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「な……」


 覆面の男を見て、俺は絶句した。


 なんで……お前がここにいる?

 レイドボスを倒した直後というタイミングで、どうしてこいつと出会うんだ?


 それに、どうやってここにきた?

 例の空間転移系の異能アビリティによるものか?

 まさか、こいつは地下100階層まで転移することができるほどの異能者アビリティストだったのか?


 ……待て。

 この男がここにいるということは、クロスはどうなったんだ?


 わからない……。

 わからないことが多すぎて、頭がパンクしそうだ。


 ……いったん落ち着こう。

 今はまず、目の前に俺たちの敵がいるということだけを理解しろ。


「おっと、僕は別に、ここで戦闘をする気なんてないよ。君たちは相当疲れているようだし、戦わないなら、それに越したことはないでしょう?」


 俺が盾を構えると、覆面の男はそう言いつつ両手を上げた。


 戦意がないという意志表示か。

 しかし、ブラフである可能性も否定できない。

 というか、そうとしか思えない。

 さっき出会ったアンデッドとは訳が違う。

 こいつの言葉を鵜呑みにするのは危険だ。


「たとえ俺たちが疲れていても、10対1じゃ勝ち目ねえだろ」


 ケンゴが俺の前に出て、剣先を覆面の男に向けた。


 そうだ。

 難しく考える必要はない。

 戦力差は歴然なんだから、このままあの男をとっ捕まえてしまえばいい話だろう。


 俺はそう考えを改め、覆面の男のほうへと走ろうとした。


 ――が、覆面の男の奥にある扉が急に開いたのを見て、警戒のために足を止めた。


「残念。10対1じゃなくて、10対12の間違いだな」

「!?」


 扉の奥からは、以前に地下50階層で俺たちにちょっかいをかけてきた男(キャラネームはトウマだったか?)と…………カルアが出てきた。


「カルア……!」


 俺はカルアを見て、今すぐ飛びかかろうとする衝動にかられた。


「ああ! ミーナちゃん! 久しぶり! 元気だった!?」

「…………」


 が、場違いじみた呑気な発言をするトウマを見て、若干気が抜け、冷静さを取り戻せた。


 落ち着け……落ち着け……。

 今、俺が感情むき出しで飛び出すのはマズイ。

 冷静に状況を見極めろ。 


「……ねえ、シン」

「なんだ、ミナ」

「こういう場合、返事したほうがいいのかしら?」

「しなくてもいいんじゃないか?」

「そうよね……」


 わざわざ敵のボケに乗る必要はないだろう。

 それより、どうしてこいつらがここにいるのかについて考えるのが先決だ。


 でも、さっきトウマが言った言葉の意味は、よくわからなかったな。

 ひとまずその疑問を解消しておこう。


「……お前たちは3人しかいないようだが、残りの9人はどうした?」


 10対12と言ったからには、トウマ、カルア、それに覆面の男の他に、あと9人はいるはずだ。

 なのに、その9人の姿はどこにもない。

 どこかに隠れているのか?


「俺は戦力的に10人としてカウントする! だから俺たちの戦力は12人! アーユーオーケー?」


 ……周囲を警戒している俺に向かって、トウマはそんなことをほざいた。


 全然オーケーじゃねえよ……。

 なんでお前を10人としてカウントしなきゃいけないんだ……。


「シン。迂闊に前に出ようとするなよ」

「? ケンゴ?」

「トウマと戦うのはよしたほうがいい。下手すると、俺たちが全滅する」

「え……?」


 おい、どういうことだよ。

 ケンゴがこんなことを言うなんて、思ってもみなかった。

 もしかして、知り合いなのか?


「『格ゲーマスター闘魔とうま』って言やあ、てめえも聞いたことくらいあるだろ?」

「か、格ゲーマスターって……」


 それは、俺も聞いたことのあるあだ名だ。

 なんでも、2年ほど前、格闘ゲーム界にはあらゆる大会で優勝しまくった男が現れて、そいつは周りから『格ゲーマスター』と呼ばれていたのだとか。

 俺が会う機会はなかったんだが、ゲーマーの基礎知識として、それくらいのことは知っていた。


 その『闘魔』が……アレなのか……?

 にわかには信じられない。


「……格ゲー畑の奴なら、普通は武道家職を選ばないか?」


 俺は訝しむ表情をしながらケンゴに訊ねた。


 VRヴァーチャルリアリティ系の格ゲーを得意とする連中がMMORPGに手を出すとき、もっとも選ばれるキャラがモンクタイプ、つまりはステゴロ、徒手空拳タイプだ。

 アースでいうなら、武道家職が該当する。


 でも、目の前にいるトウマという男は、見た感じ、騎士職だった。

 剣や槍を好んで使う格ゲーマーもいるが、俺の知る『闘魔』は肉弾戦一本だったはず。

 なんで槍が主要武器の騎士職をやってるんだ?


「いやあ、それが……初期設定のとき、武道家職と間違えて騎士職を選んじゃったんだよねー……あれ、入力を一回ミスると取り返しがつかなくて困るな」

「うわ……」


 トウマの話を聞いて、俺は真っ先に、戦士職を選ぼうとして僧侶職を選んでしまった馬鹿のことが頭に浮かんだ。

 まあ……その馬鹿っていうのは俺なんだが……。


 くそ……取り返しがつかなくて困るとか、妙に共感できてしまうところが悔しい……。

 いつもなら、「こいつアホじゃね?」って言えるところなのに……。


「――だけど、槍を使っても俺は強いぜ? ヤりあおうって言うなら、全力でかかってこい。槍だけに」


 俺が「ぐぬぬ」と歯を噛みしめていると、トウマはアイテムボックスから1本の槍を取り出した。

 すると、場の空気が変わり、ピリピリとした殺気を感じるようになった。


 ……少なくとも、強いってことは本当みたいだな。

 馬鹿なことを言っているのに、凄いプレッシャーを感じる。

 実力は……ケンゴクラスか?


 だとしたら、確かに考えなしの特攻はしないほうがいいだろう。

 今の俺たちは、レイド戦をこなしたせいで疲労がたまっている。

 ここは無暗に攻撃を仕掛けるべきじゃない。


 ……というか。


「……おい。なんの真似だ?」

「なんの真似って、どんな真似だ」

「とぼけるな。『グングニル』はどうした」


 槍の神器『グングニル』。

 それは現在、トウマが所持していたはずだ。

 なのに、アイテムボックスから取り出した槍は、『グングニル』ではなかった。


 事情があって、今は『グングニル』を持っていないのか。

 あるいは……俺たちに使うまでもないとでも思っているのか。


「あの槍なら、アイテムボックスのなかに大切に保管してる。なんてったって、ミーナちゃんの直筆サインが書かれてるんだから!」

「…………」


 そういえば……そんなこともあったな……。

 あまりに馬鹿馬鹿しくて、記憶が片隅に追いやられていた。


「つまり……使わないってことか?」

「当然! サインが薄れたら大変だからね!」


 ……使わないっていうなら、俺は別にいいけどさ。

 なんかもう、こいつと話してると頭が痛くなりそうだ。


「まあ、今日のところは僕たちも引き下がる。さっき言った通り、君たちと戦う気はないよ。トウマ君も武器を下ろして」


 俺が頭をかかえそうになっていると、覆面の男はそう言って、トウマを制止した。


 だったら、なんのためにお前たちはここに来たんだ?

 まさか、俺たちとこうしてお喋りがしたかったから、なんて言わないよな?


「正直、僕たちも魔女の庭を荒らす行為は、極力避けたかった。なんせ、僕たちは魔女サイドの地球人プレイヤーだからね」

「!!!」


 魔女の庭を荒らす行為は避けたかった。

 その発言にも、どういう意味なのかという引っかかりを覚えたが、それよりも今は、魔女サイドの地球人プレイヤーという発言のほうが聞き流せない。


 つまり……こいつらはアースの歴史上にのみ存在する『魔女』の手先だということか。

 今までの行動から、なんとなくそうなんじゃないかという予感はしていた。

 だが、今回はその予感が事実であったという証言がなされた。


 俺たちの敵。

 クロスたちの敵。

 アースに住むすべての人々にとっての敵。

 魔女に味方するということは、そういうことだ。


「……それで、てめえらはここで、具体的になにをしようってんだ?」


 ケンゴが重心を落とした。

 いつでも攻撃できるようにしているんだろう。


 もちろん、俺も警戒を解いていないし。

 敵が俺たちに攻撃を仕掛けてこようものなら、いつだって反撃できる体勢だ。


「カミカゼ。そろそろ時間だ」

「おっと……もうそんな時間か。それじゃあ、お喋りはここまでだ。トウマ君、準備を」

「ミーナちゃんとお話しできなかったのが心残りだけど……オーケー」


 そんな俺たちなどおかまいなしと言わんばかりに、トウマが覆面の男のアイテムボックスのなかに入っていった。


「また近いうちに会おう……まあ、君たちがちゃんと生きていたらの話になるけどね」


 覆面の男はそう言うと、カルアの右肩に触れて、フッと姿を消した。


 ……逃げた……のか?

 いや、でもなんで……?

 結局、あいつらは、いったいなんのためにここへ――。


「!」


 なにか、嫌な予感がした。

 俺はその直感に従い、みんなより一歩前に出て盾を構える。


「剣王流奥義、『玄武』!」


 そして、そんな俺とほぼ同じタイミングで、ケンゴがスキルを発動した。

 地面から岩が突き出て、俺たち10人をドーム状に覆っていく。


「!?」


 ――直後、俺たちの鼓膜を突き破るかのような爆発音が響き渡った。

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