばかりに両手を挙げた。


「でも、ウチらが地下迷宮にあるモンを早いモン勝ちで取っていくかもしれへんっちゅうことは、重々承知しときいやぁ」

「そんなことはわかってるさ。ただし、神様からの報酬だけは譲らないから、抜け駆けはするなよ。まあ、その辺の権利については、また勝負でもして決めようか」

「へえ……また勝負するつもりなら、より徹底的に自分らのことを調べて、必勝のプランを立てさせてもらうで」

「お手柔らかに頼む」


 カザネに物言いに、俺はフッと笑った。


「地下迷宮に俺たちを潜らせること、あとで後悔しても知らないっスよ」

「そんなことは言われるまでもない。これからは地下迷宮の攻略で競うことにしよう。もちろん、正々堂々とな」

「正々堂々とっスか……こっちこそ、そんなことは言われるまでもないっス」


 そして、俺は目の前で笑うミサキに手を差し出し、握手を交わした。


 よかった。

 ミーミルの奴らが俺の提案を呑んでくれて。

 呑んでくれなかったら、地下迷宮の攻略速度がかなり遅くなるところだった。

 それに……ミーミルの連中とも、仲が悪いままになるところだった。


 なんだかんだ言いつつ、俺はこいつらとも、できれば仲良くしたいと思っていた。

 せっかくの同じ境遇に立つ者同士なんだからな。


「もしかして、あなたは結構お人よしの分類に入るんじゃないっスか?」

「それはどうだかな」


 俺はミサキの問いをはぐらかして、ケンゴがいるであろう方を向いた。


 どうだ、勝ったぞ。

 途中、ちょっと危ないんじゃないかって場面もあったけど、俺たちはちゃんと勝った。

 しっかりと見てくれてたか?


「シン!」


 ケンゴが叫んだ。


 おいおい。

 いきなり人の名前を叫ぶなよ

 ……というか、なんであんなに焦ってるんだ、あいつ?


「あっちを見ろ!」

「? あっち?」


 なんだろうか。

 そう思いながら、俺はケンゴの指差す方角に視線を向けた。


「……………………ッ!!!!!」


 すると……その方角の空に、なにかが浮いている姿が見えた。

 それは、このアースでは強い部類のモンスターである飛竜――ワイバーンと、それに乗る1人の人間の姿だった。


 距離が遠すぎて、誰が乗っているのか視認するのは、かなり難しい。

 けれど、それでも俺は、そこに誰がいるのか一目で理解した。



「カルア…………!」



 ケンゴが指差した先には、ワイバーンに乗り、遥か上空で弓矢を構えるカルアの姿があった。

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