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海のなかへ

 俺たちは1週間ぶりにフルールの大使館を訪れ、ケンゴたちに『水棲の加護』が付与された装備品を調達してきたことを説明した。

 すると、あっという間に海中探索チームが結成されることになった。

 総勢38名という、レイドをも超える大パーティーだ。


 どうやら、俺たちが持ってきた30個+3の装備品によるものとは別にして、海に潜れる地球人(プレイヤー)が何人かついてくるようだ。

 以前から独自に『水棲の加護』付きの装備品を手に入れていたラッキーな奴や、海賊職から派生した上位ジョブの連中だな。

 魚人族に対抗するためには、こちらもなるべく人数多めで動くのが望ましいため、これはありがたい。


 そして、この海中探索チームには、ウルズ勢とミーミル勢、その両方の勢力が入っている。

 ウルズ勢のほうが多いものの、どちらか一方だけ、ということはない。


 こうしたウルズミーミル混合チームの集団が結成された3日後。

 地下迷宮を行うため、俺たちは海のなかへと足を踏み入れた。


 『水棲の加護』のおかげで、水中でも呼吸ができる。

 それに、海底にしっかりと足がつく。

 動きに若干の抵抗感があるものの、これならほぼいつも通りの動きができるだろう。

 まあ、この辺りは事前にチェック済みの事柄ではあるが。


「……まさか、ガルディアの奴が、こんなに大きくなっちまってるとはな」


 そんな海中の探索を始めてから、少し経った頃。

 俺の隣にいたバンが、ガルディアを見ながら呟いた。


「ああ、俺も驚いてる」


 大きくなったというのは、そのまんまの意味だ。


 俺やバン、それにメリー、フィル、サクヤの5人は、獣化したガルディアの背に乗って、海中を移動している。

 それだけの人数を悠々と乗せられるほどの広さがあったからだ。


 今のガルディアは、お座りの状態でも、俺たちより遥かにデカい。

 成人したらこんなに大きくなるだなんて、知らなかった。


「こりゃあ快適だね。さすがは獣王代理だよ」

「ガルガルッ!」


 昔は締まりのなかった鳴き声も、今となっては凛々しく聞こえる。

 あんなちっちゃかった子がここまで成長するなんて、感慨深いな。

 ちょっと大きくなりすぎだろ、と思わなくもないが。


「……にしてもよ。俺らも海中調査隊に混じらしてもらっちまって、ホントに良かったのかよ? シン?」


 バンからヒソヒソと声をかけられた。 


 こいつと、それにメリーも、今回の探索に参加してもらっている。

 メンバー選出の際、俺がこいつらを推薦したら、あっさりと審査を通って、そうなった。

 海中探索に必要な装備品を大量に仕入れてきたから、俺たちの発言権が一番デカかったってことなんだろう。


 とはいえだ。


「さあ? いいんじゃないか?」


 バンもメリーも、決して弱くない。

 レベルは2人とも99らしいし、十分、俺たちの戦いについてこれる。


「なんか、漁夫の利してるみたいで、ちょっと気が引けるねえ……このチームの平均レベルは103らしいし」

「平均レベルよりちょっと低いくらい、どうってことないだろ?」

「まあ、確かにそうかもしれないけど……」


 メリーまで、若干気弱なことを口にしている。


 らしくないな、2人とも。

 俺のコネで今回の探索チームに入れたと思って、委縮しているみたいだ。


「俺は別に、お前たちと仲が良いから探索チームに推薦したわけじゃないぞ?」


 バンとメリーは強い。

 決して足手まといになるような奴らじゃない。

 そう確信しているからこそ、俺はこいつらを推薦したんだ。


「でも、【ミーミル連合】の主力を差し置いてアタシらが参加するのは、やっぱりちょっと気後れするかな」

「【ミーミル連合】?」

「アタシらも所属している、ミーミル大陸で1番大きいギルドの名前だよ」


 そんなのがあるのか。

 ミーミル勢についてはあんまり情報が入ってこなかったから、俺も初めて知った。


「その【ミーミル連合】の主力っていうのは、どんな奴らなんだ?」


 興味本位で、俺はメリーたちに訊いてみることにした。


「【ミーミル連合】の主力層は、だいたいが高校生だよ」

「高校生……俺と似た年の奴らが主力か」

「そうなるね。ウルズではどうなのか知らないけど、ミーミルで1番勢いのある層は高校生組なんだ」

「大学生組とか社会人組を差し置いて?」

「だね。今回はどういうわけか、高校生組からは1人も参加してないみたいだけど」

「ほほう……」


 メンバー選出の際、ミーミル勢を意図的にハブるようなことはなかった(というか、俺がそういうことをしないでくれとケンゴに頼んだ)から、そいつらの不参加は自主的なもののはずだ。


 機会があれば会ってみたいな。

 今回の調査隊に入ってないってのは残念だが、どんな奴らか見てみたいところだ。


「……ま、その話は脇に置いといでだ。せっかく俺らを推薦してくれたんだから、ここらで気持ちを切り替えて、地下迷宮の発見に尽力しようや、メリー」


 と、俺がまだ見ぬライバル候補たちを思って胸を高鳴らせていたら、バンが話題の軌道修正をしてきた。


 さっきの、コネっぽくて云々の話に戻ったみたいだな。

 この様子なら、バンも、ようやくその気になったってことか。


「ああ、そうだね。またシンがアタシらを頼りにしてくれたんだって思うことにするよ」

「その意気だ、2人とも」


 やる気を出してくれたほうが、誘った身としても嬉しい。

 こいつらには張り切って探索をしてもらいたいな。


「…………! 5分後、早速俺らのとこに魚人族がくるぜ!」


 そんなやりとりをしていたら、俺たちの先頭を進んでいたケンゴが大声を張り上げた。


 5分後か。

 『未来予知』で、そうなることを見たんだろうな。

 いつ戦闘になってもいいよう、気を引き締めよう。


 ちなみに、ケンゴは獣化したガルシアの背に1人で乗っている。

 今のガルシアは、昔のガルディアが若干小さくなったような体格なので、1人乗りが限界だ。

 でも、俺たちのなかでも最強クラスのアタッカーであるケンゴをフル活用するには、最高の逸材と言える。


 戦いになったら、盛大に戦場を駆けまわってもらおう。

 リーダーが最前線に立つなよとツッコミを入れたくもなるけど、まあ、ケンゴだからな。


 ちなみに、ガルディア、ガルシアときて、ガルディナはどうしたのかというと、彼女は火焔とクレールを乗せていたりする。

 火焔は俺たちの後方にいるだけで、探索や戦闘へは参加しないらしい。

 俺たちに同行したのは、海中の眺めを満喫するためのようだ。


 呑気なものだが、あいつには俺たちも沢山助けられている。

 これくらいのことには目を瞑ろう。


「…………ムムッ! 敵襲でござる!」


 斥候役として俺たちの周りを見まわっていたいたカタールから、そんな連絡が入った。

 魚人族がすぐ近くまで来ているようだな。


「あ、いた」


 ケンゴの予告通り、5分後には魚人族らしき姿が現れた。


 魚人族は人の形をしているが、ヒレがあったりウロコがあったりで、皮膚も水色だったりする。

 呼吸も基本はエラ呼吸らしいので、俺たちとは体の作りが結構違うようだ。


 そんな魚人族が10人ほど、俺たちに近づこうとしている。

 といっても、それはまだ、ギリギリ目視できるってほどの距離までだった。

 俺たちのほうになかなか近づいてこないあたり、どうやらこちらの様子を探っているっぽいな。


「ありゃ」


 俺が今の状況の分析を行っていると、魚人族の群れはアッサリと引き返し始めた。


「……? 帰っていき……ましたね」


 フィルが頭に疑問符を浮かべるような表情をしている。

 魚人族の行動が不可解だと感じているんだろう。


「多分、仲間を呼びにいったんだよ。私たちと戦うには人数が足りないと思って」

「……なるほど」


 その疑問にはサクヤが答えた。

 すると、フィルも腑に落ちたのか、眉間に寄せたシワが消えてなくなった。


 俺も、サクヤと同じことを考えていた。

 魚人族側からすれば、海の生物じゃない俺たちなんて簡単に潰せると思っているだろう。

 だが、それでも人数差が4倍はある。

 念には念を入れて、俺たちと同等か、それ以上の頭数が揃うまで、下手な攻撃は仕掛けない……てとこか。


「何気に、魚人族の兵隊の質は良さそうだな」


 地の利だけを生かして無茶なことをする、というようなことはしでかさない。

 さっきまで近くにいた魚人族は、海のなかであっても決して油断することなく、俺たちを確実に排除するつもりのようだ。


「お前ら! さっきの奴らはただの斥候だ! 俺らにビビって逃げ出したとか、間違ってもそう思うんじゃねえぞ!」


 ケンゴも、俺たちが油断しないよう喝を入れている。

 こりゃあ、警戒レベルをもう一段階上げる必要があるかもだ。


 そうした出来事があってから、さらに30分が経過した。

 俺たちはその間、移動だけでなく、襲ってくる海のモンスターと戦ったりもしていた。


 当たり前ではあるが、その短い時間で地下迷宮を発見することはできなかった。

 この広い海のなかから地下迷宮を見つけるには、まだ相当な時間を要することになるだろう。


「! とうとう来たぜ! 魚人族の大群が!」


 ケンゴが叫んだ。

 その内容は、俺たちが立てた、先ほどの予想通りのものだった。


 魚人族の大群が来る。

 これは、向こうもそれなりに本気だということなんだろう。


「……いいぜ。何匹来ようが、全員ブチのめしてやる」

「アタシらの実力を見せてやるよ!」


 バンやメリーの戦意は高い。

 もちろん、俺や、他のメンバーもだ。


 どこからでもかかってこい、魚人族。

 俺たちは海の底に足をつけて戦うのに対し、お前たちは水中を自在に泳いで攻撃してくるだろうが、それでも負けないからな。


「…………!」


 ケンゴの警告からさらに5分が経過した頃、ついに魚人族の大群が姿を現した。


 ざっと見て、100人以上はいそうだ。

 このあたりにいた魚人族の兵隊を片っ端からかき集めてきたんだろう。


「一応言っとくが、俺らの目的は、あくまで地下迷宮の探索だ。魚人族との戦争じゃねえ」


 魚人族の大群が近づいてくるのを見ながら、ケンゴが俺たちにオーダーを出した。


「やむを得ずって場合はもちろんあるだろうが、極力、殺しはしねえ方針で戦え。あいつらには、俺らの実力を見せつけるだけでいい」


 ケンゴの言う通りだ。

 俺たちが海に潜ったのは、地下迷宮の探索が目的である。

 魚人族との戦闘は、そのついででしかない。


 戦いを避けられるのなら、できるだけ避けていきたい。

 禍根が残って、迷宮攻略をしつこく邪魔されるようになることは避けたいからな。


 ならば、俺たちにとって、不殺勝利こそが最善の結果と言えるだろう。

 そして、その結果を出すことは、今の俺たちにとって、そこまで難しい話ではない。


「水中でも地上と同じように戦えるようになった俺らの強さ、存分に見せつけてやれ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 場の空気も盛り上がってきた。

 さて……それじゃあ、俺たちも戦闘態勢に入ろう。


「さあ、行くぜ! 魚人族! これが俺らの力だ!」


 そうして俺たちは、迫りくる魚人族の大群との戦闘を開始した。

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