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ミーミル連合

 カザネと名乗るその女性は、自分が【ミーミル連合】のギルマスであると俺たちに言った。


「……頭、か」

「なんや。女がトップやからって、拍子抜けでもしたん?」

「いや、別にそういうことはないが」


 【ミーミル連合】のギルマスは女性だったんだな。

 このカザネという人物は、実質、最も多くのミーミル出身の地球人(プレイヤー)を束ねている立場にいるということになる。

 それほどまでに凄い人間なのだろうか。

 見た目からだけでは判断できない。


 ちなみに、国立異能開発大学付属第一高等学校といえば、異能管理局が運営する高等学校の1つだ。

 関西にあるらしく、関東にいる俺たちとの交流は、今までまったくなかった。


 また、アースでの活動領域も、俺たちはウルズ、第一高等学校勢はミーミルと、綺麗に分けられている。

 そうなるよう、俺たちの高校への入学時、あるいは編入時に、管理局が手を回したんだろう。


 なんにせよだ。

 名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが礼儀ってものだろう。


「俺のキャラネームは――」

「ああ、自分らの自己紹介はせんでもええで。そっちのイケメンクンはさっき会ったからいいとして……自分らはシン、ミナ、サクヤ言うんやろ? 知ってるで」

「!」


 俺たちのキャラネームを言い当てられた。


 ……こちら側の情報は調査済みってことか。

 侮らないほうが身のためかもしれない。


 ちなみに、イケメンクンとは、多分クロードのことを言っているんだろう。

 キザったらしいが、顔はいいんだよな、こいつ。


「……シン……なんだ、お前が《ビルドエラー》か……チッ、思ってたのよりちいせえな」


 大男が俺を見ながら、露骨な舌打ちをしてきた。


 う、うっせえよ。

 お前から見たら、ほとんどの人間が小さいだろうが。

 それに、俺は年代別の身長平均で見たら、高いほうだぞ。

 しかも、今なんで舌打ちした?

 喧嘩でも売られてるのか?


「俺のキャラネームはタケル。カザネと同じ3年で、【ミーミル連合】のなかでは一番のタンクだ」

「タンクか……」


 見た目からして、そうだとは思ったよ。

 アギトに匹敵する、そのガタイの良さは、明らかにタンク向きだからな。


 しかも、自分で一番のタンクだとも言っている。

 それが本当なのかどうかはわからないが、かなり度胸があることは間違いないだろう。


「私はクルルって言いまぁす! ピッチピチの高校1年生! よろしくぅ!」


 甘ったるい口調の少女も、俺たちに自己紹介をしてきた。

 ニコッと笑みを浮かべて愛想よくしているが、なんというか、お近づきになりたくない雰囲気だ。

 というか、ピッチピチって。

 それ、死語の部類じゃないか?


「…………」

「…………?」


 クルルと名乗った少女は、ミナのほうを向いて、一瞬嫌な顔をした。

 ……なんだ、今の?


「ミナ、お前ってあの子と知り合いだったりするのか?」

「え? うーん…………初対面の子だと思うけど……」

「そうか」


 よくわからないな。

 嫌な顔をしたのは、俺の見間違いか?


「ミサキとはすでに面識があるようやから、その分の自己紹介は省くとして――」

「って、なんでカザネ先輩がそのこと知ってるんっスか!」

「自分、ウチに隠し事できると思っとるん?」

「こわっ!?」


 どうやら、ミサキは自己紹介をしないようだ。

 多分、最初にアギトとクロードがここへ来たときにもやったんだろうな。

 なら、わざわざ俺やミナ、サクヤにもう1回やる必要はないか。

 どうやってカザネが俺たちとミサキのことを知ったのかまではわからないが。


「それで、ウチら側が紹介する最後の1人は――」

「…………」


 カザネの後ろに立つ集団は、全部で4人だ

 タケル、クルル、ミサキ、そして、今まで黙りこくっていた最後の1人はというと……。


「ずー……ずー……」

「今寝ているようやさかい、ウチが紹介するわ」


 ……立ったまま眠っていた。


 さっきから腕を組んだ状態で一言も話さなかったから、他の奴らとは違って寡黙な奴かなにかかと思ったんだが……寝てたのか。

 アギトが怒鳴り声とかあげてたのに、よく眠れるな……。


「この眠ってる子はソラ。2年生で、ウチらのメインタンクや」

「……なに?」


 メインタンクだと?

 一番のタンクと自称しているタケルのほうじゃなくて?

 どういうことだよ。


 ソラと呼ばれている男は、見た目は中肉中背の、普通の奴だ。

 髪に天パが入っていて、眠っていること以外、特に目立った特徴はない。

 いったい、どういった理由でメインタンクと評されるようになったんだ?


「……自己紹介は済んだか? なら、先ほどの話の続きを再開させてもらうぞ」


 苛立った様子のアギトがカザネを睨みつけた。


 そうだ。

 今は地下迷宮攻略の主導権をどうするかについてを話していたんだった。

 というか、なんでこのタイミングで自己紹介なんかしたんだよ。

 俺たちにとっては大変親切ではあったんだが。


「ん? 話はもう終わったんとちゃいますか?」

「…………ッ」


 アギトのこめかみにできた青筋が、もう1本増えた。


 なんていうか、アギトはこういう話し合いに向いてないんだろうな。

 交渉事では、【黒龍団】ではサブマスのセツナが補助をしていたみたいだし。

 ウルズでお留守番をさせず、彼女もミーミルにつれてくればよかったのに。


「……俺たちの話は、まだ終わってなどいない」

「と言われましてもなぁ……もちろん、地下迷宮の在り処を見つけてくれたことについては感謝してます。でも、地下迷宮の内部にあるモンを自分らに持ってかれるっちゅうんは、ウチらとしては見過ごせへんな」

「地下迷宮は貴様たちの所有物ではない。誰が攻略しようと自由なはずだ」

「自由やない。しょせん、自分らはヨソモンで、ミーミルはウチらのシマや。ウチらの許可なくして、自分らはこの町にすら留まれんで」

「……それは脅しのつもりか?」

「人聞き悪いわぁ。ウチはただ、モノの道理を説いてるだけですさかい、怖い言葉使わんといて」


 アギトとカザネは対立したままだ。


 【ミーミル連合】は、その気になれば、俺たちをここから追い出すこともできるのか。

 まあ確かに、俺たちがここにいられるのは、ミーミルに根を張る地球人(プレイヤー)の支援があってこそだ。

 もし支援が途切れたら、俺たちウルズ勢は今寝泊まりしている宿屋からも出ていかなければならない。


 寝る場所や食べ物くらいは金で解決できると思う。

 が、装備品の修理や消耗品の調達、各情報の収集速度など、あらゆる面でミーミル勢より劣ることになるはずだ。

 これは結構な痛手になる。


「ですが、そんなことを言うんでしたら、私たちは地下迷宮に行くためのルートをあなたたちに提供しませんよ? 海王様はあなたたちより私たちの側に立ってくださると思いますし、海に潜るためのアイテムの貸し出しも行わないということもできます」


 そこでサクヤが反論を出した。


 脅しには脅しをってとこか。

 いいぞサクヤ、もっとやれ。


「そもそも、今まで地下迷宮の在り処を突き止めることができずにいたあなたたちに、私たちにこんな仕打ちをする権利なんてないと思うんですが、カザネさんはどう思ってますか?」

「むぅ、それを言われると、ウチらもぐうの音も出ませんわぁ」


 サクヤの問いに、カザネは頭を悩ませるように眉をひそませ、それを指でなぞった。


「でも、迷宮っちゅう空間が限定された場所は、なにより周囲の人間の信頼関係が必要なところやと思うんや。自分ら、ウチらと一緒に迷宮んなか入って、背後から攻撃されるかもしれないとか思ったりはせえへんか?」


 すると、カザネはすぐさまそんなことを言いだした。

 それに対し、今度はアギトが眉をひそませた。


「攻撃だと……?」

「あくまでたとえ話や。で、どうなんや? ウチらに背後を見せても大丈夫やって、断言できる?」

「…………」


 アギトが返答を躊躇した。


 俺たちは、まだ会って数分といった仲だ。

 そんな人間を信用できるかというと、難しい。


 もちろん、こいつらが馬鹿な真似をしでかせば、管理局の人間が黙っちゃいない。

 だが、もしもミーミル勢が全員グルになって、地下迷宮内で俺たちを闇討ちしたら、事件の真相は闇に葬られるかもしれない。


 聞くところによると、ウルズ勢とミーミル勢は、仲があまり良くないらしい。

 それも加味したうえで、今のカザネの問いについて考えると、この場で『ハイ』とは言い難いな。


「地下迷宮は、ウルズのモンかミーミルのモンのどっちか一方が入って攻略するんが一番安全やと、ウチは思うんや」

「…………」


 カザネの言い分には、正しい部分もある。


 お互いに信用しきれていないのであれば、俺たちウルズ勢か、カザネたちミーミル勢、そのどちらかだけで地下迷宮を攻略したほうがいい。

 そして、どちらかが攻略するのが最も効率が良いかと言えば、ミーミル勢のほうに軍配が上がる。

 俺たちウルズ勢は、しょせん数十人単位の遠征組だからな。

 数千規模の連中に、物量で勝てるわけがない。


「……だからといって、納得などできるか」


 アギトが低い声でそう言い、カザネを睨んだ。


 俺も納得できない。

 こんなことで地下迷宮の攻略を断念するだなんて、できるわけがない。

 ふざけるなって感じだ。


「俺たちは強い。ウルズの地下迷宮の最深部まで攻略したメンバーだっている。やろうと思えば、俺たちだけでミーミルの地下迷宮を攻略することもできるだろう。それなのに、ここでオメオメとウルズに帰ることなど、できるものか」


 アギトの言う通りだ。

 俺たちは地下迷宮の攻略を諦めたりなんてしない。


「へえ……強い、か。でもよ、その強さって、どの程度のモンなんだろうな?」


 俺たちウルズ勢がミーミル勢を睨んでいると、タケルが唐突に、アギトへ向かって挑発めいたことを言いだした。


「ウルズでは強いほうだったのかもしれねえが、ミーミルでは弱いほうだったりするかもしれねえぜ?」

「……なにが言いたい?」


 すると、アギトはタケルへと視線を向け、互いに睨み合うような構図となった。


「俺はよ……前からウルズのタンクがどの程度のモンか試してみてえって、ずっと思ってたんだ。だから……いっちょ俺と手合せしてみねえか?」


 手合せだって?

 つまり、決闘か。


 どうやら、こいつらは俺たちの強さを見くびっているようだな。

 であれば、その間違った認識を正さないといけないだろう。


「特に俺は……アギト、お前と戦ってみてえ。どっちが最強のタンクか、白黒ハッキリつけようじゃねえか」


 ……あれ?

 俺は?


 タケルさん。

 俺もタンクですよ。

 無視しないでくださいよ。


「いいだろう。その勝負、受けて立ってやる」


 あの、アギトさん。

 ちゃんと俺のことも言ってやってくださいよ。

 2人の世界を構築してないでくださいよ。


 ……なんだよ、コノヤロウ。

 俺を除け者にして盛り上がりやがって。

 だったら俺が直接言ってやる。

 最強のタンクを決めるつもりなら、俺のことも忘れちゃ困るってな。


「さ――」

「ちょい待ちい、タケル。せっかくこの町に【ミーミル連合】の目ぼしい主力が揃ってんやから、自分らだけでやりあう言うんはもったいないで」


 ……と思って口を開こうとしたら、カザネのほうが若干早く、そんなことを言い出していた。

 こいつら嫌い。


「せやなあ……ちょうど、さっき自己紹介も済ませたことやし……今ここにいるウチら高校生メンバー5人と、自分らウルズの高校生メンバーから選抜した5人とで、団体戦でもしてみるってのはどうや? さっきの話であった、地下迷宮攻略の主導権を賭けて」


 団体戦か……。

 そういうことなら、俺にとっては悪くない話だ。

 こちら側から選抜するメンバーのなかに俺が入れば、こいつらミーミル勢に一泡吹かせてやることもできるんだからな。


「そういうことなら、俺も出るぞ。いいよな、アギト?

「シン……まあ、お前が戦うことは否定しないが……」


 アギトは、カザネの提案を受けるか受けまいか、悩んでいるようだ。


「このまま舐められっぱなしというのも、美しくありませんよね」

「私たちは負けません。やりましょう、アギト先輩」


 その様子を見たクロードとミナが、好戦的な発言で、後押しをしだした。


 お前たちも戦いたいのか。

 そりゃそうだよな。

 ここまでコケにされて、黙ってなんていられるもんかよ。


「しかし……地下迷宮攻略の主導権を賭けるというのは、俺たちだけで決めていいものでは――」

「なんや、ウルズの高校生は大人にお伺いを立てないとなにもできないお子様やったんか。それはえろうスンマヘンでしたなぁ。ウチらも随分と大人げないことしてしまいましたわぁ」

「グッ……!」


 カザネに煽られて、アギトが歯をギリッと噛みしめた。


「……これも、俺たちの実力をミーミルの連中にわからせる、いい機会か」


 どうやら、アギトも腹をくくったようだ。


「いいだろう。その喧嘩、受けて立つ」


 アギトはカザネのほうを向きなおして、団体戦を行うことを了承した。


 正直言うと、俺たちだけでこんなことを決めていいのかって感じではある。

 でも、要は勝てばいいんだ。

 勝てば、こんなくだらないイザコザも、綺麗さっぱり片付く。


 それに、俺たちはウルズのなかでもトップクラスの実力を持っている。

 ミーミルの連中に後れを取ることなど、ありえない。


「……ほな、この団体戦の勝敗で、地下迷宮攻略の主導権をどちらが握るか決めるってことで決まりやな……楽しみや」


 俺がそんなことを思っていると、カザネはそっと呟き、口元をニヤリと歪ませた。


 こうして、俺たちは【ミーミル連合】と争うこととなった。

 だが、これは俺たちに仕向けたカザネの罠であることを、後日に知ることとなった。

 ミーミル勢が、どれだけ油断ならない相手であったのか、ということも含めて。

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