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海の戦い

 魚人族が攻撃を仕掛けてきたので、俺たちはそれに応戦し始めた。


 水中を自在に泳ぐ魚人族との戦いは、地上での戦いに置き換えると、空を飛ぶモンスターと戦闘する感覚に近い。

 『水棲の加護』を得ているおかげで、俺たちは地上とほぼ同じ感覚で動くことができるようになっているものの、それでも地の利で若干不利と言える。


「『アイスボール』! 『クレイボール』!」

「『ハイスラッシュ』!」

「『トルネードキック』っ!」


 とはいえ、こちらは全員精鋭だ。

 魚人族の一兵隊に後れを取るようなこともない。

 みんな、互角以上の戦いができている。


「『フレイムアロー』! ……やっぱり、水中だと炎系の攻撃はつらいね」


 しかし、サクヤのように、炎魔法をメインに置いた戦いをするメンバーにとっては、この環境はかなり厳しいようだ。

 攻撃は届くのだが、地上で放つものより格段に弱い。


 炎以外の魔法で戦うこともできるが、サクヤを今回のメンバーに加えたのは、ちょっと失敗だったか……?


「オラァ! くらえ! 『レールガ……あががががががが!?」

「うぎゃああああああああああああああああ!?」


 ……それに、電系の攻撃を仕掛ける白崎も、水中ではかなり危ないことになっているようだ。

 『電磁砲(レールガン)』を撃とうとしたんだろうが、電気が水を伝播して、白崎の周りにいた連中が敵味方問わず感電している。

 あいつの場合、前に俺のパーティーから抜けるのを嫌がったことがあるから、今回は特になにも言わず連れてきた。

 が、これも明らかに失敗だろう。


 ちょっと事前調査が甘すぎたな。

 詳しく予行演習をするってわけにもいかなかったから、多少荒が出るのはしょうがないと思ってたんだが。

 『水棲の加護』でなんでも解決するってわけでもないってことだな。


 まあいい。

 サクヤや白崎が思うように機能しなくても、その分、俺が活躍すればいいだけのことだ。


「ガルディア! あそこに突っ込め!」

「ガルガルッ!」


 俺はガルディアに指示を飛ばし、魚人族の群れがあるところに走らせた。


「我々の懐にそんな少人数で飛び込んでくるとは、命知らずだな! 貴様!」


 魚人族の兵隊の1人が怒鳴り声を上げた。

 同時に、周りにいる魚人族全員が武器を構え、俺たちを取り囲むような陣形を取って一斉に飛びかかってきた。


 なかなか統率が取れているな。

 これなら、ほぼ同じタイミングで、俺たちに攻撃が集中することだろう。

 ――だが、それがお前たちにとって、致命的なミスとなりうる。


「『ヒーリング』!」

「な!? ぐ、あぁ!」

「がぁ!? はっ!?」

「ぎぃ!?」


 大量の魚人族が間合いに入ってきたのを見計らって、俺は範囲回復魔法を唱えた。

 もちろん、これはダメージヒールだ。


 バンたちやガルディアにも、あらかじめ死霊装備を身に着けさせている。

 ガルディアの場合は、サイズ的に死霊の腕輪が指輪みたいな感じになっているけど、ちゃんと機能しているようだ。


 結果、魚人族の集団のうち十数人ほどが瀕死状態になった。

 どうやら、『ヒーリング』で十分そうだな。

 むしろ、生かさず殺さずの塩梅で、ちょうどいい感じだ。


「シャーオラー! シンだけに手柄は渡さねえぜ! 『マッハパンチ』!」

「アタシらも暴れさせてもらうよ! ウラァ!」


 戦える状態の敵の数が少なくなったとはいえ、まだまだおかわりはたくさんある。

 そんなおかわりへ向けて、ガルディアから降りたバンとメリーが攻撃を開始した。


「……おお」


 2人とも、以前にパーティーを組んでいたときより、技に磨きがかかっているようだ。

 バンは籠手で、メリーは巨大ハンマーで、魚人族を次々に戦闘不能状態へ追いやっている。

 その姿は、他の高レベル連中と引けを取らない。


「俺も……行きます。シンさん、気をつけて」

「ああ、お前も気をつけてくれよ」

「ん」


 バンたちに触発されたか、フィルもガルディアから降りて、魚人族と本格的な戦闘を始めた。


 バンもメリーもフィルも近接型だからな。

 戦うときは、どうしてもガルディアから降りなきゃならない。


 でも、サクヤは遠距離攻撃型だから、ガルディアに乗りながらでも攻撃ができる。


「私はあんまり火力出せそうにないから、味方の補助に徹するよ」

「ああ、そうしてくれ」


 サクヤは遠距離攻撃魔法を駆使し、近くで劣勢になっていた味方がいるところの魚人族を牽制したり、目くらましを行い始めていた。

 自分にできることを素早く捜して、それを実行に移す様は、さすがサクヤとしか言いようがない。


「よし、それじゃあ、またその辺の魚人族の群れに突っ込んで、一網打尽にするぞ!」

「ガルガルッ!」


 こうしちゃいられない。

 俺も、みんなに負けないくらい、この戦場で暴れまくってやる。


 そう思った俺は、ガルディアに乗ったまま、サクヤと一緒に戦場を駆けまわることにした。






 戦っている最中、俺は敵だけでなく味方にも注意を向けていた。


「……ん? あれは……」


 特に、ちょっと気になる集団があった。

 なので、俺はその集団の様子を見るため、そいつらに近づいてみることにした。


「余は雑兵と戦う気などない。露払いはそなたらに任せたぞ」

「ハハッ! 龍王様の仰せのままに!」

「魚人族など、我らの前では赤子同然!」

「龍王様に指一本触れさせはしませぬ!」


 俺たちと行動をともにしているアース人集団は、今もいつも通りのノリでいるようだ。


 獣化したガルディナの背に乗った火焔が三馬鹿を顎で使い、近づいてくる魚人族を返り討ちにしている。

 なんだかんだで、あの三馬鹿連中も役に立ってるな。

 それに……。


「『我が身に宿りしマナを贄とし……魔の理を以って、樹木の活性を促さん……『ウッドバインド』」

「うぐッ!? か、体が……!」

「さすがはエレナ嬢! 良い働きです!」


 三馬鹿に混じって、エレナが魔術を駆使して魚人族と戦っている。

 彼女は手に持っていた植物の種らしきものを成長させ、それで魚人族の行動を阻害していた。


 精霊王から、彼女はもう十分強くなったというお墨付きを貰ってはいたけど、それは本当だったようだ。

 俺たち地球人(プレイヤー)ほどの派手さはないものの、堅実な戦い方で、戦える魚人族の数をジワジワと減らしている。

 この分なら、わざわざ俺たちが手を貸すまでもないな。

 他のところに行くか。


「お、おお! し、シン殿! 我の身を案じて来てくれたのだな!」 


 と思っていたところで、火焔に抱きかかえられて委縮しているクレールが、俺に声をかけてきた。

 その状態は、クレールにとって不本意なものっぽいけど、面白いからこのままにしておこう。


「クレールよ。そなたは余と高みの見物をするのが、そんなに嫌か?」

「い、嫌というかなんというか……そもそも、なんで我が貴様にだっこされなくてはならぬのか……」

「こうしなければ2人で座れぬのだから、致し方あるまい」

「ぐぅ……」


 クレールの奴、借りてきた猫のように大人しくなっちゃってるな。

 滅茶苦茶居心地悪そうだ。


「そっちは大丈夫そうだな。じゃあ、俺たちは向こうに行ってくる」

「あぁ! し、シン殿ー!!!」


 背後から助けを呼ぶような声が聞こえてくるが、気にしないでおこう。

 今は戦闘に集中しないとっ。






 俺たちと魚人族の戦いが始まってから、数十分程度が経過した。

 その間に、俺たちは100人規模で勝負を仕掛けてきた魚人族すべてを返り討ちにした。


 これは事前に予想していた通りの結果だが、楽勝だった。

 『水棲の加護』を得て、水中でも地上とほぼ変わらない動きが可能になった精鋭の俺たちに、魚人族は歯が立たなかった。

 あちらも精鋭で固めていれば、多少は違いも出たかもしれない。

 が、その辺から急いでかき集めてきた100人ぽっちの兵隊では、俺たちを止めることはできなかった。


「こうもあっさり上手くいっちまうとはねえ」

「『水棲の加護』様様だな」


 メリーとバンが、この結果を見て、そんな感想を漏らしていた。


 2人とも、ミーミル出身の地球人だからな。

 今まで散々負け続けた魚人族相手に圧勝したんだから、なにも思わないなんてことはないだろう。


「……さてと、んじゃあ、どうすっかね」


 魚人族の群れは、十数人ほどが俺たちに拘束され、そいつら以外は全員撤退していった。

 その様子を見ながら、ケンゴは自分が捕まえた1人の魚人族に声をかけた。


「おい、てめえがこの集団のリーダーだな?」

「……ああ、その通りだが?」


 どうやら、ケンゴは敵の指揮官を生け捕りにしていたようだ。

 一番の大手柄を取ったのはこいつだったわけか。


「これで、俺らの強さもわかっただろ? だから、俺らが海で活動するの、見逃しちゃくれねえかな。なにも、俺らはてめえらに危害を加えたいわけじゃねえんだ」

「それは駄目だ。海は我々魚人族の物なのだからな」


 ケンゴの提案に、魚人族の指揮官は首を振った。


「地上の者は排除するのが魚人族の掟。これからも、我々は貴様たちを排除するべく動く。今も、我々の同士が援軍を呼び続けている。次は今回よりもさらに多くの同士が貴様たちを襲うだろう」


 ……強情だな。

 それだけ俺たちのことが信用ならないって思われているのかもしれないが、もうちょっとこう、お互いの妥協点を探れないのだろうか。


「ラチが明かねえな……もうめんどくせえから、てめえらの親分がどこにいんのか教えろ。俺が直接言ってやる」

「お、親玉……だと……」

「海王に会わせろって言ってんだ」

「な……」


 ケンゴの物言いに、捕まった魚人族が全員絶句していた。


 なるほど、海王か。

 確かに、ケンゴの言う通り、こうなったら海王と直接交渉したほうがいいかもしれない。


「海王様は……この広大な海の支配者であり、最も強いお方だぞ?」

「おう、知ってるぜ。だから、俺がそいつを倒して、こっちの要求を呑ませる」


 あいかわらずだな、ケンゴの奴。

 そんな簡単に海王を倒すとか言っちゃっていいのかよ。


 ……といっても、ケンゴがそんじょそこらの奴に負けるとも思えないんだけどな。


「まさか、その海王様ってのが俺に負けるかもしれないから、ビビッて居場所を教えられないか?」

「そ、そのようなことはない!」

「じゃあ、居場所を吐いたら殺される、とかか?」

「……いや、そういうこともないだろう。現海王様は、これまで逃げも隠れもせず、敵を返り討ちにしてきたお方であるからな」

「なら教えてくれよ」

「ぐ……」


 海王というのがどれほど強いのか、俺にはわからない。

 が、少なくともケンゴは勝つ気でいるようだ。

 でなければ、ここまで強気の姿勢ではいられないだろう。


「……わかった。海王様の居場所を教えよう」

「よっしゃ」


 魚人族の指揮官は、観念したというように、俺たちに海王の居場所を教えてくれた。


「……こっからだと、片道で最短1ヶ月くらいかかりそうだな」


 海王の居場所は、ウルズ大陸とミーミル大陸のほぼ中間地点にあるという、とある深海に住んでいるようだった。


 かなり遠い場所にあるな。

 このまま、魚人族が攻撃を仕掛けてくるたびに撃退するのと、海王に会って話をつけるのでは、はたしてどちらが効率的か……。


 それに、この男が嘘をついている可能性もある。

 もしかしたら、今言ったその場所は、俺たちを罠にハメるための所、ということもありうる。


「フン、仕方がないな。余がこの者のイメージを取り込んで、海王の住む場所まで送ってやろう」


 と思ったが、こちらには心強い助っ人がいたんだった。

 火焔が送ってくれるなら、なんの問題もないな。


「この男が嘘をついている可能性もあるから、イメージを取り込むときは、その辺も気をつけてくれ」

「言われるまでもない」


 『空間接続』を使えば、遠い場所へも一瞬で行くことができる。


 そして、俺たちが行こうとしている場所に海王が本当にいるのかどうかについても、火焔に任せれば解決するだろう。

 どうも彼女は、対象者に触れることで、頭のなかに浮かんだイメージを読み取ることができるみたいだからな。

 魚人族が嘘をついていれば、それはイメージにも影響を与えることになるはずだ。


「ちなみに、これもクロスへの貸しってことか?」

「もちろん。あやつへの貸しは、多ければ多いほどいい」


 心強い助っ人である龍王の火焔さんは、そこでニヤリと笑みを浮かべた。

 この人が笑うと、ちょっと怖いな。

 未だに頭を撫でられているクレールも、かなりビクビクしている。


「うっしゃ、そんじゃあ龍王様が協力してくれるみてえだし、いっちょ海王様のところへお邪魔しにいくか」

「そうだな」


 こうして俺たちは、より安全に海中探索を進めるべく、海王へ直接話をつけることにしたのだった。

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