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良い人

 アルフヘイムに来てから1週間が経過した。

 それはすなわち、精霊王と約束した期日がやってきたということでもある。


 なので俺たちは、例の物を貰うことと、お別れの言葉を告げるために、精霊王のもとを訪れた。


「1週間と言わず、1ヶ月くらいここにいてくれる条件にすればよかったわね」


 精霊王が若干眉を下げつつ呟いた。


 そんなにクレールと別れるのが寂しいか。

 この1週間も、ずっと一緒にいたみたいだし。


「なんだったら、クレールだけでも置いていきましょうか」

「!? し、シン殿は我を置いていくつもりか! 我はシン殿から絶対離れぬぞ!」

「じょ、冗談だよ」


 クレールは滅茶苦茶ビックリしたような顔をしていた。


 そういう選択肢もアリかと思ったんだが、クレール的にはナシだったようだ。

 まあ、俺の傍にいたいというクレールの気持ちは、素直に嬉しい。

 ただ単に、精霊王のところにい続けるのが嫌なだけかもしれないが。


「そ、それより精霊王、例の物は?」

「用意できてるわよ~。はい、どうぞ」


 気を取り直して催促すると、精霊王は様々な形の装備品を空中に出現させ、地面にゆっくりと落としていった。


 装備品は、ざっと見て30個はありそうだ。

 これらすべてに、例の『水棲の加護』が付与されているのだろう。

 本当に1週間で物を揃えてくるとは、さすがは精霊王様だな。


「あと、これは保険として作ってみた品なんだけど、受け取ってくれる?」

「?」


 今出てきた装備品とは別にして、精霊王が俺に直接、3つの指輪を渡してきた。


 なんだこれ?

 他の物とは違う特殊効果でも付与されているのか?


「この指輪は個人にじゃなくて、周囲3メートル以内にいる生物全員に『水棲の加護』が付く装備品よ。便利でしょ」

「な……周囲に……?」


 精霊王さん、マジパねえ。

 この1週間でどれだけの物を作りだしてるんだ。

 期待以上のことをしてくださりやがったぞ。


「水中で、もしものことがあったら大変でしょ?」

「ま、まあ、確かに……ありがとうございます、精霊王。こんな物まで作ってもらっちゃって」

「うふふ、いいのよ。その代わり……イデア様のこと、よろしく頼むわね?」


 俺が頭を下げると、精霊王は優しく微笑んだ。


 イデアとは、創造神『イデア・フルール』のことか。

 つまり、俺たちにいろいろ便宜を図ったのだから、ちゃんと地下迷宮を攻略して、神様を助けなさいよ、ということだな。


 言われるまでもない。

 その願い、俺たちがしっかりと叶えてやる。


「はい、わかりました。俺たちに任せてください」


 俺は精霊王にそう言い、『水棲の加護』が付与された装備品をすべてアイテムボックスに収めた。


「それじゃあ、俺たちはもう行きます。なにからなにまで、本当にありがとうございました」

「また時間ができたら遊びにいらっしゃい。もちろん、クレールを連れてね!」

「わかってますよ。な? クレール」

「う、うむ……まあ、アリアスがどうしてもと言うのであれば、また来てやろう! フッハッハッハッハッ!」


 そして俺たちは、その後にささやかなお別れ会を行い、精霊王のいるアルフヘイムを去った。






「精霊王様って、良い人だったねっ!」


 火焔によって『フルール』の町へと戻ってきたところで、マイが俺に明るく話しかけてきた。


「良い人……そうだな。すごく良い人だ」


 精霊王は、いつだって俺たちを暖かく迎え入れてくれた。

 それは、俺たちが精霊族の害になるような人間じゃないから、近隣の村のピンチを救ってくれたから、クレールの友人であるから、という理由もあるだろう。

 けど、一番の理由は、精霊王の人柄が良かったから、ということに尽きるだろう。


「アルフヘイムでは、精霊王と仲良さそうにしてたよな、マイ?」

「うんっ!」


 波長が合うとかなんとかで、マイと精霊王はこの1週間、ずいぶんと楽しそうに会話しているのをよく見かけた。


 お互いにフレンドリーな性格であるとはいえ、一国の女王様とすぐに仲良しになるマイは、ある意味大物と言えるのかもしれない。

 まあ、女王様といっても、全然それらしくない人ではあるんだけどな。

 この1週間も、俺たちの周りをフラフラしてたし。


「一緒に温泉入ったり、添い寝なんかもしちゃったっ!」


 それは、仲良くし過ぎなんじゃないか……?

 いや、女性同士なら、これくらい普通……なのか?

 わからん……。


「そういえば、貴様はアリアスと、なにやら温泉で胸囲の比べっこなどもしていたな」 

「あのときはクレールちゃんも混ざればよかったのにっ」

「わ、我はそんなくだらぬことなどしない!」


 胸囲の比べっこだと……。


 マイと精霊王とクレール。

 いったい誰のが一番大きかったんだ……。


「おっぱいの大きさなら、私も負けてないよ!」

「うおっ!?」


 俺が上の空でいた隙をついて、ガルディアが突然背後から抱きついてきた。


「も、もしやシン様は、胸の大きな女性が好みなのですか!」

「だったらママンもイケるクチだね! お兄ちゃん!」

「ママンのおっぱい、すっごくフワフワであったかいよ! お兄ちゃん!」


 さらには、エレナやガルシア、ガルディナまでもが騒ぎ始めた。


「……お前たち、ここはもうアルフヘイムじゃないんだから、おとなしくしなさい」


 そろそろ町の住民の目が気になってきた俺は、みんなに向かって注意を飛ばした。


 ガルディアやエレナは、フルールに戻る俺たちに同行してきた。

 元々、精霊王はそうするために、こいつらを召喚魔法でアルフヘイムに連れてきたらしい。


 ガルディア、ガルシア、ガルディナの3人は、獣化を使えば、俺たちの足代わりになることができる。

 そしてエレナは、精霊王いわく、もう外でも十分通用するほど強くなったのだという。

 精霊王が俺たちに贈る援軍ってわけだな。


 彼女たちが地下迷宮の捜索に力を貸してくれるというのなら、俺たちにとってありがたいことだ。

 それに、俺もこいつらと一緒に行動できるのは、なんだかんだで楽しい。


「ご安心召されよ! 兄者!」

「たとえ町の警備兵が剣を向けようとも、我らが兄者らをお守りいたします!」

「ささ、兄者らは存分にご歓談なさってください!」

「おい、お前らどこから湧いた」


 いきなり出てきた三馬鹿に、俺はつい何日か前にもしたようなツッコミを入れてまった。


 というか本当に、なんでこいつらがここにいるんだ。

 ガルディアやエレナが俺たちについてくるって話は精霊王から事前に聞かされてたけど、こいつらについてはなにも聞かされてなかったぞ。


「こやつらは余が連れてきた。主に余の身の回りの世話をさせるためにな」

「……さいですか」


 こいつらをつれてきたのは火焔だったか……。

 まあ、アルフヘイムからここまでの空間を繋いでくれたのは火焔なんだから、彼女が誰を連れてこようと自由だ。

 あんまり気にしないようにしよう。


「……にしても、本当、大所帯になったな」


 俺を含めると、総勢15人の種族混合パーティーだ。

 周りにいる町の住民からも、『いったいなにごとだ!?』みたいな目で見られている。

 早いとこ場所を変えるべきか。


「このままだと町の人の迷惑になる。ひとまず、大使館のほうに行こう」

「ん、そう……ですね」

「俺は別に――このまま迷宮探索をしてもいいんだが?」

「そういうわけにもいかないわよ。私たちだけで海に潜るつもり?」

「できればフルレイドで潜りたいし、その前に、私たちの帰還をケンゴさんたちに報告しなきゃだしね」

「ぐぅ……」


 俺の提案に、フィルたちは賛成の意を示してきた。

 約1名、やっぱり先走りかけている奴がいるが、それはスルーしよう。

 あいつが空回り気味なのは、今に始まったことじゃない。


 ……まあ、俺も少し前までは似たようなもんだったけどな。

 そんな俺が冷静にこんなことを思えるのも、元気な様子のサクヤや、他のみんなが傍にいるおかげだ。


 俺は、みんなに支えられて、ここにいる。

 ならば、俺は俺にできることを力の限り尽くして、みんなを支えていこう。


「ほら白崎、そんないじけた顔してないで、さっさと行くぞ」

「い、いじけてなんてないぞ! この顔は……表情筋の体操だ体操!」

「はいはい」


 そうして俺たちは、大使館へと向かった。


 さて……これから忙しくなるぞ。

 ケンゴたちに話をつけたら、さっそく地下迷宮の捜索開始だ。

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