選手決め
「勝負は今日から3日後の正午。団体戦のルールはオーソドックスな星取り形式で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将のうち、先に3勝をあげたほうの勝ちってことでええな?」
「刃物の類は、全部訓練用の物を使用ってことでどうっスかね?」
「この町にある闘技場はぁ、一辺が約30メートルの正方形なんだけどぉ、そこから出たら負けってことでいいよねぇ!」
「もちろん、気絶や棄権、HPゲージの半減といったのも負けだ。俺は先鋒で出るから、楽しみにしてるぜ、アギト」
「ずー……ずー…………む、むにゃっ……んー……ムニャムニャ…………」
団体戦をすることに決めた俺たちは、ミーミル勢と細かなルールを決めていった。
勝ち負けの基準となるもののほとんどは、俺たちの間でやっている決闘大会のルールと似たような内容だった。
これなら、みんな仕様の違いで戸惑うこともない。
俺たちウルズ勢は、ミーミル勢が提示したルールに、すべてイエスで答えた。
そんなことがあった、その日の夜。
宿屋の大部屋にて、俺たちの保護者役でもあるケンゴと、あの場にいなかった遠征組の中高生組全員に、団体戦をやることになった経緯を説明した。
「俺らがミーミル連中との会議で忙しくしている間に、ずいぶんと面白そうなことしてたじゃねえか」
ケンゴはマイたちが一度呼びに行ったが、会議中とのことで、今の時間になるまで話ができなかった。
「団体戦かぁ。いいぜ、やってみろよ」
俺たち高校生組の暴走行為であるというのに、ケンゴは楽しそうに口元を緩ませ、団体戦をやることを許可した。
ここで許可が下りなかったらどうしょうとか思ったけど、すんなり通ったな。
まあ、ケンゴだから、こんな催しに否定的なことを言うはずがないとは踏んでいたが。
「俺たちだけで勝手に決めちゃったことなんだが、それでもいいのか?」
「ああ。負けちまわない限りは、だけどな」
念のため聞いてみたけど、やっぱそうなるよな。
勝てば官軍負ければ賊軍ってことだ。
俺たちの責任は重大だ。
「にしても……相手は全員高校生か……そうなると、こっちも全員高校生で挑むほうがいいよな」
「なんだ、ケンゴは団体戦に出たいとは思わないのか?」
「メチャメチャ出てえよ。でも、ガキ同士の喧嘩はガキ同士で決着付けたほうが、互いに納得すっだろ?」
「まあな」
これはウルズ対ミーミルという構図なのだから、ケンゴとかを団体戦で出すことは、厳密にはルール違反じゃないだろう。
でも、もしもケンゴを出して勝った場合、あとで『剣王を出すなんて卑怯だ!』とか言って、ミーミルの連中にゴネられでもしたらメンドウだ。
昼間の話的にも、あいつらは高校生組だけで勝負をするみたいなノリだった。
だから、俺たちもそのノリに付き合うしかあるまい。
「俺たち高校生だけでも、あんな連中など一捻りできます。任せてください」
アギトがケンゴに向かって、自信満々にそう言った。
「おう、その意気だぜ! てめえが戦ってるときは俺も応援してやっから頑張れよ、アギト!」
「! あ、ありがとうございます」
珍しく、アギトが照れたような表情を浮かべている。
こいつでも、こんな顔をするときがあるのか。
普段は喧嘩でも売ってんじゃないかと思うほど睨みを利かせた目つきをしてるっていうのに。
ちょっと意外だ。
というか、やっぱりアギトは、今回の団体戦に出ることは確定なのか。
そうなると、残りの枠は、あと4つということになるな。
「俺も出させてもらうから、残り3人を誰にするか決めようか」
枠が全部埋まってしまう前に、俺はさらっと、自分も出ることをみんなに伝えた。
こういうのは早い者勝ちだ。
言ったもん勝ちともいう。
「フッフッフッ……ウルズを代表する選手を選抜するといのなら、僕が参加しないわけにはいかないね」
俺の次に、クロードが参加表明を出した。
こいつも、ウルズ勢のなかではトップクラスの実力者だ。
女性相手に滅法弱いという弱点はあるが。
「クロード。お前、対戦相手が女であった場合、ちゃんと勝てるのだろうな?」
アギトがクロードに問いかけた。
お前も、そこは心配してたか。
昼間に会った5人のミーミル勢のうち、2人は女性だった。
4割の確率で負け確定っていうのなら、ここでクロードを起用するのは躊躇われる。
あいつらが本当にあの場にいた5人で勝負してくるなら、という但し書きはつくが。
「フッ、大丈夫さ。要は、僕の対戦相手がレディでなければいいのだから」
「……というと?」
「つまり、僕は先鋒に出て、あのタケルという大男と戦えばいいのさ!」
あー。
なるほど。
その手があったか。
これなら、ほぼ確実にクロードが男と戦えるな。
……というか、それっていいのか?
あいつ、やけにアギトと戦いたがってたんだが。
「先鋒をアギトじゃない奴に任せるのは、逃げだと思われやしないか?」
「『僕程度に負けるようなら、アギト先輩が相手をするまでもない』って雰囲気を出せばイケるさ!」
「そういう作戦か」
まあ、それなら相手側も納得するだろう。
クロードがタケルに勝つことが条件ではあるが……男が相手なら、まず勝てるか。
「……だそうだが、アギトはそれでもいいか?」
「この戦いは、個人戦ではなく団体戦だ。戦略によって、一番強い者が先鋒を務めたり、弱い者が大将を務めたりすることもある。クロードが先鋒に出るというのも、そういった戦略の内だろう」
「そうか」
どうやら、アギトは『クロード先鋒作戦』に肯定的であるようだ。
であれば、この作戦を使わない手はないだろう。
「だが、この策が戦いの前に敵へ漏れてしまっては台無しだ。全員、ここでのことは他言無用で頼むぞ」
そりゃそうだ。
こんな情報が外に漏れでもしたら、ミーミル勢に対策を打たれてしまう。
作戦は、相手が作戦だと気づくまで伏せてこそ力を発揮する。
「俺、シン、クロード……ここまでは順当だな」
「みんな、僕たち3人については、異論はないよね?」
クロードの問いかけに、みんなは無言で答えた。
つまり、ここまでは異議なしってことだな。
「お前ら3人は鉄板だろ」
「高校生で強いのを5人選ぶんだったら、こいつらは外せないよ」
3年の先輩がそんなことを言っている。
そう思ってもらえているなら、絶対勝たないとだな。
みんなの期待がかかってるんだから。
「それじゃあ、あとは残り2名を決めることになるわけだが……」
これで参加選手は3人決定した。
他で目ぼしいウルズのメンバーといえば……。
「はいはいはーいっ! 私も団体戦に出たーいっ!」
「俺が出れば――どんな敵もイチコロだぜ?」
「1年はひっこんでろ! 俺だって出たいぞ!」
「いや! ここは俺が出る!」
「私も出たいです!」
団体戦に出たいという希望者が殺到した。
みんな、やる気に満ちているな。
「お、オレも結構強い……ですよ?」
そんな希望者のなかで、自分の強さをアピールしようとしてか、フィルがその場で高速の反復横跳びをし始めた。
凄い。
あまりに速過ぎて、フィルが分身しているかのように見える。
でも、なぜに反復横跳びなんだ。
もっとこう、別のやり方があっただろ。
ちょっと微笑ましいぞ。
「相手は全員高校生みたいだが、こちら側の参加選手に中学生を混ぜるっていうのはアリだよな?」
「僕はアリだと思うねえ。さすがに中学生を出して文句を言われることはないよ」
「検討する価値はあるだろう」
フィルも参加選手候補ということでいいみたいだな。
派手さはないものの、彼女のプレイヤースキルは本物だ。
団体戦に出るのであれば、きっと手堅く勝利してくれることだろう。
「わ、私も出たいわ!」
と、そこでミナが手を挙げた。
彼女もミーミル勢との話し合いの場にいたとき、戦う気マンマンだったからな。
立候補するのは当然だろう。
「フッ……君が僕と一緒に団体戦に出てくれるというのであれば百人力だ! 是非そうしよう!」
「ま、まあ……団体戦といえど、実際には1人で戦うことになりますけどね……」
ミナがクロードに詰め寄られて、若干引いている。
誰か、この馬鹿を止めろ。
「ふむ……彼女を団体戦のメンバーに加えるのも悪くはないな」
アギトはミナの参加に肯定的であるようだ。
俺も同感だ。
ミナはもう、戦闘面において、俺たちと肩を並べられるほどの逸材だからな。
参加資格は十分ある。
「ふふっ、みんな、凄いやる気だね」
サクヤが、騒ぐみんなを見ながらクスッと笑った。
「お前は立候補しないのか?」
「私はいいよ。私より強い人なら、いっぱいいると思うから」
「そっか」
どうやら、サクヤは団体戦に参加する気がないようだ。
サクヤも強い部類に入るんだけどな。
だが、ミナやフィルと比べると、総合力で若干劣るか。
それに、一対一の決闘方式では、撃たれ弱い魔術師職は他の職より不利だからな。
参加しないのは無難か。
「ふむ……こうしてみると、誰を出すか悩むものだな。それに、こんなことをするとわかっていたら、セツナやノアといった連中も連れてくるべきだった」
アギトはみんなを見渡しながら呟いた。
確かに。
セツナやノアもいてくれれば、心強いことこの上なかったな。
2人とも、団体戦に参加してもおかしくないほど強いっていうのに。
遠征組に戦力を集中しすぎないよう配慮したのが裏目に出たか。
「別に、参加メンバーを今すぐ全員決める必要はないんじゃないか?」
ひとまず俺は、騒ぎ出したみんなに向けてそう言い、この場を収集しようとした。
「フッ、確かに君の言う通りだ。勝負の日まで、あと3日残されているわけだしね」
「なら、今日のところはこれで解散としよう。そろそろ就寝の時間だ」
クロードとアギトも同意してきた。
話し込んでいるうちに、結構夜も更けていたようだ。
早く寝ないと、宿を管理している人に怒られてしまう。
「明日は朝の8時からミーティングを行う。総員、寝坊はするなよ」
こうして、最後にアギトが締めの言葉を告げて、俺たちは解散した。
「……なかなか楽しそうにしてんじゃねえか、てめえら」
そんな俺たちを見ていたケンゴの口から、ポツリと呟き声が漏れてきた。
微笑んでいるケンゴの顔は、まさしく保護者のソレだった。