地下迷宮の在り処
ミーミル大陸における始まりの町『フルール』にて、地下迷宮についてなにか情報を持っていそうな男を発見した。
男の名はミサキ。
持っている情報、すべて吐いてもらおう。
「ミサキ、さっきお前が言った話、詳しく聞かせてもらおうか」
俺はニッコリ笑顔をミサキの近くに寄せた。
「い、いや、俺はなにも知らないっスよ?」
「とぼけなくってもいい。お前、なにか知ってるんだろう?」
やっと、手がかりらしいものを持っている奴に出くわしたんだ。
ここはグイグイいかせてもらおう。
「……というか、今、よく俺のことを掴まえられたっスね」
「? そこは別に驚くところじゃないだろ?」
「いやいや、そんなことないっス。俺、今のやり取りで『さすがは《ビルドエラー》だ』って思ったっス」
「……そうやって話を逸らそうとしても無駄だ」
俺がこいつの肩を掴んだことに、なにか特別な技術を使った、なんてことはない。
ただの話題逸らしだろう。
そんな手に誰が乗るか。
「さあ、吐け。地下迷宮の攻略と海王は、いったいどういう繋がりがあるんだ?」
「そ、それは……俺の口からは……ちょっと……」
「……?」
なんなんだ?
さっきまでは隠すつもりもなかったようだが、今は口を堅く閉じている。
こいつの思考が読めない。
「俺じゃなくて、他の人に聞いてくれないっスか?」
「他の人って言われてもな……じゃあ、誰なら教えてくれそうなんだ?」
「それは知らないっス。でも、アースでの活動歴がそれなりに長い人なら知ってることだと思うっスよ。俺の知ってる情報は」
そんな馬鹿な。
こいつの言い分が正しいのであれば、わざわざ俺たちが足を使って情報を集めてなんていない。
管理局の伝手で、普通にミーミルの連中からウルズの連中に情報が流れるはずなんだから。
地下迷宮の攻略に海王が絡んでくるだなんて話、初耳だぞ。
どうしてそれを俺たちが今の今まで知らなかったっていうんだ。
「とにかく、これ以上の情報は、俺を逆さに振っても出ないっスよ。誰か、あなたたちに親身になってくれる人にでも訊いてくださいっス」
「親身に……か」
「そうっス」
……こいつからは、もう情報を引き出せそうにないな。
多少荒いことをすれば引き出せなくもないかもしれないが、それをするとミーミルの地球人勢を敵に回しかねない。
今はここで引き下がるべきか。
そう思った俺は、ミサキから手を離すことにした。
「それじゃ、俺はこのへんで」
すると、ミサキはすぐさま俺に背を向けて、走り去っていった。
「……ねえ、シン。本当によかったの? 大事な手がかりを持ってそうな人を逃がして」
「手がかりはあいつ以外からでも引き出せる。もし、新しい情報が今後も出ることがなければ、そのときまたあいつを捜して聞き出せばいいさ」
ミナが疑問の声をあげたので、俺は自分が考えていることを素直に答えた。
「ホントに新しい情報とやらが手に入るのかよ? アテでもあるのか?」
続いて、白崎も俺にそんなことを訊ねてきた。
「アテは……ないこともない」
「え……あんの?」
アテといっていいものかどうか悩むが、まあ、駄目元で行ってみよう。
「……まずは、あいつらの所在を掴まないとだな。みんな、俺についてきてくれ」
「なにか考えがあるってことよね? いいわよ」
「私は一之瀬くんのこと、信じてるからね」
「ちょ! お、俺をおいていくな!」
俺はミサキの言う通り、俺たちに親身になってくれそうなミーミルの地球人を探すべく、『フルール』内にある地球人の大使館へ向かった。
あそこなら、管理局に所属する地球人の所在地を大まかに把握しているはずだ。
それに、誰かしらが連絡を取り次いでくれるかもしれない。
地下目迷宮についての情報は話してくれなくても、それくらいはしてくれるだろう。
……と思って、大使館の建物の真ん前まで来てみたら。
「お! ようシン! 元気にしてたかよ、コラ!」
「またアンタに会える日がくるなんて……アタシは嬉しいよ」
俺はかつての友人……ミ-ミル大陸で世話になったバンとメリーの2人と再会を果たした。
「ウルズからこっちに乗り込んできた調査員の集団がいるって話を聞いてよ、俺らもこの町にすっ飛んできたんだ」
「もしかしたら、アンタらがその集団に混ざってるかもしれないって思ったからなんだけど、ビンゴだったね」
立ち話というのもアレなので、俺たち6人は近くにあった喫茶店へ入った。
そして、そこでお茶を読みながら、どうしてこの町の大使館にいたかという経緯について、互いに説明をし合った。
大使館前で再会したのは、ただの偶然ってわけじゃなかったのか。
すごいドンピシャなタイミングで2人が現れたもんだから、ビックリしたぞ。
「俺たちに会うために引き返してくれたのか」
「そうだよ。アタシらも、アンタらが街を去ってからのことは、結構気になってたんだ」
「一応、オメーらが無事にウルズ大陸へ戻れたっつーのは、管理局経由で知ってたんだけどな」
そうなのか。
前々から面倒見のいい奴らだと思っていたけど、メリーたちはずっと俺たちのことを気遣ってくれてたんだな。
「ごめんな、2人とも。お前たちが心配してたっていうのを知ってたら、俺もなんとかして連絡つけたんだが……」
メリーたちと別れてからも、ミーミル大陸に来る機会は何度かあった。
それに、管理局経由でバンたちの連絡先を教えてもらうことも、不可能ではなかっただろう。
この2人に連絡を取ることは、そう難しいことではなかったはずだ。
なのに、俺は今までそれを怠っていた。
礼を言うなら直接会ったときが良いという、それだけの理由で。
ああ……こんなことなら、早く連絡をとればよかったな。
再び会える日まで~とか、カッコつけすぎだ、俺。
「いや、シンが謝ることはねーよ。多分、ウルズの奴がミーミルの奴にコンタクトを取るなんて無理だっただろうからな」
「……無理?」
「あ? 知らなかったのか? ウルズの調査員とミーミルの調査員の仲って、結構悪いんだぜ?」
「……そうなのか?」
「おうよ」
初めて知った……。
ウルズ調査員もミ-ミル調査員も、どっちも同じ組織に所属する仲間じゃないのか。
なんだよ、仲が悪いって。
「互いに対抗心やら競争心やらが強くてね、2つの派閥が争ってるようなものなんだよ」
「オメーらがミーミル大陸で俺らといたとき、センコーからは自分らがウルズの人間だということを伏せておけって言われてたんだろ? 多分、そのセンコーはそこらへんのことがわかってたから、そう言ったんだろーよ」
「…………」
なるほど……。
確かにそれなら、いろいろと合点がいく。
俺とフィルがミーミル大陸に飛ばされた際、自力でウルズ大陸に戻るまで早川先生たちは手が出せなかった。
これが意味するものとは、メリーたちが説明している通り、ウルズ調査員とミーミル調査員の仲に問題がある、ということだったのか。
「まあ、この話はあくまで大人同士のイザコザが主な原因だから、中高生の奴が知らなくても不思議じゃあないけどね。今までも、ウルズとミーミルはほとんど交流なかったんだし」
事情を知らなかった俺に、メリーがフォローを入れてきた。
お気遣いが身に染みる。
「おい、一之瀬っち。いつになったら本題に入るんだ?」
「あ……すまん」
と、そこで白崎が苛立ったようにカップティーとスプーンをチンチンと鳴らし、俺の注意を引いた。
白崎、ミナ、サクヤの3人については、大使館前でメリーたちに紹介し、今も俺たちと同行して、同じテーブルについている。
3人をないがしろにして、俺たちだけで昔話をし続けるのも、よくないな。
ちなみに、白崎のカップティーのなかにはブラックコーヒーが入っている。
見た感じ、一口くらいしか飲んでいないようだ。
無理してるなら、ミルクでも砂糖でも入れればいいのに。
「ん? オメーら、なにか俺らに用でもあったのか?」
俺たちの様子を見て、バンとメリーが首を傾げている。
大使館前で再会できたのは、たまたまだと思っていたんだろう。
「なあ、メリー、バン。お前たちなら、この町の近くにあるはずの地下迷宮のありかについて、なにか情報を持ってるんじゃないのか?」
俺は本題を切り出すことにした。
ミサキという男が口にした話の内容。
それを確かめるために。
「……やっぱ、それについてもなにも教えられてねーのか」
バンがメリーと目配せをした。
そして、私のほうから話すという合図か、軽く頷いてからメリーが口を開く。
「これはあくまでも噂のレベルなんだけど、それでも聞きたい?」
「是非聞かせてくれ」
「そう……わかった。じゃあ話すよ」
メリーはそこで一呼吸置くと、ゆっくりと俺たちに説明を開始した。
「現在、表向きでは、ミーミル大陸の地下迷宮は入り口の特定がいまだできていない、っていうことになってるけど、実際は少し違う」
「違うっていうと?」
「確かにアタシらは地下迷宮を発見できていない。でも、どこにありそうなのかは、大体見当はついてるんだ」
見当はついている。
そして……その場所は……。
「ミーミル大陸の地下迷宮は海にある。これが、アタシらの出した結論だよ」