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チートコンビ

 俺、ミナ、サクヤ、フィル、マイ、白崎、ケンゴ、セレス、マーニャン、カタールの10人でレイドを組んだ。

 これにより、全員のHPとMP、それに位置情報やステータス情報といったものを瞬時に把握できるようになった。


 地味な恩恵であるといえば、その通りではある。

 だが、これはレイド戦において、とても重要な恩恵でもある。

 全員の情報が把握できれば、あらゆる局面で淀みなく動けるんだからな。

 マイの加入は、大きな意味を持っていると言ってもいいだろう。


 もちろん、マイ自身の実力にも期待している。

 彼女だって俺たちと同様、アースで生き抜いた猛者の1人だ。

 レベルだって高いし、プレイヤースキルのほうも、俺がギルドからいなくなって以降なまけていたりなんかしていなければ、なかなかの腕になっているはずだ。

 前衛アタッカー兼回避盾として、頼りにさせてもらおう。


 俺はそう思いながら、仲間たちとともに、長い階段を急ぎ足で降りていった。


「……ここまでは問題なく来れたな」


 地下98階層。

 そこへと続く階段を降り終え、俺はポツリと呟いた。


「ここから先は未知の領域ね」

「そうなんだ? それじゃあ、気を引き締めていこ」


 ミナの言う通り、98階層以降は俺たちが足を踏み入れたことのない階層だ。

 だから、ここはサクヤの言う通り、十分警戒して前進すべきところだろう。


「どんな敵が現れても、私たちならへっちゃらだよっ!」

「その通りだ――なんなら、ここから出てくる敵は、俺が1人で倒してしまってもいいんだぞ?」


 が、マイと白崎はかなりのお気楽ムードだ。


 ……まあ、これまでの地下迷宮探索経験から見ても、ここで突然滅茶苦茶強いモンスターが出てくることもないとわかっているから、2人の気持ちもわからなくはない。

 けれど、新しく足を踏み入れる階層にはなにがあるかわからないと思っておいたほうが、不測の事態にも対応しやすい。

 十分警戒しておこう。


「では、斥候に行って……きます」


 俺の思っていることが伝播したのか、フィルはそう言って、前方にある道を1人で進もうとし始めた。


 彼女は高いレベルの罠感知スキルと隠ぺいスキルを持っているから、こうした斥候はお手の物だ。

 97階層までは既に踏破した道を辿っていたから問題なかったが、ここからは彼女の進んだ道を辿っていこう。


「いや、それにはおよばねえよ、フィル」


 と思っていたら、ケンゴはフィルを呼びとめだした。


「こういうときは、カタールと俺の出番だ」

「確かに、そのほうが手っ取り早そうでござるな」


 ケンゴとカタールはそこで互いを見て、ニヤリと口元を歪ませた。


 ……ああ、そういえば、そんなチート技もあったな。

 ここはこの2人に任せよう。


「分身の術! せいやっ!」


 カタールが叫ぶ。

 すると、俺たちの目の前にいたカタールの姿が10人に増えた。


 その10人は全員実体を持つ、本物の分身だ。

 これがカタールの異能アビリティであるのだと、以前に決闘大会で見せてきたとき、本人が説明してくれてたな。


 正直、凄まじいチート能力だと俺は思うな。

 管理局からはAランクと認定されているようだが、Sランクと言っても十分通用するんじゃないだろうか。


「それじゃ、しばらくその辺を探索してみるでござる。途中にある罠は解除するか、目印を作っておくでござるよ」


 10人のカタールが通路の奥へと走っていった。


 おそらく、地下99階層へと続く階段を探しに行ったのだろう。

 本来は俺たちが全員固まって動き、少しずつマッピングをしながら見つけるところだ。

 が、カタールは1人で人海戦術を行って、階段を発見しようとしている。

 機動性は高いし、もともと単独で行動するのが得意な奴らしいから、ここは任せても平気だろう。


「さ、俺たちも進もうぜ。あいつがなにかわかりそうなら、そこからは俺がナビゲートしてやるからよ」


 次にケンゴが通路を歩き出した。


 ケンゴは『未来予知』という異能アビリティを持っている。

 だから、カタールが階段を発見した、という未来を見ることができれば、ケンゴはすぐさまそこに俺たちを誘導できる。

 人海戦術を駆使していることもあいまって、非常に効率的な探索方法だ。


 しかし、それは今すぐにとはいかないようだな。

 どれだけ先の未来を予知しているのかはケンゴにしかわからないところだが、多分、そこまで遠い未来は見通していないだろう。


 ケンゴはケンゴでチートな異能を持っているが、わりと制限が厳しかったりするし、絶対的な力というわけでもない。

 本人談では最大で1日先を見通すことができるとのことだが、それをすると精神に大きな負担がかかって、ロクに動けなくなるらしい。


 しかも、より遠くの未来であるほど、確実性が揺らいでいく。

 Aという未来を予知したのに、Bという未来になった、ということなんて、よくあることなのだとか。

 まあ、ただの当てずっぽうよりはずっと信頼できる確率でAの未来になるみたいだけどな。


 揺らぎが起こる原因はいろいろあるらしく、完全には取り除けない。

 そんなことを、以前にケンゴはボヤいていた。


 また、その揺らぎが起こる原因の1つに『地下迷宮に存在するモンスターの動きは予知できない』というものがある。

 理由は知らないが、この欠陥はケンゴが初めてアースに来た頃、地下迷宮に潜って気づいたことらしい。

 わりと致命的な欠陥だ。


 とはいえだ、それでも驚異的な異能であることには違いない。

 後に響かないくらいの範囲で使ってもらおう。


「見つけたぜ。こっちだ」 


 地下98階層探索から1時間ほどが経過した頃、突然ケンゴはそう言って、俺たちの先頭に立って進みだした。

 そして、ケンゴに連れられるまま10分ほど移動したところでカタールと合流し、さらに10分後には地下99階層へと続く階段前にたどり着いた。


 ものの1時間ちょいで階段を発見するとは。

 とんでもない早さだ。

 普通なら、どんなに早くても1日はかかるっていうのに。


「うっし、この調子で次の階も突破すっぜ」

「そうでござるな」


 やっぱり、この2人のコンボはチートだな。

 でも、今はとても頼もしい。

 地下100階層までは、俺も力を温存させてもらおう。


 そう思った俺は、次の地下99階層もケンゴたちに任せることにした。






 探索途中、モンスターとの戦闘を何度か余儀なくされた。

 だが、俺たちは無事、地下100階層行きの階段があるところへとやって来た。

 所要時間はさっきの半分だった。


 ケンゴとカタールがいるだけで、こんなにもスムーズにここまでたどり着くことができるなんてな。

 ちょっと俺も驚いている。


「ケンゴ、まさか貴様、バテたりなどしていないでござろうな?」

「それこそ『まさか』だぜ。ピンピンしてらあ。てめえこそ、異能を使いすぎてやしねえだろうな?」

「ペース配分くらい、拙者もきちんと考えていたでござる」

「なら問題ねえな」


 どうやら2人とも余力は十分あるようだ。

 さすがは地球人プレイヤー最強クラスの人材ってことか。


 であれば、どうしようか。

 一応、この先へ行くための準備も整っているが……。


「悩んでる暇があったら、とっとといこーぜー。今日は無事に潜れたけど、あたしらの動向を嗅ぎつけた連中が、今後ちょっかいをだしてくるともかぎらねーんだしよー」


 俺が迷う素振りを見せると、マーニャンが後押しをしてきた。


 つまり、行くってことか。

 この先……地下100階層へ。


「そうですわね。私たちが地下迷宮に潜るということについては許可が降りましたが、攻略することに関しては審議中のままにされてしまいましたし」

「どうせあのまま審議しても、攻略を先延ばしにされる結果しか見えねえんだから、今のうちにやっちまおうぜ」


 ……なんか、俺がいないところでも、いろいろあるみたいだな。

 ケンゴたちを含めた大人グループがどのような話し合いを行っていたのかは知らないが、俺たちにとっては微妙に都合が悪い内容っぽく聞こえる。


「地下迷宮を攻略しても、今ならまだ弁解の余地がある。もともと、この世界の神様を救い出すっつー大義名分があるんだから、シンはあんま気にすんなー」

「…………」


 気にするなと言われてもな。

 まあ、この辺りについては、あとで聞かせてもらうことにしよう。


 今は地下迷宮の攻略が、俺にとっての最優先事項だ。

 それに、クロスさえ救出してしまえば、大体のことは解決するようにも見える。

 地下迷宮の攻略を渋っている連中も、神様を目の前にして同じことが言えるとは思えないからな。


「行くなら早く行こっ! こっちは元気が有り余ってるんだからっ!」

「そうね、ここで怖気づく理由なんて、どこにもないわ」

「どんなボスが出てきても、俺の敵じゃない」

「シンさん……行こ」


 マイとミナ、それに白崎やフィルといったメンツも押せ押せムードだ。

 これで8人が地下100階層攻略に賛成ということになったわけだな。


「……サクヤはどう思う?」


 ケンゴ、カタール、セレス、マーニャン、マイ、ミナ、白崎、フィルの意思は確認できた。

 あとはサクヤの意思を確認するだけだ。


「実質的には、みんなは私のために無理をしようとしているんだから、申し訳なく思ってるよ」

「そ、そうか」


 いや、今はそういうことを聞きたいわけじゃないんだが。

 すごい今更過ぎる話だし。


「でも、ここで私が『無理しないで』って言うのは、みんなに対して失礼なんだよね」

「まあ……だろうな」

「だから、私はみんなにこう言うよ。『私に力を貸して下さい』」

「…………」


 サクヤはそこで、みんなに向かって頭を下げた。


「ったりめえだぜ! 困ってる仲間がいたら手を貸してやる。それが仲間ってもんなんだからよ!」


 すると、ケンゴがみんなを代表するようにして、そう言った。


 ケンゴたちにとって、サクヤはもう仲間なんだな。

 そう思うと、俺もちょっとだけ嬉しい。


「まあ、拙者には貸しイチということで考えてもらってもいいでござるよ?」

「ちょ、おいてめえ! 人がせっかくカッコよく決め台詞を言ったってのに、ちゃかすんじゃねえよ!」


 ……カタールだけは相変わらずみたいだな。

 でも、場の空気が少しだけ和んだように感じる。

 レイド戦前としては悪くない空気だ。


「よし、じゃあ……行くか」


 そこで俺は、みんなの先頭に立って、地下100階層へと続く階段に向かった。


 サクヤも、あんなことを言ったということは、このタイミングで地下迷宮を攻略するのに賛成ということなんだろう。

 だったら、もうここで俺たちの歩みを止める要因など、なにもない。


 休憩は十分とれた。

 この調子なら、自分のポテンシャルを完全に引き出せそうだ。


「おう! 行くぜ! 勝ったら町で祝杯だ!」

「いいですわね。是非やりましょう」

「ケンゴのおごりだってんなら、行ってやってもいいぜー」

「タダ酒が飲めるのなら、拙者も行くでござる!」

「奢ってくれるんならゴチになりますっ!」

「お、俺も……参加していいなら行ってやってもいいぞ!」

「みんな気が早いわね……」

「別にいいんじゃないかな。すぐ目の前に大変なことがあっても、その先に楽しいことがあると思えば、より頑張れるでしょ?」

「ん、そう……ですね。頑張……りましょう」


 背後から和気藹々とした会話が漏れ聞こえてくる。

 俺はそんな声を耳にしつつ、こいつらを全員守りきってやると、決意を新たにしたのだった。

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