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レイドボス撃破?

 レイド戦開始から4時間経過した。

 俺たちは今、キングレイスを圧倒していた。


「剣王流奥義、『白虎』!」


 ケンゴが高速斬撃スキルを放つ。

 その瞬間、ボロボロになったキングレイスの左腕がボトリと地面に落ちた。

 これにより、キングレイスの腕は残り1本となった。


 長時間戦闘した甲斐もあって、キングレイスはもはや満身創痍状態だ。

 ローブは燃え落ち、6本あった腕は右腕を残すのみ。

 その右腕で持っている鎌も、ケンゴと打ち合ったせいで刃こぼれを起こしている。

 胴体の骨にはひび割れた部分が多く、ところどころが欠けている。

 HPが見えずとも、あと少しで倒せるのは目に見えていた。


 俺たちのほうもかなり疲労が溜まっているが、今はそれもあまり気にならない。

 あと少しでレイドボスを倒せるという予感。

 それは俺たちに活力を与えてくれる。


「いくぜ! キングレイス! 剣王流奥義、『朱雀』!」

電磁砲レールガン!」

「ヒートスラッシュ!」


 そして、そんな俺たちの予感は今現実のものとなった。


 何度目になるかもわからない俺たちの連続攻撃を食らったキングレイスが、とうとう倒れた。

 骨は地面に散乱し、手から離れた鎌がガシャンガシャンと音を立てる。


「はぁ……はぁ…………やった……か?」


 息を切らしつつ、白崎が恐る恐るといった様子で呟いた。


 そういうセリフはフラグになりそうだからやめろよ。

 お約束を外されるのは好きじゃないとかほざく奴が言うと、よりフラグっぽくなる。


「…………!」


 そんな俺の心配は無用だったようだ。

 突然、大量の経験値が入って、俺のレベルが117になった。


 これは……つまり……そういうことなんだろう。


「……やった……な」


 経験値が入った。

 そのことが意味するのは、俺たちが目の前にいたモンスターを倒したという事実だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 これを理解した俺たち10人は、そこでやっと歓声を上げた。


 キングレイスを倒した。

 レイドメンバーが誰1人として欠けることなく、地下100階層のレイドボスを倒したんだ!

 喜ばずにいられるか!


「やったな! シン! 俺たち、ユグドラシルを攻略したぜ!」

「ぐおっ!?」


 ケンゴが俺に飛びついてきた。


 嬉しいのはわかった。

 わかったら、ちょっと離れろコノヤロウ!


「サークヤーっ! 私たち、勝ったんだよっ!」

「やったわね! サクヤ!」

「ふあっ!?」


 似たようなことが女子の間でも起こっていた。

 飛びつかれる対象になったサクヤが『なんで私に!?』みたいな顔をしているが、まんざらでもない様子が微笑ましく見える。

 ケンゴに飛びつかれた俺のほうは、全然まんざらでもないがな。


「まー、あたしらが手を組めば、あんな敵くらいわけねーさ」

「ふふっ……ええ、そうですわね」

「オレたちは強い……です」

「それなりに骨のある敵でござったがな。拙者、走りまわりすぎて、足がプルップルでござるよ」


 目の前から敵がいなくなったことで、談笑が始まった。


 敵は強かった。

 俺も、一応は立っていられているものの、気を抜けばすぐにへたり込んでしまいそうなほど疲弊している。

 これは、メインタンクとメインヒーラーを同時にこなしたことによるところが大きいだろう。

 だから、早く離れてくれ、ケンゴよ。

 そろそろ俺、倒れるぞ。


「まあ? こうしてレイドボスを倒せたのは、主に俺のおかげだったりするがな」


 と、そんな俺のところへ白崎がやってきた。


 主に俺のおかげとまで言うか。

 なかなか口が達者な奴だ。


 とはいえだ。

 確かに、白崎がいてくれて本当に助かった。

 レイドボスに最もダメージを与えたのは誰かというと、間違いなくこいつだ。

 感謝してもしきれない。

 こいつを誘って本当によかった。


「おう! てめえもよく頑張ったな! 褒めてやるぜ!」

「ぐあっ!? なんだお前! 気安く俺に触るな!」


 俺が感謝の言葉を告げようとしたその瞬間、ケンゴが次の獲物を狙うかのようにして白崎に飛びかかった。


 ふう。

 これで俺も、やっと休めそうだ。


 でも、がっつり休むのは、町に帰ってからだ。

 今はまだ、呼吸を整える程度でいい。


「シンくん。やったね」

「サクヤ……」


 俺のところにサクヤがやってきた。


 長い戦いだったが……これでやっと、俺の願いは叶う。

 そう思うと、ここで休んでなんていられないって気持ちになる。


「待ってろ、サクヤ。あと少しで、お前の記憶喪失も治るからな」

「……うん!」


 俺が微笑みかけると、サクヤも満面の笑みを返してきた。


 ああ……頑張ってよかったな……。

 こんな笑顔を見られただけでも、俺にとっては最高の褒美だ。


「みんな、疲れてるとこ悪いが、先へ進もう」

「ええ、そうですわね」

「めんどくせー……けど、ここまできたんだから、最後まで付き合ってやんよ」

「さあ、はやく行きましょ! 私、居ても立ってもいられないわ!」

「神様に会いに、れっつごーっ!」


 俺が声をかけると、みんな、疲れと喜びを混ぜこぜにしたような表情で同調してくれた。


 どうやら、まだ歩く程度の余力は全員ありそうだな。

 そうとわかれば、ここで足踏みをしなくてもいいだろう。


「よい、それじゃあ行こう……この先にいる、アースの神様のところへ」


 俺は、レイドボスが倒れたことで開かれた奥の扉のほうへと歩き出した。


 もう少しだ。

 あともう少しで、サクヤの記憶を取り戻せる。


 そのついでに、クロスも助ける。

 順序としては逆だが、まあ、どっちでもいいだろう。

 俺にとっては、サクヤのほうが重要なのだから、しょうがない。


 こんなふうに考えてると、クロスにスネられちゃうかもしれないな。

 反省反省――。



「…………ッ!!!!! 全員、戦闘態勢を取れ!」

「!?」



 ケンゴが叫んだ。

 それと同時に、俺は盾を強く持ちなおした。


 な、なんだ?

 戦闘態勢だって?

 このフロアに生き残っている敵なんて、もういないはず――。


「!」


 ケンゴの視線の先に、なにかが宙に浮いていた。


 あれは……キングレイスの右腕の骨……か?

 もしかして、まだレイドボスは倒せていなかった……?



「フッハッハッハッハッ! 我が最高傑作を撃ち滅ぼすとは、なかなか骨のある者どもだな! 貴様たち!」

「…………」



 どこからともなく、人の声らしき音が響いてきた。

 それと同時にキングレイスの右腕は、俺たちのほうを指さすようなジェスチャーをした。


 この声は……あの右腕が発しているのか?

 発声器官もないのに、どうやって喋ってるんだ。


 いや……この疑問はいまさらか。

 クレールと初めて会ったときも、あいつは発声器官がなかったからな。

 アンデッドという種族の神秘、ということで納得しておこう。

 今はもっと重要な疑問があるからな。


「おい、てめえ……キングレイスか?」

「違うぞ小童よ。貴様たちが打ち滅ぼした魔物と我は、まったく別の存在だ。右腕分の我の力が交じってはいたがな」

「……そうなのか?」

「うむ。ちなみに、ここで争うつもりもないぞ。だから、そろそろ武器を下ろせ」


 どうやら、敵意はなさそうだ。

 しかし、この右腕がどういう存在なのか、全然わからない。

 一応、盾は下ろすが、警戒だけは解かずにいよう。


「それで、お前はいったいなんなんだ?」

「フッハッハッハッハッ! よくぞ聞いてくれた! 我が誰なのかと問われれば、答えずにはいられんな!」


 ……なんか、ずいぶんテンションの高いアンデッド(?)だな。

 それに口調もあいまって、どうにもクレールのことを思い出す。


 もしかしてクレール?

 いや、違うな。

 口調は似ているが、なんとなく雰囲気が違う。

 クレールとは別人だと俺の勘が告げている。


「我の名はグレイル・カバリア! アースの絶対的覇者にして、絶対的強者の名である! とくと我が名を胸に刻むがいい!」


 こうして俺たちは、よくわからない右腕だけのアンデッドと出会った。

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