表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/308

1組勢

 始まりの町『ミレイユ』を出発した俺達は半日をかけて隣町の『スイーヤ』にやってきた。

 道中は町の商人が依頼を出していた『魔物からの護衛』というクエストを兼ねてのものだったので様々な物資を乗せた大型馬車による移動だった。

 そして今更始まりの町周辺のMOB相手につまずくわけも無かった俺達は無事に目的地へと到着し、その翌日には早速情報収集を行うことにした。


 最も知りたい情報はこの町周辺の狩場――アースでいうところの魔物のたまり場についてである。

 また、そういった情報が最も集まりやすいのが、命知らずのあらくれ者が集まる冒険者ギルドだ。


 なので俺達は町に入ると真っ先に冒険者ギルドという看板が貼られた建物に足を踏み入れた。



「ここも『ミレイユ』とそこまで変化があるわけじゃなさそうだな」

「そのようね」


 中に入るとむわっとした熱気を感じ、それと同時に強面な男達の視線が俺達に向けて突き刺さってくる。


「またガキかよ……」

「どうせあいつらも異世界人って奴なんだろ?」

「参っちまうなこりゃ……」


 俺達を睨みつけてくる男達は露骨に嫌そうな顔をしてそんな会話をしていた。


 まあわからなくもない。

 向こうからすれば俺達は同業者、かつ若くてそれなりに強いというのだから、やってられないだろう。


 学校が俺達に配布した手引書にて事前に知る事ができた情報の1つに、『地球人とアース人を比べると、平均的には地球人が強い』というものがある。

 勿論、MND特化で僧侶な地球人がここにいる剣や斧を持った冒険者であるアース人とタイマンをしたらアース人の方が勝つだろう。

 しかし剣士同士、戦士同士、魔術師同士といった形で比べると地球人の方に軍配が上がる。


 なぜなら地球人の成長力はアース人とは比較にならないほど高い上に、アース人にはステータスという概念が無いかららしい。

 特に後者の理由はわりと重要だ。


 アース人の間ではステータスという概念の代わりに筋力や精神力といった名称でS~Fという7段階だけで評価しているため、数値で把握できる俺達地球人より大雑把にしか強さを計れない。

 更に俺達のようにステータスポイントを自由に振るというようなことができず、大体のアース人がジョブ――天職に沿った成長をする。


 そんな理由から地球人はアース人より基本的に強いという判断がなされ、彼らとの武力的な争いは極力控えるよう注意、といった事が書かれていた。


 地球人の方が強いのだからといって俺達がアース人に攻撃をしないようにという事なのだろう。

 俺達は戦争をしに来たわけでも侵略しに来たわけでもないからな。

 友好的にいこうという話だ。


 しかし俺達は所詮部外者であり、人の仕事を掠め取っていくいけ好かない連中と見えることだろう。

 例えばこの冒険者ギルドにたむろする冒険者達とかから見れば、な。


 だが『またガキか』……か。

 一応早川先生から聞いた話だと、この町には1年1組と3年1組のパーティーがいるらしいから、俺達がくる前に若い地球人がここへ来ていても不思議ではない。


「ん……? もしかしてお前、《ビルドエラー》か?」


 と、そんな事を考えている俺に声をかけてくる男がいた。

 そいつは冒険者ギルドの奥からこちらへ歩いてくる。


 容姿からして俺達と同じプレイヤーだな。

 キャラネームは……ザイールか。


「……ああ、そうだが?」


 俺はそのザイールに向けて頷き、自分が《ビルドエラー》であると肯定した。


「ふーん、お前が《ビルドエラー》か。本当に戦士の格好してんだな、僧侶なのに」

「……まあな」


 俺達はメニュー画面からの操作で伏せるという事をしない限り、人の顔を見ればそいつのキャラネームとジョブ、それにHPバーを見る事ができる。

 だからこいつから見て、今の俺が重装備な上に杖を持っていなくても僧侶だというのはまるわかりだし、そんな格好をしているのは《ビルドエラー》以外にいないと推察する事も可能だ。


 というよりそもそもキャラネームの時点でわかったのかもしれないな。

 《ビルドエラー》が重装備で盾を装備した僧侶職という事以外の情報がどれだけ出回っているのかは知らないが。


「もしかして俺のキャラネームも付随してそのあだ名は広まっているのか?」

「いいや。俺はただ単にお前がちぐはぐな装備をしてるからもしかしてって思っただけさ」


 なので俺は男に問いかけたが、どうやら俺のキャラネームまでは大きく広まっていないようだ。


 それならいい。

 あまり知らない奴らから変な呼び方をされたくないからな。

 装備の時点であまり隠せるものでもないのが残念だが。


「お前らが迷宮地下10階層のボス倒したんだってな」

「その通りだ」

「へー」


 そしてボス撃破についても問われたので俺は首を縦に振る。

 するとそんな俺達の会話を聞いていたらしいプレイヤーが奥から4人姿を現した。


「でもそれってホントか? 噂じゃたった10人で倒したとか言ってっけどさ」

「疑わしいよね。しかもその10人の中には馬鹿みたいなステ振りしてるのもいるしさ」

「お荷物かかえて少人数クリアとか、ありえんっしょ」

「もし本当ならそのボスはかなりの雑魚だったんだろうな」

「…………」


 なんだか嫌味な連中だな。

 おそらくザイールのパーティーメンバーなんだろうが、俺達に何か恨みでもあるのか。


「それは違う。僕達は10人でボスと戦ったけど、なんとか全員無事に生き残れたのは決してボスが弱かったからじゃあない」


 俺がコイツらの言葉を呆れながら聞いていると、背後にいたユミが前に出てきてそう言い放った。


 確かにユミの言う通り、地下10階層のボスは決して弱くなかった。

 あの時俺達が10人で挑んで無事だったのは奇跡のようなものだったと言える。


「なら一体どうして倒せたっつーわけよ?」


 しかし俺達につっかかってきたコイツらにとってそれはありえない事だったのだろう。

 ザイールはユミの話を聞き、更に問いかけてきた。


「……《ビルドエラー》がいたからさ。僕達は彼のおかげで長時間安全に攻撃ができたからボスを倒せたんだ」


 そこでユミは俺の方を見て、ボスを倒せたのは俺のおかげだとザイール達に述べた。


 仲間からこう言ってくれるのならタンク冥利に尽きるというものだ。

 俺はユミの言葉に反応し、顔に微笑を浮かばせた。


「ぷっははは!……お前それマジで言っちゃってんの?」

「ありえない話にありえない話被せてどうすんだコイツ」

「もしかして《ビルドエラー》ってのが褒め言葉だと勘違いしてんのかもな。戦士きどってる僧侶がパーティーで何すんだって話なのによ。やっぱこいつらがレイドボス倒したとか嘘なんじゃねえの?」


 だが目の前にいるプレイヤー達はそんな事信じられないといった様子で「はっ」と鼻を鳴らしている。


 どうやらこいつらは《ビルドエラー》という名称から、俺がビルドをミスった僧侶だと思っているようだな。

 周りからそう受け止められるよう早川先生がつけた名前なのだから仕方の無い事だけど、真に受けた連中から馬鹿にされるというのもカチンとくるものがある。


「信じられないかもしれないけど、僕の言った事は本当――」

「あー、もういいよお前、喋らなくて」

「!? かっ……!?」


 そしてそれを見たユミが続けて喋ろうとした時、ザイールが人差し指をこちらに向けてきた。



 するとユミは突然首を押さえて苦しみ始め……その場に倒れこんだ。



「ゆ、ユミ! 大丈夫か!」

「はぁ……はぁ……だ、大丈夫……」


 驚きながら俺は声をかけると、ユミは息を荒くさせながらそれに答える。


 どうやらとりあえずは無事のようだな。


「おい、お前、今何をした」

「さーて、なんでしょうねー」


 俺はそこでホッとする間も無くザイールに問いかけるが、奴は顔をニヤケさせて俺達を見下ろしている。


 今、目の前にいる男は何かをした。

 しかしそれが何なのかわからない。

 エフェクトも無く、指を向けてきた以外で大した予備動作も無かった事から考えるに、少なくともクロクロで扱えるスキルの類ではないように思えた。


 ……なら答えは1つしかない。


「……アビリティ(異能)か」

「カッハハハハハ! 正解だ《ビルドエラー》! アホなステ振りしてるわりにオツムの方はちゃんと働くようだなあ!」


 正解だった。

 ザイールは俺達が持っている異能を使ってユミを苦しめたということを肯定した。


「俺の異能は【空気制御】。空気中の酸素を薄くしてやれば大抵の奴は今みたいに苦しみだすから便利なんだよなぁ」

「……へえ」


 空気を制御する異能、か。

 なるほど、確かにコイツの言う通り便利そうな力だな。


 だがそんなものをいきなり使ってくるなんて非常識にも程がある。

 地球だったら即警察が動く行為だ。


「……おい、今のはやりすぎなんじゃないか?」

「やりすぎ? おいおい、俺はただうるさい口を閉じさせただけだぜ? 暴力でも何でも無い」


 しかしこんなのは大した事じゃないと言わんばかりにザイールは肩をすくめる。

 また、それに同調するようにして他の4人も喋り始めた。


「まったく、人がせっかく戯言に付き合ってやってたってのによ。2組風情がつけ上がりやがって」

「お前らは俺達を後ろから追いかけてりゃいいってのに……何勝手にボスとか倒しちゃってるわけ?」

「どうせボスを倒せたのにも何か裏があるんだろ? どんなチート使ったんだ?」

「…………っ!!!」


 チート。


 男達の嘲笑の中、俺はその言葉を聞いた。


 その瞬間、目の前にいる男達に憎悪を抱いた。

 同時に俺の動悸が激しくなり、頭の中がぐわんぐわんとし始める。


「…………俺はチートなんか使っていない」

「はぁ? 声小せえよ。もっとはっきり喋れボケ」


 俺はチートなんか使っていない。


「……ったく、僧侶失格な《ビルドエラー》が偉そうに口聞いてんじゃねえ。潰すぞ」


 けれど俺のそんな言葉は届かず、ザイールはそう言って指を俺に向けようとしていた。



「シン様を馬鹿にするなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「「「!?」」」



 だがそんな時、俺の背後にいたサクヤがザイールに飛び掛った。


「なぁっ!?」

「うらあッ!」

「ぶっ!?」


 そして彼女はザイールの顔面にグーパンを入れ、倒れたところへ更にマウントポジションを取りボッコボコに殴り始めていた。


「や、やめっ……ごぁっ!?」


 盗賊職であんまり防御力が無さそうなザイールはサクヤの凶行に為すすべなくやられている。


「ご、ごめんなひゃい! ごめんなさごはぁっ!?」

「うるさい」

「や、やめて、ホントやめゴフぅ!?」

「「「…………」」」


 俺達はそれをポカンとした表情でしばらくの間眺めていた。


「……サクヤ、それ以上はよせ……なんか色々まずい」

「はぁ……はぁ……シン様?」


 しかしいつまでもボーっと見てもいられず、俺はサクヤの振り上げる血だらけの手を掴み、彼女を静止させるべく声を出す。

 彼女の手はザイールの歯や骨に当たったせいで裂傷を負っていた。


 ……また、ザイールは見たところ失神しているように見える。


「もうそいつ気絶してるから殴るのは止めておけ」

「あ、うん。シン様がそう言うなら」

「…………」


 ……なんか怖い。


 これからはサクヤをキレさせないようにしよう。

 うん。


「て、てめえ! よくもやりやがったな!」

「!」


 突然サクヤが暴走したのに面食らって動けずにいたザイールのパーティメンバーの1人が怒鳴った。


 その男は剣士職のようで、腰に差していた剣を抜いて俺達の方へと向かってくる。


「ちっ……」


 スキルを放つ予備動作をしているそいつを見て俺は小さく舌打ちし、無詠唱での『ヒール』を男に当てた。


「がっ!? うお!?」


 そして突然のダメージを受けて驚きながら動きを止める男の剣へ向け、俺は背負っていた大盾を振り下ろす。

 すると「ガキィン!」という金属音の後、剣は床へと落ちていき、目の前にいる男は丸腰状態となった。


「こんなところで剣を抜くな。ここがどこだかわかっているのか」

「ど、どこって………………う……」


 今俺達がいる場所は冒険者ギルド。

 騒ぎを起こした俺達へ向けて剣呑な雰囲気の視線が突き刺さっている。


「だがそいつはザイールを――」

「元々先に手を出してきたのはそっちからだ。ここはお互いさまって事で穏便にいこうぜ……な?」

「ぐっ……!」


 なので俺はこれ以上の騒動を控えるべく剣士の男へ向けて睨みを利かした。

 それによって男は悔しそうな顔をして目を背ける。


 俺の言葉に理があると見たようだな。


「な、何をやっているんですかあなた達は!」

「「…………」」


 そんなところへやっとギルドの職員らしき女性がやって来た。

 彼女は顔から血を流してベコベコになっているザイールを見てあたふたしている。


「……と、とにかくだ。もう学園に入った時点で俺らとお前らの格付けは終わってんだ」

「どうせお前達は大した異能を持ってないんだろう? なら俺達の邪魔にならないよう脇道を歩け」

「これからは精々気をつけるんだな」


 ギルド内の視線と職員の様子を見てこれ以上の狼藉はまずいと判断したのか、プレイヤー達はそんな捨て台詞を吐きながらザイールを背負って俺達の下から去っていった。


「……お騒がせして申し訳ありません。俺達もすぐ出ていきますので」


 また、俺達も今回の騒ぎの片割れであるため、この場を退席しようとして外へ続く扉の方を向く。


「っと……そうだ。『ヒール』」

「あ……」


 そこでサクヤの手がザイールを殴ったせいで傷ついているのを思い出し、俺は彼女にヒールをかける。

 すると彼女の手はみるみるうちに回復し、血を拭くと元の綺麗な手に戻っていた。


「ありがとうシン様!」

「……あまり無茶はするなよ」

「うん!」


 そして満面の笑顔を向けてくるサクヤを見て俺は苦笑いを浮かべた。


 結局、俺達はギルドで何の情報も得られず、1組の連中との関係を悪化させるだけに終わったのだった。

 もうこの町の冒険者ギルドには出入りできないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ