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ファン?

 ミナの『重力制御』により、クルルは地面に勢いよく激突する羽目になった。

 それにより、クルルのHPは6割を切り、乗っていたペガサスのほうも弱々しい様子で横たわることとなった。


 ミナの『重力制御』は、普段は自分に対してしか使っていないが、周囲の重力を変化させることもできる。

 これは精神的な消耗が激しいから、ここぞという場面でしか使ってこなかった、彼女のとっておきだ。

 クルルがまんまと罠に引っかかったあたり、カザネたちの持つ情報にはリサーチ不足な部分があったようだな。


 にしても、容赦ないな、ミナの奴。

 多分、クルルが本気の速度を出して特攻を仕掛けてくるタイミングを待っていたんだろう。


 敵を調子に乗らせ、油断しているところに痛恨の一打を与える。

 いつの間にか、ミナはえげつない戦い方をマスターしていたみたいだ。


「ぐ……っ! 私が……地面に這いつくばってる……ですってぇ……?」


 クルルが苦悶の声をあげている。


 彼女は一度に大きなダメージを受け過ぎた。

 見た感じ、立ち上がるだけで精一杯のようだ。

 ルール的にはまだ負けていないものの、今からこの戦いをひっくり返すことは、まずできないだろう。

 足元がふらついている。


「今降参すれば、追撃はしないであげるわよ」

「はっ……降参……ですってぇ……? それ、もしかして私に言ってんのぉ……?」


 ……クルルは、まだミナと戦うつもりでいるようだ。

 結果はもう目に見えているというのに。


「馬鹿にすんじゃないわよぉ! 自分から負けを認めるような真似なんてぇ……私がするわけないっつのぉ!」


 クルルが槍を構え、ミナのほうへと駆けだした。


「私はあんたなんかに負けない! 私は……あんたを超えるのぉ!」


 そして、クルルはミナに槍を振り下ろす。

 

「……その負けず嫌いなところは、認めてあげてもいいわ」


 すると、ミナはその槍を大剣で、なんでもないという様子で弾いた。


 今のは、クルルの攻撃が軽かったんだろう。

 言葉では強がっているが、やっぱりさっき受けたダメージは相当効いているようだ。


「だから……あなたは私の本気で倒してあげる」


 ミナが、その場から大きく跳躍した。


 今のクルルは異能を使っていない。

 相手が地上戦でくるのであれば、ここでミナがいつもの攻撃方法を用いても、なんらリスクを負わない。


「ハァッ!!!」


 ミナがクルル目がけて急速落下した。


 これは……ミナの十八番の『流星斬』か。

 なかなか空に飛べなかったから出せずにいたが、ここでようやく出てきたな。


「がっ?!」


 そしてミナは、ロクに避ける動作もできていないクルルの両肩に大剣を叩き込んだ。


 剣による衝撃で、クルルが地面に倒れ込む。

 HPも、今の攻撃によって残り1割になった。


「……う……ぅ……」


 うつ伏せの状態になったクルルの口から、うめき声が聞こえてくる。

 もはや立つこともできないようだ。


 ミナよ。

 試合のルール的に見て、ちょっとオーバーキルだったんじゃないか?

 こいつには本気を見せておきたいって思ったんだろうけど。


「そ、そこまで! クルル選手HP半減! よって副将戦勝者、ミナ選手!」


 審判は早口で試合終了の宣言をすると、場外で待機していた救護班にタンカを持ってこさせるよう指示した。


 クルルの受けたダメージは、白崎のよりも大きい。

 体の傷は回復魔法ですぐ治せるが、精神のほうはしばらく休息が必要だろう。


「ぐぅ……これで……勝った気になってんじゃ……ないわよ…………絶対……リベンジ……してやるんだからぁ……」


 だというのに、担架に乗せられたクルルは、ミナに向かって再戦の予告をしていた。


「ええ、いいわよ。いつでもかかってらっしゃい。返り討ちにしてあげるから」

「……やっぱ……あんた……可愛くない」


 なんだかんだで、この2人は案外こういう仲でいいのかもしれない。

 今のやり取りを見てると、なんとなくそう思えてしまうな。


 こうして、ウルズ連合対ミーミル連合副将戦は終了を迎えた。

 ミナは期待通り、俺たちに白星をもたらしてくれた。






「お疲れ、ミナ」


 ミナが俺たちのベンチに戻ってきた。

 戦闘をこなしたからか、若干疲れたような顔をしている。


「ヒールでもかけてやろうか?」

「これくらいなら、ベンチで休んでいれば治るからいいわ」

「そっか」


 クルルと違い、ミナはまだまだ元気みたいだな。


「シンは私のことより、次の試合のことに集中しなさい」

「ああ、わかった」


 確かにそうだな。

 今は、これから行われる大将戦のことだけを考えよう。


 クロードと白崎は負けてしまったが、アギトとミナは勝った。

 これで2勝2敗、勝敗は互角になったわけだ。


 団体戦も、残すところ、あと1戦。

 次の大将戦で全部決まる。

 責任重大だぞ、俺。


「シン。お前のことだから、言わなくともいいことだと思うが、勝ってくれ」

「僕たちの命運は君に託された! 頑張ってくれたまえ!」


 アギトとクロードが俺に激励の言葉を贈ってきた。


 言われずとも、俺は勝つさ。

 誰が対戦相手だろうともな。


「ミーミルからは……あの男子生徒が出るみたいね……」

「そうみたいだな」


 隣のベンチでは、ミサキが準備運動をしている。

 副将戦までにあいつが試合に出なかった時点で、こうなることは予想できていた。


 まさか、大将戦が1年生同士の勝負になるだなんてな。

 団体戦が始まる前までは、思いもよらなかった。


「にしても、あいつって強いのか?」

「最初会ったとき、自分は細工師だって言ってたわよね……」


 細工師というジョブのニュアンスからして、どう考えても戦闘向きではない。

 でも、あいつはこうして大将に選ばれたわけで。

 いったいどういうカラクリなんだ?


「……まあ、実際に戦ってみればわかるか」


 戦ってみてもわからないという可能性も高いんだけどな。

 これからやろうとしていること的に考えて


「それじゃあ、行ってくる」


 俺はミサキが闘技フィールドに向かうのを見て、自分もそこへ行くべく歩き出した。


「い、一之瀬っち!」


 と、そこで白崎が俺に声をかけてきた。


「お、俺は負けちゃったけど……お前は勝ってくれよな!」

「白崎……」


 ……俺は、負けられない。


「この喧嘩、俺たちが勝つ。だから、見守っててくれ、白崎」

「! お、おう! 頑張れよ! 一之瀬っち!」


 俺は勝つ。

 勝って、俺たちの勝利にする。

 たとえ2人負けたとしても、3人勝てば俺たち全員の勝利だ。


 待ってろよ、白崎。

 俺がお前を勝たせてやるからな。






「待たせたな、ミサキ」


 闘技フィールドの中心で、ミサキが立っていた。


「さっきは悪かったな、ミナがやりすぎたみたいだったが、クルルの様子はどうだ?」

「ああ、クルルなら全然平気っスよ。今もベンチでミナさんに恨み節を呟いてるっスから」

「そ、そうか」


 クルルよ、お前はそんなにもミナに負けたくなかったのか……。


「あいつ、ミナさんと同年代だからか、妙に対抗意識を燃やしてるんスよね。アイドルを目指してたころからずっと」


 そりゃ筋金入りだ。

 対抗意識を燃やしてきた年季が違う。


「……もしかして、俺たちと初めて会ったときにミナの写真を撮りたがってたが、それってクルルに渡すつもりだったのか?」

「そっスよ。あいつはミナさん関連の物なら、なんでも収集してたっスからね」

「なんでそんなことしてたんだ……?」

「自分がアイドルとして売れるための情報収集の一環だったそうっスよ。ファングッズまで買いあさってたのは謎っスけど」


 それ、もうミナの熱狂的なファンといっても過言ではないんじゃないか……? 

 もともとファンだったのが、災い転じてアンチ化しちゃったのかもしれないけど、そのへんは本人に訊いてみないとわからないな。

 本人に訊いてわかるものなのかどうかも微妙なところだが。

 素直に答えてくれそうな対応じゃないからなぁ。


「まあ、彼女たちのことは、今は脇にでも置いておきましょうよ。これからは俺たちの戦いなんスから」

「ん……ああ、そうだな」


 今は大将戦に選ばれたこの男……ミサキとの戦いについてだけに意識を向けよう。


「はっきりいって、【ミーミル連合】は大将戦にいく前に勝負を決めるつもりだったっス。だから、俺がこの場に立っているのは、不測の事態ってことになるっスね」

「……おい、いいのか? そんなことを俺にバラしちゃって」

「別にいいと思うっスよ」

「…………」


 ミサキの言っていることは、はたして事実なのだろうか。

 これは、俺を油断させようというブラフである可能性も考えられる。


「でも、俺たちこの勝負を投げたってわけじゃあないんスよね」

「? どういうことだ?」

「つまり……俺はあなたに勝つつもりだって言ってんスよ……《ビルドエラー》」

「……へえ」


 なんだ、そういうことか。

 この会話は、俺への宣戦布告だったってわけだな。

 いいぜ、乗ってやる。


「俺は強いぞ。少なくとも、戦闘向きのジョブに就いてない奴には負ける気がしないな」

「そんなこと言ってると、痛い目に遭うっスよ? 俺も伊達に【ミーミル連合】の切り札って呼ばれてるわけじゃないっスから」


 切り札か。

 それは凄いな。

 俄然ワクワクしてきたぞ。


「……あれ、なんで笑ってるんスかね?」

「これが笑わないでいられるかよ」


 どんなバトルスタイルで戦うのかは知らないが、少なくともミサキは雑魚ではないようだ。

 【ミーミル連合】の切り札の実力……存分に見せてもらう。


「さあ、審判、さっさと始めてくれ」


 俺は審判のほうへと笑顔を向ける。


「う……わ、わかった。両者、礼!」


 すると、審判は若干後ずさりながらも指示を飛ばした。


「それでは大将戦! シン対ミサキ! 決闘開始!」


 こうして、俺たちの大将戦が始まった。

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