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波紋

 冒険者ギルドから狩場の情報を得られなかった俺達は、その後結局町に住む住民の話を元にして手探りでの狩りを行った。


 そして再び始まりの町と同じく朝から晩までレべリングを毎日行い、そんな日々が数日経過してタイムリミットとなったため、俺達はウルズの泉に立ち寄って一旦ログアウトした。


 ちなみに今回の俺達のコースは24時間コースではなく普通にベッドの上に寝てログインする8時間コース、通称Bコースだ。

 Cコースについては学校にいる研究員連中が地球時間で一週間程検討や機材の再調整等をするらしい。


 まあ目立った問題というのも聞かないからCコースがなくなるという事はないだろう。


「なんにせよ、とりあえずレベル16にはなったな」


 今回は生命維持装置ではなく簡易ベッドを使用したログインであったため、すぐに集まる事ができた俺達は、学園の食堂で夕食をとりながらも先ほどまでの狩りを思い出して話をしていた。


「スイーヤの町でのレべリングも多分20辺りが限界だね」

「となると地球時間で今日から一、二週間くらいってところかなっ?」

「そう考えるとなんだか凄いスピードで町を移っていくわね……」

「まあ確かにな」


 ミナが少し驚いているが、地球での1日がアースでの24日になるのだからそう思うのも仕方がない。


「だがそれも今だけだ。レベルは後になればなるほど上げるのが難しくなる」


 俺はそう言いながら夕食であるラーメンを啜った。


 今はまだレベルが低いから上がりやすいが、いずれはアースで一ヶ月かけてもレベルが上がらないといったマゾい状況になってくるだろう。


「でもわりと早く20台に乗りそうだな……」


 前に早川先生のレベルを聞いた時24って答えていたからもっとレベル上げには苦労すると思ってたんだけど。


 レベルがわりと上がりやすいというのには文句なんてないが、早川先生はもしかしたら嘘をついたのかもしれないな。

 何のためにそんなことをしたのかよくわからないところであるが、今度もう一度聞いてみよう。


「ようお前ら……久しぶりじゃねえか」

「「「…………」」」


 と、そんな事を考えていたら、俺達のところへ見覚えのある連中が現れた。


「俺らの事、忘れちゃいねえよなあ?」

「……ああ、覚えてるぜ」


 その連中、ザイール達は俺達を見ながらヘラヘラと笑っていた。


 冒険者ギルドでの一件以来会ってはいなかったが、あそこでの印象は最悪だったのでよく覚えている。

 しかしこいつらはまだ言い足りないのか。


「何の用だ。俺達はもうお前達と関わる気なんて無いぞ」

「こっちとしてもそうしたいところなんだけどよ、その前にそこの女にはちゃんとケジメをつけてもらわなくちゃ俺の腹の虫が治まらねえんだよ」

「え? 私?」

「…………」


 なるほど。

 こいつらの目的はサク……日影か。


 まああの時ザイールは日影にボッコボコにされてたからな。

 恨みたくなる気持ちは理解できなくも無い。


「……それで? お前は腹の虫が治まらないからといってこいつに何をするつもりなんだ?」


 だが俺のパーティーメンバーに危害を加えさせるわけにはいかない。


 なので俺は日影の方に目を配りながらそう訊ねた。


「この女には俺と同じ目にあわせる。ちょっとぶん殴らせろ」

「おいおい……本気か?」


 ここはアースではなく地球だ。

 怪我を負ってもそんなすぐには回復できない。

 それに女を殴るとかこいつは正気で言っているのか。


「俺は本気だぜ。女だろうが子供だろうが俺を舐め腐った態度をとる奴は殴る。それでこそ平等ってもんだろ?」

「……ふーん」


 女子供もわけ隔てることなく接すると言ってしまえばそれは正しい事なのかも知れないが、こいつは性別や年齢による筋力の差だとかを考えたりしないのだろうか。


 暴力を振るえば通常体格の大きい男が勝つ。

 なら女子供に向ける暴力は不平等と言っていいものだろう。


「だったら俺を倒してからにするんだな。俺のパーティーメンバーには指一本触れさせねえ」

「シン様……」


 しかしそんな理屈を言ったところでこいつは納得なんてしたりしないだろう。


 だから俺は席を立ち、ザイールの目の前まで歩いていった。


「…………っ!」

「俺の相手はお前じゃねえよ。すっこんでろ」


 けれどそこで俺の体はいきなり宙に浮き始める。


 一体何が起こっているのかよくわからずに周囲へ視線を配ると、ザイールの奥にいる男が両の手の平を俺へ向けている姿が見えた。


「ひひっ……【念動力】、テレキネシスって言った方がわかりやすいか?」


 両手をこちらに向けている細身の男は口元をニヤリとさせながらそう言った。


 つまりこれがあの男の異能ということか。

 面倒な力だな。


「ほらよっ!」


 そしてその男は両手を振り、同時に俺の体も宙に浮いたまますばやく横へと移動し始めた。


 移動する先にあるものは食堂の壁。

 俺はその壁に向けて勢いよく叩きつけられ――る前に体を動かし、足からの着地に成功する。


「よっと」


 壁へと足をつけた俺は更に横へステップすると、その異能の効果範囲を振り切ったのか床へと着地する事ができた。


「な……」

「いきなり異能を使うなんて校則違反だろ」


 異能アビリティを使用したらしき細身の男が驚愕しているのを見つつ、俺は学園規則を頭の中で思い起こしていた。


 異能者アビリティストは基本的にその力を自由に扱う事を禁じられている。

 なぜならその力が世界中の人々から危険視されているからだ。

 何も無いところから火や水を生み出したり、こいつらみたいに空気成分を変えたり念動力を使えたりする人間が恐れられない訳がないからな。


 また、それは学園内部でも同じ事が言える。

 大して目立つ事もないアビリティであるならスルーされるが、今回のように大人数が見ている前で使うのはルール違反だ。


 というかこれは普通に暴行罪だろ。

 何を考えているんだこいつらは。


「ふん……俺達はお前達に格の違いを教えてやってるだけさ」

「それにそんな校則は無能者が勝手に作ったものだろ」

「あいつらの勝手な理屈のせいで本当なら自由だった俺達は窮屈な思いをしてんだ。お前だってそう思うだろう?」

「…………」


 こいつらの言っている事は俺にも一定の理解がある。


 俺がそうであったように、多分こいつらも異能を発現した今までの三年間は息苦しい日々だったんだろう。


「しかしだからといって俺達が自分の力を好きに行使していいわけじゃない。俺にはお前達が子供のように駄々をこねているようにしか見えないな」

「……てめえ」


 けれど俺はこいつらに同情なんてしないし共感もしない。

 今こいつらがやっていることが正当化されるわけじゃないんだからな。


「いいぜ……なら女の前にまずはお前から潰してやるよ」

「泣いて土下座するまで許してやらねえからな」

「これは《力ある者》の聖戦だ……ひひっ!」


 どうやらこいつらは完全に標的を俺に変えたようだ。

 そのほうが俺としても楽だからいいけど。


 にしても最後の奴はやけに中二っぽい事言ってるな。

 自分の力に酔い過ぎちゃいないか?



「あーはいはい、お前らその辺にしとけー。ぶっ殺しちゃうぞー」

「「「…………」」」



 と、俺達が戦闘意欲に満ち溢れているところにそんな声が聞こえてきた。


 俺達がその声のした方を振り向くと、そこには赤のジャージを着た女性がスティックキャンディーを口にくわえてぼりぼりと頭を掻いている姿があった。


財津ざいつー、またお前かー。あんま先生動かすなって言ってんだろー? 先生舐めてんのかー? あーん?」

「し、進藤先生……」


 進藤先生。

 ザイールは目の前に現れた女性を見ながら後ずさっている。


 そういえばこいつはキャラネームしか知らなかったが、財津っていうんだな。

 苗字からキャラネームを連想してつけたんだろうか。


 ゲーム開始初日にログインしていなかった人間は自分の名前と関連付けてキャラネームをつける場合が多いみたいなのだが、もしかしたらコイツもその類か。


「……ちっ、今はとりあえず引いてやるよ。次会ったらただじゃおかねえからな」


 そんな事を思っていると、ザイール改め財津とその仲間達は俺達の下からかけ足で去っていった。


「あー逃げやがった。めんどくせー奴だなホント」

「…………」


 こうして食堂には俺達とさっきまでのやり取りを遠目で見ていた他の生徒達、それに1人の女教師が残った。


「……お前、前に会った時は家事手伝いとか言ってなかったか、マーニャン?」

「まーそうだったんだけどよー、大学行ってた時に教員免許は一応取ってたもんで、採用されちった」

「へえ……」


 そして俺は目の前にいる女教師にタメ口で声をかけた。


 こいつの顔は前に見た事がある。

 クロクロのサービス開始日に俺がアースで出会った廃ゲーマーの1人だ。


「つってもあたし教師なんて全然向いてねーし。マジ無理ゲーだわー」

「…………」


 彼女が教師とは世も末だ。

 『FO』内では《不動の女》とか《サディスティックプリースト》なんていう異名を持つ『マーニャンミ☆』の素性についてはあまり深く詮索したりする事もなかったが、それでも彼女が教師なんて立場につくのは色々間違っていると思わざるを得ない。


「一応あたしは副担任って事にしてもらってるからまだマシな方なんだろうけどなー」

「……そうかよ」


 副担任というのはおそらく高等科1年1組の、ということなのだろう。

 じゃないと財津達がこの人を見てビビるという事もないからな。


「というか教師してたんなら俺のところにも顔見せに来てもよかっただろ」

「ん? なんだ? シンってばもしかしてあたしに気があんのかー?」

「そういうことじゃねえよ」


 アース内で一度連絡したっていうのにこいつはフィルを通して以外のアプローチをしてこなかったし、この学校で教師をしているという情報も教えてはくれなかった。

 別に俺はマーニャンからどう思われていようと気にしないが、知人が身近にいたのに軽くスルーされていたのだと思って少しモヤっとした感情を抱いてしまっても普通だろ。


「まあまあ、それについては勘弁してくれって。その分あんたにはそれなりにフィルを通じていくつか装備アイテム回してやったりしたんだからさー」

「確かにそうなんだけどさ」


 しかしまたなんでそんなまどろっこしい事を。

 相変わらずこいつの考えている事は読みづらい。


「んで、さっき財津達となんかバトりそうな雰囲気だったじゃん? お前らあんまあたしらを動かすような真似すんなよ、めんどくさいんだから」

「生徒間のいざこざを止めるのは教師の役目だと思うが……めんどくさいとか本音を出すなよ」

「どうせセンコーなんて皆そんなもんだろー」

「…………」


 教師なんてそんなもん、というのについては俺も同意したいところなのだが、中には真面目に情熱を持って頑張っている教師もいるだろう。

 全部をお前と一緒にするなよ。


「んじゃまたどっかで会おうぜ、《スキルブレイカー》。……いや今は《ビルドエラー》か」


 俺が呆れた様子でマーニャンを見ていると、彼女はひらひら手を振って去っていった。


 そうして俺達は1組の財津一派から目の仇にされている事を知ったのだった。

 これからどうなることやらだ、まったく。

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