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アンデッド属性付与

 俺、ミナ、ケンゴ、フィル、マイの5人は、強化が施された死霊装備を身に着けている。

 これは、俺が前衛組を回復する担当であるからだ。


 前衛の回復担当は俺、後衛の回復担当はマーニャン、という分け方だ。

 そのほうが、回復するのも効率的だからな。


 カタールも前衛だが、俺の担当を6人にすると負担が大きくなり過ぎるので、あいつだけは回復するのに後方へ下がってもらう手はずになっている。

 一応、このレイドのなかでは最もAGIが高いメンバーだから、そこまで大きなロスは生じないだろうという判断だ。


 とにかくだ。

 今、俺たちのレイドでは5人が死霊装備を身に着け、アンデッド属性が付与されている。

 だから、そのメンバーについては特に問題ない。


 けれど、今の後衛組とカタールの状況については大問題だ。

 キングレイスの黒い煙を受け、あいつらにまでアンデッド属性が付与されてしまったのだから、無視することなどできない。


「な……あ、アンデッド……? 俺ら、アンデッドになっちゃったのか?」

「これは……厳しいかもしれませんわね……」


 後衛のメンバーから焦りの声が漏れ聞こえてくる。


 無理もない。

 俺も今の事態には焦っている。


 というか、アンデッド属性を付与する攻撃があるだなんて、初めて知った。

 ゲームであれば、似たような症状を引き起こすバッドステータスがあったりすることもある。

 が、アースでは初耳だ。


 初見殺し。

 こんなものを対抗策ナシでくらっていたら、レイドの全滅は濃厚だった。

 通常の回復手段を封じられたようなものなんだからな。


 ……けれど、今回に限ってはなんとかなる。

 アンデッドを癒す回復魔法を所持した俺がいるんだからな。

 そうそう全滅させられたりなんかしない。


 とはいえ、キツイものはキツイ。

 実質的に、回復役が俺だけになったようなものなのだから、キツくないわけがない。


「……なんも見えねえな」

「体が……動かないよっ……」

「ね、ねむい……誰か……早く治療を……」


 また、アンデッド属性以外のバッドステータスにかかったメンバーが多数いた。


 ケンゴは暗闇。

 マイは麻痺。

 ミナは睡眠。

 俺は毒にかかっているし、他のメンバーも厄介なバッドステータスをかかえている。

 さらには、毒にかかっていないケンゴたちもじわじわとHPが減っている様子が確認できた。


 どうやら、あの黒い煙は一定の継続ダメージとアンデッド属性とバッドステータスの1つをランダムに敵に与える技だったみたいだ。

 さすがはレイドボスってとこか。

 厄介な攻撃をしかけてきやがる。

  

「シン! マーニャン! てめえらは味方の治療を優先しろ! その間、ボスは俺が引きつける!」

「え!?」


 ケンゴがキングレイスの前に1人で立った。

 まさか……目が見えない状態で戦う気か?


「うらあ! これくらいのハンデ、屁でもねえぜ!」


 ……普通に戦えていた。

 ケンゴはキングレイスの振り回す4本の鎌を剣で悉く受け流している。


 攻撃パターンを把握しているゆえに可能な芸当なんだろうが、それでも驚く。

 やろうと思えば俺も似たようなことができるだろうが、剣1本でこれをやるのは難しい。

 盾で防御するのが精々だ。


 そんなことを思いつつ、俺はマイの治療を行った。

 彼女を最優先して治療したのは、麻痺が一番深刻なバッドステータスだからだ。


 まあ、彼女には今からやってもらうことがあるから治療を優先したって面もあるが。


「ありがとっ! シン君っ!」

「どういたしまして! それで、動けるようになったのなら、ミナを起こしてやってくれ!」

「おっけーっ!」


 俺が指示を飛ばすと、マイはミナのところでピューっと走っていった。

 そしてマイは、眠りこけてしまったミナの頬をバシバシと叩き出した。


 睡眠状態の仲間を起こすのには、あれが一番早い。

 きつけ薬を飲ませるか、治療魔法をかけてやるかでもいいんだが、今は戦況を立て直すため、マイは最速の手段を選択したのだろう。


「ふがっ……! あ……ま、マイ……?」

「目、覚めたっ?」

「え、ええ……ありがと……」

「どういたしましてっ!」


 頬を赤く腫らしたミナの表情は複雑そうだった。


 睡眠状態を物理的に解消させられた奴は、たいていが今のミナみたいな顔をする。

 素直に感謝しづらいんだろうな。


 俺はそんな微笑ましい様子を見つつも、ケンゴに向けて治療魔法をかけた。


「……お、見えるようになった。サンキュー! シン!」


 こっちは素直な感謝だ。

 俺のほうこそ、キングレイスを抑えてくれてどうもありがとうだ。


 そうして俺とケンゴは、再び2人で同時にタンクをこなし始めた。


 こんな連携は即興でできる芸当じゃないんだが、俺たちはできた。

 俗に言う、阿吽の呼吸って奴だな。

 ケンゴがどういった動きをするか、手に取るようにわかる。

 多分、向こうも俺と同じことを思っているだろう。

 そして、そうした一体感は、2人で1つの生き物であるかのように、キングレイスの攻撃を捌くことに繋がる。


 もはや、俺たちの壁を突破できる敵なんて、この世のどこにもいやしない。

 今の俺はそんな気分だった。

 つまり、今の俺たちは絶好調ってことだ!


「……ちっ。毒とか麻痺なら直せるんだが、アンデッド化は治せねー」


 後方から、悪態をつくマーニャンの声が聞こえてきた。


 アンデッド化は治せないのか。

 回復特化のマーニャンなら、なんとかしてくれるかと思っていたんだが。

 タンクの役目としては絶好調なんだが、ヒーラーとしても、もっと頑張らないといけない、か。


「シン。こうなりゃてめえがメインヒーラーを務めろ」

「そうするしかないか」


 現状、仲間を回復する手立てを持つレイドメンバーは俺だけだ。

 というより、このキングレイスに対抗できるヒーラーが俺だけだと言っても過言じゃないな。

 仕事量が増えることになるが、ここは俺が頑張るしかないだろう。


「んじゃ、あたしは前線で光魔法でも唱えるとすっかー」


 メインヒーラーを降板したものの、それでもなおマーニャンは重要なレイドメンバーだ。

 彼女はアンデッドに対し絶大な威力を発揮する光魔法の使い手でもあるんだからな。

 ヒーラーとしてではなくアタッカーとして頑張ってもらおう。


「では、私たちも少し前へと移動しましょう」

「うん、そうですね」

「俺らも動かなきゃいけないのか?」

「このままではシンの回復魔法が後衛に届きませんからね」

「……あ、そっか」


 また、セレス、サクヤ、白崎といった後衛組も前衛近くまで移動するようだ。


 この判断は悪くない。

 キングレイスに攻撃される危険が高まるものの、後衛で予期せぬ事態が発生した場合の対処がしやすくなる。

 なんといっても、前衛にしかヒーラーがいないわけだからな。


「攻撃の手を緩めるな! 攻めて攻めて攻めまくれ!」

「おうよ!」

「了解!」

「わかったわ!」


 いくつかの配置換えが完了し、俺たちは再びキングレイスへ怒涛の攻撃を仕掛けた。


 アタッカーにマーニャンが加わったことで、ダメージを与える効率もかなり上がった。

 たとえ八大王者クラスの力を持つボスであっても、今の俺たちなら倒せる。


 俺はメインタンクとメインヒーラーをこなすという激務に目を回しながらも、この戦いの状況をつぶさに観察して、そう結論を下した。


 アンデッド化は、正直言って想定の範囲外だった。

 が、それ以外は俺たちの想定内だ。


「またモブモンスターが湧いたよ!」

「なら、先にそっちの処理を頼む! その間、キングレイスは俺とケンゴで食い止める!」

「わかった!」


 時折湧くモンスターの群れの処理も、2回目以降は慣れたものだ。

 もともと、こうした横やりがあるなんてことはレイドボス戦の付き物みたいなものだからな。

 これくらいでは驚かない。


「! キングレイスの腕が6本に増えたわよ!?」

「腕が何本増えようが、問題ない!」

「俺たちのコンビネーションを見せてやろうぜ! シン!」


 モブモンスターの処理が完了したころ、キングレイスの腕と鎌がプラス2されたが、そのことに対しても特に恐怖を感じなかった。


 敵の手数が増えたとしても、今の俺たちにとっては些細な問題と言っていい。

 ヒーラーとして味方を回復する必要に駆られても、ケンゴが上手くカバーしてくれる。

 物理攻撃で俺たちを倒すことなんてできないぜ。


「さあ、レイド戦もここからが正念場だ! 油断するなよ! みんな!」


 そうして俺は、仲間たちに向けてそう叫んだ。


「……ふぅん。なかなか楽しそうな顔してるじゃない、シン」


 すると、すぐ傍にいたミナからそんな指摘をされた。


 楽しそうな顔って、俺がか?

 いや、別に、俺は楽しんでなんて――。


「やっぱり、あなたはこういう戦いで笑っているほうが似合ってるわよ」


 に、似合ってるとか……。

 そんなこと言われても、俺は笑ってなんて…………いるのか。


「さ、早いトコ、このレイドボスも倒しちゃいましょ。最高に楽しい瞬間が待ってるんだから」

「う……」


 ミナのやつ……。

 『最高に楽しい瞬間』とか、俺が昔に言ったことをまだ覚えてたんだな……。

 たしか、それは地下10階層のレイドボスと戦ってるときに言ったことだっていうのに。 

 なんていうか、あのときの俺の発言を思い出すと、無性に恥ずかしくなる。

 これも一種の黒歴史か。

 別に悪いことを言ったつもりはないけど。


 そういえば、あのときも俺たちは10人でレイドボスと戦ったんだったよな。

 参加しているメンツは結構違うけど、ちょっと感慨深い。


「シンー。思い出に浸かるのもいいけど、自分が今やるべきことも忘れんなよー」

「わ……わかってる!」


 マーニャンからツッコミを受けてしまった。


 いかんいかん。

 今は目の前の敵に集中しよう。


「……ふふっ。それじゃ、私も今以上に攻撃を頑張るわよ!」

「ああ! そうしてくれ!」


 ミナから微かな笑い声が漏れてきたが、俺はそれを意識して無視した。


 まったく。

 戦いの最中だっていうのに、みんなずいぶんと余裕だな。

 ……戦闘中に笑っている俺も大概ではあるんだけどな。



 こうしたやり取りがあったりしながらも、俺たちはその後、レイドボスと安定した戦いを行った。

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