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組合員と特別ゲスト

 地下迷宮を攻略した俺たち9人(カタールだけこの場にいない。ケンゴは『別に問題ねえだろ』とか言ってるが、それでホントにいいのか)は、異能管理局の要請で大使館にやってきた。

 多分、俺たちの独断専行に対して、ここでなんらかの処分を下すつもりなんだろう。


 ケンゴ、マーニャン、セレスといった大人組のメンツは涼しい顔をしているが、中高生組の俺たちは全員ガチガチだ。

 ヤンチャをして先生に呼び出しをくらうことは今までにも何度かあったものの、先生たちよりも上の立場にいる管理局の職員とはほとんど話したことがない。


「じゃあ、行くぜ」


 ケンゴが俺たちの先頭に立って、目の前にある扉のノブを回した。


 この先にあるのは会議室。

 いったい、どんな人物が待ち構えているものやらだ。


「やっと来たか幸村ゆきむら君! 今日という今日は――」

「ゴラアァ! ケンゴォ! またお前かぁぁぁぁ!!!」


 扉を開くやいなや、会議室のなかにある席に座っていた2人を男がガタッと立ちあがった。

 そして、その2人のうちの1人であるガタイの良い中年の男が俺たちのほうへと走りだした。


「!?」


 中年の男はいきなりケンゴを頭を殴りつけ……そのままの勢いでボコボコにし始めた。


 突然のことで、少し驚いた。

 が、ケンゴが抵抗らしい抵抗をしていないところを見るに、これは必要なことなのだろう。


「ゴフッ……藤堂とうどうのオッチャン……相変わらずスゲエ元気だな」

「誰のせいだと思っている! 反省しろ! 反省!」

「へーい……」


 片目に青タンを作り、顔面がボコボコになったケンゴの調子は軽い。

 どうも、殴られ慣れてるって感じだ。

 よくあることなんだろうな。


 しかし、今日はケンゴばかり殴られるわけにはいくまい。

 今回の地下迷宮攻略で最も責められるべきは俺なのだから。


「えーと、藤堂……さん? ケンゴを殴るなら、俺も殴ってください」

「あぁ! そのつもりだ! 覚悟しろ小僧!」

「ブフォッ!?」


 この人、なんの躊躇もせずに殴ってきた!

 しかも、ケンゴと俺のステータスの差を考慮してか、殴りの威力が全然違う!


 いや、まあ殴ってくださいって言ったのは俺だけどさぁ!

 もうちょっとこう、若干躊躇する素振りとか見せるだろ普通!


「……藤堂さん。本人も反省してますんで、その辺で許していただけませんでしょうか?」


 恐る恐るといった様子で、マーニャンがそう進言した。


「お前も反省する側だろうが! ……だが、そうだな。今日のところはこれくらいで勘弁してやろう」

「…………」


 結局、俺はケンゴと同じくらいにボコボコにされた。


 容赦ないな、この人。

 まあ、このくらいの怪我ならハイヒールですぐに治せるから、別にいいんだが。


 でも、いくらなんでも直情的すぎるぞ。

 後ろにいるミナたちなんか、面食らって硬直してるし。


「これに懲りたら、もう変な真似はするんじゃないぞ。次やったら今の倍は殴るからな」

「……はい……わかりました」


 ……あれ?

 もしかして、これで許してくれるの?

 なんというか、もっと重いペナルティを課されるんじゃないかと、内心でビクついてたんだが。


「ちょっと待ってください藤堂さん! なに、あなた1人で勝手に処分を決めているのですか!」


 そう思っていたら、会議室の奥にいた小柄な男が怒鳴り声を上げた。


「つっても、本人らはもう十分反省してるみてえだし、これでいいんじゃねえか?」

「反省!? 彼らのどこがどう反省してるって言うのですか!」

「え、反省してねえのか?」


 藤堂と呼ばれている男(キャラネームも『トウドウ』だ)が俺のほうを見た。

 なので俺は強く首を振ったあと、神妙な顔をして反省している様子をアピールした。


「反省してるじゃねえか」

「そんなのは恰好だけ取り繕ってるだけでしょう! 馬鹿なんじゃありませんかあなたは!」


 ご、ごもっとも。

 確かに俺は、今回の件を反省しているとは言えない。

 反省するなら、そもそも勝手に地下迷宮攻略なんかするなって話だからな。


「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 前から怪しいと思っていたが、やっぱり俺のことをそんな目で見ていやがったなぁ!」

「ちょっ!? 必要以上に近づかないでください! 私にまで暴力を振るう気ですか!? 訴えますよ!」

「あぁっ!? お前なに言ってんだ! 喧嘩売ってんなら買うぞ!」


 ……なぜか、この場にもともといた男2人による口論が始まった。


 どうなってんのこれ。

 これが大人のやることか。

 口論の内容が滅茶苦茶低次元だぞ。


「俺のやり方が気に入らねえなら出てけ! いちいちこんなとこにまでお前らがしゃしゃり出てくんな!」

「そういうわけにはいきません! 『組合』は、身勝手なことをする連中を許しませんよ!」


 組合?


 なるほど。

 小柄な男のほうは異能者(アビリティスト)共同組合の人か。

 だとしたら、ちょっと厄介だな。


「今回、彼らが行った地下迷宮の無断攻略は、我々の足並みを崩す行為に他なりません! 主犯格である『幸村(ゆきむら)剣護(けんご)』と『一之瀬(いちのせ)(まこと)』の両名には、地球側のしかるべき場にて適切な処分を――」


 やっぱり、この人は俺たちのことを良くは思っていないようだな。


 まあ、俺たちのやったことは『抜け駆け』に当たる。

 それも、地下100階層の攻略という一番美味しい部分でのことだ。

 だから、異能者の平等を重んじる組合の人間にとっては、とんでもないことなんだろう。


 にしても、主犯格ときたか。

 悪いことをしたとは言えるが、俺たちは犯罪者扱いかよ。


 というか、幸村剣護って、もしかしなくてもケンゴの本名だよな?

 何気にリアルネームを使ってゲームとかしてたのか。

 ケンゴらしいと言えばケンゴらしい。


「いずれ地下迷宮は攻略しなきゃならなかったんだ。お前らは騒ぐだろうが、管理局は今回のことを大事にゃしねえよ」


 俺がそんなことを思いながら組合の男の話に耳を傾けていると、藤堂さん(一応、敬語のほうがいいだろう)が割って入り、キッパリとそう言った。


「それはあなたが決めることではありません!」

「いいや、俺が決めることだ。なんたって俺は、異能開発局アース探索部門ウルズ支部長なんだからな」


 ……ケンゴの上司っぽいから、管理局でも相当上の立場だとは思っていたけど、この人ってウルズ支部長だったのか。


 支部長は、アースにおける地球人(プレイヤー)を取りまとめる実質的なトップだ。

 この人なら、確かに俺たちの処分を決定する権限を有しているだろう。


「しかし! それでは今まで迷宮攻略を我慢してきた人間が納得しないことくらい、あなたもわかっているでしょう! あなたは我々を敵に回すつもりですか!」


 が、組合の力も相当なものだ。

 俺は所属していないが、組合に入っている地球人(プレイヤー)の割合は全体の3割を占めているらしい。

 ギルドの規模をさらに拡大したような組織だな。


 さすがに、これだけの人数を敵に回すことは、支部長ならしたくないだろう。

 人を管理する立場にいる人間として不適格、という烙印を押されかねないんだから。


「支部長の座を降ろされる覚悟くらい、俺はいつでもできてる」


 と思っていたら、藤堂さんはあっけらかんといった調子で組合の男にそう返した。


「藤堂のオッチャン。そんなこと言っていいのかよ?」

「別にかまわん。後のことはお前に任せる」

「いや、任せられてもぶっちゃけ困るんだが……」


 ケンゴもちょっと困惑気味だ。

 眉を寄せてボリボリと頭をかいている。

 こいつなら、既にこの先の展開も読めていると思っていたから、少し意外だな。



 ――さて、そろそろ茶番は終わりにしよう。

 ただ殴られるだけで終わりそうなら、それでよかったんだが、組合の人間を黙らせるためには切り札を切るしかないな。



「でしたら仕方ありませんね。今回の一件はあなたにではなく、管理局の上層部に直訴して――」

「お主は、そんなにわしを助けるのが嫌なのか?」

「!?」



 声が聞こえた。

 それは、俺のすぐそばから……というより、俺の口から発せられた声だった。


「聞こえなかったかのう? ならば、もう一度問おう。お主は、この世界の神の一柱として知られるわし――クロス・ミレイユの救出を望まぬのか?」

「な、なんだ君は! いきなりどうしたというんだ!」


 組合の男が狼狽えている。


 まあ、いきなり俺が意味不明なことを言い出したっていう認識しか持ってないだろうからな。

 この反応も、仕方ないっちゃあ仕方がない。


 でも、今の俺の口から出た発言は……間違いなくクロスのものだ。

 俺の体内に宿った、クロスの魂が発した言葉なんだ。


「し、シンさん……?」

「あなた……髪が白く……」


 傍にいたフィルたちも驚いている。


 どうやら、今の俺は髪が白くなっているようだ。

 これはクロスが表に出てきた影響か。

 あいつの髪も真っ白だからな。


「クロス・ミレイユだと……? 馬鹿なことを言わないでください!」

「馬鹿なこと、じゃと? お主は、わしが馬鹿なことを言っているように見えるのか?」

「当り前です! 少し様子が変わったようですが、だからといって、そんな結論には至らない!」


 だよなぁ。

 『私は神です』的なことを言って、それを納得してもらうには、いろいろと工程を省きすぎだ。

 納得させるには納得させるだけのものが必要になる。



「その者がクロス・ミレイユであることは、余が保証しよう」

「!?」



 だから、あらかじめ証人を呼んでおいた。

 今回の特別ゲストは、七大王者の筆頭――龍王、火焔さんです。


 俺は今日の朝、ここへ来る前に、クレールに『火焔を連れてきてほしい』と頼んでいた。

 いきなりの訪問で、火焔がちゃんとこの場に来てくれるかどうか微妙だったんだが、ちゃんと来てくれたようだ。

 クロスに会えることを彼女に伝えるようクレールに言ったのがよかったんだろうか。


「りゅ……龍王……? そんな……どうしてこんなところに……」


 組合の男は、目の前にいる女性が龍王であると認めるようだ。


 面識があるのかはわからないが、まあ、雰囲気でわかるよな。

 さっきから、火焔から発せられる殺気が尋常じゃない。


「まさか、余の言葉も馬鹿なことと一蹴するつもりではあるまいな?」

「い、いえ、まさか、そのようなことは……」

「フン、そうか」


 殺気を浴びせられてか、組合の男は冷や汗をダラダラと流している。

 怖がってるから、そろそろその辺でやめてやれよ、火焔。


「それで、先ほどの話の続きなんじゃが……」


 再び俺の声でクロスの言葉が紡がれる。


「神であるわしは、地下迷宮で戦いぬいた者たちに感謝している。じゃから、その者たちに危害を加えようとするならば――わしが許さぬからな?」

「ぐ……うぅぅ……」


 組合の男はクロス(が憑依した俺)に頭を垂れ、神の決定に従う意思を示した。


 こうして、俺たちが昨日、地下迷宮を攻略する前に描いていた『文句を言ってくる奴らを納得させる方法』は、神が俺の肉体に憑依するという変則技で実現された。

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