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激突

「……ふぅ。締まらない決着ではあったが、勝ってきたぞ、みんな」


 アギトが俺たちのところに戻ってきた。

 それも、ウルズ連合側の初白星を土産にしてだ。


 正直、タケルの異能(アビリティ)を聞いたときには、もうダメかもしれないと思ってしまった。

 けれど、アギトは自分が不利であることで委縮することもなく、あえて全力の異能行使でタケルを打ち破った。

 完全勝利とは言い難い勝ち方ではあったが、それでも勝ちは勝ちだ。

 素直に喜ぼう。


「やったな、アギト」

「お疲れ様です、アギト先輩」

「フッ、僕は先輩なら必ず勝ってくれると信じてました!」


 俺、ミナ、クロードは、それぞれの言葉でアギトを労っていく。

 すると、アギトもまんざらではない様子で、口元をニヤリと歪めた。


「どうだ、白崎。勝ってきたぞ」

「…………」


 そしてアギトは、ベンチに座ると、いまだに落ち込んでいる白崎に声をかけた。


「……おめでとうございます。やっぱ、俺なんかとは違って、龍宮寺先輩は強いッスね」


 どうも、今の白崎は自虐モードに突入しているようだ。

 自分が負けたことがよほどショックだったのだろう。


「ああ、俺は強い。それは認める。だが、『俺なんかとは違って』というのには訂正が必要だ」

「……必要ねッス。俺は負けて、龍宮寺先輩は勝ったんですから」


 白崎、相当いじけてるな。

 いつもの無駄な強気姿勢が一切感じられない。


「確かに俺は勝った。が、こうして勝てたのは、シンたちが応援してくれていたからだ」

「……応援?」

「そうだ、応援だ。もし、俺が1人でタケルと戦っていたら、早々に勝負を投げていたかもしれない」


 アギトが勝負を投げていたかもしれない……。

 にわかには信じがたいことだが、とにかく今は、アギトの言葉に耳を傾けよう。


「あの男の異能は、俺の心を折るのに十分な力を秘めていた。だが、俺は諦めることなく、一か八かの策を閃き、実行に移した。これは……俺の後ろに仲間がいたからこそできたことだ」

「…………」

「俺が負ければ、ウルズ連合の負けが決定する。であれば、たとえどれほど絶望的な敵と戦うとしても、俺が勝利を諦めることなどできない。今回の勝利は、俺1人では成し得なかったと言えるだろう」

「龍宮寺先輩……」


 さっきまで俯いていた白崎が、アギトを見上げた。


「この戦いが団体戦だということを忘れるな。お前が負けても俺が勝った。そして、次の副将戦も勝てばイーブンになり、大将戦も勝てば俺たちの勝ちとなる。だから……これからの2戦、同級生たちを全力で応援してやれ」

「ぅ…………はい、わかりました。俺……全力で応援します」


 ……凄いな。

 さっきまでしょぼくれていた白崎が、ちょっと前向きになったぞ。


 なんだかんだ言って、アギトは俺たちの先輩なんだな。

 こうして、戦いに勝利したり、白崎を慰めたりで、後輩のために尽力してくれるんだから。

 良い先輩だ。


「ウルズ連合、ミナ選手! ミーミル連合、クルル選手! 前へ!」

「はい」

「はぁい!」


 と、そんなことを思っていたら、次の試合に出る選手の呼び出しが行われた。


 ミナとクルルが闘技フィールドのほうへと歩きだす。

 すると、白崎が突然立ち上がり、ミナのほうを向いた。


「あ、朝比……奈、その…………が、頑張れ!」


 白崎が、若干声を震わせながら、ミナの後姿に応援の言葉をかけた。


「……ええ、頑張ってくるわ。応援よろしくね」


 ミナは俺たちのほうを一瞥し、親指を立ててサムズアップを行った。


 なんていうか、凄く漢らしい返事の仕方ですね、ミナさん。

 俺も今度やろう。


「あーら、ずいぶんお仲間と仲が良さそうねぇ? ミーナちゃぁん?」


 先に闘技フィールドの中央に来ていたクルルが、ミナに絡みだした。


 今のクルルは馬に乗っている。

 それも、ただの馬ではなく、羽の生えた純白の馬にだ。


 多分、あれって『ペガサス』とかいう生き物じゃないか?

 初めて見た。

 あんなのもアースには存在してたんだな。

 クルルはどうやら騎士職のようだから、『騎乗』スキルでああいう生き物にも簡単に乗ることができるんだろう。


「……私のことは、『ミーナ』じゃなく『ミナ』って呼んで」

「はぁ? あんた、どうでもいいようなとこに拘ってんのね」

「別にいいでしょ」


 ミナとクルルが、またいつぞやのように険悪な雰囲気を出し合っていた。

 でも、彼女たちの会話は、ワーワー騒いでいる観客席のほうまでは聞こえないだろう。


 また、クルルのほうは笑顔のままだ。

 自分のファンには猫被ってるのかね。

 声は聞こえなくとも、顔の表情は観客席からでもわかるから、その辺は気をつけてるのかもだな。


「まあ、もしもこの試合で私に勝てたら、訂正してあげてもいいかなぁ。その代わり、あんたが負けたら、私の言うことをなんでも聞いてもらうけどぉ」

「ええ、それでいいわよ。さっさと始めましょ」

「……っ……よっぽど勝つ自信があるようねぇ? もしかして、私が弱いとか思ってたりするわけ?」

「そういうわけじゃないわ。ただ、私はこの試合、絶対勝つって決めてるから」


 今日のミナは凄い強気だ。

 なんというか、味方として非常に頼もしい。

 クルルもミナの強気な姿勢を見て、微妙に笑顔が引きつっている。


「……そんなことを言ってられるのも、今のうちよ……ぶっ潰してあげる」

「どうぞお手柔らかに」


 そうして、ミナとクルルは、互いに笑顔のまま礼をした。

 やっぱ、この2人怖い。


「そ、それでは副将戦! ミナ対クルル! 決闘開始!」


 ミナたちの会話を間近で聞いていた審判が、顔を引きつらせつつも試合開始の合図を出した。


「さあ、私とルーちゃんの空中殺法を見せてあげる!」

「ヒヒーン!」

「!」


 クルルが乗ったペガサスが、試合開始と同時に空中へと浮き出した。

 そして、クルルはそのまま、太陽に向かって飛び立った。


 ルーちゃん、というのは、あのペガサスの名前だろう。

 これはわかる。


 だが、クルルとルーちゃんが空を飛びだしたのは、いかなる原理か。

 ペガサスに備わっている力か、はたまた、クルルの力――異能(アビリティ)によるものか。


「これこそが私の異能『浮遊』よ!」


 ……どうやら、後者であるようだ。


 『浮遊』か。

 【ミーミル連合】は、ミナの『重力制御』に対抗できる人選をしてきたってわけだな。

 もしかして、ミナを煽って副将戦に出させようとしたのも、あいつらの策略か?


「さあ、いくわよぉ! ミーナちゃあぁぁん!」


 俺が考え事をしている間に、クルルはミナに向かって急降下を始めた。


 クルルは槍を持っている。

 刃の部分は潰してあるが、上空数十メートルからの落下によって生みだされる攻撃力は侮れない。


「だからミーナと呼ばないでって……言ってるでしょ!」

「くっ!」


 ミナはクルルの特攻を紙一重で避けた。

 あえてギリギリで避けたのであれば、大したものだ。


 また、クルルはクルルで、地面に衝突することなく再び空へと舞いあがっている。

 こちらも大したものと言えるな。

 上手いもんだ。


「ほら、あんたもさっさと飛んでみなさいよぉ! どちらが空の覇者か、思い知らせてやるからぁ!」

「言われずとも、飛んであげるわよ!」


 ミナはクルルの挑発に乗っかって、空に向かって高く跳躍した。


 本来なら、星の重力に吸い寄せられて落下するところだが、ミナには『重力制御』がある。

 クルルと同じ高さまで到達すると、ミナはそこでピタッと止まった。


「私に見下ろされない位置まで上がってこられたのは、あんたが初よ」

「それはどうも」

「でも……すぐに叩き落してあげる!」


 クルルの槍とミナの剣がぶつかり合う。

 その直前、ミナはなにか『失敗した』というような表情をして、剣を振るうのをとどまった。


「くぅっ……!」


 ミナはクルルの攻撃を上方向に無理矢理受け流して、自分は地面に着地した。


 ……ああ、マズイな。

 ミナは『重量制御』によって、重力に縛られない動きをすることができる。

 でも、それはあくまで上下方向に加わる力を制御できるのであって、横の動きに利用することはできない。


 対して、クルルの異能である『浮遊』は、重力とは別の概念による現象であるようで、横方向にも移動することが可能であるようだ。

 おそらく、『念動力』とかの力を自分の周囲限定で発生させる力かなにかなのだろう。


 空中において、ミナとクルルのどちらがより自由に行動できるかと見るならば、圧倒的にクルルが勝る。

 そして、闘技フィールドから出た時点で負けが決定するというルール上……ミナはクルルの攻撃を空中でマトモに受けることを封じられる。

 マトモに受けたが最後、その衝撃で、ミナの体は闘技フィールド外へと吹き飛ばされる恐れがあるからだ。


 【ミーミル連合】の奴ら、俺たちと相性の悪い相手をかなり揃えてやがるな。

 もしかしたら、あいつらは宿で自己紹介をする前から、こうした状況になることを予見していたのかもしれない。


 5対5の団体戦という喧嘩をふっかけた場合、俺たちがどのようなメンバーで対抗するのか予想し、対策を打っていた。

 そう考えたほうが、いろいろと合点がいく。


 結局のところ、俺たちは【ミーミル連合】に踊らされていたってわけだな。

 それも、かなり最初の段階から。


「ほらほらぁ! さっきみたいに高く飛んでみなさいよぉ!」

「…………っ!」


 ミナがクルルの挑発に耐えながら、空中からの攻撃を地上で受け流している。


 この状況は、明らかにミナが不利だ。

 上からの攻撃を捌くこと自体もつらいっていうのに、ミナは自分の長所を生かすこともできない。

 本来なら、上からの攻撃は彼女の得意とするものなのに、今はそれを敵にやられている。

 心理的な面から見ても、これはキツイかもしれないな。


「あははははぁ! 他愛もないわねぇ、ミーナちゃあん? 地べたでなすすべなく攻撃を受け続けるのは、どんな気持ちぃ?」

「……あまりいい気分じゃないわね」


 クルルの攻撃によって、ミナのHPは2割弱削られた。


 俺なら、あれくらいの攻撃であればいつまでだって耐え続けられるが、ミナにとっては厳しいようだ。

 いつもとは勝手の違う戦いを強いられているわけだからな。

 これも仕方がないことと言える。


 だが、ミナに焦った様子はなく、むしろ笑みさえ浮かべている。


「でも、このまま黙ってやられるほど、私も可愛くなんてないわよ。あなた程度の相手なら、すぐに倒せるわ」


 どうやら、なにか策がありそうな感じだな。

 劣勢の状況でこんな挑発が行えるんだから、やっぱりミナは頼もしい。


「へぇ……それじゃあ、その可愛くない減らず口も叩けないようにしてあげるぅ!」


 挑発に乗ったクルルが、ミナに向かって急降下しだした。


 それは、今までのものよりさらに速い。

 これがクルルの本気の速度ってことか。


「……いいのかしらね。そんな速さで急降下なんてしちゃって」


 ミナが目を閉じ、すぅっと息を吸った。


「あらぁ? もう諦めちゃったのかし――――っ!?」


 すると、ナナメに急降下するクルルの軌道が、大きく下にずれだした。


 …………『重力制御』によって、クルルにかかる重力を大幅に上げたのか。

 自分に使うことが制限されているから、相手に使って有効な手になる状況を考えたわけだ。

 ミナの奴、やるな。


 これは、クルルにとって予想外だったようだ。

 さっきまで余裕の笑みを浮かべていた顔が半泣き状態になっている。


「ちょ、た、タンマタンマ! 待って待って待って待って――」

「悪いわね。私も勝つために、なりふり構っていられないの」


 そして、クルルとペガサスは……地面に思いっきり激突した。

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