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未亡人

 幼女だったガルディアが美女になっていた。

 しかも、すでに2人も子どもを産んだ、れっきとした母親にまでなっていた。

 時間の流れというのは早いものだ……。


 そう思いつつ、俺は恐る恐るガルディアから若干距離をとった。

 いくらガルディアといえども、抱きつかれた状態でいるのは……俺の理性的にマズイ。


「お前……本当にガルディアなんだよな……?」

「うん! 間違いなく、私は私だよ! なにかおかしいところでもある?」

「いや……ありませんです……ハイ……」


 俺は、全裸の体を見せつけるようなポーズを取るガルディアから目を逸らした。


 なんというか……成長しすぎだろ。

 特に、胸のあたりとか……こう……凄いことになっている。

 健康的な褐色肌と相俟って、とんでもない破壊力だ。

 これは……直視できない。


「あれ? せっかくの再会なのに、なんで目を逸らすんですか、ご主人様」

「それは、お前に恥じらいがないからだ……というか、いい加減ご主人様呼びはホントにやめてくれ。俺はもう、お前のご主人様じゃないだろ」

「えー、いいじゃないですかー。ご主人様も、ご主人様って呼ばれて、悪い気はしないんでしょ?」


 ガルディアからクスッと笑い声が漏れた。


 もしかして、俺のことをからかってるのか?

 だとしたら、ずいぶんイケナイ大人になったもんだ。


「……というか、お前って今はもう誰かの妻なんだろ? こういったからかいは、夫に失礼なんじゃないのか?」


 少しだけ冷静になった俺は、ふと思ったことをガルディアに訊いた。


 ガルディアは二児の母親なわけなのだから、当然、その子どもたちを生む要因になった父親もいるはずだ。

 その父親から見れば、ガルディアは不貞行為におよんでいると思われかねない。

 どこの誰とも知れぬ馬の骨(俺のことだ)と温泉で裸の付き合いをしているわけだからな。


「それは大丈夫なんじゃないかな? だって私、未亡人だし」

「え」


 と思っていたら、ガルディアの口から予想外の反論が出ることになった。


 ムチムチのバインバインな二児の母で、さらには未亡人だと……?

 俺たちといない間に、どんだけ人生的なクラスチェンジを果たしてたんだ、ガルディアは。


「私の夫だった人は、この子たちが生まれたすぐあとに病で死んじゃったんだ」

「…………」

「49代目の獣王を引き継いで、みんなを必死で守ってた人なのに、パパンと同じように病死しちゃって、なんでだろうね」


 俺に説明するガルディアの口調は平坦で、どことなく、感情を押し殺しているように感じた。

 きっと、昔のことを思い出して、悲しさがぶり返してしまっているんだろう。


 にしても……病死か。

 どうやら、ガルディアの親だった先代の獣王も、病で亡くなったようだな。

 以前、その人に直接会ったときも、なんだか体調が悪そうだった。

 そのときに患っていた病が、偶然49代目の獣王にも感染してしまって、2人とも亡くなったのかもしれない。


 なんというか……やるせないな。

 ガルディアにかける言葉が見つからない。


「だから……ご主人様がこの子たちのパパンになってもいいんだよ?」

「…………へ?」


 悲しんでいると思っていたガルディアは、いつの間にか俺の背後に忍び寄り、ガシッと抱きついてきた。


「え! お兄ちゃん、ぼくたちのパパンになるの!?」

「だったらわたし、すっごく嬉しー!」

「いや、ならないからな!? ママの言うことを真に受けるな!」


 ガルディアに引き続き、ガルシアとガルディナまでもが俺に抱きついてきた。


 おい、ちょっと待て!

 今は故人に思いをはせるタイミングじゃないのか!

 なんでこんなことになった!



「ちょっ……! ガルディアさん! 私を置いて、なに抜け駆けしてるんですか!」

「!?」



 俺がガルディアたちに揉みくちゃにされていたそのとき、温泉にさらなる乱入者が現れた。


「え……エレナ……?」

「はい! お久しゅうございます! 勇者さま!」


 エレナだった。

 森にある村に住んでいたエルフのエレナが俺たちの前に現れた。


 ガルディアと違って、エレナのほうは昔と同じままだった。

 長寿であるとされるエルフだから、見た目の変化が緩やかなのだろう。

 子どもの時期の成長は普通で、そのあとは若い姿を長い間維持し続けるらしいから、結構羨ましがられてる種族なんだよな。


 ……という感想とか、なんでエレナもここにいるんだとかいう疑問も置いておいてだ。

 なんでみんな……全裸なの……?

 ホント……みんな、前隠してよ……。


「あ、エレナちゃん。遅いよー!」

「『遅いよー』ではありません! 私を置いて勇者さまのところに走っていったのはガルディアさんたちじゃありませんか!」

「そだっけ?」

「そうです!」


 ガルディアとエレナは、全裸のまま俺の前で会話を始めてしまった。

 もう俺、ここにいなくていいよね……?


「お、俺はもうあがりますんで……あとは皆さんで、ごゆっくりどうぞ……」


 ガルディアたちによる拘束をそろりと解いて、俺はその場から消えるように脱衣所へと向かった。


 もうここにはいられない。

 ガルディアとエレナのコンボはマズすぎる。


「あ! お、お待ちになってください、シンさま!」

「みんなであったまろうよ! ご主人様!」

「ぐああああああああ! 放せえええええええええええええええ!!!」


 エレナとガルディアが俺の手を掴んできた。

 俺は、それを振り切って走りだした。 


 おいやめろ!

 俺をこれ以上この空間に留まらせるな!

 じゃないと……爆発する……理性的ななにかが……。


「待ってよご主人様ー!」

「うるさい! 俺はもう温泉から出る!」


 俺は後ろからかけられる引きとめの声を振り切り、脱衣所へと続く扉に手をかけようとした。


「っ!」


 が、何者かが脱衣所のほうにいることを察知し、扉を開ける動作を停止した。


 ……以前にも似たようなことがあったな。

 このパターンで扉の向こうにいるのは……フィルか?

 いや、今回はクレールやサクヤ、なんていう可能性もある。


 とにかく、誰が出てきても冷静に対処できるように――。


「い、一之瀬っち! さっきは俺が悪かった! やっぱ、男同士で風呂に入るのを恥ずかしがってちゃダメだよな――」

「お前かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!!」

「ほぎゃっ!?」


 恥じらった様子の白崎が洗面所のほうから出てきた。

 それを見た俺は、無性に腹が立ったので、白崎に怒りの大外狩りを決めた。


 袖とかがなかったものの、完璧な一本をとれた。

 我ながら惚れ惚れする技のキレだ。


「な、なんで……?」


 脱衣所で仰向けにひっくり返りながらも、白崎の口から俺への抗議めいた声が漏れてきた。


「あ、スマン」


 俺は白崎の肩を持ち、上半身を持ち上げた。


 強いて言うなら、巡りあわせが悪かった。

 フィルたちが脱衣所から出てくるんじゃないか、と思っていたところに白崎が現れたもんだから、ついやってしまった。


「シンさま~!」

「ん? 女の声?」

「さあ白崎君。温泉の前に、ちょっと俺と一緒にジョギングでもしにいこうか」

「え? ちょ、え?」


 白崎が温泉のほうを向こうとした。

 なので、俺は白崎の腕を掴んで、温泉とは逆のほうへと強引に走り出した。


「い、一之瀬っち! さっき温泉から女の声が聞こえたんだが!?」

「それはただの空耳じゃありませんか? 幻聴なんか聞こえちゃって、いやだなあ白崎君は」

「なんで敬語なの!?」


 俺が女の人と混浴していたなんて事実はない。

 もし、そんなことがあったとしたら、フィルたちへの説明がメンドウになる。

 それに、白崎にガルディアたちの裸を見られるかもしれないのもどうかと思うし。


「と、とりあえず服! 服を着させろ! お前、外を裸でジョギングする気か!」

「あ……それじゃあ、すぐ近くに茂みがあるから、そこで着替えましょう」

「なんで茂みで!?」


 そりゃあ、脱衣所で着替えているときに誰か来たら、問題になるからじゃありませんか。

 至極当然の結論です。


「はい、質問タイムは終了です……キリキリ走れオラ」

「だから、なんで茂みまでいかなきゃいけないんだよぉ!?」


 こうして俺は、ガルディア親子とエレナという2大パンチから逃げることに成功した。

 その過程で、裸の男を強引に茂みに連れ込んだことで、白崎から物凄い不審者を見るような目をされたものの、それはささいな出来事である。

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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