類友
俺、ミナ、サクヤ、フィル、マイ、白崎、クレール、火焔の8人は、『水棲の加護』という特殊効果を持つ装備品を手に入れるため、精霊の国『アルフヘイム』へとやってきた。
「あー! 人族だー!」
「人族だー!」
「龍人族までいるー!」
「あれって龍王さまだよー!」
「わー! 大変だー!」
「世紀末だー!」
俺たちを発見した精霊族がキャーキャーと騒ぎ出している。
けれど、それはいつものことなので、あまり気にしないでおこう。
「わーっ! ここが精霊の国なんだっ! ちっちゃい精霊族がいっぱいいるーっ!」
……約1名、こっち側の女子もキャーキャー騒いでいるが、これも無視しよう。
「悪いな、火焔。わざわざ俺たちを運んでもらっちゃって」
ここまでの道のりは、火焔の『空間接続』で大幅カットできた。
『龍王の宝玉』を使ってここに来るつもりだったが、火焔も俺たちについてくるということになったため、彼女に移動を任せることになった。
龍王をタクシー代わりみたいなことに使うなんて、かなり贅沢な話だ。
畏れ多すぎる。
「フン、別によいわ。この借りはクロスめに返してもらうのでな」
「そうか」
なら、ジャンジャン手を貸してもらおう。
お代は全部クロス持ちだ。
やったぜ。
(お主……なにかわしに恨みでもあるのかのう……?)
冗談だよ。
もしかしたら、またお前が俺の思考を読んでるんじゃないかって思ってな。
それをテストしたんだ。
ロリ神め、まんまと騙されたな!
(な、なんじゃってー!? このわしが計られたじゃとー!)
……というか、ナチュラルに俺の思考読むの、ホント勘弁してください。
俺、お前がいると、おちおち変なことも考えられないんだが。
(む、むぅ……あいわかった。善処する。じゃが、変なこととは、たとえばどんなことなのじゃ?)
そ、それは……変なことといったら変なことだよ……。
深く訊ねるな。
「……さて、それじゃあ早速、精霊王に会いに行こうか」
クロスと意思疎通をしていて気まずくなりそうになった俺は、気分を変えようと足をさっさか動かして、精霊王がいるであろう泉へと向かった。
「あらあら! いらっしゃい! 今日はまた、ずいぶん珍しい組み合わせの来訪ね!」
やっぱり精霊王はいつもの泉にいた。
久しぶりの再会だっていうのに、この人は全然変わらないな。
数百年単位で生きている人なんだし、それも当然といえば当然なんだが。
「すみません、今回も団体でおしかけちゃって」
「それくらい構わないわよ! 普段は外との交流が少ないから、むしろ大歓迎よ!」
「は、はぁ……」
以前、ここに大勢で来たときも、精霊王はむしろ喜んでいた様子だった。
だから、8人で来ても多分大丈夫だとは思っていたんだが……こうもテンションを高くされるとな……。
「でも、まさか火焔まで一緒だとは思わなかったわ。どういうことかしら?」
「フンッ、いやなに、たまにはこうして別大陸に赴き、情勢を知るというのも悪くないと思ってな」
「そんなこと言って、本当はいろんなところを旅してエンジョイしちゃってるんでしょ! うらやましい!」
精霊王が火焔に絡みだした。
この2人は仲が良いんだか悪いんだか、前々からよくわからないんだよな。
なあクロス。
お前から見て、この2人はどうなんだ?
……あれ?
返事がないな。
さっきちょっとイジワルしたせいで、スネちゃったんだろうか。
それとも、無暗に俺の思考を読まないよう、配慮してくれているのか。
どちらにしても、ちょっとタイミングが悪かったな。
また今度聞くことにしよう。
「そしてクレール! よく来てくれたわね! 元気にしてたかしら?」
「わ、我はいつでも元気だ! だから、手をワキワキさせながら近づいてくるな!」
火焔の次はクレールか。
こっちの仲は良いのは、いつも通りだな。
クレールは火焔と精霊王のいじられ役って感じでもあるが。
「んもう、クレールのいけずぅ……それで、今回も初めての子が何人かいるわね? 紹介してくれるかしら?」
クレールが俺の背中に隠れたので、精霊王は別のターゲットを探し出したようだ。
「わかりました」
とりあえず俺は、ミナ、サクヤ、白崎、マイの4人を精霊王に紹介していった。
「あらあら、みんな緊張しちゃって。もっと気軽に話してくれていいのよ?」
ミナ、サクヤ、白崎の3人は、精霊王を前にして、若干委縮気味だった。
それを見た精霊王は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
この人の場合、偉い人と接する感覚より友達同士で接すような感覚で話すほうが正解なんだろう。
だとすれば……これから紹介するマイなら、きっと精霊王と打ち解けるはずだ。
「地球出身のマイですっ! 元気が取り柄の16歳ですっ。好きなものは食べ物全般と可愛い物全般ですっ!」
「っ!」
4人目としてマイを紹介すると、突然精霊王が固まった。
「…………」
「…………」
そして、マイと精霊王が突然見つめ合いだして……ガシッと握手を交わしだした。
……なんで?
「ここまで波長が合いそうな人と会ったと思ったのは、ノア先輩以来ですっ!」
「あなたとは、良いお酒が飲めそうね」
2人は互いになにかを感じ取ったのか。
よくわからない友情が芽生えた瞬間だった。
マイなら精霊王とも上手く付き合えるとは思っていたけど、いきなり仲良くなりすぎだろ。
「みんなよく来てくれたわね! 私はあなたたちを歓迎するわよ!」
……とりあえず全員、精霊王検定(?)にパスしたようだ。
ここで精霊王のご機嫌を損ねるようだと、このあと頼み事がしづらくなっていたから、一安心だ。
「それで、今回は何日くらいここに滞在してくれるの?」
「あー……その前に1つ、精霊王にお願いがあるのですが。というか、それが目的でここに来たんですが……」
「私にお願い? あら、なにかしら?」
精霊王が首を傾げながら俺の瞳を覗き込んできた。
「クレールから、精霊王は『水棲の加護』を持つ装備品を作れると聞いたんですが、それを30個ほど俺たちに融通してはいただけませんでしょうか?」
「水棲の? まあ、作れなくはないけど……そんなものを手に入れて、どうするつもりなの?」
「はい、実は……」
俺は精霊王に事の経緯を説明した。
「あらまあ……そういうことだったのねえ」
すると、精霊王は腕を組んで、なにかを考え込むように目を閉じ……そして開いた。
「いいわ、他ならぬシンちゃんたちの頼みですもの。作ってあげるわ」
「! 本当ですか!」
「ええ。でも、そのかわり……」
喜ぶ俺を見ながら精霊王の口元がニヤリと笑った。
な、なんだ……?
この人は、いったいどんな条件を出すつもりなんだ……?
「あなたたちは最低でも1週間、この国に滞在してもらいます! それが私からの条件よ!」
「…………」
とんでもなくユルい条件だった。
本当にそれでいいのかよ……。
いや、まあ、変な条件を出されても困るから、別にいいんだけどさ。
「そういうことなら、私は構わないわ。サクヤたちも構わないわよね?」
「うん、私も大丈夫だよ。むしろ、精霊の国を見て回れる時間ができて、ラッキーなんじゃないかな?」
「そうだよねっ! みんなで観光しまくっちゃおーっ!」
「み、道案内はオレに任せて……ください」
ミナたちもこの条件は願ったり叶ったりのようだ。
1週間この国から出られないというのは、ちょっとしたタイムロスではあるけど……彼女たちが喜んでいるなら、これも悪くはないだろう。
なんだかんだで、そう思えるくらいの心の余裕が、今の俺にはあるみたいだ。
「おい! いいのかよ一之瀬っち! 俺ら、ここに1週間も拘束されるみたいだぞ!」
そんな俺たちに対し、白崎だけは焦っていた。
お前、地下迷宮の攻略に関してはやけにアグレッシブだな。
少し予想外だったぞ。
「1週間くらいなら問題ないだろ。ちょっと落ち着けよ、白崎」
「!?」
白崎が驚いたような顔を俺に向けた。
どういう反応なんだよ、コレ。
「な、なんだよ! お前は一刻も早く地下迷宮を攻略したいんじゃなかったのかよ!」
「攻略はしたいが、1週間くらいは待つさ。多分、その間に精霊王が俺たちに装備品を作ってくれるってことなんだから」
作ってくれと言われて、すぐにできるようなもんでもないだろう。
しかも、30個ときたもんだ。
むしろ、たった1週間で30個も目的の品が調達できると思えば、痛いタイムロスだとは感じない。
「……ちぇ、なんだよ。俺だけ空回りかよ」
「…………」
ああ……もしかしたら白崎は、俺がずっと地下迷宮の攻略に固執していたのを知っていたから、さっきまでのような態度を取っていたのかもしれないな。
だとしたら、白崎にはちょっと悪いことをしたな。
あいつなりのやる気に水を被せるようなことをしてたんだから。
「この1週間は、俺たちにとって休暇みたいなものだ。これが終われば、また戦いの連続になるだろうから、しっかり羽を伸ばしとけよ。お前の活躍には期待してるからな」
「……っ、わ、わかったよ。ったく、しょうがねえなあ!」
よし、元気が出たみたいだな。
どうもこいつは、『期待している』とか『頼りにしている』といった言葉に弱いようだ。
実際のところ、期待もできるし頼りにもしているから、バンバン言っていこう。
チョロいとかそういうことは思ってはいけない。
「よし、そうと決まったら、まずは温泉にでも行くか」
「へ? 温泉?」
「この国には温泉があるんだよ。入ると気持ちいいぞ。一緒にどうだ?」
俺は白崎に肩に手をポンとのせ、温泉に誘った。
なにはともあれだ。
ここはひとつ、白崎と裸の付き合いとでもしゃれこもう。
俺がこいつにこの国の良さを教え込んでやる。
「温泉っ! 私も行きたーいっ!」
「うふふ、そうね、それじゃあまずは、みんなで温泉タイムといきましょうか!」
そうして俺たちは、アルフヘイム名物の温泉に行――。
「お、俺はそんなとこになんて行かないぞ!」
白崎が逃げ出した。