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晩餐会

「『シンちゃんたちが来た』ってガルディアちゃんたちに念話魔法で教えたら、『久しぶりに会いたい!』って返答がきたの」


 温泉から出たあと、みんなで夕食の席を囲むことになった。

 なので、俺はそこで精霊王に、ガルディアたちのことを訪ねた。


「だから、私はガルディアちゃんたちを召喚魔法でここに呼び寄せたって訳なのよ」


 召喚魔法か。

 さすがは精霊王。

 便利な魔法をお使いになられる。


 たしか、俺たち地球人(プレイヤー)でも、召喚士というジョブの人間はその魔法を使えたと記憶している。

 いろいろ制限がキツイみたいで、人を召喚することはできないそうなのだが、精霊王が使う召喚魔法はそんな制限もないようだな。

 相変わらずチートなお人だ。


「獣族と離しちゃってもいいものなんですか? 一応、今のガルディアって、それなりに偉い立場なんでしょう?」

「盟友である精霊王様が呼び寄せたんだから、これくらいは問題ないよ! 私がいなくても、ガイウスさんが上手くやってくれるし!」

「だそうよ、シンちゃん」

「……さいですか」


 獣族も、ずいぶんアバウトなことしてるな。

 それを言うなら、ちゃっかり俺たちに同行して遊び歩いている火焔に対しても言えることなんだが。


「それで……エレナも、ガルディアと同様の手段で、ですか?」

「ええ、そうよ。この子は、シンちゃんがアルフヘイムを訪れるのを、ずっと待ってたんだから」

「そうですよ、シンさま! 私、シンさまと再会できる日を、ずっと待ちわびておりました!」


 俺の席のすぐ隣に座っていたエレナが満面の笑みをこちらに向ける。

 エレナは俺と肩が当たりそうなくらい近くにいて、『もう離れません!』みたいなオーラを纏っている。


 そんなに俺との再会が嬉しいのかねぇ……。

 まあ、俺もエレナとまた会えたのは素直に嬉しいけど。

 でも、嬉しいからといって、そんな近くに寄られると、その、なんだ……対処に困る。

 サクヤたちがこっち見てるわけだし……。


「……オッホン。サクヤたちだけじゃなくて、こんなところでもモテてたのね、シン?」


 ミナの視線が怖い。


 ち、違うんですよ、ミナさん。

 なにが違うのかっていうと、ちょっと説明が難しいけど、とにかく違うんですよ、ミナさん。


「……それほどでもない。俺は別に、カッコいいわけじゃないからな」


 ひとまず、俺がモテるという誤解だけは解いておこう。


 まあ、たしかにエレナを含め、何人かの女性が俺のことを慕ってくれているのは、認めるところだ。

 しかし、それはあくまで局所的な事象であって、俺は誰からも好かれるようなイケメン男子というわけじゃない。


「そ、そんなことない! シンさんはカッコいい……です!」


 ……と思っていたら、フィルが突如、俺の言動を否定しにかかってきた。

 座っていた椅子からガタッと立ち上がるその姿は、至極真面目な様子だった。


 フィルよ……。

 そういう擁護はしなくていいから……。

 お前にそう言ってくれるのは嬉しいけど、今は言わなくていいから……。


「ふふっ、そうだよね。一之瀬くん、カッコいいよね」

「……サクヤ、悪乗りするな」

「えー? 私、これでも本心でそう思ってるよ?」

「ぐ……」


 サクヤが俺をいじってきた。


 今日のサクヤはちょっとイジワルさんのようだ。

 誰か、俺の味方はいないのか。


「おい、一之瀬っち。さっき男湯にいたのって、こいつらなんじゃねーのか?」

「!?」


 パンをモシャモシャ食べつつ、白崎が痛恨の一打を俺に与えてきた。


 おい!

 お前、俺の敵になったのか!

 この裏切り者め!


「へー、混浴してたのー」

「いや、違うぞミナ。あれはガルディアたちが勝手に男湯に入ってきてだな――」

「つまり、混浴したってわけだよね? 一之瀬くん?」

「う……は、はい……」


 女性陣の目を見るのが怖い。

 俺は目の前にあるスープをチビチビと飲みつつ、肩を縮こませる。


「なに! 混浴!? なぜ我を呼ばなかったのだ!」

「そう……です。なんでオレたちを呼ばなかった……んですか」

「いや、呼ばないから……」


 若干2名ほどの反応がおかしい気もするけれど、それについては軽くツッコミを入れる程度にしておこう。


 とにかく、この話を長く続けるのはよろしくない。

 俺の精神衛生的に考えて。


「そういえば、さっきからマイは静かだな。そんなにこの国のメシは美味いか」


 話題を変えるべく、俺は美味しそうにバクバクと食事をしているマイに話を振った。


「うんっ! とっても美味しーっ!」

「そうか、それは良かったな。あ、この果物も美味いぞ。俺ものも分けてやる」

「ほんとっ!? ありがとっ、シン君っ!」


 よし。

 マイの好感度アップだぜ。

 これで、マイに関しては、さっきの話題が後々になって響くこともないだろう。


「お兄ちゃん! ぼくたちにもちょ-だい!」

「わたしたちにもちょーだい!」


 マイに食べ物を分けたのを見てか、ガルシアとガルディナまで俺の分の食事を欲しがり始めた。


「あーはいはい。好きなだけ持っていきなさい」

「わーい!」

「ありがとー!」


 まったく。

 この食いしん坊さんたちめ。

 まるで昔のガルディアそっくりだ。


「ご主人様! 私にもちょーだい!」

「お前は自重しろ」


 訂正しよう。

 ガルシアとガルディナは、ガルディアそっくりだ。

 どうやらガルディアは、昔も今も食いしん坊であることに変わりなかったようだな。


「それと、俺のことは『ご主人様』じゃなくて『シン』と呼べ。子どもに変な影響が出ちゃうだろ」

「ご主人様はいつまで経ってもご主人様だよ! それに、この子たちもそれくらい気にしないよ?」


 ガルディアの奴、なかなか俺の呼び方を変えないな……。


 子どもの頃のガルディアなら、(周囲からどのような目で見られていたかは不明だが)それは冗談として見ることもできた。

 でも、今のガルディアは、もう立派な女性だ。

 見た目は俺より大人びている。


 そんな人から普通にご主人様呼びをされるというのは、なかなかむず痒いものがある。

 こういうのはメイド喫茶とかでやってくれ。


「あ、でも、『旦那様』呼びになら変えてもいいよ!」

「それは却下で」

「じゃあ、ガルディナと結婚して『お婿様』呼びにする?」

「それも却下で!」


 この話題に自分の子どもまで出すなよ!

 というか、ガルディナって、まだ小学生くらいの年齢だろうが!

 しかも俺、婿養子になること前提か!


「えー、私はともかくとして、ガルディナは可愛いじゃないー。今からツバつけといても、私は許すよ!」

「ツバなんてかけません!」


 ガルディナは確かに可愛い。

 それに、謙遜しているようだが、ガルディアもすごく綺麗な女性だ。

 でも、だからといって、結婚までいくのはあまりにも飛躍しすぎている。


「シンさま! 結婚するなら私としてください!」

「いや、だからしないっつの! あと、クレールとフィルも席に座れ! この話はもうお終い!」


 エレナまで結婚話に乗っかるな! 

 クレールとフィルまで乗っかってきそうで、この場の収拾がつかなくなる!


「おい、一之瀬っち」

「……なんだよ、白崎」

「死ね」

「死ね言うな」


 唐突に、敵である白崎から罵声を浴びせられた。


 どんなことがあっても、安易に死ねなんて言っちゃいけません。

 言いたくなった気持ちはわからなくもないけど、ここは堪えてくれ。


「フンッ、食事中だというのに、五月蠅い連中だ」


 今まで黙っていた火焔が苦言を漏らした。


 まあ、たしかにちょっとうるさかったな。

 にぎやかなのもほどほどにしないと、火焔に怒られてしまいそうだ。


「まったくもってその通りです! 龍王様!」

「優雅さにおいて、あなた様より勝る者はおりません! 龍王様!」

「さすがは我らの王です! 龍王様!」

「おい、お前らどこから湧いた」


 ……突然、3人の龍人族が姿を現し、火焔をはやしたてた。


 こいつら……久しぶりに見たけど、三馬鹿じゃないか。

 なんでこんなところにいるんだ。

 今、なんの脈絡もなく出てきたぞ。


「どこから湧いたもなにも、我らは今まで、ずっとこの国に駐在しておりましたが」

「兄者は物忘れが酷いご様子」

「まだ若いというのに、嘆かわしや」


 ……そういえば、こいつらと最後に別れたのって、この国でだったっけか?

 すっかり忘れてた。


 でも、ボケてたわけじゃないぞ。

 ただ単純に、こいつらの影が薄かったのが悪いんだ。


「この子たちは力持ちだし弱音も吐かないし、すっごく助かっちゃったわ! 火焔もなかなか良い子を育ててたわね」

「余は別になにもしておらん。しかし、この者たちがアリアスによく仕えていたということは、覚えておこう」

「ハハッ、ありがたき幸せ!」

「龍王様の名に恥じぬよう、我らは誠心誠意、精霊王様に仕えておりました!」

「これからも、なんなりと我らにご命令を!」


 何気にこいつら、この国でちゃんと働いてたんだな。

 これは、火焔への忠誠心の高さゆえか。


「それはそうと、そなたら、食事中は静かにせよ。こうも五月蠅いと、喉の通りも悪くなる」

「も、申し訳ありません……龍王様……」


 火焔にたしなめられて、三馬鹿がシュンとしだした。

 なんか憐れだ。


 そんなこんなをしつつ、俺たちはその日の晩餐会を終えた。

 いつの間にか大所帯になって、凄まじくにぎやかになったな。

 でもまあ、たまにはこういうのもいいだろう。

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