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神様の助言と勘違い

 翌日。

 俺達は今日も今日とてアース世界にログインした。

 すると俺は白い空間でクロスに出会った。


「久しぶりだな」

「うむ、三ヶ月ぶりくらいじゃったかの」


 もうここにくるのは3回目なので俺は特に驚く事もなくクロスと挨拶をする。


 何気にこの子はわりとよく出てくるのな。

 まあ別にいいんだけど。


 長い事幽閉されているから話し相手が欲しいのだろう、多分。


「それでどうした? 一応俺達はお前の望みどおり迷宮攻略に動いているが」

「地下10階層まで攻略したのは知っておる。今までの停滞が嘘のように順調じゃの」

「まあな」


 若干うそ臭いものを感じたものの、迷宮攻略が進まなかった理由は早川先生曰く単にアース人との交流を優先した結果らしいがな。

 そんなことを言ってしまうとこの子に不満を持たれてしまいかねないから黙っているけど。


「今回お主を呼んだのはその事についてではない。わしもちょっとはお主の役に立とうかと思っての」

「役に?」


 なんだそれは。

 この子は俺と話すこと以外何もできない囚われ系女神様じゃなかったのか。


「お主、死霊装備を集めておったのう? あれについてわしから有益な情報を与えようと思うのじゃ」

「? ああ、確かに集めていたが」


 死霊装備。

 あれは装備者にアンデッド属性を与えて俺のダメージヒールで回復できるようになる物だから集めていた。

 が、俺達は既にパーティーメンバー分の装備は手に入れているので、もうこれ以上積極的に集める気は無い。


 まあMNDを下げる装備は俺も欲しいところではあるが、無ければ無いで防御力の高い装備に更新するだけだから血眼になって探すということもない。

 なのでもしその有益な情報とやらが死霊装備のある場所などであればあまり有益とは呼べないな。


「ミレイユの町から西に行ったところに大きな墓地があるじゃろ。そこの地下にある隠し神殿で《死霊王》から『死霊の大盾』を受け取るが良い」

「……死霊の大盾、か」


 案の定クロスは俺に死霊装備の在り処を教えてきた。


 大盾か。

 それなら少し欲しいと思ってしまう。

 大盾はどうもバリエーションが少なくて俺は未だに最初買ったラージシールドを使用している。

 始まりの町近くの墓地ならすぐにいけるからちょっと回収してみるか。


「わかった。それじゃあ行ってみる事にする」

「うむ……ああ、それと墓地へは深夜にお主1人で行くが良い。全身を死霊装備で固めてな。でないとそこに住むアンデッドに襲われるし地下神殿への道も閉ざされたままじゃろうからの」

「? まあ、お前がそう言うなら」


 なんだかよくわからない注文だ。

 しかし墓地にある隠し神殿への侵入条件がそういうものなのだろうと俺は自分を納得させる。

 そういう特殊なクエストだと思えば特に気にならないからな。


「ではゆくがよい。異世界より招かれし探検者エクスプローラーよ。わしはお主の活躍に期待しておるぞ」



 そして最後にクロスがそう言うと、周囲から眩い光が溢れだして俺の意識はアース世界へと飛んだ。






「いいだろう。くれぐれも死ぬ事の無いように」

「わかりました」


 アースにログインして始まりの町にやってきた俺達は、そろそろアースにも慣れてきたということで開始されたクラス単位による授業を受けたり、ちょっとした肉体労働に駆り出されたりで1日を潰し、再びスイーヤへと赴くべくパーティー5人で夜に早川先生へお伺いを立てに行った。

 前回わりと簡単に許可が貰えたが、今回も特には問題なく首を縦に振ってくれた。


 それだけ俺達の事を信頼してくれているという事かね。

 よくわからない信頼だけど。


「あとあまり他のクラスと揉め事を起こすな。昨日は進藤先生からお小言を貰ってしまったぞ」

「……すみません」


 知ってたのか、昨日の事。

 まああの場にはマーニャンこと進藤先生がいたわけだから、そいつを経由して話が早川先生に漏れるという事もありえるとは思ってたが。


「でもあれは向こうから絡んできたんですよ? 僕達はそれに抵抗しただけです」


 と、そこでユミが反論をした。


 ユミは冒険者ギルドで1回あいつらにやられてるからな。

 そう言いたくなるのも頷ける。


「ああ、知っている。だから1組の子達に対しては我々も処罰を下した。しかし先に手を上げられたからといって相手をタコ殴りにしていいわけではないぞ」

「うっ……」


 けれど早川先生は俺達にとって痛いところを突いてきた。

 また、それによってサクヤの表情が若干引きつる。


 彼女も一応は悪かったと思っているんだろう、多分。

 あれは流石に俺もどうかと思ったし。


「というかそんな事まで把握していたんですね、先生方は」

「当たり前だ。我々は可愛い生徒達が何か問題を起こしやしないかと毎日気に病んでいる。あまり心労を増やしてくれるなよ」


 心労ねえ。

 確かに俺達がアース人との関係を悪化させるような事をしでかしたら学校、もとい国にとって望ましくない事態だ。

 この前起きたギルドでの揉め事もあまり良い目では見られまい。


「まあ同レベル帯であれば喧嘩をしてもそこまで酷いことにはならないと思うが、余程でない限り争うことは無いように頼む」

「了解です」


 俺達は別にあいつらを憎く思っているわけじゃない。

 向こうが何もしてこなければこっちだって手は出さないさ。


 なんにせよ、この話はこれでもう終わりにしよう。

 あいつらの事を気にしすぎていても仕方がないからな。


「そういえば……先生、ちょっといいですか?」

「なんだ、一之瀬?」


 そんな会話をしている最中、早川先生を見ていてふと思い出した事があった。


 俺はそれについて訊ねるべく、彼女に向けて問いかける。


「前に早川先生は今24だって言ってましたよね?」

「? ああ、言ったな。それがどうした?」

「それって嘘ですよね?」

「……どういう事だ?」

「俺の見立てだと早川先生は少なくとも40以上のように思えてならないんですよね」

「…………」

「ふがっ!?」


 早川先生が突然俺の頬を両手で押しつぶしてきた。


 体罰だ。体罰だ。

 現場はここです、ピーTAの皆さん。


「……君はあれか? もしかして私に喧嘩を売っているのか?」

「いえ、ほんまことはあいまへん。ただのきゃっはんてきじじつでふ」

「あ?」

「ふぎゅぅ……」


 顔が潰れる……


 なんで今こんな事されてるんだ。

 どうして先生は俺のことを凄い睨んでるんだ。


「先生、抑えて抑えて。僕から見たら先生はまだ若すぎるくらいだと思いますよ」

「む? そうか? しかし若すぎるというほどではないぞ、うん。まあ一応肌には気を使っているつもりだからまだ二十歳と言っても通ると思うが」


 ユミの言葉を受けて早川先生は若干饒舌になりながらも俺から手を放した。


 気をつけろ先生。

 その男のストライクゾーンは30代から50代だぞ。


 というか何故いきなり若いだの何だのという話になっているんだ。


「今は先生が若いかどうかなんて関係ないでしょう」

「それを君が言うか。元はといえば君が私に年を訊ねてきたのが発端だろう」

「へ? 俺そんなこと聞いてませんよ?」

「いや言っただろう。アースに来た初日に『先生は今いくつです?』って」

「……ああ」


 なるほど。

 そういうことか。


 早川先生はあの時俺が年齢を聞いているものと勘違いしたのか。


「先生。俺が聞きたかったのは年じゃなくてレベルです」

「……え? そ、そうなのか?」

「はい。今後の参考にと思いまして」

「私の年齢が気になったとかではなく?」

「なんでそんなの気にするんですか」

「…………」

「…………」


 俺が誤解を解くと早川先生は顔を赤面させて黙りこんでしまった。


 もしかしたら自分が勘違いしていたのを恥ずかしいと思っているのかもしれないな。

 でも普通ゲームで「今いくつ?」と聞かれたらレベルを答えるだろう。

 それはアース世界であっても変わらないはず。


 なのになんで年齢を答えるんだ。

 俺が早川先生の年を知ったから何だという話だ。


「まったく……俺が早川先生の年なんて知りたがるわけないでしょう。ちょっと考えればわかりそうなものなのに」

「……それを今まで私同様勘違いしていた君が言うなよ」

「ぎゅむぅ」


 早川先生は俺の頬がたいそう気にいったらしい。

 俺は体罰教師にしばらく顔を押し潰され続けた。


「レベルが聞きたいのならちゃんとそう言え……私のレベルは75だ」

「へー……」


 75か。

 それならまあ納得だ。


 あと24というのは低すぎだと思ったが、それは年齢の方だったか。

 こっちはどうでもいいけど。


「はぁ……進藤からよく聞いていた事だが……真性のゲーム馬鹿だな、君は」

「お褒めに与かり光栄です」


 俺にとってゲーム馬鹿とは褒め言葉の一種だ。


「でもマーニャンから俺の話を聞いているとは思いませんでした。もしかして早川先生はマーニャンと仲が良かったりするんですか?」

「ああ。私は彼女からアースにおける回復職としての動きを学んだ。言わば師弟の間柄と言える」


 なるほど。


 まあ早川先生もマーニャンも僧侶職だからな。

 人格はともかくとして、マーニャン自身のPSプレイヤースキルは高いから師として仰ぐのは悪くない。


「あ……だから早川先生はやけに俺の事信用してくれているんですね?」

「まあそれもある。進藤先生の他者に対する評価は厳しいものの、誰よりも参考になる。そんな彼女が君の事だけはベタ褒めしていたからな」

「へえ」


 ベタ褒めねえ。


 どんな風に俺を売り込んだかは知らないが、マーニャンはゲーム内の俺をよく知っている人物だからな。

 また、俺のタンクにおけるPSは自惚れじゃなければ国内でも十指に入るレベルだと思う。


 勿論ゲームによって仕様が変わるわけだからそのPSも絶対ではないが、クロスクロニクルオンラインと仕様が似ている『FO』での話ならある程度は参考になっただろう。


「しかし別に進藤先生の話だけで君の力を評価したわけではないぞ。あくまで総合的な評価だ」

「そうですか」


 それに学校関係者なら俺の異能アビリティ正確に・・・把握しているはずだ。

 というかむしろこっちの方が重要かもしれない。


「初めはジョブが合っていない事でしばらく悩むだろうと思っていたのだが、君はあっという間に自分の欠点を長所へと変え、仲間と共に結果を出した。私の評価としては満点をつけざるを得ないよ」

「ありがとうございます」


 満点ねえ。

 異能込みでの評価かもしれないから俺としてはあまり素直に喜べないな。


「ただし調子に乗って危ない真似はするなよ。いくら君が強いといっても上には上がいるものなのだからな」

「わかっていますよ」


 俺は別に自分が最強だなんて思っちゃいない。

 レベル的にも俺の上には沢山いるだろうし、PSも俺を上回る人間を探せばどこかしらにいるはずだ。

 メインとする役割が違うから直接比較できるものでもないが、俺の師匠も異能抜きで戦えば多分俺を上回るだろうし。

 まあそんな事を考える以前に危ない真似は極力避けるのが無難だ。



 こうして俺達は会話を終え、次の日にスイーヤへと移動することに決めて今日のところは始まりの町に泊まることにした。


 だがその前にここで一つやっておくことがある。

 俺はクロスの助言通り、始まりの町近くにある大墓地――『ミレイユ大墓地』へと深夜に赴いたのだった。

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