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団体戦

 俺たちが【ミーミル連合】の連中と会ってから、3日が経過した。

 つまり、団体戦を行う日がきたということになる。


 この日を迎えるにあたって、俺たち参加メンバーは、各々のやり方でベストなコンディション作りを行った。

 ちなみに、今回の団体戦におけるウルズ連合(ミーミル連合にちなんで、ケンゴが命名した)のオーダーは、先鋒『クロード』、次鋒『ダークネスカイザー』、中堅『アギト』、副将『ミナ』、大将『シン』となっている。


 先鋒のクロードは、一番最初に決まった案がそのまま採用された。

 男が相手なら、クロードの勝率はかなり高いだろう、と俺たちは踏んでいる。


 次鋒のダークネスカイザー、もとい白崎は、俺たちの間で一番議論された部分だ。

 この人選の決め手は、こいつのぶっとんだ攻撃力だった。

 誰が相手であろうと、一撃で相手をKOできると期待している。

 あわよくば、それで敵の後続がビビらせられればなおよし、とも考えていたりする。


 中堅のアギトは、順当なところだ。

 大将にするかどうかで意見が分かれもした。

 だが、最終的には本人の希望で、このポジションとなった。

 アギトいわく、『団体戦において、中堅こそがもっとも重要な戦いだ』とのことだ。

 俺も、中堅を勝てるかどうかというのは最も重要視している。


 副将がミナになったのは、これも本人の強い希望があってのものだ。

 団体戦に、俺、アギト、クロード以外は誰が参加するか、という議論の際、ミナは積極的に自分が出ることを希望し、このポジションを獲得するにいたった。

 先鋒や次鋒ならともかく、副将として彼女を起用するのは本当に大丈夫なのか、という不安の声もちらほらと聞こえてはいた。

 でも、俺はミナがきっとあのクルルに勝ってくれると信じている。


 そして、俺が大将に選ばれた理由は、アギトの強い支持があったからだ。

 『シンが大将を務めてくれるのであれば、俺たちは安心して戦うことができる』とか言われたりもした。

 まあ、そこまで言われたら、やらないわけにはいかないよな。


「…………っ」


 今回の団体戦が行われる闘技場にて。

 控室を出て闘技フィールドのほうへと歩く俺たちのなかで、白崎がビクビクとしていた。


 もしかして、緊張してるのか?

 こいつらしくないな。

 団体戦メンバーに選ばれる前までは『俺を選べ』オーラを出しまくっていたのに、今じゃあガチガチだ。


「白崎、もうちょっと肩の力を抜けよ」

「え? な、ナニガ? お、俺、いつも通りダヨ?」

「全然いつも通りじゃないだろ」


 なんでカタコト喋りになってるんだ。

 もっとリラックスして喋れ。


「怖いなら、別の奴に次鋒やってもらうか? 今ならまだメンバーチェンジできるぞ」

「い、いや! 俺は出る! そして勝つ! 優勝は俺がいただく!」

「お、おう、その意気だ」


 白崎は鼻をフンフン鳴らして、通路をズンズンと歩いていく。

 気合十分なのは伝わったが、左右の手足が同じタイミングで前に出ているのは、注意したほうがいいのだろうか。


 ……別にいいな。

 本人がいつも通りだって言ってるんだから。

 でも、今回の催しに『優勝』というものはないぞ、白崎よ。

 あるとするならMVPとかだ。


 そんなことを思いつつ、俺はみんなと一緒に団体戦の会場へとやってきた。


 俺たちが通路から出た直後、観戦席に座る何千という客が『ワアァ!』と歓声をあげた。

 地球人(プレイヤー)もアース人も関係なく集まってきたって感じだ。


「……3日前に決まったことなのに、よくこんなに集まったな」


 あまりの観客数に、俺は思わず目を丸くした。

 ミーミルとウルズの小競り合いだと思っていたのに、これはもう一大イベントじゃないか。


「せっかくの試合なんや。大勢に見てもらったほうがええやろ」


 俺たちとは反対側にあった通路から、【ミーミル連合】の連中が出てきた。


 この観客数は、あいつらの仕業か。

 当然、ここに集まったほとんどの客はミーミルの人間だろう。

 つまり、俺たちウルズ勢は、アウェー感漂う雰囲気のなかで戦わなくてはならないってわけだ。

 よくやりやがる。


「キャー! シンさまー! キャー!」

「どっちも頑張れ頑張れー!」

「がんばれー!」

「ふぁいとー!」


 と思ったが、どうやら俺たちを応援する奴らも、ちゃんといてくれた。

 まあ、だいたいは見知った連中なわけなんだが。


 エレナ、ガルディア、ガルシア、ガルディナ。

 それに、火焔や三馬鹿連中もいるな。


「勝ったら俺の奢りで祝杯挙げったからな! 待ってるぜ!」

「やったっ! ケンゴさんに奢ってもらうためにも、みんな頑張ってっ!」

「勝利はウルズ連合のもの……です」


 団体戦から漏れた、ケンゴたちウルズ勢のみんなも応援してくれている。


 歓声の大きさでいえば、ミーミル勢が圧倒的だ。

 でも、たとえ数十人規模のものであっても、ウルズ勢の声援は俺の心にちゃんと響いている。


 こりゃあ、絶対勝たないとだな。

 俺のためにも、みんなのためにも。


「いやあ……これぞ、お祭り騒ぎって感じっスね」


 【ミーミル連合】のミサキが、俺たちに笑顔を向けてきた。


 こいつ、こういう雰囲気が好きだったりするのか。

 大人しそうな奴っぽく見えるから、ちょっと意外だ。


「今回の勝負の見物料で、【ミーミル連合】の収益もウハウハっス」


 ……ただ単純に、実入りがよくてホクホク顔だっただけか。


 観客がいるのは、俺たちの士気を下げることだけが目的ってわけじゃなかったみたいだな。

 というか、金取ってるなら俺たちにも何割かよこせよ。

 ミーミルだけで独占するなよ。


「みんなぁ! 今日は私たちのライブに来てくれてありがとぉ!」


 ライブじゃねえよ!

 手とか振るな!


「うおおおおおぉぉぉ! クルルちゃーん!」

「クルルちゃんが一番可愛いよおおおお!」


 変な奴らも大声あげてんじゃねえ!

 なに、コンサートみたいなことやってんだ!


「……お遊びがしたいのなら、俺たちは帰らせてもらうぞ」


 俺と同じく呆れ顔のアギトは、若干苛立ちが混じったような声を出した。


「ウルズに帰るちゅうなら、引きとめはせえへんよ。あとのことはウチらに全部任しとき」

「っ……このっ……くっ……」


 アギトがカザネにおちょくられている。


 試合前だっていうのに、冷静さを乱すなよ、アギト。

 【ミーミル連合】のギルマスと性格的に相性が悪いことは十分わかってるんだから。


「こじんまりしてるよりか、こうして騒いだほうが気合も入るだろ。それとも、騒がれるのは苦手なクチか?」

「……ああ、わかった、もういい。好きにしろ……ハァ」


 タケルが聞くと、アギトは投げやりな様子で大きくため息を吐いた。


 まあ、この戦いの証人は、多いに越したことはない。


「【ミーミル連合】の諸君、僕たちは君たちに勝つため、ここに来た! 大観衆を集めたこと、君たちの敗北によって後悔させてあげよう!」


 クロードはノリノリな様子だ。

 こいつはむしろ、観客が多ければ多いほど調子に乗るタイプか。

 だとしたら、先鋒戦はより期待できるな。


「ククッ……後悔すんのは、ウチらやなくて自分らになると思うで……」


 カザネが黒い笑みを浮かべて呟いた。

 こいつらも勝つ気マンマンって感じだな。


 俺たちが語るのは、もう戦いのなかだけで十分だろう。

 これ以上は無粋ってもんだ。


「さあ、とっとと始めよう。観客も待ちくたびれている」

「そうやな、シンの言う通りや。ほな、始めよか」


 俺の催促に、カザネが同意してきた。


 こうして、俺たちは闘技フィールドの中央で礼をした。

、そして、俺たちはあらかじめ用意されていたベンチへのほうへと向かう。


「……なんで、すぐ近くに敵チームのベンチがあるんだよ」


 俺たちウルズ勢が座ったベンチの隣に、ミーミル勢が座った。


 これじゃあ、話してる内容が敵に筒抜けになるだろ。

 特に作戦とかがあるわけじゃないから、聞かれて困るような話をすることはないんだが……なに考えてんだ、こいつらは。


「観客だけでなく、ウチらも楽しくお喋りしながら試合を見ようっちゅう計らいや」


 計らいねぇ……。

 まあ、うるさくされない限りは、こっちとしても文句はない。


「それより、審判の声に耳を傾けてたほうがええで。先鋒戦に出る選手の名前が出るさかい」


 俺に対し、カザネが注意を審判に向けるよう促してきた。

 審判は出場メンバーが書かれた紙に目を向けている。

 あの紙は、アギトとカザネがベンチに行く直前に審判へと渡したものだ。


 先鋒戦か。

 それなら、どのようなカードになるかはわかっている。


 クロードVSタケル。

 これこそが、ウルズ勢とミーミル勢の対決の初戦――。


「ウルズ連合、クロード選手! ミーミル連合、カザネ選手! 前へ!」

「!?」


 俺たちの初戦は、早くも暗礁に乗り上げた。

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